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建国神話オオナムチ 181人の子を産ませた王の物語  作者: 荒神神楽
第二章 イナバの国のヤガミ姫
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その名はヤギ

「オオナムチ、王城で求婚の受付があるらしいから行くぞ!」


「え?ムルさん、俺も行くの?」


 キョトンとするオオナムチ。


「俺の荷物預けてるだろ。イナバ王になったらよくしてやるから、従者らしく着いてこいよ」


 オオナムチの万宝袋まんぽうぶくろには、ムルがヤガミ姫に贈るための貢物が入っているのだ。

 そして、ムルは、すでにヤガミ姫と結婚してイナバ王になったつもりでいた。

 昨夜はルウを襲おうとしたのに、今はヤガミ姫のことしか頭にない。

 こんなだからムルはゲスと呼ばれるのだ。


「僕たちはどうしておけばいいですか?」


 ナオヤが心細そうにムルに聞いた。


「フン、そこのブスとメシでも食ってろや」


「誰がブスよ!死にたいの?」


「オラ!メシ代だ拾え!」


 ムルはナオヤとルウに金を投げつけて逃走した。

 おそろしく最低な男である。


「あのクズ、絶対に殺す!」


 激しい怒りに震えながらも、お金はしっかりと拾うちゃっかり者のルウ。


「まあいいわ。ナオヤくん、食事にしましょ」


「はい」


 ルウとナオヤは食事をしながら、ムルとオオナムチが帰るのを待つことにした。



「さすがにデカイ町だな。まあオウの町ほどじゃないけどな」


「オウの町って?」


「イズモ国の首都だ。都会なんてもんじゃねーぞ」


「へえ、いつか行ってみたいな」


「オオナムチは無理だろ。おまえは反イズモ国の村の村長だろうが」


「あ、そっか。村長やめるかな」


「軽いなおまえ…てか、そうだ!あれが必要だあれが!」


「あれって?」


「荷車だよ!」


 王城で衆人環視の中、万宝袋まんぽうぶくろから大量の木箱や袋に入った貢物を出すわけにはいかない。

 万宝袋まんぽうぶくろの存在は秘密だからだ。

 先に万宝袋まんぽうぶくろから貢物を出して、それを積み込んで運ぶための荷車が必要なのだ。


「荷車ならあるよ」


「マジか?その袋にか?」


「うん」


 オオナムチとムルは、人に見られないように路地裏に入った。

 そして、万宝袋まんぽうぶくろから荷車を取り出した。


「おい、荷車でかくないか?」


「そうかな?普通でしょ」


 山のオオヤマツミに育てられたオオナムチの普通は、普通ではない。

 さすが巨神の荷車である。

 通常の荷車の3倍は大きい。

 路地をふさぐほどの大きさだ。


「じゃあ、荷物を出すね」


 そして、万宝袋まんぽうぶくろから木箱や袋を出すと、ムルが入念に中身をチェックしている。

 すると、薄汚れた銅の剣が混ざっているのに気づいた。


「そういえばルウに剣を探してやるって約束してたな。あいつにはこれでいいだろ」


「これはさすがにないんじゃない?」


「あいつにはガラクタがちょうどいいんだよ!持っておいてくれ!」


 ムルは悪い笑顔で、オオナムチにみすぼらしい剣を渡した。

 自分になびかない女には積極的にいやがらせをする。

 ムルは最低の男なのだ。


 貢物を満載した巨大な荷車をオオナムチが引いて歩く。

 山が動いているようで、かなり目立っている。


「オオナムチ、おまえは俺の従者役だからな。礼儀正しく落ち着いた態度で俺の後ろを歩け。俺に恥をかかせるんじゃねーぞ!」


「わかったよ。ムルさん」


 オオナムチは、ムルを応援していた。

 ムルは最低のゲス野郎だが、目的のために集中して必死に取り組む姿はすがすがしいほどである。

 見習える部分はあると考えていた。

 オオナムチは性善説でお人好しなのだ。


 王城の受付に着くと、国と名を聞かれた。


「イズモ国のムルだ」


「イズモ国のムギさん?」


「ムギじゃねーよ!イズモ国のムル!」


「シジミ国のネギさん?」


「そんな味噌汁みたいな名前のやついるかよ!イズモ国のムル!」


「落ち着いてよヤギさん」


「誰が動物だよ!いつ俺が草食ってたよ!?」


「それでは受付が終わりました。午後にお越しください」


「今のでちゃんと受付できたのかよ!?」


 大量の貢物は、荷車ごと受付で預かるということだった。


 ヤガミ姫への求婚の義は、午後から行われるということで、ムルとオオナムチは、一旦、宿に帰ることにした。


「緊張するわ」


 さすがのムルも緊張している。


「ムルさんなら大丈夫だよ」


「本当か?」


「俺も応援するから」


 宿に戻ると、ルウとナオヤも食事から帰ってきたところだった。


「次はあたしの番ね。オオナムチくん、お願いしていいかな?」


「なにを?」


「イナバ国王に会いに行くのに、従者役をしてほしいの」


「いいよ」


「あんたたちも数合わせについてきなさいよ」


「はい」


 ナオヤは命令されてうれしそうにしている。


「なんで俺まで行くんだよ?」


「クズは顔が隠れる兜にしなさい。ブサイクのクズだから」


 あまりの言われようだが、ムルは昨夜の暴力への恐怖が体に染み付いていて、逆らうことができなかった。


 今度はルウを先頭に、王城に向かうのだった。

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