第23話 それぞれの切り札
向かい合ったところで、コタロウさん達は自分たちの刀の刀身に手を添えた。
「いやはや……このゲームは最高でござるな……! 超能力の使い方を変えていくことでこのようなこともできる!」
何をしてくるのだろうかと身構えていると、意外にもメイさんが反応を見せていた。
「ま、まさか……!?」
相手の能力とかには、大体ユウキさんが反応するイメージがあるけど……。
「刀の真の力を開放するというのか!?」
「フフフ、そのまさかでござるよ」
メイさんが続けた言葉で、ユウキさんとは全く違う方向性で反応していたことが分かった。
ユウキさんなら相手の使う技に驚愕していそうなところだけど、メイさんは完全に目を輝かせている。確かに好きそうだもんね。
コタロウさんもその反応が嬉しかったみたいで、声も上ずって少し楽しげだ。
場に少し楽しげな雰囲気が齎されたけど、私たちがワクワクしていられるのも今のうちだろう。
コタロウさん達がさらに強くなるのはかなり恐ろしい。
ユウキさんも同じことを考えていたようで、私たちに警戒を促した。
「分かっているとは思うが、アイツらがさらに強くなるのはやばいぞ。出し惜しみしてたら負ける。最初から全力だ」
「うん!」
「……ああ!」
そして、彼らの真の力が解放される。
「刀を前提とした超能力を使い続けた拙者達の到達点……どれだけ持ち堪えられるかな?」
その言葉と共に、彼らの刀からそれぞれの属性を模した色の非常に強い光が溢れる。
その光の強さから、その威力も大きいものであることが想像できる。下手すると私の全開時の翼以上の強さかもしれない。
「行くでござるよ!」
掛け声と同時に、相手の3人が飛び出した。
コタロウさんの左右を走る2人は、私たちとの距離がまだあるにも関わらず刀を振るう。
するとその2人の刀から放たれている光が、私たちに襲いかかってくる。
「メイさん!」
「任せて!」
攻撃をしてきた相手は2人、私達2人でそれぞれ対処していく。
私はスティングを、メイさんは両手を構え、相手の攻撃に対してこちらの全力の技をぶつける。
しかし、私の想像通り相手の力は強く、相殺しきれずに相手の攻撃に巻き込まれてしまった。
「きゃっ」
「くっ……!」
だけど、ユウキさんがコタロウさんを相手にできるだけの隙間は作れた!
「ユウキさん……!」
「ったく仕方ないな! アイツの相手は俺よりもツバサが適任だとは思うがやってやらぁ!! 『限界突破』!!」
ユウキさんがそう叫ぶと、彼が纏っている白いオーラがさらに巨大なモノになっていく。
「こっちも最後の切り札ってやつを見せてやらねぇとな!」
言い会えたところで、ユウキさんも相手に向かって飛び出していった。
その際に、技を放った分少し遅れている相手2人に向けて拳を放っていた。
「邪魔なんだよ!」
拳から放たれたのは今までの衝撃波とは違い、拳を象ったオーラが彼の拳の先から伸びるように放たれている。
「「ぐはっ」」
威力も大きく上がっているようで2人を容易く押し退けて、コタロウさんと一対一だ。
「行くぜ!」
「望むところでござる」
好戦的な笑みを浮かべた2人が同時に技を放った。
白い拳と振るわれた刀から放たれた雷撃の閃光がぶつかり合って双方の攻撃が消滅する。
「この力で相打ちか、やるじゃないか!」
「貴殿こそ!」
「だが、接近戦なら直接動きを強化する俺の方が上だ!」
「それはどうかな?」
それから2人は接近戦に移っていった。
ユウキさんはオーラの手でコタロウさんの攻撃を阻害したりと、互角以上に戦っている。
最後の切り札というだけあって非常に強力だが、当然それだけの反動があるはずだ。
ユウキさんはここで全てを懸けると決めたのだろう。
私たちもその想いに応えないと。
「ボク達も行こうか」
「言われなくても!」
私は翼を展開する。
戦いの中で回復したようで、すっかり元通りだ。
「その翼、回復したようだね」
メイさんが嬉しそうに言ってくれるが、そのメイさん自身にも変化があった。
「メイさん! その姿!」
「どうかしたのかい? ……これは!?」
ところどころが赤く染まっており、あの時と同じようになっていた。
そのことにメイさんも気がついて、そういうことだったのかと笑い始めた。
「ククク……どうやら勝利への渇望、それが発動の鍵だったようだね! 2人を倒してユウキの救援に向かうとするか!」
「そうだね!」
答えると私は翼をはためかし、全速力で敵2人のところに向かっていく。
「これが翼の速力」
「だが、我らの攻撃を受け止め切れるわけがない!」
敵2人は即座に私に向かって先程と同様の攻撃を放つが、地面から現れた真っ赤な炎の柱がその攻撃を遮った。
「「なに!?」」
私達の攻撃を押し切った技が完全に塞がれたとなればそれは驚くだろう。
驚愕に加えて、炎の柱のおかげで私の姿が見えにくくなっている今の状況を最大限に活かそう。
炎の柱の周囲を回るようにして、水の侍に一気に近付く。
そこらの相手なら私の速度の前に、そのまま首を切り落とされてもおかしくはないだろう。
しかし、相手は私達と遭遇するまで防御を捨てているにも関わらず全員生き延びていただけあって、私の動きにすぐ気がついた。
「ほのおの!」
水の侍が呼び終える前には、炎の侍が私を迎え撃つべく刀を構えていて立ち塞がっていた。
このままでは逆に敵の攻撃に呑み込まれてしまうだろう。翼を進行方向と逆に動かしてすぐに急停止し、氷の壁を作り出した。
私が回避するだけの時間を作ることはできた。
「今ので仕留められなかったら今度はないんじゃないか?」
炎の侍はそう言うが、今とさっきとは状況が全然違う。メイさんがこっちに来れるだけの時間も確保できたのだ。
「そう笑っていられるのも今だけだよ!」
「その通りだ! 一気に行くよ、ツバサ!」
後ろから走ってきたメイさんは私の前に出て、両掌を相手に向けた。
そこからはバーナーのように火が放たれる。それもすごく巨大だ。
巨大な技ということもあって相手はすぐに回避に移ろうとするけど、私のこと忘れてもらっては困るよ!
私が上空からスティングでいくつもの弾を放ち牽制する。
そうなると相手2人はダメージを少ない方を選択したようで、ダメージ覚悟でそれぞれ左右に回避した。
そこまでは良かっただろう。
その直後だ。炎の侍の足元から炎が発生し、彼を呑み込んでいった。
「ぐわあああああ!!」
「ほのおの!?」
意識を巨大なバーナーと私の翼に向けた結果である。
仲間が炎に包まれたことに驚いてる水の侍との距離を、私は一気に詰める。
「くっ! だが!」
水の侍もすぐに攻撃の準備をするべく、刀の光を強めるが、そこに翼を伸ばして全力の『翼撃』を叩き込んだ。
すると、彼の刀を包み込んだ青い光が、彼の腕も巻き込んで凍り付いていく。
「馬鹿な!?」
それぞれの属性の色が現れていたところから、思った通り属性の影響を大きく受けているようだ。
こうなればもう私の勝ちだ!
私の氷の影響で動きが鈍くなったところを、スティングの刃で切り裂き、光の粒子にした。
「まだ俺がいるぞ!」
炎の侍は生き延びていたようで、炎から脱したところで叫ぶが、翼が回復した私と能力が覚醒したメイさん2人がかりなら負ける相手ではない。
彼がすぐに光の粒子に変えられたことは、言うまでもないだろう。
2人を倒し終えたところで、私達の耳にユウキさんの声が届いた。
『すまない……どうやら俺はここまでのようだ』
コタロウさんとの戦いで何かあったようだ。
すぐに向かわなきゃ!