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建国神話オオナムチ 181人の子を産ませた王の物語  作者: 荒神神楽
第二章 イナバの国のヤガミ姫
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酒場の噂はあなどれない

「とりあえず宿を探すぞ」


 厳しい尋問じんもんから解放されたムルは、そのストレスを発散するかのように大きな声で言った。

 すでに夕方であたりは薄暗くなっていたし、町に入るための取り調べで疲れていたので、みんなその意見に賛成だった。


 宿はすぐに見つかった。

 ヤガミの町は、ヤガミ姫に求婚する者や、一目見たいという観光客が多く訪れるので、宿屋や飲食店、酒場、土産物屋みやげものやなどの観光業が多いのだ。


「あんたが言い出しっぺなんだから、全員の宿代を払いなさいよクズ!」


「わかってますよ!」


 金に汚いムルがあっさりと了承したことに、オオナムチは驚いていた。

 もちろんムルには狙いがある。

 ルウに聞かれないように店主を呼んで小声で、オオナムチとナオヤは馬小屋の片隅でいいからできるだけ安く、ムルとルウは鍵付きの同室にしてくれと予約したのだ。

 ケチなムルが金を使うとき、それは消費ではなく投資であり、なんらかの狙いがあるのだ。

 ムルはみんなに気づかれないように顔を伏せながら、ゲスな笑いをこらえきれないでいた。


「酒場で情報収集だ」


 宿屋の予約が終わり、食事と情報収集のために酒場に行くことになった。


 赤い顔をした酔っぱらいたちを避けながら雑踏ざっとうを歩く。

 オオナムチやナオヤは、繁華街がはじめてなので、あからさまにキョロキョロしている。

 村には無いものばかりだし、歩いている人たちもさまざまな服装だ。

 東方から来たであろう毛皮の服を来た男や、炭で汚れた山人たち、質素な服を来た農民、雑多な町では、オオナムチたちも目立たないで済んでいた。


 まずは地元民から町の情報を得るために、観光客が多そうな表通りの大きな酒場は避けて、少しはずれたところにある、そこそこの規模の酒場に入った。


「いらっしゃい」


 店員の声とともに、店内にいる客の視線が一斉に集まった。

 しばらくじろじろと見られたが、案内された席にオオナムチたちが座る頃には、その興味も無くなったようだった。


「これが酒場かぁ」


 オオナムチはドキドキしていた。

 店内には30人ほどの客がいた。

 丸いテーブルが8つとカウンターがあり、それぞれのテーブルに2〜6人が座って酒と食事を楽しんでいる。


「酒を4つ。それとツマミを適当に出してくれ。がっつりしたものがいいな」


 ムルが手慣れたように注文をした。


「そういえばおまえら飲めるのか?」


 オオナムチはザルだった。

 山の神オオヤマツミは酒の神であり、ものすごく強い酒を飲まされて育ったので、人が飲む程度の酒ではまったく酔わない。

 ナオヤは泣き上戸のようで、しくしくと泣いている。

 ルウは酔ったフリをして、オオナムチに寄りかかっていた。

 ムルは酔ったルウを横目で見ながら、ゲスな夜のことを考えてニヤニヤと悪い顔をしていた。


 すると、隣のテーブルの会話が聞こえてきた。


「そういやおまえ知ってるか?」


「なにをだよ?」


「オオナムチってやつが、この町に来てるらしいぞ」


「誰だよそれは?」


「俺は知ってるぞ。イズモ国と対立する村の首領で、雷神と風神を殺し鬼神を配下にしたという、とんでもない化物ばけものだろ?」

 

「ブホッ」


 オオナムチはあまりのことに吹き出した。

 こんなところまで噂がまわっているのか。

 訂正しようと思ったが、情報収集のために黙っておけとムルに止められたので、さらに聞き耳を立てた。


「海神の槍で鬼神を屈服させたんだろ?」


「鬼道の炎で町を焼き払ったらしいな」


「イズモ国の破邪の剣、サルダヒコ元帥と四日間戦った末に引き分けたらしいぞ」


「オキ王ゴジム配下の近衛兵を壊滅させて、海人族の船団を一人で沈めたってな」


 そして、噂には尾ひれが付きまくっていた。

 ミナがやったことまで、オオナムチのせいにされている。

 訂正したいが、ムルが黙って聞いていろと念を押してきた。


「それと、イズモ国を裏切った部隊長も一緒らしいな」


(俺も噂になっているのか?)

 ムルが、自分のことかと耳を寄せている。


「そいつもおそろしいやつなのか?」


「いや、雑魚でカスらしい」


 怒って立ち上がろうとするムルを、今度はオオナムチが止めることになった。


「なんて名前だったっけな?…えーと、輸送部隊長のム…なんだっけか?あ、輸送部隊長のムギだ!」


「ムギじゃねーよ!」


 立ち上がるムルを慌てて抑えて座らせる。


「あ、ムギじゃなかったか…ネギ!?」


「むしろ離れてるじゃねーかよ!」


 オオナムチがムルを止めるため慌てて声をかける。


「落ち着いてネギさん!」


「だからネギじゃねーよ!」


 そんな感じでドタバタだったが、名前を隠したまま隣のテーブルの地元民たちと仲良くなり、いくつかの情報を手に入れることができた。


 そのうち重要なものとしては、以下のものだろうか。


『ヤガミ姫への求婚の受付日は月に2回だが、ちょうど明日がその日である』

『イナバ国は稲場いなばであり稲作が主要産業だが、治水に苦労している』


 地元民たちと最後の乾杯をして店を出る。


「飲んだぞ〜〜〜!」


 ムルは泥酔して千鳥足である。


「酔っちゃったみたい」


 ルウは酔ったフリをして、オオナムチに近付こうとしているが、オオナムチは逃げ腰である。

 ナオヤは泣いている。


 宿屋に着くと、ムルはルウを呼んで耳打ちした。


「オオナムチと一緒の部屋にしておきましたぜ!ささ、お風呂に入って部屋に行けばオオナムチが待ってますぜ!」


「え?クズのくせにやるじゃない!」


 ルウは喜んでスキップしながら風呂に向かった。


「おい、おまえらは馬小屋な」


 神域の山育ちのオオナムチと貧乏な未開の村育ちのナオヤは、むしろそのほうが落ち着くのでありがたかった。


 ムルは部屋に入り、ルウが来るのを待ち構えていた。

 さまざまな妄想を繰り広げて、下卑げびた笑いを浮かべている。


「オオナムチくん、入っていい?」


 風呂上がりのルウがドキドキしながら部屋に入ると、そこにいたのはゲス顔全開のムルだった。


「あ、あんた…なんのつもりなの?」


「オオナムチです」


「はぁ!?死にたいの死ぬの?」


 次の瞬間、夜の宿屋にムルの悲鳴が響き渡り、翌朝、宿屋の外で瀕死のムルが発見されたのだった。

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