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拝啓、死望者ども  作者: 丈藤みのる
四月
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四月上旬・一

 ふ‐しん‐びょう【不信病】特定のもの、若しくは思いつく限りのものに対して信用できなくなる病気のこと。[類似語・同義語]不信。不信頼。[対義語]信用。信頼。


 し‐ぼう‐しゃ【死望病】様々なストレスから日々の生活に苦悩を抱き、やがて死を望むようになる病気。自覚症状がない、自殺念慮を彷彿とする言動が表面化しない場合がある。[類似語]精神癌。



【四月上旬】


 スマートフォンの目覚まし機能の音と共に、長いようで短い睡眠から覚醒するなり、数え切れないほど考えては再構築した二つの造語を思い浮かべる。数秒間その言葉を脳内で反芻してから上半身を起こし、眠気で霧がかかった頭の中を、首の骨を鳴らすことで無理矢理晴らす。


 大きな欠伸をして、寝惚け眼を擦り、見やったテーブル上の時計の針は午前七時を指していた。時間を確認して、僕はようやく布団から起き上がる。ふと何となく見た窓から差し込む日光が目に刺さる眩しさを放っていた。


 眩しさに目を瞬かせながら部屋の戸を開けて、廊下、居間を経由して台所に顔を出す。僕より一時間も二時間も早く起きていたのだろう祖母に挨拶を済ませて、起きた時から感じている尿意を解消しようと今度は別の廊下を歩いてトイレに籠る。用を足した後で、手洗いを兼ねて洗面所で顔を洗うのが僕の日課だった。


 洗面所の冷たい水で無理矢理眠気を追い払った僕は、顔をタオルで拭いて、寝癖の付いた長い髪の毛を最低限整えると、再び台所へ赴き、毎朝の日課である珈琲を淹れる。飲まないと日中間違いなく眠くなってしまうからだった。


 淹れ立ての珈琲をテーブルに置きながら席に座るなり、祖母が作ってくれた朝食に手を合わせて「いただきます」と静かに食べ始める。


 物を噛む音はなるべく立てないようにして食べる流儀だった。一度気になりだすと自分の音でも耳障りに思えてしまうからだった。我ながら神経質だと思う日々の繰り返しているうちに、いつからなのか食べているものの味が分からなくなり、「美味しい」と素直に口に出せなくなっていた。人間の三大欲求の一つである食事を楽しめない自分に、我ながら損な性格をしていると思った。自分の出す音すら耳障りに思えてしまうのだから他人の食べる音も例外ではなく、失礼な話、本音としてはヘッドホンを付けて食事を取りたかったが、祖母は咀嚼音をあまり出さない人だったので、耳を塞がずに済むから学校とかよりかは気楽に食事を摂ることができた。


 食事を食べ終えた僕は本日二度目の手合わせをして「ご馳走様でした」と呟き、食器を流し台に片付ける。まだ食事をしている祖母が「はい」と返事をしたのが分かった。僕は返事に返事をすることはせず、無言で頭を下げて、再び洗面所に移動する。


 洗面所の歯ブラシを手に取って歯磨き粉を付ける。それを口に含んだ僕は歯磨きをしながら居間に移動して、何も掛けられていない掘り炬燵に腰掛け、リモコンの電源ボタンを押してテレビを起動する。歯磨きを終えるまでの時間の目安と、家を出る時間を少しでも先延ばしにするためだった。惰性で起動したテレビのニュースバラエティー番組は「芸能人Aが不倫した」とか「某アイドルグループが五作連続で売り上げ一位を獲得」といった知っても知らなくても良いような報道に、「某市で殺人事件」や「政治家の汚職事件」などの胸糞悪い事件の報道ばかりだった。チャンネルを変えてみても、どの放送局も似たようなニュースしか流しておらず、どうせなら僕の趣味に合ったバンドを紹介するか、聴いているバンドが新曲もしくは武道館公演を発表したなどの報道をしてほしいと思った。我ながらとんだ暴論だと思う。


 終盤の料理コーナーを見終わった僕はテレビの電源を消して、歯磨きを終えるなり部屋に戻って制服に着替えた。スマートフォンとウォークマンをポケットに忍ばせ、ヘッドホンを首に掛けながら台所に向かう。昼食が入った弁当箱を取りに行くためだ。


 僕は自分の席に祖母製の弁当が置かれているのを見つけるなりそれを通学カバンに詰めて「行ってきます」と玄関へ赴いた。返事を前提としない一方的な「行ってきます」だったが、祖母は「行ってらっしゃい」と言う。言ってくれてしまう。


 僕は罪悪感に包まれながら、引き戸式の玄関を開けて家を出た。


 ◇


 外に出てみると朝独特の静けさが辺りを包んでいた。堂川町は郡岡市の郊外だから自動車の行き来が少ないのもあるだろうが。この聞こえるはずがない静寂音が耳には心地良くて僕は好きだった。


 僕はその静寂音を数秒間聞いた後に、ヘッドホンを耳に当ててそれを遮断して、ウォークマンの電源を入れる。その日のおまかせチャンネルの『朝のおすすめ曲』は俗に言うJポップだったが、何となく聞く気になれなかったので、結局何時ものように手動でラウドロックに変更した。英詞だから何て言っているのか分からなかったが、ボーカルの声と曲調が自分好みだったし、歌詞が良い事は何となく分かるので、別に日本語訳を調べようとは思わなかった。たまに聞き取れる英語が意味の分かるものだった場合、そこから自分なりに日本語に訳して歌詞を想像してみるためでもあるが、それは唯の建前に過ぎず、単純に調べるのが面倒なだけだった。僕は何故誰に喋るでもない建前を作っているのだろう。


 音楽を聞き流しながら自宅裏に回り、河川敷へと続く階段を昇る。天端道を歩きながら堤防下を見下ろしてみると、ここのところ東日本にも進行してくるようになった台風による氾濫を防止する為の強化材料が何種類か置かれていた。余程川の底が深くて危険なのか歩行者通路には『水遊びをしないで下さい』と警告を呼び掛ける看板が立てつけられていて、近所の子どもたちはそれを忠実に守っているのか川辺に人が入った痕跡はない。


 その川辺には名前の知れない草木が所々で好き勝手に生えていた。それらを見ている内に数日前の、小説のように実際にホームレス住宅が存在するのかと遠めに高架下を覗いてみたりしたがそれらしきものは一切見られず、その日の晩に『河川敷』で検索して調べてみると『ホームレスの居住施設は強制排除される』と記載されていた事を思い出した。調べた後に気付いたことだが、草木は高架下まで生い茂っていたので、その時点で家を造ることは不可能に等しかった。遥か遠くに見える歩行者通路横に植えられている桜並木は温暖化で時期がズレてる影響なのか既に花が散って葉桜と化していた。


 堂川町が郊外であることを含めても、市内でありながら自宅の周囲があまり騒がしくない且つ余計な建設が行われていないのは目の前の河川敷が大きく関係していた。工事を行えば河川敷に住む生物環境を破壊しかねず、実際に開発による埋め立てが原因で生物が住めない環境になってしまい、地元の人々からの激しいクレームで開発を中止したのだと中学生だった頃に亡くなった祖父が幼少期に教えてくれた。案外憶えているものだなと我ながら意外に思った。


 開発が中止されたその日から、地元の人々による数十年間という地道な清掃活動によって元の環境を取り戻した、嘗ての穢れを忘れた河川敷では、草花が春風に揺らされ、静かに揺蕩っている水は太陽の光を反射して煌めいていた。その輝きが、僕にはとても眩しく見えて、思わず視線を逸らしてしまう。個人的には、月の薄明かりに照らされた夜の河川敷の方が目にも優しいし、日本の文学小説に出てくるような趣があって好きだった。


 その人通りの少ない天端道を抜けて堂川町と郡岡市内を繋ぐ橋に差し掛かった途端、現在進行形で出勤中であろう自動車のエンジン音がヘッドホンと音楽を(つんざ)くって耳で小さな悲鳴を上げながら橋を渡って行った。エンジン音が響かない自動車の全国普及を切に願いながら目の前を通り過ぎた自動車に続いて橋を渡る。


 渡り終えた瞬間環境が一変し、一気に増加した自動車のエンジン音と雑踏の喧騒が僕を包み込んだ。余りの喧しさにウォークマンの音量を上げたくなったが、現在設定している音量以上にしてしまうと音楽の方が五月蠅くなりそうなので音量調節はしないで青信号の横断歩道を渡る。


 立ち止まって時間を確認すると七時三十八分。距離的にも朝のHRには十分間に合う時間だった。早く学校に行かなければならない理由も特になかったのでゆっくり歩こうかと思ったが、歩くテンポとリズムが食い違うと気持ち悪いのでいつも通りのリズムに合わせて歩くことにした。


 歩を進めながら視線が合わない程度に頭を上げて地面から周囲に視線を移してみると、辺りは色々な人たちで溢れていた。駅から歩いて来たと思わしきサラリーマン、逆に発車時間が迫っているのか焦った様子で腕時計を見ながら走って行く青年、子どもの手を引いてビルの中にある保育園に向かおうとする母親、杖を突いて歩く高齢者、自転車を漕ぐ人や僕と同じ学校の生徒だと思われる眼鏡をかけた女子高生と、多種多様な人々で通学路は賑わっていた。


 女子高生が振り向いて僕の方を見た。僕の視線を感じたのかも知れない。空を飛んでいる烏に気を取られたふりを装って顔を斜め後方に逸らすと、女子高生は何もなかったかのように再び前を向いて横断歩道を渡って行った。そこで初めて青信号と気付いて走り出すが、無情にも信号機は点滅を開始して、後一歩の所で赤信号へと姿を変えた。


 仕方なく立ち止まって、周りの人々を観察する。僕と同じく足を止めて次の機会を窺う者もいれば、自動車が走っていないのを良いことに「私は何も見えていません」とでもいうように平然と信号を無視して渡る者がいた。あのような愚者が世の中の子どもたちの認識を狂わすのだろうと思ったが、そんな僕も横断歩道までが遠くて人気のない場所では何食わぬ顔で横切ったりするから、奴等と何ら変わりのない愚者に違いなかった。


 愚者な僕は今立っている自動車が少ない十字路と、スピード違反と渋滞が常日頃の駅近くの十字路を通過して、学校へと続く街並みを歩く。


 ◇


 僕が先週から通っている高校は、二車線の道路に面するところに立地していた。


 校門付近まで歩いたところで、校庭が騒がしいのに気付いた。何事かと思って校門前に近付いてみると、上学年と思しき学生たちが校門を潜っていく新入生に声を掛けてはチラシを半分押し付ける形で配っていた。


 その様子から部活勧誘をしているのだと分かった。この学校では入学式の後に行われる新入生歓迎会の部活紹介とは別に四月二週目の平日五日間は朝のHR前まで校庭で部活勧誘を行うことになっていて、新入生は否応なく標的とされている。油断していると大量の勧誘チラシを持って教室に入ることになるから部活は早めに決めた方が良いと、担任の女教師がクラスに向かって忠告していたが、僕はそれを思い出して酷く憂鬱になった。


 そうなったのには、文武両道を掲げているこの学校では部活入部が強制である事と、三年間耐えられそうな部活が未だに見つかっていない事、しょっちゅう頭の中に思い浮かべている二つのワードが強く関係していた。


 僕は小学生から人間に対して『不信病』を患っていた。中学の頃、何となく病名を付けてみたのだが、今の現代社会なら実際にありそうだった。


 何故そうなってしまったかを具体的に遡るとすると、小学校から中学校卒業まで周囲から暴力に晒されていたからだった。


 事の発端は小学三年生。定規一センチ分でも周りとズレている人は存在そのものが絶対悪と見なされ、そいつを弾圧する奴が正義の味方として君臨するようなクラスだった。言うなれば、加虐者はクラスという町を守る警察官、被虐者は『周りとズレた』罪を犯した犯罪者とされる場所だった。


 結果、一年生当時から自由奔放で情緒不安定な言動が多く、会話の趣旨の受け取り方や一般的な思考が周りと違う『ズレていた』僕は真っ先に標的にされた。自分に原因があるのならはっきり言ってほしかったが、被虐者としては身体的・精神的苦痛に耐えるのに必死なので、自分に非があるか否かを聞く余裕なんて虐げられるようになった瞬間から皆無に等しかった。


 そういう言葉で凌辱される毎日を送っていたものだから『不信病』を発症するのに時間は掛からず、小学五年生からは『自殺願望』を抱くようになった。それ以降、毎日のように奴等の姿と自分への罵詈雑言が頭の中を掻き乱す。無限と思える幻聴は幼少期にアニメで見た、様々な音が綯い交ぜになったサーカスに似ていた。僕はこれを『クソったれのサーカス』と呼んでいる。


 中学時代には身内に対しても『不信病』の症状の一つ『人間恐怖病』を患ってしまった。両親に声を掛けられる度に罵倒されるかもしれないと被害妄想を膨らましては「ごめんなさい」と酷く怯えながら悲鳴に近い許しを乞うたりした。両親は「こいつどうした」と戸惑っただろう。もう取り返しは付かないが。


 そんな不登校にならなかったのを不思議に思えるほど残酷な日々を過ごしている内に僕は段々とストレスを溜めていき、とうとう気付いた時には自ら命を絶つ気力も失せた『死望病』を患っていた。詳しくは知らないが、現代社会で問題となっている鬱病に似ている気がする。


 詰まる所、これ以上人と関わらなければいけないのなら早いうちに死んでしまいたいというのが僕の心境だった。


 しかし、そんな些細な願いをも世界は無視するもんだから、僕は事故に遭うこともなくこうして高校の敷地内に二本足で立っている。全身を巻く透鎖に縛られながら『急がば回れ』の法則に則り、人と人との合間を針の糸のように縫いながら昇降口を目指している。隣の透明人間はいつ引き金を引いてくれるのだろう。


 人生の終幕を望めば望む程『無病息災』となる幸運を発揮してしまう自分に向かって「だったら何で小学生の時にその幸運を発揮して、虐めを回避しなかったんだ」と恨み言を内心で吐きながら部活探しに焦燥を覚えた、何故僕が辺獄に囚われなきゃいけないと嘆きたくなった時だった。


「おーい。ちみちみ。そこのちみ」


 僕は突然声を掛けられた。声を掛けてきたのは視界の端に映った女性だった。


 歩みを止めて立ち止まる。部活勧誘に捕まらないように移動していたものだから、他に誰かいるのかと辺りを見回すというありふれた行為をしてしまう。その人の顔は校舎の窓ガラスに反射された日光のカーテンで遮断されていて、眩しくて見えない。


「おーい。ちみちみ。そこでキョロついてるちみ」


 顔がはっきり見えない女性が、今度は具体的な僕の様子の説明を付け加えて再び話し掛けてくる。僕は自分が声を掛けられている事を確信し、最終確認で「僕のことですか?」と自分を指差しながら声の主に顔を向けた。その時になって初めて自分が出た空間が勧誘で躍起になっている各部活の待機テーブル前だと分かった。女性は、その待機テーブルと一緒に設置されている折り畳み式の鉄パイプ椅子に座っていたので、上級生なのは確実だった。


「そうそう。自分を指差している君」


 今度ははっきり「君」と言ったその人は、視線が合うなり僕に「こいこい」と中指と薬指で『指招き』をする。虫を払うような日本の仕草ではなく動物の顎を撫でるような外国風のものだった。


 僕は催眠を掛けられたのか、光に群がる虫のようにふらふらと近寄った。


 そして僕は、女性の全貌を見た。


 女性は長い睫毛の下で開かれた二重瞼の両眼で僕をじっと見据えていた。ウェーブの掛かった癖毛の混じった長い髪の毛をお嬢様結びで纏めていて、胸のポケットに装着されたナンバープレートには『Ⅲ』と表記されているから直ぐに三年生だと判別が付く。変態と思われたら嫌なので、確認が済むなり僕は視線を上げる。制服の素材上、男子生徒は襟元にナンバープレートを装着しているが、何故素材を統一しなかったのだろうと疑問に思ったが質問することはなかった入学初日を思い出した。


「あんた、顔暗いけど、部活、あんまり乗り気じゃない?」


 近付くなり、やたらと二人称を変えるその人にずばりと図星を突かれた僕は、自分の心臓が後ろに一歩引いたのを感じた。どうも見ず知らずの赤の他人であるこの人でも感じ取れるくらい気が滅入っていたらしい。そんな自分を認めるのも癪だったが、わざわざ嘘を吐いてまで避ける理由もないし、事実には変わりないので、僕は黙って相手が気付くかどうかの角度で小さく首を縦に振った。


「人、苦手?」


 初対面でありながら臆せず訊いてくる女性の言葉は実際に的を射ていて逃げ場がなかった。なのに、それほど苦痛だとは感じない。


 僕はまた一つ、今度は分かりやすいように大きく頷く。悩み相談をした担任の先生や親に急所を突かれた時は呼吸困難に似た息苦しさを味わうのが常だったのに、この人の問いかけでは不思議と息は詰まらなかった。


「そうか~…」


 女性は、興味があるんだかないんだか判別しづらい独り言のような返事をして、数秒間考えるような仕草をした後に、言った。


「じゃあ、うちの部に入らない? 少人数の文化部だし、顧問の先生も休みの日は読書派だから静かだし、叱るより諭す派の人だからお勧めだよ」


 大人数での集団行動を、世界でも十本の指に入ると断言できるほど酷く嫌っている僕にとって、少人数で活動している部活というのは願ってもない存在だった。大所帯のところだと、何度注意されても私語が四方八方から飛び交うものだから五月蠅くて余計なストレスを感じてしまうし、教師が「五月蠅い‼」と怒り形相で怒鳴り込んでくるのではないかという畏怖があるから尚更だった。学校というのは、幾ら自分がルールを守っていても、誰かが問題を起こせば連帯責任になるから説教は逃れようがないし、怒られると恐怖のあまり『蛇に睨まれた蛙』になってしまうどころか、嘔吐感を催して耳を傾けるどころじゃなくなってしまうので、熱血系の先生じゃないのも嬉しい情報だった。


 そこまで考えたところで、女性が言う文化部が何部なのかを知らないことに気付く。彼女が部活紹介用に置いたと思わしきプリントを見てみると『文芸部』と書かれていた。


「文芸部、ですか…」


 僕がそう言うと、女性は「あっ。見てなかったのね」と小さく呟いて、また質問してきた。


「ところで君、文芸部って聞くとどんなイメージ湧く?」


 瞬時に頭に浮かんできた文芸部のイメージを、僕はありのままに伝える。


「…毎日下校時間まで読書するか、本読む度に読書感想文とか書いてる気がします」


「ところがどっこい。うちの文芸部、基本的にゃ読書コンクール以外で感想文は強制しないし、結構時間の融通も利くんだよ。なんなら、部室でテスト勉強だって出来ちゃう。期間限定だけど」


 もし彼女がセールスマンならぬセールスウーマンになったら、間違いなく宣伝部のエースになっているだろう。そう想像してしまう程、僕は彼女が発する言葉たちに魅了されていた。文武両道必須の高校生活を過ごす上で、これほどの好待遇な部活はない。今この好機を逃したらもう先はない。僕は完全に文芸部の虜になっていた。


「あの…」


「ん?」


 僕の声に反応した彼女と視線が合う。こうなってしまったら、もう後には引けない。


「今日、最終日ですけど、見学大丈夫ですか?」


 自ら行動したら地獄を見る『刷り込み』をされた僕が自ら行動を起こしたのは、実に三年ぶりだった。

個人で書いていたものを投稿してみることにしました。お気に召しましたら評価・ブックマーク共々宜しくお願い致します。

投稿は毎週火・金曜日予定です。

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