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第17話 拠点に向かいます

『次! 高度を上げて右手のビルの隙間を抜けて! そしたらまた戻って――』


 私はレツトさんの指示に従いながら、移動をしていた。

 今のように細い道なども通されたり色々なところを行ったり来たりと、かなり遠回りをしているとは思うけど、追手を撒くために必要なことらしい。


 何でも、マップの探知範囲内にいる限りは目で追い続けることができるという。

 そのため、範囲外に出られるように大きく動き回るようにとのことだった。また、マップで分かるのは敵かどうかだけであるため、戦っているところや他のチームの上等を通ることで、どこにいるのかを更に分かりづらくさせているのだとか。


 これだけ動き回っていると、残りTP量も心配になってくるけど、レツトさんはその辺のケアもバッチリだ。


『残りTP量はどのくらいですか?』


「多分あと15秒持たないくらいかな」


『大体計算通りですね。オッケーです! では、そこの交差点を直進して右手のビルの隙間に入ってください。そこでユウキさんに待機していただいています。ユウキさんも準備お願いします!』


『了解!』

「分かりました!」


 このように私のTP量まで計算しており、それに合わせてユウキさんにも指示を出してくれている。おかげで何の心配もなく行動できた。

 とても優秀な指揮官だ。


 指示されたビルの隙間に入ったところで、私のTPが尽きて翼が消えてしまうけど問題ない。

 白い光を発しながらビルの壁を駆け上ってきたユウキさんが、無事に私をキャッチしてくれた。


「ありがとうユウキさん」


「チームとして当然だろ! ……ここで脱落されちゃ勝てるもんも勝てないしな」


 後半必要だっただろうか? これだから平凡な人って……。まあユウキさんらしくていいけどね!

 それよりも気になるのが今の私の格好だよ!


「ところでなんだけどどうしてお姫様抱っこなの!?」


 よりにもよってと思うけど、ユウキさんからは納得の答えが返ってきた。


「それじゃあ抱き締めるような感じなのが良かったか? 嫌だろ?」


「……確かに」


 少し想像したけど、めちゃくちゃ通報したくなった。こればかりはやむを得ないってやつだね。

 納得されるのが妙に悔しい! と少し涙目な気がするけど、自分の扱いを分かってきたことによる嬉し涙かな?


「まあ格好についてはリーダー達の作った拠点に着くまで我慢してもらうとして、両手空いてるだろ? 今のうちに回復薬飲んでおけ」


「はーい」


 その方が移動しながら回復もできて効率が良いだろう。

 できるだけすぐ動けるようにするためにも、少しの間の辛抱だ。

 移動を続けていると、通りがかった2人組のプレイヤーが言ってきた。

「おい、ハーレムの奴がヒロイン抱えて走ってんぞ!」

「平凡なくせに生意気!」


 ……辛抱だ。


「……って我慢できるかー! 見ているアイツらを倒していって!」


 好き勝手言ってきた2人組のプレイヤーを指差す。元々言えばふざけたチーム名にしてしまったのも悪いけどさ!

 ユウキさんも同感だったようでそうだなと頷いた。


「俺も好き勝手言われて同感だ。ちょっと一泡吹かせてやるか」


 決まりだ。私は少しだけ回復したTPでも扱えるスティングを構える。

 ユウキさんは立ち止まってからスキルを放つために空いてる足を振り上げた。すると、衝撃波が発生し、真っ直ぐ2人組に向かって行く。


「うわ、怒ったぞ!」

「避けるぞ!」


 2人組はそれを飛んで回避しようとするけど、足元に注意だ! 落下地点を狙って氷の弾を放っておいた。


「うわぁっ!?」

「いって!」


 そのことで2人は足を滑らせて、こけさせるのに成功した。

 これにはユウキさんは大爆笑である。


「ははははは! こけてやんの!」


「大声で笑ってはした無いですわよユウキ」


「そう言うお嬢様こそ楽しそうですよ?」


 乗ってきた。

 それもそうだ。言い放題の相手にこっちの作戦が上手く行ったわけだしね。


「さて、行くか」


 一通り笑ったところでユウキさんは方向転換して走り出した。


「倒さないの?」


 いい感じにダメージも与えられていたし、いけそうだと思ったんだけど……。

 私が聞くとそれも計算済みだとユウキさんは答える。その直後、後ろで爆発音がした。


「イベント用にリーダーにもらった小型爆弾をいくつか仕掛けておいた。真っ直ぐ向かってくれば確実に踏むようにな! さて、これでおしまいだ!」


 ユウキさんは音と同時に再度方向転換。爆発で宙に舞う二人組の着地地点に向けて、足を薙ぎ払うかのように動かして衝撃波を飛ばした。

 落下する2人に衝撃波を回避する行動が間に合わずに命中。吹き飛ばされて地面に叩きつけられたところで、光の粒子と化した。


「一丁あがり!」


 どうだとばかりにニヤリと笑いかけてくるユウキさん。

 もしかして逃げたと相手にも見せかけるように計算していた? たまに凄く見える。たまに。


「凄いね。それじゃあ早く拠点目指そうか」


「なんか反応薄くないか!? まあいいけど!」


 調子に乗らせてはいけない。それにずっとお姫様抱っこされている身にもなって欲しいものである。また他のプレイヤーに見られかねないしね。こういうところですよユウキさん。

 ちゃんと褒められる日は遠い。


 少し走って建物の中に入ったところで拠点についたようで、レツトさんとメイさんに合流することができた。


「お疲れ様でした!」


「お疲れ2人とも。ところでどうしてお姫様抱っこなんだい?」


 笑顔で迎えてくるレツトさんの一方、メイさんは少し不機嫌そうだった。

 TPとか移動速度を考えられないメイさんじゃないはずだけど……? とりあえず降りておこう。


「ツバサからも説明してくれ!」


 降りたところでメイさんから睨まれるユウキさんに助けを懇願されるけど、面白そうだから放っておこう。逆の立場なら絶対笑われてるしね。

 私はレツトさんと話していることにした。


「おい待て! 見捨てんな!」


「あの……? ユウキさんが助けを求めているみたいなのですが…….?」


 ユウキさんを気にするレツトさん優しい。

 助ける必要がないことだけ教えておこう。


「いいのいいの。ユウキさんはああいうのが好きなだけだから」


「そうでしたか! ユウキさんとゲームしている時間は俺の方が長いはずでしたが、まだまだ知らないことだらけです」


「いやちげーよ! 誰がドMじゃ!」


「うるさいよユウキ。そこに正座する!」


「ひゃいっ!?」


 仲良くて微笑ましいなぁ。

 ゆっくり回復しながらこちらも話を楽しもう。相談したいこともあったしね。


「ところでだけどレツトさん。炎に勝つ方法ってないかな?」


「もしかして撤退を決めた相手が炎使いだったのですか?」


「そうなんだ。氷が溶かされて、勝てる気がしなくてね」


 ヴリルから逃げることになったのはこう見えてとても悔しい。もう一度戦える機会さえあれば今度こそとは思っているけど、私個人での対処法は何も思い浮かばなかった。


 レツトさんの頭脳でなら何かいい考えがあるかもしれないから、聞いてみたかったのだ。

 レツトさんはしばらく考えた後に、逆に聞いてきた。


「……氷は炎に不利って、決めつけてはいませんか?」

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