第12話 逮捕します
「やるじゃないか。だけど俺はそいつのようにはいかないよ」
「その余裕、いつまで持つかな?」
声を掛け合うと同時に私と相手の男は動き出す。
男は私に指を向けると、建物を攻撃していた時のように無数の岩が発射されていく。
対して私は翼を解除するだけではなく羽を連発するようなこともしない。
代わりに引き金を引き続けることで銃口の先に氷の塊が形成され、それが巨大化していく。
「私の力を食えー!」
これこそが私の光線銃の新しい力だ。レツトさんに私の能力と銃の使い方を説明した時に提案されたことを思い返す。
「『羽弾』と併用してるなら、TP消費をゼロにするよりも、そもそもの威力を上げた方がいい気がしますね。TPを弾になるように改造させていただきます。そうすることで弾も注ぎ込んだTPに応じて変幻自在です!」
その説明通り、TPを沢山与えることで今のように大きな弾を放てるようになっている。私の話を聞いてそれにあった最高の改造をしてくれたレツトさんには感謝しかない。
ただ、最早光線銃ではないため、生まれ変わった相棒に名前をつけたいところだ。そのためにも、まずはこの戦いを終わらせる!
私は石が氷の塊に当たる直前に、銃の引き金から指を離した。
そのことによって、直径40cmくらいになった氷の塊が男に向かって放たれる。
「いっけえええええ!」
しかし、数がある分相手の方が有利だった。相手の放つ石を受ける度に氷の塊は姿を小さくしていき、最終的に砕け散った。
「折角力を込めていたのに拍子抜けだね!」
「いや、それでいいの!」
相手が石の時点でこれは計画内だ。私がしたかったのはTP回復薬を飲み終えるまでの時間稼ぎである。石を弾いてくれてる間に、無事回復薬を飲むことができた。
流石にTP消費が大きい翼での連戦は厳しいからね。TP回復手段を確立させるのもチーム戦で求められてくるはずだ。今回の戦いはその予行練習にもピッタリだ。
私は回復薬で濡れた口元を腕で拭いながら翼を展開し、上空を舞う。
「なるほど、計画内か! だけど、この弾幕の中どうするつもりかな?」
こうしてる今も男は私に石を放ち続ける。
確かに相手の放ってくる石は厄介だ。指先だけの動作で簡単に発射する方向も変えられる。
壊せる中遠距離攻撃と近距離攻撃しか攻撃手段がない私には相性が悪いと言えるだろう。
そんな私にとれる手段は、ダメージ覚悟で突っ込むか、相手のTP切れを待つかだ。
どちらを選ぶかといえば当然前者だ。
「ヤケにでもなったかぁ?」
相手のTP切れを待つには離れる必要があるため、その間に相手は街への攻撃を再開することや回復薬を飲むことだってできる。
つまり今の状況では元から一択だったというわけだ。そのことは相手も分かっていたのか、突っ込もうとする私を見たニヤケ面がムカつく。
すぐに一泡吹かせてやると心に決めた。
私は銃で飛んでくる石に向けて羽を放ちながら、相手に向かって真っ直ぐ突き進む。
もちろん石全てを打ち落とせているわけではないが、羽のおかげで大分マシだ。威力の差からか、羽1枚が石3個まで耐えれるのは大きい。
基本的に素早く連発できる技は、威力が低め設定されているからだ。
「思ったよりやるじゃないか……!」
1メートルの距離まで相手に接近したところで、私は違和感を感じた。
自分の石の威力の弱さを、能力を扱う本人が知らないはずがない。恐らく全弾当たったところで、私のHPを全損させるには至らないだろう。
今でこそピンチを演出しているが、当初の自信はどこから湧いてきていた?
嫌な予感がした私は咄嗟に地面を蹴って後ろに跳ねた。すると自分と男の間にいくつもの石の槍が生えてきたではないか。
思った通りだ。気がつかなければ串刺しになっていただろう。
狙いに私が気が付いたからか、男の顔からは余裕が消えていた。
「クッ、読まれていたか!」
石の槍の攻撃に切り替えたことによって、石の弾の嵐も止んでいる。今がチャンスだ。
私は男に向かって攻撃の準備をしながら駆けた。
「食らえー!」
「させるか!」
男は接近戦になった時のことも考えていたようで、石の槍一本を折って手に握ってから後ろに飛んだ。
そのことによって私の『翼撃』が回避される。
「そんな!」
「馬鹿正直に翼を出してりゃ読めるっての!」
それからすぐに槍で突き刺すべく男が突進してきた。男の顔は勝利を確信している。
それもそうだ。『翼撃』を使ったことで翼の動きが固定されている以上、翼で防御することは叶わない。槍に貫かれた私の姿を彼は思い描いているだろう。
しかし、そうはいかない。私は銃を槍に向けて振るった。まるで刃物を振り下ろすかのように。
「……え?」
すると、槍が綺麗に真っ二つに裁断されていた。
呆気に取られてる彼に教えてあげよう。
「ブラフっていうのはこうやって使うの!」
やったことは単純だ。TPの込め方次第で弾の形が変わることを利用して、氷の塊を銃口の先に留めた要領で氷の刃を作っただけである。
簡単な仕組みだけど、銃と決めつけていた相手に効果は的確だった。近距離だともう私にできることはなさそうだったしね。
一度意表をついただけで満足してはいけないね。私は男に向かって一歩踏み込み、更に何度か斬りつけたところで、男は光の粒子となって消滅した。
「クソッ! 覚えてやがれ!」
「すごく小物っぽいセリフ!?」
断末魔に思わず突っ込んでしまうけど、何にせよ私の勝利だ!
「よくやった嬢ちゃん!」「強くて可愛いとか最強過ぎんだろ!」「綺麗だったよ!」
見ていたみんなに褒めてもらえるとやっぱり気持ちいいね!
でも逆に言えば、みんなが見ている前でイベントに向けて新たに身につけた力を曝け出してしまったということだ。
ちょっと失敗したような感じがして素直に喜べずにいると、どこからか赤いサイレンを光らせたバイクが走ってきて、私のところで止まった。
それからバイクに乗っていた白い服の人が、私の腕を掴んだと思えば、気がつけば後部座席に載せられていた。
「へ?」
そして私を載せたまま走り出した。
とりあえず状況を整理する。
えーっと……赤いサイレンにバイクと言えば警察? そして載せられたということは逮捕されたということ?
でも逮捕されるようなこと……なんて……。
「あああああ!」
「ちょっと静かにしてくれ」
心当たりしかなくて思わず叫んでしまった。おかげで怒られてしまった。……警察の人、お姉さんだったんだ。
それよりもだ。私は間違いなく殺人の容疑で連れてかれてる。復活するとはいえ、2人を殺したことになるわけだし。
でもあいつらが街を攻撃していたから仕方ないと思う。正当防衛? とかそんなやつのはず!
……だから、弁明させてほしい。
「違うんです! 話を聞いてくださいー!」
私の叫びは虚しく。そのまま警察の本部と思われる大きな建物まで連行されるのであった。
この話絶対広まってそう……。
しばらく私は考えるのをやめることにした。
またいつかみんなと会えるといいな……。




