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第22話 欠けた翼で抗います

 切羽詰まった様子のレツトさんに案内されるがままみんなのところに向かったら、侍4人に囲まれてる姿があった。それも1人はあのコタロウさんだ。

 ……これは焦るよね。

 私の到着に相手も気がついたようで、風を刀に纏わせた侍が駆け寄ってくる。


「させぬ!」


 急いでスティングを構えたところで、メイさんから視線が送られていたことに気がついた。

 何かありそうだ。

 思った通り、走ってきていた風の侍の足元が急遽爆発した。


「なんだと……!?」


 私もよく知るメイさんの罠だ!

 メイさんが視線を送ってくれていたおかげで、こちらも準備はできている。

 再生が間に合っていなくて欠けているけど翼は展開済み。スティングで氷の刃もオッケーだ。


 宙を舞う風の侍にすぐに飛んでスティングで何度か切り裂いたところで、HPをゼロにすることができた。

 これで人数は同じ。状況もかなり改善したと思う。


 相手も戦況が大きく変わり始めたのを受けてか、なんと敵チームの中でも一番の実力者であろうコタロウさんがこちらに向かって飛び出してきた。

 その速度は凄まじく、気がついた頃には3メートルくらい手前にまで迫ってきていた。


 欠けた翼では回避も防御も間に合いそうにない。どうする……!?

 私が行動を迷っていたところで、ユウキさんが私とコタロウさんの間に入り込み、私の代わりに斬られていた。


「ユウキさん!? どうして!?」


「ヘッ、気にすんな!」


 翼が不完全な私を身を挺してまで守る必要なんてないはずだ。

 だけど、ユウキさんにとっては意味があったみたいで、コタロウさんに挑発的な笑みを向けていた。


「これも読み通りか?」


 対してコタロウさんは静かに返す。


「……2人同時に斬るだけでござる」


 それから刀を振り上げたところで、ユウキさんは私の名前を呼んだ。


「……ツバサ」


「うん」


 大丈夫、分かっているよ!

 折角守ってくれたのを、無駄にするわけにはいかないもんね!


 私はユウキさん越しに翼を振るう。

 コタロウさんはそんな私の翼をチラリと一瞬見たが、欠けているから脅威にならないと判断したのだろう。


 実際、ユウキさんに当てないように攻撃するには、欠けた状態では『翼撃』のような直接攻撃はもちろん、『羽弾』のような遠距離攻撃をしようにも長さが足りない。


 それならだ。翼を伸ばしてしまえばいい。

 これまでも氷の塊や風といった翼で氷を作り出してきたし、光線銃で使っていた時のように起点さえあれば狙って能力の発動ができる。


 これは、今までの経験を組み合わせた攻撃だ。

 翼の先を起点として長さを補うように能力を発動したのである。

 翼という枠組みを外れた今、その大きさは本来の翼をも越えている。


「っ!」


 コタロウさんは降りかかろうとしている私の翼に気がついて咄嗟に後ろに跳んだ。

 だけどそこは……。


「うおっ!?」


 ユウキさんと翼に気を取られている間に、スティングで氷を放っておいた。

 氷の上だということを知らずに後ろに跳んだらどうなるか、当然バランスを崩す。


「ナイスだ! ツバサ!」


 その隙をユウキさんは逃さない。

 オーラを纏わせた拳を握り、コタロウさんに向けて飛びかかった。


 コタロウさんは横に跳んだと思えば、足を滑らすのを避けるために、転がるように着地して拳を回避。

 拳が当たったところは、地面ごと氷にヒビが入っており、小さなクレーターのようになっていた。


 そんな高い威力の攻撃に加えて、氷の上で足を滑らせたばかりという状況、普通なら冷静さを欠いてしまうだろう。

 しかし、コタロウさんからは焦りを全く感じられなかった。


「なら、これはどうだ!」


 ユウキさんは足を払うかのように動かして、衝撃波を放つ。

 地面を転がっていた状態のコタロウさんは回避が間に合わない。衝撃波が直撃する。


 衝撃波が直撃したコタロウさんが吹き飛ばされた先で爆発音と共に炎が舞い上がり、コタロウさんがその炎の中に包まれる。


「あれは……?」


 私が思わず呟くと、ユウキさんが答えてくれた。


「あそこにはレツトの罠を仕掛けていたんだ。来た時に見なかったか?」


 そういえばなんか人が一人通れる隙間を残して、あからさまな罠が設置されていた気がする。


「……それにしても、あんな絶妙なタイミングで作動するのか?」


 ユウキさんがそうブツブツ考えていたところで、メイさんの声が届いた。


『こっちはボクに任せてくれ、2人でそっちを確実に倒してくれ!』


 メイさんが罠を作動させたみたいだ。自分が2人を相手することになってでも、コタロウさんを確実に倒せる状況を作るべきと判断したのだろう。

 その想いには応えないとね!


「「了解!」」


 返事をしたところで、ユウキさんが声をかけてきた。


「ツバサ、アイツを倒すにはお前の力が不可欠だ。アイツはプレイヤースキルがかなり高い。基本的な行動は全部読まれるし、想定外のことがあってもすぐに対処してくる。転がった時のように、咄嗟の判断で最悪の事態は確実に回避してくる。これに対処できる可能性があるのは今のところお前だけなんだ」


 というと?

 疑問が顔に出ていたようでユウキさんが続ける。


「まず翼という能力は使用者が少なくて流石のコタロウでも情報が不足しているだろう。そして何より、行動を読んでくるアイツにはツバサの自由奔放さが効くんだ」


「バカにして――」


 なんだろう? 言葉だけ聞いたら褒められてる気はしなかった。

 でも、ユウキさんの顔を見るとそれが本心であることがすぐに分かった。

 不思議と悪い気持ちはしない。私のこれまでのゲームを認めてもらえたみたいで。


「――うん、これからも自由に私は羽ばたかせてもらうよ」


「これ以上好きにはさせないでござる!!」


 私が言い切ったところで、コタロウさんの叫び声が聞こえた。

 炎の中から空に向けて稲妻が走るのが見える。その色は紫。

 それを見たユウキさんがしまったと頭を抱えた。


「咄嗟の判断で最悪の事態は確実に回避してくる……自分でこう言っておきながらどうして行動を許してしまったんだ……!?」


「もしかして……」


「ああ、2対1という最悪を避けるために、罠覚悟であそこにいったんだよあいつは! 走るぞ!」


「うん!」


 私たちが走り始めてすぐに紫色の閃光に周囲が包まれた。

 そして光が収まったところで、コタロウさんが仲間2人と並んでいる姿があった。


 でも、コタロウさんと有利に戦える状況は確かに見逃したけど、仲間と合流できたのは私達もだ。


「すまない。折角お前がくれたチャンスを無駄にした」

「気にする必要はないさ。遅かれ早かれこうなってはいた。水使いもいたしね」

「でもなんだか嬉しい気がするよ。みんなと一緒に戦えるのは」


「フッ……そうだな」

「フフ、ボクもそう思うよ」


 私の言葉に微笑みあったところで、みんなで相手に向き直した。


「これからが本番だよ!」


「望むところでござる!」

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