第1話 ゲームを始めます
「まさか、入手することができるなんて……!」
先日リリースされたばかりのオンラインVRゲーム、通称『PHYO』の世界にある少女が飛び立とうとしていた。
『PHYO』はある二点から異端なゲームとしてゲーマーの注目を集めたタイトルだ。
その理由の一つが、ゲームシステムである。
このゲームは超能力者同士での戦いをテーマとしている。テーマからして当然プレイヤー達は超能力を手にするわけだが、その得られる能力にはある制限があった。
得られる超能力は一人一つまで。
つまり、アカウントを変えたりしない限り、最初に選択した超能力と一生付き合っていくことになる
そしてもう一つの理由がその舞台。
VRオンラインゲームの舞台の大半は、未来世界か異世界に分類されるが、このゲームの舞台は現代。目新しさがないものだ。
それらの要素が、非現実を体験できることが醍醐味であるVRの良さを、とことん殺していたと思われたのだ。
そのため、前評判は相当酷いものであった。「一つまでの超能力では戦略が制限されて、単調なゲームになるのではないのか」「シミュレーションゲームならまだしも、対戦を売りにしたゲームで同じ時代を生きてどうしたいのか」といった多くの声が寄せられた。
しかし、抽選によって選ばれたテスター達から発信された情報によって、それらの声は覆されていくことになる。
超能力の育成は無数のパターンが確認され、あえて例えるなら全員がユニークスキルを持っているような状態に最終的には至っており、全員が自身の能力に愛着を抱いていた。
舞台についても現代と一言で言えばつまらないものであったが、一部エリアを除けば壊すも発展させるのも自由であり、自分たちのよく知る街を変えていくことに魅せられるようになっていた。
それらの情報によって、今では最も話題になっている作品の一つとなっており、競争率が非常に高い抽選に当選しないと入手することもできない。
そうしたことから、少女はゲームのパッケージをキラキラとした目でしばらく眺め続けていたが、眺めているだけでは折角入手できたゲームを始めることはできない。
しばらくしたところで、少女は鼻歌を歌いながらで機械の準備を始めていき、ゲームの起動に移っていった。
◇
ゲームを起動すると、私は真っ白な空間に浮かんでいた。
『ようこそ! 真っ白な空間に驚いたかもしれませんが、まずはキャラクターのデザインからしていきますよ!!』
女性の声による案内が耳に入ってきたところで、私の目の前には病人が着ているような服を着たマネキンが現れた。
なんだろうと眺めていると、案内さんが説明してくれる。
『それはこの世界であなたが使っていくアバターとなります。試しに手元のタブを操作してみてください』
案内さんの指示に従うために手元を見てみると、いくつかの項目が書かれたタブが浮いていた。
「髪に顔に肌の色に身長に体型と……なるほどなるほど」
試しに髪の項目を開いてみると、髪型と髪の色が選択できるようになっていた。適当に選択してみるとマネキンが選択したものも全く同じ髪型になっていた。
「おお、これはすごい!」
『フフッ、このように見ながら調整できるようになっています。あなたの好みに合わせて変えていってくださいね。ただ、注意事項としましては髪型や瞳の色については取り返しがつかないこともありますのでお気をつけください』
私の反応を見た案内さんは、声の調子からまるで微笑んでいるように感じられた。最近のAIはすごいなと思いつつも、まずはキャラクターのデザインを進めていく。
そうして完成した私のアバターは、肩にかからない程度の白い髪に白い肌と青い瞳、全体的に白いものとなっておりまるで氷の女王といった印象が感じられる。
体型についてはゲーム内での操作を考え、現実に合わせている。少し小柄なこともあって全体的に可愛らしいものとなった。
我ながら上出来だ。
デザインを終えたところで、案内さんに気になったことを聞いてみることにした。
「どうして病人が着るような服を着ているんですか?」
『それはある脅威に対抗するために、能力を植え付ける処置を受けたばかりだからです。そのため、病院で処置を受けたばかりの方のような服装となっています』
ストーリーに関わっていたものらしい。この辺りについては追って確認していくことにして、キャラクターの作成を再開することにした。
『それではいよいよ超能力をその身に宿します。これらから系統と属性を一つずつ選択してください』
案内さんが言うと、周囲にいくつものタブが現れた。
そこにはその能力の系統について書かれており、実際の使用例の画像もある。
例えば『身体強化』と書かれたところには、光を纏いながら残像を残して駆け抜けるキャラの画像が貼られていた。
『ここで選択する超能力は一生ついてくるものです。最初に選択したものをベースに、成長させていくこととなります。実際にこの場で試すこともできますよ。また、開始から30分以内についてのみは変更も受け付けます。それ以降の変更につきましては、アカウントの削除が必要となりますのでよろしくお願いします』
一人一人が育て上げた能力を売りにしているだけあって、個性を出すようにするためか再作成については少し厳しめである。よく考えて選択するべきなのだろうけど、私の心はすでに決まっていた。
「『翼』でお願いします!」
属性については少し迷ったが、マネキンに能力を発動した状態を投影してもらい、その結果から水色の美しい翼を得られる氷を選択した。
『本当によろしいのですか?』
あまりの即決に案内さんも不安そうに確認してくるが、私は飛ぶことができればそれで充分だ。
だから力強く頷いた。
「大丈夫です!」
『……かしこまりました。では、最後にあなたの名前を教えてください』
「ツバサです!」
『ツバサ様、これにてキャラクターのデザインは終了です! あなたの活躍を祈っております!』
案内さんがそう言うと白い世界が剥がれ落ちていき、私がよく知る都会の街並みが描き出されていく。
ゲームの始まりを感じた私は、思わず呟いていた。
「いよいよ飛べるんだ……!」