一章五話 『暗闇』
今回は多少の、いえ少し、いや凄い、いや物凄いグロテスク表現が含まれていますので15歳未満の方もしくは心臓の弱い方、もしくは見たくない方は見ないことをオススメします。
「んぅ…」
目が覚めると暗かった。一瞬まだ夜なのかとも思ったがそうではない。ただ何も見えない暗闇に自分がぽつんと立っていた。地面の感覚がないのに落ちているという落下感もない。なんと言うか浮いているという状態が一番しっくりくる。
「こ、ここは?」
暗い、どこまでも暗いこの空間、なんだろう"懐かしい"という感覚が一番分かりやすい例えだ。このまま落ちて行けたら楽だろうな…そんな風にさえ考えさせてしまうほど暗い空間。しかし不意に目の前に人らしきものが現れた。いや生えてきた?
「だ、誰?」
「アナタは…」
喋った?いや聞いたことがあるこの声、まるで一言一言にノイズが走っているようなこの声。これもまた"懐かしい"と感じさせる。誰の声なのか、思いだそうとしても頭の奥がチリチリと焼けるように痛くて思いだせない。
「くぅ…認識阻害?それとも記憶封印?」
「チガウよ…オモイだせないダケ…」
思い出せない?違うそんなことはない。大事な、大事な約束の記憶、みんなで…
「み…んな…?」
「ダレ?ミンナ?…………………………ミンナ…タベチャッタ」
「えっ…?たべ…ちゃ……っ…た…?」
食べた?違うそんな事してない!私は!私はただ"みんな"を守って………守って………どうしたんだっけ?あの子……あれ?あの子って誰?
「オイシソウ?」
「違う!私は!」
「タベタイ?」
「そんな事しない!」
「ジャぁ…ナンデたべチャッタの?」
「いっ!?嫌っ!違う!」
「『槍ツカイ』ノコも『魔法ツカイ』ノコも『オヒメサマ』もミンナ美味カッタね!」
「あ、あぁあ!あぁぁぁぁ!」
あの時の記憶が蘇る。真っ赤に染まった『槍使い』の子、彼女の左腕と首から上は存在しない。そしてその首から股の間を抜けて彼女の愛用していた槍が突き刺さり案山子のように地面に立っている。『お姫様』は『魔法使い』の子がしていた錫杖が目から後頭部を貫き木に突き刺さり宙にぶら下がっている。右腕が肩から右脇腹に掛けて食いちぎられたかの様に無くなっており、先程殺されたばかりだからだろう未だに血が溢れ出ている。そして足元を見ると『魔法使い』の子を踏んでいる、『魔法使い』の子はまだ死んではいないが両足が変な方向に曲がっている。『魔法使い』の子は怒りの形相で叫んでいる。
「貴女は!返せ!貴女のせいで!くそぉぉ!」
「***********!*******♪」
「貴女…なんで……」
「**、*****?******?」
「そ、それは!貴女を守っ………ぐぅ…っ!」
自分がなんて言っているかは分からないけど。『魔法使い』の子は凄く驚いている。何か言おうとしたが自分は足を頭から首に移動させ強めに踏んで黙らせた。どんどん顔が青ざめて行く、窒息しているのだろう。"やめて!やめて!"と必死に叫ぶが身体は意思に反して動かない。
「かはっ!?げほっ!?貴女はそんな事をする人ではなかったのに!何故!どうしてこ…がっ!ぐっ!?……」
何かを言いそうになると自分は首を強めに踏んで黙らせる。何が言いたいかは分からないが自分が聞きたく無いことなのだろう?何故自分はこんなに酷い事が出来るのか。私の願望?ここまで鮮明に?違う、これは、実際に自分がやったこと?そんな事はしていない。そんな事をするはずがない。そう思いたいのに感覚が覚えているように震える。こんな拷問みたいなことを。
「いっそ…でも…あの子には。貴女は絶対報いを受ける!その子を殺さ…がっ…うぅ…」
自分は…彼女を…そ、そんな事…記憶には。でもこれは自分の記憶?忘れた?感覚が覚えている?でもこれは自分じゃない自分?私が知らない自分?
「がっ…くっ……ぜっ…だい……ゆ…るざ…だい……」
「**?*****!*****♪」
どんどん踏む力が強くなっていく"やめて!"と心で叫ぶが自分は止まらない。顔が青ざめていき血の流れが無くなって言っているようだ。『魔法使い』の子は泡を吹き初め死ぬ寸前の様だ。しかし自分は急に踏んでいる力を弱めた。私の"やめて"という行動が届いたかのように。
ーに、逃げてー
不意に言葉が出た気がした。『魔法使い』の子は一瞬驚いたが優しく笑った、次の瞬間自分が『魔法使い』の子の頭を踏み抜いた。
「あ、あぁ…そ、そんな……」
周りの地面や木、石や岩には脳漿や血が飛び散っている。まるでスイカが弾けたように。まだ指先や曲がった足が痙攣している酷い状態だ。そして私は何をとち狂ったかのように落ちている目玉を口にした。
「えっ………」
思考が止まった。私は何をした?今何を口に入れた?プチっと潰れる音と共に溢れ出した液体を飲み込んだ…違う…何で?何でどうして?私は………………………仲間を食べたんだ。それを理解すると共に自我を手放した。
「あ、あぁぁぁァァァァぁァぁァ!!!!!!」
「コワレちゃっタ?ダイジョぶ。アナタは最初カラ……」
それ以降の言葉はノイズに掻き消され、私は暗闇に意識を呑み込まれた。