はじまりの草原
「は、腹が……」
学校の廊下を腹に刺激を与えぬように気をつけながら小走りで進み、男子トイレの扉を開いて大の便器へダイブ!
のはずが、トイレの扉を開けると草原が広がっていた。
どこまでも広がる緑の絨毯……なんて言ってる場合じゃない!
奴らは出口まで迫っているのだ!
意味はわからないけど、とりあえず用を済ます!
ざっと見、誰もいない。
近くの茂みへゴー。
「うぉぉぉぉお、ふぅ~。うぉうぉ、うおぉぉぉぉぉぉ~!! うおぅ、おふ~」
フッ、勢いで地面を抉ってしまうところだったぜ。
よし、早速お尻を綺麗に――――しまった、紙がない!!
ポケットを弄ってもない! 塵一つない!
追い詰められた私の目の前には、茂みのはっぱが……。
手に取ろうとしたが、毒があるかもしれない。
毒草を敏感な穴に塗ればどうなることか!
よくわからない世界でお尻丸出しで死んでしまうかもっ!?
残る手段は一つ。
パンツを犠牲にするしか。
だが、残りの授業はあと三時限。その間、ノーパンプレイは耐えられない!
「クッ、どうする、私?」
究極の選択を迫られる――そこにせせらぎが耳へ届く。
「川っ!?」
せせらぎへ顔を向けると、やはり小川が!?
「ウォ、ウ〇シュレットだ~!!」
ブツを踏まぬように気をつけて、うんこ座りの状態でえっちらほっちらと移動する。
歩きにくい、ズボンが邪魔で……そうだ、こんなものはいらない!
周囲には誰もいない。
ということは、気兼ねなど必要ないということ!
早速、ズボンとパンツを脱ぐ。
青々と生い茂る草原に解き放たれた野生。
そよ風は我を揺らし、心地よし!
束縛から解放された私は小川へとあっさり到着。
小川は浅く、水は綺麗で清潔そう。
「飲んでも大丈夫そうだな。まぁ、私は尻を洗いに来たんだが」
早速、小川の傍で屈み、右手で水をすくい下のお口へ……。
「ふぅ、終わった、全て終わった。今の私なら全てを許せる」
悟りの境地へと至った私は下流へ視線を移す。
もし、誰かが洗濯をしていたり、うら若き乙女が水浴びをしていたり、鍋に水を汲んでいたら、申し訳ない!
しかし、済んでしまったことは嘆いても仕方ない。忘れよう。
「ふむ、洗ったはいいが、尻の周りがべちょべちょで気持ち悪い。おや、あの岩は?」
小川の傍に大きめの岩が転がっていた。
そいつによじ登り、うつ伏せになって、への字の格好を取り、尻を太陽へ掲げた。
これなら太陽の熱とそよぐ風により、尻は早く乾くだろう。紫外線で消毒にもなるしな!
つまり、一石二鳥というわけだ。
一息入れたところで、周りの風景に意識を向けた。
正面には草原。ところどころに茂み。
風は一定間隔で同じ方向に吹いている。
尻側には小川。
大岩の上には、尻を太陽に捧げた私。
なんてことはない風景だが、どこか違和感……。
草や風に川。これら全てに、自然独特の活力を感じない。
どこか寒々として、緑に満ち溢れながらも殺風景な感覚。
例えるなら、キャンバスに描かれた絵の世界。
しかし、尻には太陽の暖かさをたしかに感じている。
ほんのりと暖かい日差しは眠気を誘う。
おやすみなさい……。
――――――
「なに、夜だと!?」
寝すぎた! 太陽がでっかい満月に変わっている。
私は急いでパンツとズボンを装着して、文明人として草原にあるトイレの扉へと向かった。
しかし、そこには扉がない!
「そんな、どうやって帰れば……仕方ない、明日になったら考えよう」
そんなわけで、私は寝た。
――――――
太陽が昇り、目が覚める。
草原にはトイレの扉が現れていた。
急いで扉に飛び込む。
その先にある光景は、いつもの学校のトイレ……。
「戻ってきたのか?」
後ろには草原はなく、愛しき便器が鎮座している。
夢、だったのだろうか?
そうだ、夢に違いないと納得しようとしたのだが、ズボンに妙なものがくっついていることに気づいた。
それを手に取って観察してみる……どうやら、吸盤の付いた植物の種ようだ。
「なんの種だ? 家に帰ったら植木鉢に植えてみるか」
持ち帰り、種を自分の部屋にある植木鉢に植える。
すると、一瞬のうちに家じゅうが草塗れになった。
これでは生活できないと思い、植物と交渉を試みる。
植物はなかなか話のわかるやつで、私の部屋だけで繁殖するということで落ち着いた。
めでたしだな。