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王様と幼女

 朝だ! 遅刻だ!

 もちろん、普段から遅刻などしないように、枕元には目覚まし時計を置いている。

 しかし、部屋を埋め尽くしている草が懐に抱いてしまったため、時計は行方不明になってしまった。

 

 その代わりに、草が毎日のように起こしてくれる。

 だが、残念なことに時間の概念がいまいちなようで、このような遅刻は茶飯事だ。


 

 異世界から持ち帰った草には知性があるらしく、私の言葉を理解している。

 実に賢い草だ。

 そこからこいつに名前を付けよう。かしこそ……いや、聡明草だ!

 

 下から読んでも上から読んでも、聡・明・草。

 我ながら、神懸り的ネーミングセンスに驚いてしまう。


 聡明草に学生服と鞄を用意してもらい、いざ学校へ!


 

 だが、やってしまった! 

 急に走ったものだから、腸が活発に躍動をはじめた。

 こ、このままでは、天下の往来で噴出鬼没の怪異が……。



 全筋力を括約筋に集め、固く門を閉ざす。

 まだ、気力はある。これなら、小走り程度ぐらい!




 甘かった……刺激が、振動が、揺りかごとなって腸を揺らす。

 とはいえ、この程度はいつものこと。

 冷静に出口を収縮して、学校へとたどり着いた。



 愛用している男子トイレに駆け込み、ジャンプ。そこから三回転!

 するわけがない!

 したら、辺りにまき散らしてしまう!


 

 そっと、トイレの扉を開けた先には、またもや草原が……。

「って、なんだここは!?」


 扉の先には便器もなく、草原もない。

 あるのは大理石でできた床と柱。そして、絢爛な飾り付け。

 さながら、王宮の広間といったところだろうか。


 

 こんなところに飛ばされるとは、どうすれば?

 草原であれば、茂みでできる。

 ざっと見渡しても、広間に茂みはない。


 しかし、このような場所ならトイレを探せばぁぁぁああああ、おおおお、お腹が……。


 限界だ。

 もう、柱の影にでもするしか……だが、人の家に勝手に上がり込んで、柱に粗相するとは人のやることではないっ!



 やることではないが……門は濁流によって押し流されそうとしている。

 


「くっ。もう、駄目だ。解放しよう」

 下を解放すれば、地獄から解放される。

 しかし、その後には新たな地獄がやってくる。

 わかっているが、すまない!


 ズボンのベルトを緩め、柱の影へ目を向ける。

「ぬっ? 人がいる?」

 柱の傍から、十歳にもならないであろう、耳がとんがった妖精のように愛らしい容姿をした銀髪幼女が私をジッと見ていた。


 なんてこったい! こんな幼女の前で、尻を丸出しにするわけにはいかない。

 しかし、このままでは!


 私は腹を押さえて、ゆっくりと体を沈めていく。

 すると、幼女が私に向かい手招きをした。


「まさか、君は!?」

 幼女の手招きに、終末の炎が降り立たぬよう、すり足で着いていく。

 幼女は立ち止まり、目の前にある扉を指差した。

 私は一縷の望みをかけて、扉を開ける。


「やはり、そうか……ありがとう、ありがとう」


 扉の先にあった物は、見慣れた愛しの君。しかも、トイレットペーパー完備。

 至れり尽くせりだ!

 

 私は便器にまたがると、幼女に危ないから離れていろと振る舞った。

 幼女は駆け足で立ち去っていく。


 よし、これで何の憂いもなく、イケる!

 扉を閉め、開門!

 

「しゅおおおおおおぅっ。のふふふふうふ、おうおうおう、こぉぉぉぉっぉ!! お~いえ」


 フッ、あまりの噴出力で目線が三センチ高くなったぜ。



 全てを出し尽くし、綿毛のように身を軽くした私は、スキップを踏みながら広間へ戻る。



 しかし、広間には扉は無く、代わりに武装した兵士たちが待ち受けていた。

 槍で尻を突かれ、王の居る間へと連れて行かれる――あまり尻を刺激すると、死ぬぞ、貴様たち。



 玉座に座る、トランプの王様みたいな爺さんの前に立たされ、兵士の一人が私にネックレスをかけてきた。

 青い宝玉の付いたネックレスを手に取り観察していると、王が声を掛けてくる。



「ワシの言葉がわかるか?」

「ん? ああ、わかる。なるほど、ネックレスは翻訳機みたいなものか」

「理解できているようだな。ならば、早速問おう。異界の破壊者『滅ぼし屋』よ、何を目的として我が城に侵入した」


「私は、うんこをしに来ただけだ」


「……我らを馬鹿にするか!?」

「バカになどしていない。たしか勝手にトイレを借りたのはすまないと思っている。しかし、丁寧に使っているし、壊してもいない。なのに、破壊者とは。破壊したのは私のお腹ぐらいだぞ!」


 私の言葉に、周囲はガヤガヤと騒ぎ始める。

 うんこをすることがそれほど重罪なのか? 

 まったく、話の通らん連中だ。


 

 私がどうしたものかと腕を組み頭を悩ませる。すると、王の端にひょこりとトイレまで案内してくれた幼女が現れた。

 幼女は王の耳元で、何やらコソコソと伝える。

 伝えを聞いた王は大きく目を見開いた。



「なんとっ!? この男、本当に用を足すためだけに、我が王宮へ!」

「理解してくれたか。明日には広間に扉が現れるはずだ。そうすれば、すぐに立ち去る。まぁ、騒ぎ立てたのは謝罪しよう。申し訳なかった」


「いや、我らも確認が曖昧でありながら、(やいば)を向けた非礼がある。今、我らは強大な敵と戦っておってな。それで神経が過敏になっておる」

「強大な敵? それが異界の破壊者、滅ぼし屋とかいうやつか?」


「ああ。世界を破壊しては、新たな世界へ渡り、破壊する。厄介な奴だ」

「そうか、大変だな」


「おっと、おぬしには関係ない話だったか。明日には広間に扉が現れると言っていたな。部屋を用意しよう。明日まで休むといい」

「ありがとう。感謝する」

 

 口添えをしてくれた幼女にも、礼を述べる。

「ありがとう、君のおかげで二度も助かった」

 幼女は無言で小さくこくりと頷いた。

 トイレの案内の腕前といい、かなりできた子だ。


 

 誤解は解け、宿も得た。

 あとは、扉が再び現れるまで待つだけだ。



 次の日、広間にトイレの扉が現れた。

 別れの間際に、王がある警告を口にする。


「扉を魔導師に調べさせたが、扉には強力な力が宿っており、おぬしの体と深く繋がっているそうだ」

「つまり、今後も私は色んな世界に飛ばされると?」

「ああ、そういうことだ。なので、異種族と会話可能なネックレスを持っていくがいい。誤解の謝罪を込めて、おぬしに送ろう」

「それはありがたい」


 王とその隣に立っている幼女に手を振って、別れの挨拶を済まし、扉を開け自分の世界に戻ってきた。


 

 首には翻訳機能付きネックレス。

 今回も夢ではなかったというわけだ。



 私はトイレのドアをドンと叩く。

「貴様は何がしたい。私はただ、うんこをさせてもらいたいだけなのに……」

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