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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人追憶
95/107

変貌再び

タイトルの通り。

やあ、こんにちは。普通の人間の女の子。

もう回復させても大丈夫だろう。


代償をもらうときが来たんだよ。

本当に、いいんだね? よく聞いておいで。

もう引き返せなくなるよ・・・。



ーー

これは、これは何・・・。

朝起きて、あたしは足元を見て呆然とした。


なんで、なんでこんなことが・・・。



横になっていたはずのカーペットは遥か下方。あたしの足から5メートルは離れている。立っている状態の、あたしの足から。

あたしの手も、足も、どこにも触れてはいない。


あたしは空中に、浮いているんだ・・・。



下方で寝ているハールド。目線に近い小さな開口部。頭上にすぐある天窓。

見えるものが、いつもと違う景色が信じられなくて、あたしは何度も目を擦った。

そんなわけない、そんなわけない・・・。


でも、天窓に届く手が、踏みしめられない足がすべてを物語っていた。

あいつとの取引の通り、あたしは・・・()()()()()()()()()()になってしまったんだ。



ーー

◇◇

朝、塔を出て建築の三階に上ってみれば。


「夕莉・・・」

信じられなかった。目に写る景色が、宙に浮く少女が。


「どうしたのだ、それは・・・」

「」

夕莉は口をパクパクさせて何か言っている。聞き取れない。


「き、聞こえないぞ」

まさか口まできけなくなったのかとライオネルは気が気ではなくなった。



「あ・の・ね!!」

声が届いた。見れば、彼女は口周りを手で囲っている。普通に聞こえるが、本人は叫んでいるらしい。

「朝起きたらこうなっていたの!! 信じてもらえるか分からないけど、これは取引の結果で・・・!!」


彼女は夢の中で起きたことを語った。突拍子もない話ではあったが疑う気にはなれなかった。

(そんな・・・そんなことが)

夕莉は回復の代償に、こうなることを選んだのだ。誰も経験したことのない変貌を。



「降りられないか、がん、、、ばってみたん、、、だけど!!! なんか、、上手く、、、動けなくって!!」

「いい、無理をするな!! しゃべらなくてよい!!」

咳き込みながら説明する夕莉を制止する。もう、苦しそうな声を聞きたくない。



ふと、床を見るとベッドで眠るハールドが目に入った。彼もまた、苦悶に顔をゆがめている。

「・・・しばし、ここにいよう」

何もできないのは分かっている。だが、このまま彼女を一人にしておくことも、ハールドから目をそらすこともできない。するべきではない。


(向き合ってこなかった、その結果だ)

拳を握る。爪が食い込んで鈍い痛みを覚えた。



ーー

あれから4時間がたったが、夕莉の定位置はほぼ変わらなかった。せいぜい1メートルほど下まで降りてくることができただけで、相変わらず満足に会話もできない。手も届かない。


階下まで降りてくることができないため移動も困難だった。開口部から出ようかと彼女は言ったが、ライオネルはそれを押しとどめ無理をするなと呼びかけた。

食事も自分が塔まで走って取りに行き、彼女に投げ与える役を担った。


触れ合うことができなかったが、それでもライオネルは夕莉から離れなかった。横になることもできず、苦しそうにしている彼女を放置するなどあり得ない。



叫びながら話すたびに咳を繰り返す彼女の姿が見ていて痛々しかった。そして未だ彼女の顔に蔓延る茶色にも苛立ちを覚えていた。

(回復していないではないか。その取引相手とやら、いい加減なことを抜かしたのではあるまいな)


気になってつい問い詰めると、彼女は苦しそうにしながらも説明してくれた。

「落ち、、、着いた、、、環境で、、、寝ていること、、、、そこまでして、、、取引かん、、、りょうだって、、、」

「・・・っ」

それを聞いて迷った。いや、迷わない。



星のことも、国賓としての役目ももうどうでもよかった。

彼女にここまでさせたのだ。安静をすぐにでももたらしてやりたい。

高所にベッドを作らせよう。


・・・フリージー軍に。



◇◇

ライオネルが戻ってこない。

朝、夕莉の姿を見に行くと言ってからずっと帰ってこない。

(昨日の夕方に見に行った時はすぐに戻ってきたのにな。・・・これは、なにかあったな)

夕莉とハールドの容態が悪化したのだろうか。ならば、好都合だ。


あの王子様?もついに弱音を吐き始めるかもしれない。

そうすれば、もうフリージー軍のものだ。



クリスティナローラに言ったことは決してハッタリではない。


エイザクは本来ならメガネなど必要ない。

それなのにかけている理由。それは。


メガネのつるからは微弱な電波が出ている。

この電波は並の通信技術ではキャッチされない。勿論木星人にも。一方でフリージー星軍は常にエイザクの、異邦人の居所を掴むことができるのである。


よって、その気になればさっさと異邦人を迎えに降り立つことができる。護衛艦に守られながら、彼らを無事にペルミネまで送り届けることができるだろう。


ただ、今すぐにそれをしない理由はもちろんある。

フリージー星がただ国賓を助けただけでは意味がない。「協力を要請する(だから助けて)」と国賓に宣言してもらわなくてはならない。よってその言質だけは取るよう指示されていた。それが自分が国賓にもぐりこんだ最大の理由でもある。


エイザクはきょろきょろと辺りを見当たす。いない。国賓の誰かの近くにはりついているのだろうか。フリージー星とグリーン星の科学者の共同開発品。何処に行ったかは分からないが。、あのネズミは多分随時盗聴モードに入っているはずだ。・・・ただ、木星人の基地以来姿を見てはいないのだが。


まあ、同じことだ。

眼鏡のつるの盗聴機能とネズミ。どちらでもいい。

この生活も、言質をキャッチするまでだ。



そしてついに、その時がやってきた。



ーー

◇◇

「フリージー軍に迎えに来てほしい」


夕莉とハールド以外の全員を塔に集め、ついにライオネルは言った。



「・・・こういうわけで、ハールドは相変わらずの不調。夕莉は苦しそうだが満足に眠ることすらできないでいる」

ここまで言って、ライオネルは目を閉じぐっと拳を握りしめた。

「夕莉も、ハールドも、あのままにしておけない。すぐにでもフリージー軍を頼りたい」

だから、頼む。彼はそう言って頭を下げた。


ここまで苦労を共にした仲間のためだ。そして自分からの心を込めた頼みだ。クリスティナローラもガルフォンもきっと納得してくれる。断るはずがない。

そう思っていたのに。



「殿下、見損ないましたわ」

クリスティナローラは一言、彼の願いをばっさりと切り捨てた。

「クリスティナローラ、何処へっ」

「貴方には関係ないことです」

足音高く、塔から立ち去っていく。


次いで、何も言わずに退席しようとしたガルフォンをライオネルは押しとどめた。

「夕莉達が苦しんでいるのだ、だからっ」

「分かったよ。フリージー軍を頼ればいい」

そして死んだ目のまま、彼は続ける。


「でも僕は行かない。この北大陸に残るから」


ーー

あれから、クリスティナローラもガルフォンも戻ってこない。


「遠くには行ってませんよ」

エイザク以外でただ一人残ったイチアールがぽつりと呟いた。



ライオネルは藍色の目の少年に向き直った。してやったりといった様子をにじませていて腹が立つ。だが、怒っている場合ではない。

「私の決断は変わらない。だが迎えはまだ・・・呼ぶな」

フリージー星を頼ることで星を裏切ってしまう無念。それはよく分かるのだ。

悔しいであろう、受け入れられないであろう。クリスティナローラは特に。


「しばし時間を置く。明日の朝には、二人も頭が冷えているだろう。その時に改めて説得する。もうそれ以上は・・・延ばさない」

「はいはい」



ライオネルはイチアールを見た。

「フリージー星は敵対しているのだったな。そなたにも迷惑をかける。すまない」

「別にいいんですよ。そんなふうに思わないでくださいな」

むしろ、いつ切り出そうか悩んでたんですよ。そう言ってイチアールは笑った。


「フリージー軍は、イチアールに危害を加えまいな?」

「さあ」

「エイザク!!」

「もし仮にそうだったとしても」

イチアールはいきり立ちかけたライオネルを押しとどめた。


「ライオネルさんが守ってくれれば大丈夫ですよ」

「はは、そうだったな」


年少の仲間を守れず、国賓仲間を説得することもできない。フリージー星を頼るしかない。

だが、そんな自分でもまだ仲間の為に何かをしたい。そう思える。


無力だが、それでも確かにその思いだけは手放してはいない。

ライオネルは確かめるように爪痕のついた手のひらを見つめ続けた。

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