第14話 イベント開始です
視点戻ります。
イベントの開催日の前日。
6日ぶりに集まって、訓練場でそれぞれの成果を確認していた。
もちろん利用時の設定から、チーム外のプレイヤーには見えないようにしている。
一通り確認が終わったところで、ユウキさんが声をかけてきた。
「しかしツバサよ、お前強化計画期間中一体何をしてたんだ? 初日っから白いやつが捕まったと掲示板で話題になったと思えば、久々に会ったら装備も大きく変わってるし、何かかなり強くなってるし」
「あははは……色々あったんだよ……」
この質問には本当に苦笑いするしかない。
全部説明するには、あの時逮捕された時のことを話さないといけない。
まず逮捕してきた人はやっぱりというか街を守るNPCの警察的存在で、私がいなくても街を壊しているアイツらを逮捕するつもりだったらしい。
そしたら、アイツらを倒した後の私がいて、そのお礼をするために連れ去ったという。おかげでその後に逮捕されたとネタにされたよ! 真っ白だから誰のことかすぐ分かるし! 通り過ぎてく人が逮捕されてた人じゃないかとヒソヒソ話してたり、もしかして逮捕された人かと声かけられたよ!
それは許さない事実として、お礼にもらったものがとても強かった。
まず街を守る者のとして『警察』のスキルをいただいた。なんとその効果は非行行為を行わない限り、消費TPを少し軽減してくれるというもの。TP消費の激しい翼にとっては嬉しいものだ。
次に、今着ているロングジャケットだ。
街を守る者としての制服らしくて、着てると『警察』スキルを強化してくれるらしい。
今の格好と強くなれたのはこのおかげだ。
最初は事務員のような印象を受けるタイトスカートのスーツだったけど、沢山動くから他のものはないかを聞いたら、今の装備を“追加”でくれた。
スーツの方に関しては、私の認めた人にならあげてもいいとのことだったので、メイさんにプレゼントした。何故かキラキラとしていたのは記憶に新しい。すぐに装備していた。
そのメイさんと言えば、訓練中に私やユウキさんの攻撃を見事に防ぎ切ったのに、少し浮かない様子だ。
声をかけてみることにした。
「メイさんはどうしたの?」
「心配かけてすまない。……あの時の力が使えなくてね」
そういえば、森の中に修行に行った時に会った際にメイさんは新しいスキルを使っている様子だったけど、訓練中に使う様子がなかった。
そういえば感情が影響するスキルかもって言ってたっけ。
「今のメイさんもとても強くなってるし大丈夫だよ! その力ももしかしたらピンチになって目覚める系かも! 何かカッコいいね!」
「……だといいけど」
依然として暗いままだけど、その表情は少し優しくなった。
実際今のメイさんでも充分、いやかなり強い。イベントでも変わらない強さを見せて欲しいな。
みんなで話していると離れたところから訓練を見ていたレツトさんもやってきた。
「みなさんお疲れ様です! 戦いに関しては見ていることしかできない俺でも何かできることはないかなってみんなで使えるアイテムを一つ作ってみました! 良かったら試してもらえませんか?」
そう言ってレツトさんが取り出したのは片耳につける白のインカム4つだ。
何に使うかは一目瞭然だ。これを見たユウキさんが嬉しそうに言う。
「もしかして俺の作戦を最初に聞いたあの時から……!」
「はい! そうです! これがあれば離れていても音声でのやり取りが可能です!」
レツトさんも嬉しそうに答える。守りたいこの笑顔。そろそろ誰か容姿のバグに触れた方がいいと思う。
離れていても文字でのやり取りはできるが、音声の方がリアルタイムでやりとりできるため、動きやすさが大分変わってくるはずだ。
「これは役に立ちそうだ」
メイさんもそう思ったようで、受け取ると早速つけていた。
「使い方は簡単です。声を飛ばすスイッチのオンオフを切り替えるだけ、急な指示もあると思うので声は常に聞こえるようにしています。音量調整システムの方から……」
説明を受けて試したところ、使い勝手も問題なしだ。
レツトさんは個人向けにもいくつかアイテムを作ってくれていたのでそれを受け取った。
これでイベントに向けての準備は、あとは各自で薬を用意するとかするだけで問題ないだろう。そう思ったところで、ユウキさんがあと2つだけやることがあると声を上げた。
「1つはリーダーの決定だが、これはレツトで問題ないな?」
「「異議なし!」」
「任せて!」
強化計画の際の分析能力から一番的確に指示を出してくれそうだ。
レツトさんも任せろと自分の胸をドンと叩く。その仕草狙ってやってない?
それはそれとしてもう1つあるらしいけど何だろう?
「そしてもう1つが……チーム名だ!」
これは重大な問題だった。一切考えてこなかったからだ。
「『蒼穹を自由に翔ける翼』なんてどうだろう?」
言われてすぐ真顔で提案するメイさん。
「はやっ! 私の名前が入ってるみたいで恥ずかしいから却下!」
「ここは単純にチームユウキとかどうでしょう!」
それからレツトさんが提案するけど、それはないな。
「なんか名前がパッとしないし、そもそもリーダーはレツトさんだしないかなー」
「おい! 名前がパッとしないってなんだよ! つーかお前は何かネタあんのかよ?」
却下を繰り返していたからか聞かれるけど正直ない。
「そういうユウキさんは?」
「すまん……ない」
ユウキさんも似たようなもんじゃん!
この議論には暫く時間を使いそうだから明日までに考えればいいかなと思ったところで、レツトさんからある情報が齎された。
「大変です! イベント申し込みまでの締め切りが近いです」
その言葉にみんな顔を青くした。
「とりあえず決定案をすぐ通せるように、出てきた案はすぐに入力して備えてくれ! リーダー頼んだぞ! そしてみんな! 急ぐぞ!」
「「「うん!」」」
そしてユウキさんの指示で急いだ結果、チーム名はとんでもないことになったという。
「イベント以降俺はどんな顔をして過ごせばいいんだ……」
頭を抱えるユウキさん。
流石にユウキさん相手でも少し同情を覚えるほどのものだ。アイデアがあまりにも出てこなくて適当に言ったものが、期限の問題で通ってしまった。
「まあまあ。イベント上位になっても名前だけしか分からないと思うし……」
「今フラグが立ったような……」
メイさんが何か言ってたけど気にしない。
あとはイベントに備えるだけだ。
◇
そしてイベント当日。
戦いの舞台となるイベント用の街の中に私達はいた。
そこは私達が普段行動している街並みと変わらない背景が広がっていた。
一点違う点があるとすれば、NPCや溢れるほどのプレイヤーがいなくて閑散としており、代わりに街の各地に散らばったプレイヤー達の殺気が溢れていた。
「何か全員俺を見てるような……」
泣きそうな声で言うユウキさん。
「「気にしない気にしない」」
私とメイさんでそう言うけど、多分これは事実だ。主に男性陣から向けられてると思う。
それもそのはず。
私達それぞれの頭上にはチームを判別するためか、チーム名が表示されていた。『ユウキのハーレム』と。
私とメイさん、そしてレツトさんも容姿だけ見たら女の子だからね。
そりゃ見られるわ!
ハーレムの一員に加えられたレツトさんと言えば苦笑いしていた。
「あはは……」
「……まあ初期位置はみんな離れてるから、何とか凌ごうね」
私がそう言ったところで、運営からの声が届いてきた。
『超能力者のみなさん! 準備はいいですか!? これよりイベント開始のカウントを始めます!』
10……9……8………………0!
「みなさん! 頑張りましょう!」
カウントがゼロになったところで、リーダーからの一言。返す言葉は一言で十分だ!
「うん!」
「ああ!」
「おう!」
戦いの火蓋が切られた……!




