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第2話 フレンドができました

 アスファルトで舗装された道路に広い歩道。歩道沿いには規則的に木が植えられており、緑の葉を揺らしている。そしていくつも並ぶビル群。

 そこは私がよく知る街並みだった。


 違う点と言えば車が走っておらず、同じ服装をした人がやたらといることだろうか。


「こうして見るとまるで流行のファッションみたいだなー」


 同じ格好の人たちを見ているとそんなことも考えてしまうけど、それも今のうちだけだろう。

 周りの風景から目先の目的である街中を自由に飛ぶことに集中することにした丁度その時だった。


「あの……もしよろしければ一緒にフィールドに出ませんか?」


 ピンクの長髪に赤い瞳の人に声をかけられた。服装を見たところゲームを始めたばかりのようだ。

 突然声をかけられたため驚きはしたものの緊張した様子から悪い人ではなさそうだ。恐らく一人でこのゲームを始めて不安なのだろう。

 時間もあるので、その提案を了承することにした。仮に悪い人だったとしてもゲームだからなんとでもなるし。


「いいですよ。えっと……」


「ボクはメイといいます」


「メイさん、よろしくお願いします! 私はツバサです!」


「ツバサさん、よろしくお願いします!」


 お互いに自己紹介を終えたところで、メイさんの案内に従って移動する。

 その中で色々と聞いてみることにした。


「ところでフィールドってどんなところですか?」


「街の外ですよ。モンスターが出現したりします」


「モンスター!?」


「ええ!?」


 超能力者同士で戦うゲームだとばかり思い込んでいた私は、モンスターと聞いて思わず驚いてしまったが、メイさんは私以上に大きな声をあげていた。

 それからメイさんは恐る恐る私に確認してきた。


「もしかして、ゲームのストーリーとか全然読んで……」


「うっ……」


「読んでないみたいだ!?」


 私は初期の服装さえ把握していなかったくらいだ。それを言われると頭が痛い。

 少し呆れた様子で簡単に説明してくれた。


「どこからか現れたモンスターの侵攻から守るために、みんなが超能力を身につけたという設定です。モンスターを倒して超能力を強化して、それから対人についても鍛えていくといった感じです」


「あははは……、ありがとうございます」


 ストーリーをよく読んでおけば良かったという現実に、苦笑いしかできない。

 そんなやりとりをしているうちに、大きな扉が見えてきた。どうやら町全体が壁に囲まれており、この扉こそがその出入り口らしい。

 それを見てふと思う。最初は戦闘よりも街並みを楽しむといったこともできたはずだ。その中でモンスターをいきなり狩りに行く理由とかあるのだろうか。


「そういえばどうして最初からフィールドを目指していたのですか?」


「能力を試すためです! 能力を変えられるのは最初の30 分だけですので、実際の使用感を確かめるにはこれしかありません!」


 ……能力を選択する時に案内さんもそのようなことを言っていた気がする。

 最初から能力を心に決めていた私は軽く聞き流していたけど、一般プレイヤーからすればそれが当然なのだろう。

 その証拠に出入り口付近はたくさんの初期衣装のプレイヤーで賑わっていた。

 私たちも彼らに続いて扉を潜っていく。


「では行きましょうツバサさん!」


「はい!」


 それからフィールドに出たところで周囲を眺めてみると、前方には長々と続く二車線の道路と、その左右には田んぼが広がっているような田舎道があった。

 そして道路の上をファンタジーに出てくるような緑の怪人があるいていたり、田んぼの上に大きな蜂が飛んでいたりする。それらに対して炎や電撃が飛び交っている。


 これがモンスターに超能力かぁとしばらく眺めていたが、メイさんの声で意識を自分たちのことに集中させる。


「ボクたちも行きましょう! まずは緑の怪人、ゴブリンを相手にしてみましょう!」


「そうですね! 道路の上にいて相手にしやすそうですし!」


 最初の相手を決めて走り始めたところで、メイさんがこちらに確認してくる。


「戦闘前に確認させてください! ツバサさんが最初に選択した能力ってなんですか? それによっては戦い方も大きく変わってきます」


 一緒に戦っていくとなるとお互いの能力の把握は重要だろう。


「氷属性の翼です! 早速……どうかしましたか?」


 私が能力を答えたところで、メイさんが足の動きを止めていた。

 そんなメイさんの様子に首を傾げていると、思いもよらない言葉が飛んできていた。


「……翼なんて正気ですか!?」


 そんなに悪いことなのだろうか?

 短い期間とはいえ、話した印象から悪い人ではないことは分かった。そんなメイさんが声を荒げていた。


「もちろん正気です! 飛ぶために選びましたので!」


 私の答えにメイさんはため息を吐く。


「まさか選ぶ人がいるなんて、信じられません」


 その反応には私もムッとしてしまう。

 折角誘いに乗って一緒に行動してきたのに、それはないだろう。


「そこまで言うほどのことなんですか?」


「だったら能力を使ってみてください!」


「……分かったよ」


 私は言われるがままに能力を発動した。

 すると冷気とともに背中に青白い翼が出現する。

 それから大きく羽ばたかせて一気に急上昇したところで、ある疑問が浮かんできた。


「これ、どうやって前に進んだり攻撃するの?」


 宙でクロールしようとも翼に前に進めた念じても一切動く気配がない。

 それだけに留まらなかった。


「え……?」


 次の瞬間には翼が完全に消えていた。翼を失えば当然重力に引っ張られて……。


「きゃああああああああああ!」


 地面に叩きつけられて開始30分も経たないうちにHPが全損し初死亡を決めることとなった。

 フィールドから転送されていく中で、これは正気を疑われる理由を充分に感じるしかなかった。



 ゲームを始めてすぐの死亡であるためか、初期地点に戻されていた。

 それはそれとしてこの後どうしていくのかが私の頭を悩ませる。


「メイさんには何か悪いことしちゃった気がするなぁ……」


 翼を使ってみたところであれだけ言われても仕方がないことが分かった。

 それに対して少し悪い言い方をしてしまったかもしれない。顔を合わせないように気をつけるべきか。とはいえ、そもそも誘ってきたのはアチラだし……。


 歩きながらそのような思考の海に浸っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ツバサさん!」


「メイさん!? どうして!?」


 正直なところしばらくは顔を合わせることはないだろうと思っていた。


「どうしても謝りたくって……」


 メイさんはそう言うが、正直そこまでする必要もなかったと思う。時間が時間だ。


「実際使ってみて分かりました。だからそこまで気にしないでください! 私にそんな時間を割いて大丈夫なんですか? それにここに来たということは、移動時間を考えると能力を試すこともできなかったんじゃ……」


「はい、できませんでした」


 自分のために当初の目的が達成されていないことに申し訳なさが更に込み上げてくるが、ですがとメイさんは続ける。


「能力を発動した時のツバサさんの顔は本当に輝いてました。自分で好きな能力を選んだということが感じられました。それをありえないとまで言ってしまったことをどうしても謝りたかったんです。それに、そんなツバサさんを見ていると自分が好きで選んだ能力を育てていくべきだと思ったんです!」


 真剣に語るメイさんの様子に私は少し恥ずかしくなる。

 まさか自分の表情が人のゲームの考え方を変えてしまうに至るなんて。


「そう言ってくれてとても嬉しいです! だからもう謝るのはやめにしましょう!」


 お互いがお互いを理解した今、もう謝罪なんて必要ないだろう。

 それを聞いたメイさんはパァっと顔を明るくして、頭を大きく下げた。


「ありがとうございます!」


 それから今度はメイさんの方から私にある提案をしてきた。


「それとなんですが、もしよろしければフレンドになってくださいませんか?」


 答えはもちろん決まっていている。


「喜んで!」


 ちょっとしたトラブルもあったけど、こうしてゲーム内で初のフレンドができたのだった。

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