第13話 ボクとツバサ【Side:メイ】
ボクとツバサの出会いは最低で最悪だったと思う。
なぜなら、ボクが最初にツバサに近づいたのは、1人で行動することへの不安を紛らわすためだ。彼女を選んだのも最初に目についた同性だったからというだけである。
その次にボクがしたことは彼女の選択の否定。
ボクは創作の主人公のように活躍したいという夢を抱いていた。だから、事前情報もしっかり仕入れていたし、評判だった超能力を選択した。
そんなボクにとって、翼という事前評価が最悪の能力は、受け入れがたいものだった。一緒に行動するにも関わらずよく誰も選択しないような能力を選んだなと、独りよがりにも怒ってしまった。こちらから声をかけたにも関わらずだ。
これを最低で最悪と言わずして何と言うのだろうか。
活躍することに固執していたボクを変えたのは、翼の不人気さをその身で体験させるために、超能力を使わせた時のツバサの表情だった。
――どうしてこんなに楽しそうな顔をしているのだろう。
素直にそう思った。
話の流れから意地になって能力を使ったとなれば、そこに笑顔なんてないはずだ。しかし、その時の彼女は少し浮かび上がった時点で口元が緩み始め。一気に上昇する寸前には満面の笑みが広がっていた。
たったそれだけ。
でもそれがボクにはとても眩しく思えた。ただ、飛び上がった。それだけで彼女は楽しんでいるというのに、ボクは一体何が楽しくてゲームをしているのだろうか? そんなボクに彼女を嗤う資格なんてあったのだろうか?
どうしても自分が許せなくなっていた。
その後彼女は落下ダメージで初期位置に戻ることになるが、気がつけば彼女の元へ自然と向かっていた。
それから無事にツバサと合流することができたが、彼女の第一声は驚くべきものだった。
なんとこちらへの謝罪だったのだ。ボクの言ってたことを肯定するだけでなく、ボクの能力選択の邪魔をして申し訳なかったと。
あれだけ言われたにも関わらず謝罪までされては、自分がチッポケな存在だとつくづく思う。
同時にボクは誓った。本当に心の底から楽しんでいるツバサを、この世界の空を自由に翔けられるように、全力で手助けしていくことを。
最初は罪滅ぼしといった部分が大きかったかもしれない。
だけど、ツバサと行動をしている内に、その時間がボクにとって非常に楽しいものだと気がついた。
だから、今回のイベントを知った時に、ツバサがボクと組みたいと言ってくれた時は本当に嬉しかった。
ツバサの期待に応えるためには、ボクも力を身につけなければならない。
強くなること……ゲームを始めた時と同じ方向を目指している今だけど、その意味は当時と全然違った。
◇
強くなるためにボクができることは、ひたすら能力を強くしていくこと。
どのように能力を強くしていくかというヴィジョンも出来上がっている。守る力を手に入れることだ。
チームリーダーがボクとレツトどちらになるにせよ、ボクの役割はリーダーの身を守ることに変わりはない。加えて守る力があればTP切れのツバサの回復時間を稼ぐことができる。
守る力を身につけるために、フィールドの森の中に通うことを計画を立てた日からの5日間繰り返していた。
森のモンスターのゴブリンやオークは、ボクを見かけるや否や飛びかかってきてくれるから、スキルの取得や育成に打ってつけだ。
モンスターが飛びかかってきたところで、ボクは自分の周囲に炎の円を作り出す。
ちなみに、炎が木に燃え移ることは今のところない。簡単に燃えたらそれはそれでゲーム性が問題になるから当然か。
ともあれ、ボクはそのような行動を何度も繰り返している。当然、身を守っているだけでは、モンスターと言えども簡単にHPを0にできるわけではない。
倒し切れなかったモンスターに参戦してきたモンスター、気がつけば全方位囲まれているような状況ができ上がる。
ここからが本番だ。
「さあ来なよ……!」
ボクの言葉を知ってか知らずか、炎の円が消えたところでモンスター達が一斉に動き出した。
そんなモンスター達に向けて言葉を続ける。
「今日こそ耐えてみせるから!」
この5日間、ボクのHPが最後まで残ったことは一度もない。でも、少しずつ強化を重ね、戦闘持続時間が伸びてきているのは確かだ。
もし耐え切ることができれば、チームを守り切れるだけの防御力になると思う。
そのためにも今日も全力で相手をする。
まずは真っ先に迫ってきたモンスターとその周囲を巻き込んで爆発が発生した。それがボクの左右で二箇所。
ボクとツバサの絆の結晶とも言える『罠設置』だ。爆発に巻き込んだモンスターは一撃で粒子となって消滅する。ただ、その威力の代償に連発はできない。
罠を設置できなかった前後の敵に対しては、炎の壁を作り出して身を守る。爆発と違って威力がないため、それだけではその場凌ぎにしかならない。
そんなことはこの数日で充分に理解している。だから今度はそこに攻撃を加えていく。
壁の中心から真っ直ぐ火柱が発生し、モンスターの数を更に減らしていく。とはいえ、まだまだ数は多い。
スキルの再使用までの時間を稼ぐために、再度炎の円を展開するが、現在の状況と言えば。
「くっ……、これじゃ今までと変わらないじゃないか!」
数の差でジリ貧になって最終的に押し切られるだけ。そんないつもの流れが見えた。
イベントまであと何日だ? 今のままで間に合うのか? いや、間に合わない。折角ツバサの力になれると思ったのに……。
「ボクは……ボクはどうすればいい!?」
思わず地面に拳を打ち付けた時だった。
ボクを囲んでいた炎の円が禍々しい程に真っ赤に染まり、その範囲を広げて次々とモンスターを焼いていく。
変化は炎だけに留まらず、髪がメッシュをかけたように所々赤に染まっていた。
超能力に関することは間違いため、ボクはステータスを開くとそこには『想いの炎』というスキルが追加されていた。
「なんだこれ……?」
これがボクに力を与えてくれているのは間違いない。
感情がトリガーだろうか? それなら今後の安定発動もあるのだろうか?
考察を始めようとしたその直後、地響きがした。
「そういえば、此処にも特殊モンスターが現れるんだっけ」
ノイズの走ったブラウン管テレビの頭にシンプルな冷蔵庫の身体。左腕はエアコンと……全身が廃棄家電で掲載されたようなモンスターがそこにいた。
なんて丁度良いタイミングだろうか。
「ボクの新しい力を試してやる」
それから何度か攻撃を加えては回避という行動を繰り返しているが、一向に倒せる気配がない。
赤さを増した炎が確かに効いている様子ではあるが、火力が足りていない。
「1人ではこれが限界か……」
「2人ならどう?」
諦めかけたその時、聞き覚えのある声がした。
思わず振り返ると、そこにはボクの憧れた少女が笑みを浮かべていた。
服装が白のロングジャケットに変わっていたり、かつて光線銃だったものをジャケットの上から巻いたベルトのホルダーに納めたりと、格好が大きく変わっている。
それでも見誤ることはない。間違いなくツバサだ。
どうしてここに?
ボクが聞く前にツバサは説明は後と言葉を遮って銃を引き抜いた。
「……いくよ、スティング」
ツバサが銃に向けてそう囁くと、銃口の先に氷の刃が形成されていった。
刃が完成したところで氷の翼を展開して、拳を振り下ろそうとしているモンスターに向かって行った。
その姿はとてもカッコよくて眺めていたくなるが、ボクは眺めているんじゃなくて一緒に戦いたい。
ボクも前に飛び出した。
「ツバサにだけ良い格好させないよ!」
「うん! メイさんの修行の成果を見せてよ!」
色々話したいことあるし聞きたいこともある。
それよりも今はこの時間を楽しむんだ!
積もる話はイベントの前にまた改めて。




