第18話 ゲームを間違えてませんか?
前話の最後に本来レツトであるところをユウキにしていたミスがありましたので訂正してあります。
「……氷は炎に不利って、決めつけてはいませんか?」
そう聞かれたのはいいけど、氷は炎に溶かされる以上不利になるとしか思えない。
「……うん。溶けちゃうし」
正直に答えると、レツトさんが質問の意味を説明し始めた。
「炎も氷も結局は熱の行き着く先なんです。反応はモノによって異なりますが、あるモノは温度が高くなると自然発火しますし、あるモノは凍りますよね? つまりは――」
「敵襲だ!」
レツトさんがそこまで言ったところで、メイさんの声が聞こえた。
言われて出入り口の方を見てみると、そこには四人組の姿が。マップには表示されてるわけだし、当然見つかるよね。
それよりも彼らの姿にツッコミたい。
一人は勇者風。一人は武闘家風、一人は魔法使い風、一人は僧侶風……どう見てもファンタジー世界の住人です。もう一つの現代或いは近未来が舞台だから、歴史背景的にコタロウさんのような侍とかならまだしも、これは完全にやるゲームを間違えてませんか?
……色々ツッコミたいところだけど、まずは迎撃が最優先だ。全員揃っていることもあって、レツトさんはすぐに指示を出し始めた。
「メイさんは俺の側に控えていてください。ここまで攻めて来られた時に動けるように準備を。それまでは遠距離攻撃での後方支援に徹してください。ユウキさんとツバサさんは積極的な攻撃をお願いします。最悪俺のアイテムとメイさんの罠をいくつか設置していますが、折角全員揃っているこの状況です。それらは発動させないことを目標にしてください!」
レツトさんは私達の返事を待たずに続ける。
「全員揃っている状況での俺たちの力、見せつけてやりましょう!」
「「「おー!」」」
これは大事だ……! 掛け声一つで気合が全然違う!
気合が入ったところで、早速ユウキさんが飛び出した。
「俺たちの力を見せつけてやるぜ!」
勇者パーティーの方は魔法使いが一歩前に出た。近付かせないようにするつもりだろう。
「一人一能力のこのゲームで、どれだけファンタジーを再現できるか、我々は本気で考えてきた。その集大成を見せてやれ!」
「了解!」
魔法使いのそれぞれの手には、いつの間にか霧吹きのようなスプレーがが握られていた。
それからその両方を手前に突き出して2つ同時に引き金を引くと、噴射された2つの物質が反応してからか大きな炎となり、ユウキさんを飲み込もうとしていた。
炎、今の私にとってはピッタリな相手だ。
「つまりは一方的じゃなくて対の関係ってことでしょ?」
心配そうに見ているレツトさんに、さっき言おうとしていたことを確認すると、満足そうに頷いた。
「その通りです!」
レツトさんに安心してもらえたところで私は翼を展開し、まっすぐ炎に向かって行く。TPも回復済みだから全開だ。
あっという間にユウキさんを追い越し、炎の目の前まで来たところで翼を全力で振り下ろす。
そうすることによって私の前には氷の壁が作られ、その氷の壁は炎を完全に防ぎ切った。壁も溶けることなく残っている。
気持ちで負けてなければ、炎になんてもう負けない!
「氷で防いだだと!?」
レツトさんの言ってた通りだ!
相手は驚愕してるけど、こっちについては想定内。私は後ろから走ってくるユウキさんと視線を交わすと、そのまま真上に飛んだ。
直後、ユウキさんは私の下を通り抜け、氷の壁を突き破った。
「っ!? 近接戦闘で迎え撃て!」
「お、おう!」
氷の壁を破ってくることは想定外だったのか、相手の反応が一瞬遅れた。
その遅れが命取りだ。武闘家が対抗するべく飛び出てきたが、ユウキさんはすでに攻撃に移っているため、防御が精一杯だ。
「オラァ!」
「ぐわぁぁああ!」
ユウキさんの拳を受けたことで、武闘家は仲間がいる方に吹っ飛ばされる。そのことによって、仲間が巻き込まれて倒れた隙を私は逃さない。
一気に加速して勇者パーティーの元に辿り着いた私は、まとめて突き刺すべく『翼撃』を発動する。
だけど。
「効かない!」
勇者がバリアのようなものを張っており、それが私の翼を塞いでいた。
「そんな!?」
「勇者の役割、それは世界を守ること! 防御に秀でていて当然だ!」
隙をついたつもりが、『翼撃』の攻撃モーションで翼の自由を失った私が隙を晒す形になってしまった。
「今だ! やれ」
勇者の掛け声に武闘家が起き上がり、アッパーで私を宙に打ち上げた。
それから魔法使いが追い討ちをするべく、スプレーをこちらに向けて引き金を引いた。
また炎かと思い、何とか防御の態勢を整えようとしていたが、今度の攻撃は違った。
爆発が発生して私を吹き飛ばす。
「きゃあああ!」
ファンタジー再現の集大成と言われただけあって、アイテム経由のため魔法使いのように様々な手段の攻撃ができるようである。
吹き飛ばされた方向が自陣だったのは不幸中の幸いか。僧侶が更に紫色のもわもわした弾を放ってきていたけど、メイさんが炎の壁で守ってくれていた。
「しばらくそこで休んでいて。ボクの代わりにレツトの防御を頼む」
メイさんは倒れている私に向かってそれだけ言うと、すぐに敵に向かって行った。
一人でも減ると一気に不利になりかねないもんね。言葉に甘えさせてもらって、しばらく体力の回復に専念させてもらう。
もちろん、レツトさんも守るけどね! レツトさんのところに行ったところで、強敵ですねと相手に呆れた様子で話しかけられた。
「このゲームでやる意味が分からないコンセプトですけど、なかなかに強いですね」
本当だよ! ここまでで一番HP削られたし! メイさんに守ってもらえてなければ、リタイアだったかもしれない。
相手の強さを踏まえてレツトさんが相談してきた。
「ポイント的には人数倒した方がいいのですが、負けてしまっては意味がありません。そこでです。相手のリーダーを集中的に攻撃して、全員にご退場いただくのはどうでしょうか? コンセプトから相手のリーダーが勇者であることは想像に容易いですし、ここで4人対4人を長引かせてしまうのも、消耗した相手をまとめて狙われかねませんし」
そういえばリーダーが負けた時点で、そのチーム全員の敗退が決まるというルールもあったっけ。
強い相手に楽に勝ちやすくなるし、狙われやすくなることにも一理ある。私はその意見に賛成だ。
賛成を伝えたところでレツトさんが指示を出す。
「ではツバサさん、ある程度回復したところで作戦の伝達と火力を上げるために戦闘に参加してきてください。ツバサさんとメイさんは最悪の事態に備えてできれば遠距離攻撃で!」
任された!
回復薬を飲み切ったところで再度翼を展開して、戦っているメイさんとユウキさんの間まで飛んだ。
「メイさん! ユウキさん! 相手が強いのでリーダーを倒して全員退場に持ち越せという指示が出たよ! 一気に行くよ! メイさんと私は遠距離からね! ユウキさんは言わなくても分かるよね!」
「「了解!」」
メイさんもユウキさんもすぐに勇者に狙いを変える。
メイさんは炎で槍を作り出して投げつけ、ユウキさんは白い光を纏った拳を叩きつけるべく走り出す。私はスティングで氷の弾の援護射撃だ。
「俺狙いかよ!」
勇者はその作戦に気がつき、すぐにバリアを張って身を防ぐ。
「守ってんだけじゃ勝てないぜ!」
ユウキさんはそこに何度も何度も拳を打ちつけたところで、バリアが砕け散って勇者は仰反る。
「しまった!」
「「今だ!」
そこに透かさず私とメイさんの遠距離攻撃が放たれるのだが、勇者は不敵に笑うだけであった。
「……なーんてな」
何がおかしいんだろう?
私とメイさんはレツトさんを守れるようにも動いてるから、相手のチームメンバーがこっちに近づけているわけでもないのに……。




