第20話 また会いましたね
魔法使いの最後の抵抗を受けた私は、拠点にしていた建物の外に転送されていた。
イベント中に何度も目にしてきた塔などの高い建築物などから、現在地を推測するけど……。
「結構遠いところまで飛ばされちゃったみたい」
かなり離れたところまで飛ばされてしまったことが分かった。
マップにも映らない範囲だろう。それを肯定するかのように、インカムから心配するレツトさんの声が聞こえてきた。
『ツバサさん、大丈夫ですか!?』
「こっちは大丈夫! そっちは!?」
正直私よりもそっちが心配だ。
転送された時点で魔法使いと僧侶が残っていたわけだし、何より大人数での戦闘がしばらく行われた。
リーダー狙いに切り替えることを決定した理由のように、弱ってるところを狙いにくる奴らがいてもおかしくない。
『こちらは平気です! ただ、場所は移さないといけないと思います。一先ず今の拠点からあまり離れない範囲で動く予定です。正確な場所については、こちらでツバサさんの位置が確認でき次第指示しますので、とりあえず元の拠点の方を目指してください! 場所は大丈夫ですか?』
「うん、大丈夫! 急いで向かうね!」
街中を舞台にしてくれたおかげで、いくつも目印があるからね。
『お待ちしております! お気をつけて!』
通信が切れたところで早速向かうことにする。
空は……高く飛びすぎると合流前にヘイローさん達に当たる可能性が高くなるから、低いところを全力で!
飛び始めてすぐのことだ。
上空に何かが現れたようで、私の飛んでいる周囲にいくつもの影が現れた。
嫌な予感がした私は急遽後ろに飛ぶと、目の前に瓦礫の雨が降り注ぐ。
空を見上げると、飛んできている瓦礫が更に見えた。
明らかに私を狙っている。
ビルを挟んだところに敵がいるみたいだ。
私の速度なら逃げ切れるだろう。
しかし、これは不特定多数の相手と当たる戦い。常に後ろに相手がいるような状態では、放置した結果死を招くことに繋がりかねない。
「みんな、ごめん。少し遅くなる」
覚悟を決めた私はみんなに一言謝ってから、敵がいると思われる方向に向かう。
ビルの隙間を縫うようにして、敵がいると思われる通りに出ると、そこには別の時代に迷い込んだと錯覚するような光景が広がっていた。
瓦礫の山に、ところどころ粉砕されたアスファルト。激闘の後かな?
いや、もしそうならここだけでは済まないだろう。つまり、誰かがこの光景を作り出したというわけだ。
まさかと思いながら周囲を見渡すと、見覚えのある2人組と目があった。
「やっぱり!」
「「お前は!?」」
斧の男と石弾の男だった。前に街を破壊していたからまさかと思ったけど。
そして、向こうも向こうでどうやら私のことを覚えていたらしい。私を見た彼らは相談を始める。
「お、おい、まさかアイツがいるとは思わなかったぞ!」
「俺もだよ! 逃げとくか……?」
「逃げるとしても翼の速さを忘れたわけでは?」
「くっ……! 逃げても無駄ってわけか!」
「ああ、だからやるしかない! 恐るな、あの時と違って油断もないし万全な状態で戦える!」
「……勝てる気がしてき……おっと! 話してるところに攻撃するんじゃねぇ!」
翼で攻撃しようと思ったけど、斧を振り回されて失敗だ。
とりあえず質問にだけ答えておく。
「待つ理由ないし……」
急いでるし、倒した者勝ちの世界だからね。
「た、確かに!」
「なら俺たちもさっさと攻撃に移るぞ! あの時のようにいかないからな!」
男達が言うと、彼らの足元に幾つもの石の腕が生えてきた。
そしてそれらは近くの瓦礫を掴んで、私に向けて投げるという動作を繰り返す。瓦礫が飛んできていたのはこういう仕組みか……!
「ただ街を壊していただけじゃねぇ! 今回はあの時と違って場所も味方。この瓦礫の嵐を突破できるかな?」
石弾の男が挑発してくる。確かにこれは厄介だ。自分で弾を作らない分、数も速度も多い。
それでも、落ちている瓦礫を使うのであれば有限のはずだ。
「弾ならいくらでも作れんだよ!」
そう考えたタイミングで私の思考を読んだかのように、斧の男が地面に斧を叩きつけた。
斧の男が周囲を破壊すれば、それだけで弾の補充完了だ。
「俺の遠距離攻撃に相棒の弾補充と近距離攻撃」
「俺たちに隙はないぜ!」
確かにこれは厄介だ。向かえば確実にダメージは受けると思う。
逆に言えばダメージを覚悟すればいいだけだ。
私はスティングで氷の刃を作り、男達に向かっていく。
「血迷ったかぁ!」
「これでいいの!」
私は飛びながらも一度翼を大きく振るい、冷気の風を起こす。
飛んできていた瓦礫はそのことによって、勢いを失って落下。これで敵の攻撃の数が減らせた。
「落としても更に追加で投げるだけだ!」
分かってる。
飛んでくる中のいくつかを氷の刃で落とすことでダメージを抑えながら、距離を詰めていく。
「ダメージ覚悟で近づいたようだが、俺の斧には勝てねぇぜ!」
距離が近くなったところで、斧の男が斧を振り回し始める。
リーチの短いスティングの刃では、大きな斧相手では近づいても一切攻撃を当てられない。それでも、この状況を作ったのは意味がある。
「相棒! 援護はどうした!?」
「すまない。準備はしているが……」
「……まさか!?」
そう、石弾の男との間に斧の男を挟むことで、一人の攻撃を防いで一対一の状況を作り出すことが目的だった。
「チッ! だが近距離なら俺の方が有利だ! それにお前の攻撃手段も知っている」
斧からオーラが溢れ出した。スキルを使うつもりだろう。
確かにこれまでの戦いだけを見れば、私は遠距離タイプかもしれない。
それでも負けるつもりはない。
「いっけえええええ!」
「うおおおおおおお!」
私の2枚の翼による『翼撃』と大斧がぶつかり合う。
短い時間のぶつかり合いの末、私の翼は砕け散った。でも、間に合った……!
「うおっ!? バカな!?」
スティングの刃が伝説上の武器である如意棒のように伸びて、彼を押し出したのだ。
斧の男は、翼を一瞬で砕いて私の首を持っていく姿を思い描いていただろう。
だけど彼は恐らく知らなかった。『翼』が初期では羽も放てず翼を直接ぶつけること前提の近距離向けの超能力だということを。
想像を越える硬度の差が作り出したほんの僅かな時間。それが勝負を分けた。
押し出された斧の男は、石弾の男を巻き込んで倒れる。
そこに氷の翼を何度も放っていく。
この勝負は私の勝ちだろう。そう思った瞬間。
「俺ごとやれ!」
「ああ、悪いな!」
彼らの倒れてる足元から、これまでとは一際大きな石の腕が現れた。
「最後まで足掻いてやらぁ!」
「俺たち自身の身を張った一撃、防げるものなら防いでみろ!」
それから自分たちごと私に投げつけてくる。
私は飛ぶこと弾それを回避しようと思うけど……。
「翼が、出ない……!?」
そういえば今回初めて翼が破壊された。破壊された場合、翼はすぐには使えないらしい。私にも知らないことがあったらしい。
跳ねるようにして避けようにも、彼らは周囲にいくつもの鋭利な石を浮かべており、巻き込まれるのは避けようがなさそうだった。
「「もらったぁぁあああ!!」」
2人の攻撃が私に迫る。




