第10話 作戦会議です
特殊モンスターを倒したり、ハイローさんと出会ったり、イベントが発表された濃かった日の翌日、私はカフェに来ていた。
ビルの一階部分に組み込まれており、外にはテラス席もあるようなよく見かけるやつだ。私がいるのはもちろんテラス席である。
そんな私の前にあるのはクリームがたくさんかかったスイーツ! 私はそれを一口分食べる!
「ん〜! 美味しい!」
甘いものって世界を平和にすると思うの。
私の心からの叫びに頷いてくれるのは、コーヒーカップを手に持ったメイさんだ。
「そうだね。みんなとだからもっと美味しく感じるよ」
何を隠そうこれはゲームの中である。約束通り街中を見て回っている中で、味覚も楽しんでみない? という提案をメイさんにされてよってみた。
とても素敵な提案だ。
フルダイブ技術の味覚再現には驚かされたし、カロリー気にせず食べ放題だ。
「色々気にせずというのもあるかも!」
「フフッ、そうだね」
私たちがティータイムを楽しんでいると、そこに茶々を入れてくるのが一人。
「……わざわざ俺を呼ぶ必要あったか?」
「うるさいな平凡な人」
そう、ユウキさんこと平凡な人だ。彼もここに来ていた。
全く……人が楽しんでるというのに……。
「だから失礼だって言ってんだろそれ! つーか呼び捨てにもなってるし!」
「まあまあ落ち着いて。パフェが目の前にあると説得力に欠けるよ」
「うっ……」
メイさんが彼の前にもパフェがあることを指摘すると、彼も黙るしかない。
結局彼も同じ穴のむじなであった。
さて、冗談はここまでにして本題に入るとしよう。
私の目配せを合図にメイさんは話始めた。
「さて、食べながらでいいからここに集まった理由を説明しようか。……と言っても、察しはついているだろう?」
おうとユウキさんは答える。
「ああ、チームイベだろ?」
「その通り。チームイベに参加したいと思ったけど、私もツバサもゲーム内で話せる人がほとんどいなくてね……。そこでキミというわけだ」
これはチームイベのための集まりなのだ。
イベントで勝つためにはチームメンバーを増やしたいが、連携とかも考えるとチームメンバーは出来れば知り合い同士がいい。
しかし、私もメイさんもゲーム始めてからちゃんと話した人は少ない。片手で数え切れる人数だし、別にチームを組むことが決定している人もいる。
そんな私たちが声をかけられる数少ない存在として、彼が選ばれたというわけだ。
「随分と寂しいゲームしてんなぁ」
「呼び出しにすぐ応じてるあたりキミもだろう」
「うぐっ……」
隙を見て煽ろうとしてくるけど、メイさんに指摘されて毎回詰まるならやめた方がいいと思う。見てる分には雨白いからいいけど。
それはともかくとして暇なのは確定だ。
「というわけでユウキさんチーム入り決定ね!」
「……ったく、仕方ねぇな」
仕方ないと言いながらもユウキさんも嬉しそうな様子だった。素直じゃないなぁ。
さて、ユウキさんもチーム入りが決定したので作戦会議に本格参戦だ。
「俺がメンバーになっても今だと全員で3人だ。あと1人は決まっていたりするのか?」
「「……」」
「ないんだな……」
メンバーに加わってもらったところ少し言い難い事実だ。
また何か言ってくるかと思ったら、安心した様子でユウキさんは息を吐いた。
「良かった。ちょうど誘いたい奴がいたんだよ」
「「へ?」」
何か言ってくると思ったのは私だけでなくメイさんもだったようで、二人して変な声が出ていた。
「どうしたんだ? 食べてる間に連絡するから、そいつのところ行こうぜ。アイツは基本同じところにいるから」
何も言ってこないなら言ってこないで、何か釈然としないね!
◇
私達はユウキさんに連れられるがまま、建物の隙間を縫って所謂路地裏に来ていた。
「こんなところにいるの?」
思わず聞いてしまうのも仕方ないだろう。表に面していない分全体的に暗くてジメジメしてるし、そんなところに点々と座り込んでる人たちもいるし、不気味過ぎた。
そんな私にヒソヒソとメイさんが小声で話しかけてくる。
「彼ら、プレイヤーみたいだね。わざわざこんなところに集まるとなると……」
その続きを言ったのはユウキさんだ。
「そう、生産側のプレイヤーだ」
「でもどうしてこんなところに?」
私の疑問に考えてみてくれとユウキさんは返してくる。
「彼らが大通りとかで同じように座り込んでいたとして、モノを扱ってると分かるか?」
少し想像してみるけど、背景に写ってるモブとか休憩中の人しか思い浮かばなかった。
「なるほど。確かにこうしたところの方が分かりやすいね」
「表にも市場とか然るべきところもあるんだけど、そっちは利用料とかもあるからな。まだサービス開始してすぐということもあって、生産側はみんなこっちに集まってきた感じだ……おっと、いたいた」
補足の説明も受けながら歩いていると、目的の人のところに着いたようだ。
その人は小柄で赤毛の長髪をしており、ぶかぶかの白衣を羽織っている。なんというか背伸びした子供みたいなとても可愛らしい印象を受ける。本当に平凡な人の知り合いなのかと疑わしい。
でも事実なようで、私たちが近づいたところでパァっと顔を上げてタッタッタッと駆け寄ってきた。
「急に俺んとこ来るって言うからどうしたと思ったら、お客さん連れてきてくれたんですかユウキさん!」
声を聞いて思考が停止した。高めとはいえ男性のものの声が聞こえてきた。
どう見ても女の子に見えるのに。
「こちらこそ急で申し訳ないなレツト。今日は商談じゃないんだけど話があってな」
「単刀直入に言おうか、ボク達とチームを組んでほしい」
その間にもユウキさんだけでなくメイさんも平然と話を進めていく。
待って? 私がおかしいの?
「チームって、今度のイベントですよね? 俺を仲間って本気ですか!? 一応フィールドに出たりはしてますけど、そんなに戦闘面には自信はないですよ!?」
……レツトと呼ばれていた彼の容姿のバグは一度置いておこう。
確かに生産側となると戦闘のイメージはない。彼も申し訳なさそうにしている。
それでも彼を誘いたい理由がユウキさんにはあるのだろう。彼らの話に集中することにする。
「確かに超能力の強化具合は俺たちには届かないかもしれない。だけど、道具の扱いなら違うだろ? チームイベはみんなで戦うイベントだ。超能力ではできないこととかがあるはずだ。どんな作品にもメカニック的な存在はいるしな」
「道具と言っても現状じゃそんなにいいのは作れませんよ?」
「ちょっとした作戦が思い浮かんでいるから心配すんななて! それにさ、このイベントの趣旨はみんなで仲良くなることだぜ! そんなこと気にすんなよ!」
「ユウキさん……」
「……水を差すようで悪いんだけど、その作戦についてちょっと教えてくれないか? ボク達聞いていないからさ」
言いづらいタイミングだとは思うけどメイさんが聞きたくなるのは尤もだ。確かに作戦は重要なことだ。チームで行動していく以上、私たちにも役割を割り振られると思うし。
「おっと、スカウトを先にするべきだと急いでいた。すまない。作戦内容は簡単。機動力のある俺とツバサで遊撃してポイントを稼いで、残りの2人のどちらかがリーダー兼司令塔だ。メイには協力な設置型の技があるし、レツトは再使用時間を考えなくていい道具がある。身を守りながら遊撃隊に指示していける」
「なるほど。究極の矛と盾を兼ね備えた作戦というわけか。単純ながら悪くないね」
「私もそう思うよ!」
翼もすごく活かしてもらえてるし、メイさん達の凄さも分かってる。レツトさんの実力はまだ分からないけど、作戦としてはとても良いものだ。
作戦内容が私たちにも伝わったところで、ユウキさんはレツトさんに最終確認する。
「こんな感じだけど、一緒に来てくれるか?」




