第16話 炎の翼
「面白そうなことしてんじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ」
ヘイローさんはそう言うと、一気に加速して闇を纏う少年の元に迫る。
「まずは紛い物のその翼を切り落としてやらねぇとな。空を自由に羽ばたいていいのは俺たち翼だけだ」
「させるかぁぁあああ!」
少年はヘイローさんに向かって炎を吐いたり、掌から闇の弾を連発するが、ヘイローさんは軽々しくそれを翼で切り裂いていき、少年の元に到達するのはすぐだった。
「闇の力ってのは常に聖なる光の力に焼かれる運命にある。それをお前の目に刻んでやるよ」
「闇は光を呑み込むもんなんだよ!」
少年は吠えると、ヘイローさんに向けて闇の翼を叩きつけようとするが、ヘイローさんの翼は闇の翼を容易く切り落とし、それから両方の翼から光を少年に向けて放つ。
そして至近距離から放たれたその光は、少年の姿をあっという間に消し済みに変えていった。
「ぐあああああ! くっ、闇は光には勝てないっていうのかぁぁあああ!?」
私が苦戦した相手にも関わらず、相性もあるだろうけどヘイローさんは一瞬で蹴りをつけてしまった。
相変わらず強い……!
少年が消えるのを見届けたところで、ヘイローさんは私に向き直した。
「偽物の翼使いは排除した。さあ、やろうぜ。その様子だと随分と強くなったんじゃないか?」
私が倒せなかった相手を簡単にいなしたところでよく言うと思うけど、ヘイローさんと戦うことは満更でもない。成長を確認することができる!
私が頷いて了承したところで、予定より少し早いヘイローさんとの戦いが始まる。
まずはお互いに片翼だけを振るっての飛び攻撃だ。私は無数の氷の羽を飛ばして、ヘイローさんは光を放つ。
「片翼操作をマスターしたみたいで何よりだ」
「その余裕も今のうちだよ!」
私に関心している様子だったが、技と技のぶつかり合いは私の優勢。光が消えたのに対して、いくつかの氷の羽はヘイローさんに向かって飛び続けていた。
「なるほど、俺と違う方向に強化したみたいだな! 楽しかなってきやがった!」
笑いながら翼を一度大きくはためかせて回避するヘイローさん。
だけど、何処に回避しようとも技の威力で優ってる私は後追いできる! ヘイローさんとの間合いを詰めたところで、両翼で『翼撃』を放った。
「チッ!」
ヘイローさんはそれを両翼で防御する。楽しさから笑みは浮かべているものの、その顔付きから余裕は消えていた。
あの頃より成長した私の力を見たか!
防御されて終わりではない。私の翼と接触してる箇所から、ヘイローさんの翼を凍りつかせていた。
「翼を凍らせちゃえば私の勝ちかな?」
「ああ、そうだな」
意外にも肯定したと思ったところで、ヘイローさんは但しと続ける。
「今のままならな!」
ヘイローさんが叫ぶとなんとその背中に更に二枚の翼が現れた。翼の宣伝に使われていた写真と同じだ。
つまりそれが示すものは……。
「成長してるのはお前だけじゃない。すでに俺はテスター時代の力を取り戻した。いや、それ以上の力を持っているんだよ!」
4枚の背中の翼が、氷を弾きながら同時に広がった。そのことによって突風が巻き起こり、私は吹き飛ばされる。
やっぱり先駆者と言われるだけはある。素直に尊敬する。でも、今の感じなら行ける気がした。まだスティングだって使ってないしね。
吹き飛ばされた私に迫るヘイローさんを、スティングの氷の刃で迎え撃とうとしたところで、私とヘイローさんの間に炎の塊が迫ってきた。
「メイさん……?」
炎といえばメイさんだから、真っ先に助けに来てくれたのかと思ったけど、違うことはすぐに分かる。
徐々に開いていく炎の塊が、炎の翼であったからだ。
炎の翼が開き切ると、そこには炎のように荒々しく髪を立てた男がいた。獰猛な笑みを浮かべたその姿からは、すぐにでも戦いたいという闘志を感じられる。
体勢が立て直せたとはいえ、どうやら味方ではなさそうだ。
彼はヘイローさんに向けて言う。
「ここから先は俺にやらせてくれ」
「俺自身が決着をつけたいところだが……」
どうやらヘイローさんのチームメンバーのようだ。本当に翼使いを集めたチームを作ったのかな?
ヘイローさんは少し悩むも、それを許可した。
「他の翼使い同士の戦いを見せてもらうのも一興だな。いいぜ。だが、無様な戦いは見せんなよ? ヴリル」
「……ありがとよ!」
ヴリルと呼ばれた彼は戦闘を認められた礼を言うと、私に向き直す。
「師匠に認められた翼使い同士、戦えるのは光栄だぜ!」
それから行くぞと飛び出した。
「え? 待って!?」
「誰が待つか!」
いきなり相手が変わる身にもなってほしいんだけど! 私が話す時間もなかったし、
ヴリルはそんなことお構いなしだ。飛びながら炎が全身を包んでいった。
その姿はまるで不死鳥を連想させる。
「炎の翼は灼熱の翼。その熱さは全てを溶かす」
言葉通り、彼との距離が近づくに連れて身体が溶けるんじゃないかというくらい熱さが増していく。
相手が変わったことへの困惑とかもあるけど、もちろん負けるつもりなんてものはない!
私は翼に注ぐ力を増やして立ち向かう。
「そのくらいの熱さ! なんのそのだ!」
「言ってろ!」
私は翼を大きく動かしてヴリルに冷気を叩きつけ、加えてスティングでビームを撃つが、意に介した様子もない。
目の前まで来たところで直接翼を叩きつけようとするが、水蒸気を上げ始めたのを見て弾かれるだけであることを瞬時に理解。相性が悪過ぎる……。
急上昇することで何とか乗り切った。
「逃すかよ!」
もちろんそれをただ見てるだけの相手なんている訳がない。ヴリルは私の動きに合わせて上に向かってくるけど、この感じなら……。
現状では勝ち目がないと判断した私は、戦線離脱を選択することにした。
翼の育成方針の差からか、全速力の私にヴリルは追いつけない。追ってくる気配はないが、恐らくヘイローさんもそうだろう。
「逃げんな! 正々堂々勝負しやがれ!」
勝負に割り込んできたアンタが言うか! とは思うけど、叫び返している余裕はない。
これはチーム戦だ。
チームのためにはまだ負けるわけにはいかない。
私はインカムの音声を届ける機能のスイッチを入れた。
「いきなりヘイローさんとその仲間に当たって死にそう。多分そろそろTPも切れる。どの方向に行けば救出してもらえる?」
私がそれを聞くとリーダーのレツトさんはすぐに指示を出してくれた。
まず方角を、そして次にユウキさんに指示を。これで一安心だろう。
ヘイローさん達には心の中で謝っておく。
落ち着いた頃にまた戦おう。その頃には今よりももっと強くなれてるはずだ。
チーム同士で戦うのも悪くはない。翼2人と私とユウキさんかメイさん、それもまた面白そうだ。
何にせよ今だけは許してほしい。
今はチームを優先させてもらう。




