研究所での謎の計画
「誰だおっさん!?」
武装した生徒たちの中のリーダー格らしき少年が、勢いよく怒鳴りつけてきた。
さすがに豪族の子息が多いというだけあって、生徒たちの装備はよいものなのだが、その中でもひときわ目立つ重装鎧の少年だ。
生意気を絵に描いたような顔をしている。
「タカヒコ君、君たちの先輩にあたるムル君だよ」
ミチオ先生が立ち上がって、生徒たちにムルを紹介した。
「ムルって誰だよミチオ!知らねーよ!」
「ムル君は、東方方面軍軍団長なのだよ」
(いや、違うけどな…)
ムルは苦笑しながら前に出た。
ムルは軍団長ではなく、そのはるかに格下である部隊長である。
しかし、これだけ派手に紹介されてしまうと、訂正するのも恥ずかしい。
生徒たちも、ムルが軍団長ではないことに気づいているようだ。
「嘘だろ。なんの軍団長だよ。村人軍団か?そっちのやつは泣いてるぞ!」
タカヒコと生徒たちは、ムルたちをバカにして笑っている。
それもそうだろう。
部隊長としては装備がいいムルだが、軍団長ほどではない。
そして、両隣に控えているのは村人っぽい軽装の二人なのだ。
豪族の子息たちなので、そのくらいの見分けがつくのである。
すると、オオナムチが一歩前に出た。
「人を見た目で判断するものじゃないな」
オオナムチが軽く威圧すると、タカヒコは気圧されて下がった。
「なんだよ!?村人のくせに俺らに逆らうのか?」
「やめとけ!オオナムチ」
ムルが制止すると、タカヒコの顔色が変わった。
「オオナムチって?鬼神を配下にしたオオナムチさんっすか!?」
「ん?鬼神ってミナのこと?」
タカヒコや生徒たちの態度がガラリと変わった。
「おい、本物だよ!」
「鬼神を呼び捨てって、どんだけ大鬼なんだよ」
「サルダヒコ元帥と引き分けたあのオオナムチさんかよ?」
「海人族の船団を一人で殲滅したって聞いたぞ」
「イナバ国の大将軍を一騎打ちで倒したらしいな」
「イナバ国といえばアレだろ。あのヤガミ姫と婚約したんだよな」
「たしかにイケメンだわ」
オオナムチの噂は、この町にも届いていたのだ。
生徒たちは整列して、かしこまっている。
「オオナムチさん、すいませんっした!自分、オオナムチさんを尊敬してるっす」
タカヒコはキラキラした目でオオナムチに言った。
「え?ああ、そうなの?」
「ムルさんでしたか?オオナムチさんの仲間なんすよね?失礼なこと言ってすいませんっした!」
「わかればいいんだよ」
タカヒコの変わり身に、さすがのムルも苦笑している。
この妙な空気を変えようと、テマ山のことを聞いてみることにした。
「ああ、そうだ。ミチオ先生。俺たちは調べ物をしてるんだけど、聞いてもいいか?」
「いいとも。ムルくんなにかね?」
「俺たちは、テマ山の調査に来ている。最近なにか変わったことはないか?」
「わたしはとくにないが、みなさんは何かありますか?」
ミチオ先生は、生徒たちに聞いた。
「おい!おまえら、何か知らないか?オオナムチさんに協力しろや!」
タカヒコが生徒たちに言うと、一人の生徒がオオナムチの前に出てきた。
「うちの親がテマ山の研究所で働いていますけど、最近おかしいです」
「詳しく聞くことはできるかな?」
「いいですよ。ちょうど家にいるので、来ますか?」
「じゃあ頼むよ」
オオナムチたちは、生徒の一人に連れられて、研究所で働いているという人に話を聞きに行くことになった。
生徒の父親は、三ヶ月前に研究所に入ったらしいのだが、ここ一ヶ月は休んで家に閉じこもっているらしい。
何かに怯えているようなのだが、家族にも話してくれないということだった。
「軍の者に話すことなどない。帰ってくれないか?」
家に着いて話を聞こうとしたが、研究所で働いているその男は、ムルが軍の者だと聞いて動揺し、怯えて何も語ろうとしない。
(かなり怯えているな…)
オオナムチは心を読もうとしたが、強い警戒で心を閉ざしている。
しかし、軍に怯えているだけでなく、研究所にも強い嫌悪感を持っていることはわかった。
そこで、聞き方を変えてみることにした。
「わたしたちは山の神の依頼で、このテマ山の調査に来たのです。研究所でなにかよからぬことが行われているのではないですか?」
「そ、それは…。あなたたちは軍の者ではないのか?」
山の神の名を聞いて、男の態度があきらかに変わった。そこで、オオナムチはさらに問いただした。
「あなたが休んでいるのは、そのよからぬことに反対しているからではないのですか?話していただければ、協力できることがあると思います」
「わかった。とりあえず家に入ってくれ」
家に入ると、男は堰が切れたように早口でしゃべりはじめた。
本当は、抱えている悩みを誰かに話したかったのだろう。
男の話によると、テマ山山頂にある研究所は、軍が作った施設らしい。
最初は、古代の神殿跡地を使って、地霊や神霊の研究をしていたそうだ。
それは悪霊を鎮め、地力を高めるための研究であり、一定の成果は出ていたという。
しかし、新しく来た女所長が指揮するようになって、研究内容が変わってきたのだという。
現在、研究所で行われている赤猪計画は、軍の依頼している研究からは、かけ離れたものになっていて、今は軍からも不審に思われているらしい。
「あれは悪魔の計画なのです」
男は頭をかきむしりながら苦悩の表情で続けた。
「赤猪計画とは、地霊を操って地脈を暴走させて、テマ山の噴火によって、このテマの町を滅ぼすという研究なのです。わたしはおそろしい…」
男はそこまで一気にしゃべると、水を飲んで震えている。
「その女所長は、なぜそんなことをしようとしているのですか?」
オオナムチは不思議に思って聞いてみた。
イズモ国の研究所が、国内の町であるテマ町を滅ぼそうとするのは、どういう目的や意味があるのか、まったく考えつかなかったからだ。
「わかりません。わからないからおそろしいのです。あの女…所長は狂っている」
「その女所長に会うことはできますか?」
「わかりません。わたしにはわかりません…」
男は怯えきってしまい、それ以上どうにもならないようなので、オオナムチたちは、自分たちだけで研究所に行ってみることにした。
もちろん、どうにかなるだろうという楽観的観測である。
「ま、行ってみよう」
オオナムチたちはテマ山山頂の研究所に向かった。




