第9話 光の翼
「翼使い同士の戦いでやることと言えば決まってんだろ」
そんなことは初めて聞くけど、彼の言いたいことはよく分かった。
このまま様子見していたいところもあったけど、そのロマンも分かるし何より教えていただく身。私はヘイローさんの想いに応える必要があるだろう。
「それは失礼しました!」
私が氷の翼を展開すると、ヘイローさんは満足そうに笑みを浮かべた。
「そう、それでいい。お前が育てた翼の全開を見せてみろ!」
「言われずとも!」
ヘイローさんの望みに応えるべく私は飛び上がると、今度は気をつけなという忠告をヘイローさんはしてきた。
「その羽、当たるとただじゃすまないぜ」
ヘイローさんが言うと舞ってる羽が黄金に輝き出した。
「普通に近づかせてほしいんだけど!」
空中戦を望んだのはヘイローさんなのに、飛ばさないための攻撃を残しているとなると不平の一つも言いたくなる。
「ふはははな! これも空中戦なのだよ!」
……全く聞き耳持たなさそうだけど。
それはさておき、舞っている羽の対処をしますか。
私が翼を前方に向けてはためかせると、冷気が発生して羽たちが凍りついていく。
「早速ポイントを振ったってわけか」
ヘイローさんの考察通りだ。
育成方針は人によって変わるものだという話を聞いた私は、どうして氷の翼を選んだのかを思い出した。
美しかったから。ただそれだけだ。翼なら何でも良かった。能力に強い拘りがあるわけではなかった。
なら、どうすればいいか。
「持ってるものを活かすことにしたんだ」
このゲームを始めてずっと繰り返してきたこと。そうして今私は夢中になってる。
ならこれからも同じだ。
私は能力を強化したことで得た力を更に使っていく。私の前に一つの氷の塊が形作られていき、それをヘイローさんに向けて飛ばした。
「ハハッ、いいじゃねぇか」
対してヘイローさんは再び翼に黄金の輝きを灯し、そこからレーザーのようなものを氷の塊に向けて照射した。
それから続ける。
「だが、まだ足りてないな」
氷の塊とレーザーは相打ちで終わり、周囲に氷の塵が舞う。私はこのスキルの鍔迫り合いの結果はどうなっても構わなかった。
氷の塊に対応させることで、ヘイローさんの隙を誘ったのだから。そのおかげでヘイローさんとの距離がおよそ2メートルのところまで近づくことができていた。
「さて、何が足りてないのかな?」
私は問いかけながら翼を振るう。距離的には『翼撃』を打ち込んだ方がダメージは大きい。だけど、私はそうせずに計三発の『羽弾』を放った。
恐らくヘイローさんの翼は輝きを放っている時にのみ効力を発動する。もし仮にそうなら、『翼撃』が来るという場面でその計算を狂わせればダメージを与えることができる。
しかし、ヘイローさんはそれを予測していたのか最低限の左右への移動だけで、それらを回避した。これがゲーム経験の差だろうか。
「俺が言いたいのは、そういうことじゃないんだよなぁ」
私の表情から考えを読み取ったのか、そんな言葉が聞こえてきた。
そういうこと……? ゲームの経験量や読み合いとはまた別ということ?
「直ぐに分かる」
私が考えていると、その言葉と同時にヘイローさんは高度を上げていった。
そして翼を大きく広げると、これまで以上に強い輝きを放ち始めた。
「これは……」
コタロウさんとの戦いで最後にぶつけた大技と同じ光だ。
「くっ、させない!」
撃たせてはいけないと直感が語っていた。体当たりでも何でもいい。止めるためにヘイローさんに向かって急加速するが……。
「だが、足りない」
ヘイローさんが言ったその瞬間、私の翼がTP切れで消滅した。
「え?」
ヘイローさんは私より長く翼を展開しているはずだし、スキルも使っているのに、どうして私が先に翼を……?
サービス開始から時間もそんなに経っていないから、大きくTP消費を軽減させるスキルも考えにくい。
翼を失って仰向けで落下していく私を他所に、ヘイローさんは続ける。
「光の翼は煌めきの翼。一瞬の輝きが全てを焦がす」
そしてヘイローさんの姿がぶれた。
――やられる!
思わず目を瞑ってしまうが、私に攻撃が飛んでくることはなかった。
代わりに背中を支えられ、やたらとカッコつけた台詞と共にやんわりと地面に下ろして貰った。
「大丈夫ですか? お嬢さん」
本来ならお礼なり照れるなりする場面なんだろうけど、初めて会った時の変態っぷりや戦闘中に時折出てくる痛い台詞とのギャップがすごくて、吐き出しそうになるだけだ。
「ん……!」
「何かひどくないか?」
なんとか笑いを抑えて、降参の手続きをした。TP切れで勝ち目はないしね。
「私の負けです」
「……対戦ありがとうございました」
降参の処理が終了したところで、最初の転送時同様に光に包まれると、私たちは元の場所に戻っていた。
戻ったところで、ヘイローさんが聞いてくる。
「おつかれ。……何か戦いの中で気になったこととかはあったか?」
個人の育てた能力に関わることのため、少し聞きづらさもあるけど、折角の機会だから聞いてみることにした。
「ヘイローさんの翼、少し時間長くなかったですか?」
「ああ。それなんだが、ツバサも気がついていたんじゃないか? 輝いている間しか俺の翼は効果がないって」
攻撃のタイミングと防御のタイミングで毎回輝いていれば流石に予想できる。そういうものだと思っていたが、まさかこれがTP消費に影響を与えていたとでも言うのだろうか?
よっぽど私は分かりやすい顔をしていたのか、そのまさかだとヘイローさんは答えた。
「スキルの使用中のみしか実体化をしないように設定することで、普段の飛行中の消費TPを抑えていた。まあ特約みたいなもんだな。自身の氷の特性を伸ばしたのはいいが、それだけじゃなくて『翼』という能力の特性も、自分の使い方に合わせて変えていく必要がある」
そんな設定ができたことに感心すると同時に理解した。
「だから、足りないって言ってたんですね」
「そういうことだ」
話が一区切りついたところで、お疲れとメイさんが声をかけてきた。
「空中での戦い、他の超能力同士ではあまり見れないだろうし、短い時間でもとても楽しめたよ。それとさ、2人が戦っている間に、第1回イベントの告知が来たんだ」
「「第1回イベント!?」」
私とヘイローさんの声が揃う。一番最初ってだけで特別感が感じられる。できることなら参加したい。
コタロウさんがイベント内容について簡潔に教えてくれた。
「4人1組でチームを組んで、倒した人数が多いチームが優勝という分かりやすいルールでござる」
メイさんとチームを組むとしてあと2人どうしよう。内容を聞いてそんなことを考えていたら、目の前にすごい反応をしてる人がいた。
「チーム! つまりだ! 全員翼使いのチームを作って、上空を支配するということも可能なのでは!? そうとなったら決まりだ! ツバサ!」
私の両手を取ってくるけど、私の気持ちは決まっている。
「ごめんなさい。翼をアピールしたい想いは分かるけど、最初のイベントはメイさんとがいいなって」
「……! ボクもツバサと組むつもりだ」
メイさんもそう言ってくれるなんて!
ヘイローさんは見るからにショックを受けているけど、翼をアピールしたいことは私も同じだ。だから宣言してやった。
「翼使い同士で組めないのは残念だけど、イベントの中で翼使い同士での激闘を見せつけてやりましょう。そしてその時は私が勝ちます!」
「フッ、やってみろ!」
無事に再点火できたみたいだ。
イベントが楽しみになってきた。
今度こそ私が勝ちます!




