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第21話 急げ!

 自らを弾丸と化した男たちが地面にぶつかると、斧の男のHPが全損したことによる光の粒子と瓦礫が砕けたことによる粉塵が舞い上がった。

 その中を周囲を見回しながら石弾の男が立ち上がる。


「やったか……?」


 石弾の男は笑みを浮かべていたが、その表情はすぐに真顔となった。


「おかしい……。あの女の姿は何処にもないはず……。だけどマップに……。まさか!?」


 それから彼はすぐに上空を見る。

 正解だ。スティングの刃で斬りかかろうとしている私の姿が彼の目に映っただろう。

 私は彼らの攻撃を“跳ぶ”ことで回避していたのだ。


「バカな!? どうして空に!? 翼は砕いたはずじゃ……!?」


「確かに使えなくなったよ。空に行く方法は翼だけじゃないんだよ!」


 石弾の男は私に気がつくのが少し遅かったため、抵抗できないまま斬り裂かれていく。


「そういう……ことか……よ……」


 最後に私のカラクリに気がついた様子で、光の粒子となって消えて行った。

 私のやったことは単純だ。先程のように如意棒のようにスティングを扱って、棒高跳びの要領で“跳んだ”だけである。

 普段翼で飛んでいる私が使ったからこそ、すぐには思い至らなかったのだと思う。


 例えるなら、機械で自動化されたものがあるとして、機械が壊れたら機械のことばかり考えて、手でやることは考えないみたいな感じかな?

 ともあれ、上手くいって良かった。仲間のところに急ぐことにする。



◇【Side:メイ】



 ボク達はレツトの指示で拠点を移すために街の中を走っている。漁夫の利狙いで敵が付近に集まっている可能性を考えたそうだ。

 チームの作戦次第とはいえ、ポイントを稼ぐことを考えれば、確かに複数人での戦っているところは狙いたくもなる。

 

 ちなみにツバサが飛ばされてすぐについては、特に苦戦することなく残りの2人を倒すことができた。

 結局のところ、勇者を前提としたチームだったというわけだ。


「アイツら……! どちらかと言えば敵側だろ……! よくもツバサを……!」


 思い出すだけで怒りが込み上げてくる。

 勇者がやられたらすぐ終わりなのに、どうしてリーダー偽装を……。

 死の直前に攻撃を残していくようなキャラとかよくいるけど、少なくとも英雄側ではないぞ!?


「まあまあ落ち着け落ち着け。それには同意するが、今は確実に移動をするんだ。こけても知らないぞ」


「それもそうだな……。あ、キミが正論を言うなんて嵐でも来るのか?」


「同意したなら同意しとけ! 思い出したかのように、付け足さなくていいぞ!」


 チッ、気がつかれたか。


「舌打ち聞こえてんぞ! 俺がどう扱われているのかを理解してきたからって雑過ぎんぞ!」


 ボク達が話していると、レツトさんが大変ですと声を張り上げた。


「俺たちより移動速度が速い4人組チームが追ってきています」


 どうやらまずそうだ。

 相手について確認していく。


「ボク達が速度を上げても無理そうかい?」


「はい。機動力の高いメンバーを集めて敵を倒していく超攻撃特化チームと思われます。3人の中で逃げ切れるのはユウキさんくらいかと」


 逃げるにせよユウキの身体強化の速度が必要になるとは……。

 それだけ速度を重視していながら、4人とも生き残り続けているとなると、速さだけではないかなりの強敵だ。それを3人で相手しなければいけない。

 ……リーダーがレツトである以上、ユウキを逃すのはもちろん論外だ。

 ならばどうするか。


「ボクの『罠設置』使っておくかい? 一回分だけなら溜まっている」


「ここで使うべきなのは間違いないな。だが、その一回で敵の数を確実に減らせるようにしたい。できるだけ耐えてツバサの帰りを待つんだ。ただ実現させるのは一個だとなかなか厳しいな……。何かいい策はあるか? レツト」


「はい! 誘導してやりましょう!」


 作戦もすぐに決まっていき、罠の設置も完了した。

 あとは来るのを待つだけだ。


 ……しばらく待ったところで、敵のチームが姿を現した。


「……4人とも機動力高いとは聞いていたが、よりにもよってアイツのチームかよ」


「勝負の前から諦めちゃダメだよ。勝てるものも勝てなくなるよ」


 ユウキが絶望的な顔をする。

 かくいうボクも有名になる程の強敵に苦笑いするしかなかった。


「おや、メイ殿。まさかここで会うとは思わなかったでござる」


 コタロウだった。

 テスター時代にもロールプレイと強さで名を馳せていた彼のことをユウキも知っている様子である。

 彼はロールプレイはイベント中も貫き通すようで、なんと味方まで全員が侍で、お揃いの羽織を羽織って得物を刀としていた。


「知り合いとはいえ、勝負事に手加減はするつもりはないでござるよ! では参る!」


 コタロウの掛け声に全員が刀を鞘から抜き、自身の超能力を刀に纏わせていく。コタロウが雷、味方はそれぞれ風、炎、水を。

 それから、コタロウを先頭に一列になるように駆け出した。


「なんだと!?」


 計算外の行動に思わずユウキは声を出してしまう。

 流石にボクも予想していなかった。レツトも後ろで驚愕しているだろう。


 レツトお手製の撒菱を、人が一人倒れるような道をあえて残して設置していた。

 そんな道が一つでもあれば、誰もが警戒するだろう。しかし、コタロウは一切恐れずにその道を突き進んだ。

 そのことによって警戒されての行動を前提とした作戦が既に崩れてしまった。


『慌てないで、プランBがあります! プランBです!』


 動揺してほんの僅かな時間だとは思うけど、硬直していたボク達の耳に離れたところにいるレツトから作戦の変更の指示が。

 それに従ってボク達も動きを変えていく。

 待機していたユウキが相手に向かって飛び出した。


「ほほう。静観はやめるでござるか?」


「ああ、そうだ! 俺の力を見せてやるぜ!」


 ユウキが答えたところで、コタロウがクククと笑い始めた。

 笑われたユウキの握る拳に力が入るのが分かる。


「何がおかしい!?」


「いやー、失敬失敬。貴殿らの作戦を破ったみたいで、嬉しくなってしまったでござるよ」


「なら笑ってられるのは今のうちだけだぜ!」


 その意気だユウキ。ボクも行くとしよう。

 ボクが敵に向かっている中で、ユウキと彼らの戦いは始まっている。


「次の企みも打ち破って見せようでござる」


 コタロウは言いながら地面に刀を叩きつけた。するとそこからユウキに向かって電撃が炸裂する。


「効くかよ!」


 白いオーラを纏ったユウキはそれを上に向かって受け流すように弾いた。


「そして今度は俺の攻撃を受ける番だ!」


 ユウキが拳を手前に突き出すことで、コタロウに向かって衝撃波が飛ぶ。

 対するコタロウはそれを容易く切り裂いた。


「そんなものでござるか?」


「まだまだ!」


 ユウキが吠えると、彼のオーラはより一層強い光を放った。


「これが俺の全力だ!」


 それと同時に、敵との距離が縮まったボクは、彼らに向けて炎の波を作り出した。

 ユウキに気を取られてる隙をついたこの炎で焼いてやる!

 そうするつもりだったけど……。


「みずの!」


 コタロウがそう言うと、水を刀に纏わせた侍が前に出てきた。


「水使いがいれば当然そうなるよな!」


 水使いがいた時点で、彼を妨害するつもりでいたようで、その拳は既に水の侍に向かっていた。

 しかし。


「……ぐっ!?」


 急に足元から電撃が現れ、ユウキの行動の方が妨害されていた。

 コタロウ自身は刀などを振るった様子も見えない。


「どういう……ことだ……?」


「簡単でござるよ。地面に帯電させていた電撃を炸裂させた。それだけでござる」


「ここまで読んでいたってことか!」


 ダメージを受けながらも、追撃を避けるためにユウキはすぐに後ろに飛んだ。

 ボクもそれに続く。水の侍に炎が消されるのは目に見えていたからだ。

 流石のプレイヤースキルだ。こちらの行動が何もかも阻害されている。しかもかなりの余力を残した状態で。


「さて、今度は拙者達の番でござる」


 炎が消えたところで、コタロウの後ろに並んでいた残りの2人も前に出てきて、ゆっくりと歩いてくる。


「クソッ! さっきまで遊ばれていたというわけかよ!」

「ここまでか……」


 ユウキもボク諦めかけたその時だった。

 風の侍が急に後ろを向いた。


「誰だ!?」


 その視線の先を見ると、ボクのよく知る姿があった。

 ベストタイミングだ。


「ツバサ!」


 ツバサに無様な姿は見せられない。それに、ツバサなら何かを見せてくれるそんな気がした。


「どうやらメイ、お前も気持ちは同じようだな」


「ああ!」


「1人の存在が、ここまで気持ちを変えるでござるか……」


 ツバサの参戦をコタロウは警戒する。

 キミやボクらの物差しで測れるような存在じゃないよ、ツバサは。

 何せ彼女は、自由に翔けているだけなのだから。

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