なんて選本だよっ…
処女作となります。
投稿の仕組みなど不慣れなので手直しが入ります。
荘厳な図書館の中で俺は呆けて見ていた。
白髪の老人が涙と嗚咽を垂らし、感謝して本を受け取る姿を。
老人が受け取った本を開くと光に包まれ、あっという間に姿は消えていた。
これが受付人から聞いた帰還儀式らしい…
「あの様に帰還することになります。よろしいですか?」
「あ?ああ…」
目の前の事に信じられず、俺はちょっと冗談を言ってみた。
「実は魔法かなんかで光らせて人は穴に落としてるとか?」
受付人の表情が少しこわばる。
「そんなことはありません。 あなたも自分の本が見つかれば元の世界に還れるのですよ」
元の世界…そういや、ここは異世界だったんだなと元の世界を思い出した…
「ったく…これで何件目だよ…」
イライラしながら車に乗り込んだ。
こんなにも新刊が置いてないなんてな…選本してるヤツって相当、バカなんじゃね?」
もうかれこれ10件以上本屋を巡ってる。
それも2日前に発売された本を買うためだ。
田舎は2日もしないと新刊が並べられない。
今日がその2日後なのだ。
だが、どの本屋にも無い。
注文なんてナンセンスだ。
本との出会いは一期一会、本屋で出会った本が人生をも変えることがあると俺は信じている。
次の本屋に着くと本棚をにらむ。
出版社別に分けられてる棚をぐるっと一回り…そこからコミック最新刊コーナーへ…
ここでも何度目かのため息が出た。
何でないんだ?見落としか?夢か?幻か?
さらに何度もラノベとコミックのコーナーを回る。
この店にも無いんだなと思うとさらにため息が…
帰ろうと棚を右に曲がった時だった。
世界が一変した。
周りが石造りの狭い通路になった。
こった作りだなぁと感心しながら歩く。
しばらくすると人が一人もいないことに気がついた。
レジも店員も他の客も本棚も消えていた。
あるのは無機質な石で作られた壁、壁、壁、壁…
「ダンジョンっていうものか…」
独り言を言いながら元来た道を引き返す。
先ほど曲がった場所を左に曲がれば戻れるはずと冷静に曲がってみた。
同じ石でできた空間がそこに広がっていた。
そこからあまり覚えていない。
力の限り、声の限り、叫んで出口を探して人を呼んで…
気がついたら牢屋の中だった。
人間ってありもしない事って最初は信じないものなのな…
引き返してみれば、必ず戻れるとか…自信満々に行動して…
それができないと解るやパニックに陥る。
それが俺だった。
後から聞いた話だと、ダンジョンで奇声を発して走り回っていたらしい…
記憶が無いって本当に怖い。
それが異世界のダンジョンならなおの事。
保護されても奇声を発して牢屋にぶち込まれた。
その後に受付人だと名乗る女性にあれやこれやを質問され、説明を受けた。
だが、信じられないというと、白髪のシワだらけの老人が涙と鼻水を流して有難がって本を受け取り、本を開いて光の中に消えていく…それを今、見せつけられた訳だ。
「今、帰還された方々は長年、国に尽くしてくれた方々です。 恩赦で選本を受け取り元の世界に還っていただいたのです」
「実はあの老人たちはアンデットで、光のかなたに消え去ったとかは…?」
「ありえません。 元の世界へ帰還されました」
「あなたの選本は発見され次第、国によって買い上げられ、図書館に大事に保管されます。あなたはご自身の選本を買い取ることができます。 あなたはあなたの選本が発見され次第、税金を納めねばなりません。 あなたはあなたの選本が… 」
「頼むからゆっくり言ってくれ。 矢継ぎ早に話されても理解できん」
「では、後でハウツー本を差し上げましょう」
受付人と取調室に戻ると書類を書かされた。
選本された本と言うのはこちらに来た時に脳に直接、叩き込まれるそうだ。
脳に直接ってどんなやばいやつだよと思いながら書き進めていく。
これを書いておかないと自身の選本が見つかった時に本の名前が解らず、給付金が下りないそうだ。
給付金と言うのはこの世界での身支度金で、身の振り方を考えている間の資金。
本はダンジョンでドロップされるため、手に入れるには冒険者にならなければならない。
冒険者にならない――この世界に定住するには仕事を見つけなければならない。
そのための金だ…そうだ。
どんな世界でも金を稼ぐ手段は必要で、使うことは必須で税を納めることは最重要らしい…ああ、ニートになりたい…
仕事をしたくないという顔をしていると本が差し出された。
これがハウツー本らしい…
「この本に私が伝えようとしたことが全部書いてあります。 よく読んでおいてください」
「全て?」
「全てです」
「テンプレなんだな…」
俺に説明しようとした内容が全て本の中にあってそれを述べているだけなんだと、悪態をついてみた。
「テンプレですよ、糞長い文章なんてテンプレでやった方が楽です」
この女…言いやがったよ…
「1か月に一回、ここに顔を出してください。 給付金が払い出されます。 給付金は一年だけです」
「そういや、あんたの名前を聞いてなかったな。 なんていうんだい?」
「私の名前は『ミザリー』といいます」
俺は猟奇的な女性を名前から思い出した。
掲載は不定期になります。
もし、続きが読みたい方がいらっしゃいましたら…お待ちください。