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第19話 これがチーム戦ですか

 不敵に笑う勇者の周りの砕けたバリアの破片が、彼の身体に張り付くように収束していく。

 そこに私とメイさんの攻撃が降り注ぐ訳だけど、彼の身体にピッタリと張り付いた形を変えたバリアがそれを防いだ。

 笑っていたと思ったらそういうことか!


 例えバリアを破ったとしても、自分一人だけならすぐに守るようなこともできるみたいだ。

 戦いにおける想定外が勝負を決めることがあるのは、このゲームを始めてから何度も見てきている。想定外を導けるとすれば、その余裕も頷ける。


 私以上にそれを理解しているユウキさんは、能力全開ですぐに後ろに跳ね、私たちのところまで戻ってきた。


「アイツ、ヤバそうだ。気をつけろ……!」


「……うん」


 言われなくても!

 私達は勇者はもちろん相手全員の攻撃に備えるが、相手がすぐに攻撃してくることはなかった。


 中でも勇者は今もなお余裕を見せており、攻撃を防いだその地点から一歩も動くことなく、勇者らしからぬ邪悪な笑みを浮かべ続けている。

 それどころか語り始めた。


「戦力などの状況を判断して、一人倒せば全員倒せるリーダー狙いに切り替えるか。ルールを利用した戦術も悪くはないな。だけど、そんなことは俺たちにだってできる。だけど俺たちはしなかった。何故かって? そんなのチームでの戦いには程遠いんだよ。ただの個人技の連続だ」


「なんだと!?」

「気に入らないね……」


 私達のこれまでの行動を否定するかのような勇者の発言に、ユウキさん達2人は明確な怒りを見せる。正直私も嫌いだ。

 勇者はそんな私達を鼻で笑う。


「お前達にも分かりやすいように、今から証明してやんよ。そして絶望しな!」


 発言が勇者よりも魔王側だ! なんて言いたくもなるけど、誰もそんなことを言いはしない。

 なぜなら、勇者の放つプレッシャーが更に跳ね上がったからだ。

 何かしてくる……!


「ガラ空きだぜ?」


 そう思った次の瞬間には、私達の眼前に勇者が現れていた。

 瞬きをした一瞬で移動というよくあるアレですか!?


「まずはお前からだ!」


「ぐわぁああ!」


 ユウキさんが勇者の剣を身体に受けて吹っ飛ばされる。斬り飛ばされていないのは不幸中の幸いだろう。

 しかし、ユウキさんも気がついていないとは……。


「何が!?」


「アンタの相手は俺だ」


 驚いたのも束の間、武闘家が私のところまで迫っていた。

 オーラの力で勇者は強化されてると仮定しても、武闘家まで!?


「女の子を直接殴るのは好まないから、これで勘弁してな。烈風拳」


「っ!?」


 武闘家の拳から烈風が直撃した私は勢いよく地面を転がる。

 一応私の性別から配慮してくれたみたいだけど、余計にひどい結果になってる気がしなくもない。


 それよりも、攻撃を受けたユウキさんと私がすぐに駆けつけるのは難しい。残るはメイさん一人だ。

 メイさん、なんとか耐えて!


 勇者と武闘家はメイさんに向き直す。


「このように、連携してリーダーまでの道を切り開く方が重要ってわけだ。さあ、勝たせてもらうよ」


「アンタをどかしてリーダーを叩かせてもらう」


「そう簡単に倒されてたまるかぁあああー!」


 メイさんが吠える。すると、メイさんを中心に地面から炎が吹き上がる。それに加えて炎でできた巨大な両手も現れた。


「キミたちは失敗した。真っ先にどかすべきであったボクを後回しにしてしまった。おかげでこちらも準備することができたよ」


 吹き上がる炎は武闘家を近づかせることができない。

 左右の手は勇者の動きを阻害する。オーラがあっても、行き先を邪魔されては攻めあぐねるようだ。


「想像以上の防御力だ。だけど」


 勇者が言った瞬間、炎の威力が目に見えて弱っていった。

 炎が自然と弱くなるとは思えない。さっきから何が起こってるの!?


「!? どうしてボクの炎が!」


「このくらいの炎になってしまえば、オーラも破れない。俺の勝ちだ! 勇者の剣を受けよ!」


「がっ!?」


 勇者の剣にメイさんは突き飛ばされる。


「さて、これでリーダーへの砦はもうないな」


 いや、ある!

 メイさんが少し耐えてくれたおかげで、私とユウキさんはすでに復帰可能だ。お互いに速度が強化されるタイプの超能力、僅かな時間でも充分だ!

 私達に気がついたようで、勇者は溜息を吐いた。


「面倒だな。お前たちの単体での強さは認める。だが、それまでだ」


 勇者が剣を構えたその時、ユウキさんが私に向けて叫んだ。


「魔法使いと僧侶を狙え!」


「……分かった!」


 その指示に勇者が攻撃を中断して舌打ちする。


「流石にヒントを与え過ぎたようだな!」


 それからすぐに私達の前から姿が消え、気がつけば僧侶たちの元に現れていた。そこに私は攻撃を……しなかった!

 私はユウキさんと一緒に武闘家を攻撃する。ユウキさんの拳とスティングの刃を受け、武闘家は光の粒子となって消滅した。

 ユウキさんは勝ち誇った表情で勇者を見る。


「お前の目は節穴かぁ? インカムつけてるのにどうしてわざわざ叫ぶとでも? ついでに言うが、お前のヒントがなくても後ろの後衛職2人が支えてるのは見え見えだったぜ」


「クソッ!」


 思った通りだ! ユウキさんがそんな無駄なことするわけないもんね。

 完全にさっきと立場が逆転した。

 ユウキさんは続ける。


「複数人で一人を支えるのも確かにチームの形の一つだとは俺も思うぜ? だけど強化が前提となる以上、一人でも抜けたらおしまいだ」


「まるで俺を一人じゃ戦えない雑魚呼ばわりか……。舐めやがって!」


「武闘家が潰れた? 攻撃役が一人減って他の味方や敵を倒すのが追いつかない。魔法使いが潰れても、あの厄介な瞬間移動のサポートがなくなって脅威は小さくなるな。そして僧侶――」


 その時、メイさんの声がインカム越しに届いた。


『これ以上は辞めるんだ! 嫌な予感がする』


 直後、勇者の纏うオーラがドス黒いものに変化した。


「勇者はみんなの期待を背負ってんだよ!」


『遅かったか……』


「メイ、何か知っているのか!?」


『ああ、感情によるスキルをボクは確認している。それに覚醒してしまう可能性を考えたが手遅れのようだね。気をつけて!』


 さっきまでの余裕から来る得体の知れなさとは違ったヤバさを確かに感じる。だけど、仲間を完全に切り捨てた勇者に負ける気はしなかった。


 勇者は私達の方に真っ直ぐ走ってくるが、一瞬で目の前に現れた時の方がよっぽど脅威だった。

 私とユウキさん2人で相手をしていれば、負けるような相手ではなかった。

 勇者が膝をつく。


「ここまでなのか……!?」


「どうやら俺たちの勝ちのようだな」


 ユウキさんが勝利宣言をした瞬間、辺りに光の弾が舞って爆発して目が眩む。

 思わず目を覆った次の瞬間、バチッと音と共に電撃が放たれた。


「私たちも戦えます!」


「勇者、あなたは1人じゃないのです! 自分にも戦わせてください!」


 魔法使いと僧侶が私達のところまで走ってきていたのだ。


「お前たち……! そうか、俺は1人じゃなかった。簡単なことを忘れていたよ」


 勇者はゆっくりと立ち上がると、今度は金色のオーラが彼の身体から溢れ出した。

 ここに来てなんか勇者らしい覚醒するのって何!?


「さあ、行くぜ!」


 電撃の効果か動きが鈍ってる私たちを斬り伏せると、真っ直ぐレツトさんに向かって行く。


「勝利のために凍ってください」


 魔法使いはスプレーを用いた攻撃によって私達を氷漬けにしてから勇者に続く。

 このままではまずい。氷を扱える私にとって氷の除去は簡単だ。すぐに自分とユウキさんの氷を消して勇者たちの元に向かう。


「させない!」


「その通りだ! 俺たちのチームの方が優秀ってことを見せてやる!」


 勇者たちの元では、大量の水蒸気が発生しているのが見えた。

 メイさんが対峙しているのだろう。だけど、勝ち目はなさそうだ。僧侶に炎を弱められ、魔法使いに炎を消され、そしてトドメに勇者だ。

 今ならまだ間に合う! メイさんを落とさせるわけにはいかない。


「「させるかー!!」」


 私とユウキさんは一気に加速して勇者の元へ。

 私達を見た勇者達は頷き合うと、僧侶が標的をこちらに変えた。


「浄化の光」


 すると、私達の速度が見るからに落ちていく。


「凍らないんだったら、向かい風でどうだ!」


 そこに魔法使いの風が加わった。このままでは間に合わなくなる。

 僧侶の力で弱体化しているとはいえ、攻撃ができないわけではない。ユウキさんの全力の衝撃波と私の翼を用いた氷の風で相殺することで、これ以上は速度を弱めないように力を込めて走り続ける。


 おかげで何とか間に合った!

 そう思ったけど、勇者が計算通りだとニヤリと笑った。


「お前たち、俺から離れろ」


「「はい!」」


 瞬間移動で魔法使いと僧侶が消えると、勇者はその場で大きく一回転。

 竜巻が発生し、メイさんはもちろん距離が近づいていた私達も巻き上げられた。


「結局は仲間を信じる奴が勝つんだよ!」


 勇者は宙を舞う私達を見上げてそう吐き捨てると、レツトさんに向かって走り出したところで……。


「な、なんだ!?」


 彼の足元が崩れて穴が広がった。更にそこに爆発が発生する。

 そう、拠点に作っていた罠だ。

 落ちた勇者の穴を歩いてきたレツトさんが見下ろしていた。


「いつ俺たちが仲間を信じないと言いましたっけ?」


「おいおい、まさか目の前までくるとはな! さて、ぶっ倒させてもらうぜ!」


「俺の発言の意味が分かっていないみたいですね。俺がここまできた意味、分かりますか? 仲間がすぐに来ると信じているからですよ」


 その言葉を聞いて勇者は笑う。


「おいおい、お前の仲間は全員打ち上げた! 空中じゃ……空中? まさか!?」


 そこまで言って勇者が真上の私に気がついた。

 そう、翼の空中性能ならあのくらい何とでもなる! それに私はレツトさんの罠を信じていたからこそ、直ぐに抜け出してこっちに向かっていた。


「させない!」


 勇者のピンチに僧侶がいち早く反応して、私の超能力を弱体化させようとするが、炎が彼の放つ光を妨害する。


「ツバサ! やるんだ!」


 もちろん!

 これがアンタの馬鹿にしたチームの力だ!


「行くよスティング! 切り裂け!」


「うわああああああ! だが、ただじゃ終わらねぇぇええ!」


 氷の刃に切り裂かれた勇者は光の粒子となって消滅した。


「私達の勝利だ!!」


 私がそう叫んだ瞬間、誰かが私の肩に触れた。

 メイさんだろうかと振り返ると、そこには魔法使いの姿が。


 どうして……?


「実はリーダー、彼じゃないの。でも彼が落ちた時点で正直勝てないのも事実。だから最後に一矢報わせてもらうわ。私の超能力は知っての通り『転送』。基本的には近場に物や仲間を移動させたりする能力なんだけど、転送地点を指定しなかったり触れてるものについては距離を伸ばせたりするんだ」


 まさか……? 嫌な予感しかしない。


「さよなら」


 魔法使いの能力が発動し、私の転送が始まった。

 本当にただじゃ終わらなかったよ勇者さん達!

 リーダー偽装、これもルール的にもかなり有力だろう。これがチーム戦ですか……。

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