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物語探し

中学生の時に書いたやつ

みんなは知っていますか?魔女や魔法使いは、自分の持っている物語から魔法を紡いでいるということに。だから、自分の物語を持っていない魔女は魔法が使えません。


魔法の村に、小さな魔女が独りで暮らしていました。名前はナノ。ナノは自分の物語の無い魔女でした。周りに人がいないわけでも、みんなが嫌いなわけでも無いのに、ナノは独りでした。だから、ナノには物語がありませんでした。


「ヤーイ、箒にも乗れない弱虫ー」

箒に乗った男の子たちがナノをいじめます。使い魔たちが箒の上からナノを見下ろしています。

「ヒック、エッグ」

ナノは涙をこぼしました。落ちた涙が地面に吸い込まれて消えていきます。

この村で箒に乗れないのはナノだけです。ナノは今日使った箒を引きずりながら歩きました。


ナノは背中を丸めて家に帰りました。森の奥の小さな家。それがナノの家です。ナノは家に帰るとすぐに飛ぶ練習をしました。けれど、箒はピクリとも動きません。


ナノは寝るとき想いました。

――あっちのアイちゃんにはお花を綺麗に咲かせられる物語がある。

だからいつでも花を咲かす魔法が使える。

――向こうのタケノ君には速く泳げる物語がある。

だから魚みたいに泳げる魔法を使える。

――あそこのナオちゃんには皆の人気者っていう物語がある。

  だから皆を笑わせる魔法が使える。

――けど、私には何も無い。

  だから何の魔法も使えない。

物語を持っていないナノは魔法を使うことができません。魔法の杖も持っていなければ、皆みたいに使い魔を連れているわけでも、箒で空を飛ぶこともできません。けれど、ナノは確かに魔女でした。


魔法の使えないナノは、自分の物語を探すために旅に出ました。全く役に立たない箒と、旅に必要な物を詰め込んだ鞄を持って歩きました。

途中で、村を出る馬車に乗せてもらいました。

「嬢ちゃん、あんた魔女なのになんだって村を出たんだい?」

馬車のおじさんに、そう聞かれました。

「見たところ目が黒いし、魔法使えないようじゃないか」

魔女や魔法使いは生まれつき魔法を使えるわけではありません。自分の物語があって、初めて使えるものです。そして、魔法が使えるようになるともともと黒い目が金色になるのです。だから、馬車のおじさんもナノの周りにいる人たちも、目が金色です。けれど、ナノの目は黒でした。

「・・・探しに行くの。物語を」

唇をキュッと噛み言いました。

「そうかい。なら王都に行けばいい。あそこにはたくさんの存在がある。そいつらと関われば、いやでも物語が見つかるだろ」

「本当ですか?」

ナノはふっと嬉しくなりました。

「ああ、でも俺は次の町までしか行かないから、そこからは歩いて行かなきゃならん。それでもいいか?」

「はい」

それからナノは馬車に揺られて町まで行きました。ガタコトガタコト揺られて、いつの間にか町に着きました。

「じゃあな、嬢ちゃん。気を付けろよ。あとな、途中の森は暗いから気を付けろ」

「はい。ありがとうございました」

そう言ってナノは王都のほうへ歩き始めました。


地図を見ながらずっと歩きました。周りに何も無い殺風景な道です。風と、ナノの足音だけが聞こえます。そして、おじさんの言っていた森が見えてきました。


「こ、これが森」

ナノの声は震えて、頬はピクピクと引き攣ってしまっています。

無理もありません。その森は黒く色づき、空をも黒く染め上げようとしているようでした。そして、森の入り口に立て掛けてある古びた看板には――

「この森入るべからず」

と、黒い文字ではっきりと書いてありました。

「ここ入っちゃいけないって書いてあるけど、地図でもこの道だし、誰かのイタズラ?」

そう思い、ナノは躊躇いながらも森に入って行きました。

その時、ナノの目が金色に光りました。そしてそれは消えずにナノの目に溶けていきました。

実は看板には、今は消えてしまっていますが、この森の名前が書いてありました。

この森は水人の森 と。


「なんかすごく暗いな」

森に入ってから三十歩ほどで、入り口からの光が見えなくなりました。まるで、森が隠してしまったように。

ナノは一生懸命歩きました。森を抜ける道ではなく、さらに森の奥に向かう道を歩いてしまうほどに。

ここで不思議なのは、地図上ではここが一本道なこと、森を抜ける道が、森の奥に向かう道より細かったこと。そしてなにより――森を抜ける道を木が隠して、ナノが行ってしまった後に隠すのをやめたこと。


「何かどんどん森の奥に行ってる気がする」

ナノの不安そうな声。

それでもナノは、目の前に続く道を進みました。

そしていつしか夜になり、月の光が森を照らし出した頃、ナノの足が止まりました。

「疲れたな。ここで今日は寝よう」

ナノが道の隅に腰を下ろそうとした時、目の端に青白い光がよぎりました。

その光は、月の光をはねかえしているようでした。ナノは、光のほうへ歩きました。歩いていった先にあったのは、池でした。

「きれい」

いつの間にか呟いていました。それほどまでに、その光景は美しかったのです。

「あ、あっちじゃなくてここで寝よ」

そう言い、ナノは鞄から寝袋を出しスヤスヤと眠りました。


ハッ

ここは?森 私は?ナノ 何でここに?物語探しの途中

そこまできて、ようやくナノの頭は回り始めました。

「もう朝か」

空を見上げて言いました。

その時、目の前の水がスッと盛り上がりました。それを見たナノの体は、凍りついてしまったように動きません。

そして、水の中から出てきたのは――ナノより少し幼いくらいの女の子でした。

「驚かしてすまないね」

外見に似合わぬ口調で女の子が言いました。しかし、その女の子は水のように透けていて、色が無く、水が女の子の形をしているようでした。

「あ、え」

「そんなに驚かないでくれ」

少し寂しそうな顔で女の子は言いました。

「あ、あなた何」

ナノは、女の子に聞きました。女の子は驚いたような顔をし、すぐ笑顔になりました。

「私は水人のアマミだ。お前は?」

「あ、ナノ。ねえ、スイジンって水の人の水人?」

ナノは、水人のことを知っていました。綺麗な水に住む、水の人。この世で最も美しいとされる存在。それが水人でした。

「ああ、よく知っているな」

アマミはクスリと笑いながら言いました。

「水人ってめったに姿を見せないっていうけど、何で」「姿を現したのか、だろう?」

分かったように言いました。ナノは少しムッとしました。

「大した理由は無い。ただ暇だっただけだ」

「じゃあ、私がここに居るのって」

自分の中にある考えが正しいのか確かめるために聞きました。

「すまない、私がここに来るようにしたんだ。木を動かしたりしてな」

「木を動かす?」

ナノは自分の考えが正しかったのを差し置いて、「木を動かす」というのに心が引かれました。

「ああ、ここは水人である私の森。ここでは私が中心となって全てが回っている」

「そ、そうなんだ。ねえ水人ってアマミだけなの?」

ナノは周りを見て言いました。

「・・・ああ、長いこと雨が降らなくてな。私以外いなくなってしまった・・・せめて、雨が降れば」

寂しそうに言いました。そしてそれを打ち消すように言いました。

「ナノ、お前はどうしてこの森に入った」

鋭い眼に見つめられ、ナノは一瞬竦みました。けれどもすぐに自分の答えを言いました。

「王都に行くため。そのためにこの森に入ったの」

アマミはナノの答えを聞いて少し考えました。そして、クスリと笑い言いました。

「ナノ、お前は幸運だ」

「え?」

「お前も昨日見たはずだろ。この池に月の光が溜まるのを」

アマミは、まるでナノの行動が全て分かっているようでした。いえ、それは分かっているようではなく、分かっているのです。だってここは、水人の森なのですから。

「見たけど、それがどうして幸運なの?」

すると、アマミは得意そうに言いました。

「綺麗な水はな、繋がってるんだ。この池が繋がってるんじゃなくて、水という空間が繋がってるんだ」

「そうなんだ」

言っていることは理解できるのに、それがどう繋がっているのか分かりません。

「だからナノ、王都までまでは無理だが雨の村までなら行けるぞ」

「ホントッ?」

雨の村まで行けば、あともう少しで王都です。ナノの目が輝きます。

「ああ、この池の底まで行け。そうすれば行ける」

「わ、分かった」

ナノは躊躇いながらも池に入っていきました。そして、またナノの目が金色に光りました。ナノの目はキャラメルのような色になりました。

「バイバイ、アマミ。ありがとう」

ナノはアマミを見て言いました。そう言われると、アマミは照れたように笑いました。

「ああ、こちらこそ。久しぶりの客人で楽しかった。ありがとう」

そしてナノは、池の底まで泳ぎました。そして、そのまま潜っていました。


どれほど潜っていたでしょうか。ふいに光が近くなった気がして、上がろうとしました。

「プファッ」

水面が近かったのです。それを不思議に思ったナノは、水面を見ました。するとナノは池に浸かっていました。水人の森の池よりずっと小さな池に。

「ここは、雨の村?」

ザーザーと降る雨を見て呟きます。ナノは辺りを見回しました。すると、目の前に石畳があり、その先には神社がありました。ナノはとりあえずそこに行ってみることにしました。


「あのー、ごめんくださーい」

ナノはどこから入っていいのかわからず、とりあえず賽銭箱の前で声を張り上げていました。そして、何度目か分からない「ごめんください」でようやく人のいる気配が出てきました。ナノの背後から。

「何?」

「うひゃッ」

いきなり声をかけられて、ナノは悲鳴を上げてしまいました。

「自分から声をかけといてその反応は無いと思う」

「あ、ごめんなさい」

そう言ってナノは、ようやくその子をまともに見ました。その子は、深い緑色の雨合羽を着たナノと同じくらいの女の子でした。

「あの、あなたは」

「巫女。アマハラ」

「あ、私はナノ。えっと、ここは」

「雨の村」

アマハラはナノの質問に間髪入れずに答えました。

「王都に行きたいんでしょ?」

アマハラは、ナノが王都に行きたいといってないのにも関わらず、それを言いました。

「どうしてそれを」

「水が教えてくれた。水は繋がってるから」

アマハラはアマミと同じ事を言いました。そしてそっぽを向きました。もう話す気は無いようです。

「何で雨の日に外に出てるの?」

ナノは、とりあえず話を繋げようと聞きました。

「雨呼びだから。雨じゃないと出られない」

アマハラはそう答えました。しかし、ナノにはよく分かりませんでした。

分からなそうにしているナノに、アマハラが言い足しました。

「簡単に言えば、降水率百パーセントの雨女。私が雨以外の日に出ると雨が降る。だから出ない」

それで分かりました。アマハラは雨の日以外に出歩くと、自分以外の人に迷惑がかかると思っているのです。

「じゃあ、この雨は自然の雨なの?」

「そう」

ナノは少し、アマハラが可哀想になりました。雨がなくては駄目なときもあるのに。

「雨は大切だよ」

ナノは、アマツを思い言いました。すると、アマハラは俯き言いました。

「雨は降りすぎれば凶作も災害も招く。私が外に出るのは雨と雨呼びの時だけ。皆その方が良いって思ってる。私は雨呼び以外の時は必要ない」

「ちがうよ。私は水人のアマミっていう子を知ってる。その子は雨が欲しいって思ってる。だから、あなたはちゃんと必要とされる」

ナノは勢いだけで喋りました。するとアマハラはちょっぴり笑いました。

「お前はなぜ王都に行く」

少し明るくなった表情で聞きました。

「王都に行って、自分の物語を見つけるの」

「なぜ?」

ナノは胸を張って答えました。

「魔女だから。魔法を使えるようになるために行くの」

アマハラはナノのはっきりした答えを聞いて、優しく笑いました。

「その必要は無いと思う」

「え?」

ナノはアマハラが言ったことに驚きました。

「魔女は魔法が使えるようになると目が金色になる」

巫女だからでしょうか。アマハラは魔女のことを知っていました。

「そうだよ」

ナノがそう言うと、アマハラはナノがいた池に連れて行きました。

「覗いて」

そう言われて、ナノは雨の波紋で揺れる水面を覗きました。すると、

「な、なんでっ?」

ナノの目が金色に光っていたのです。

ナノは不思議でなりませんでした。王都に行ったわけでもないのに、自分の目が金色になっていることに。

「ナノ、王都に行かなくてもは色々なことを知った」

アマハラは静かに、ナノに伝えるために言いました。

「じゃあ、これが私の物語なの?」

「かもしれない」

アマハラはナノの金色になった目を真っ直ぐ見て言いました。

「私の物語」

ナノはそう呟いて、嬉しそうに、嬉しそうに小さく笑いました。

存在と関わって、その気持ちを知り、繋げていく。全てのものが繋がるように、繋がっている水。それがナノの物語、ナノの魔法。

「あなたの魔法は、きっと縁を繋げるものだと思う」

アマハラは呟くように言いました。


そして――ナノは生まれて初めての魔法を使いました。

まずは、この旅で出会った二人を繋ようと思いながら。


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