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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人追憶
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少年の代償 貧民街のタルトク

今回からしばし過去回です。残酷な世界観をお見せするのでご注意ください。

幼少から、両親と会話したことなどほとんどなかった。


抱きしめられたことはおろか、触れられたことすらほとんどない。

名前ー付けていたのかどうか不明だが、ハールドのことは「おい」とか「お前」とか「あんた」と呼んでいた。そう呼ぶのさえも必要最低限の時でしかなく、大抵はこちらを見ると不快そうにしっしっと手を振った。幼少期のハールドの居場所は部屋の隅だった。

食事は両親の食べかすしかもらえなかった。ひどいときにはなにもなく、「お腹すいた」と訴えても無視されるか頬をぶたれた。

夜になると両親は部屋の隅でうずくまるハールドに背を向け、地面に散らばる黒光りする丸い金属を奪い合っていた。



成長するにつれハールドは親を、ただそこにいるだけのどうやら自分を生んだ存在らしい、ととらえるようになった。

自然と両親への感情は冷めたし、こちらからも最低限話しかけないようになった。こんな人間には頼らず、自分だけの力で生きていくべきだと心に決めた。


そう決意してから、彼は社会における自分の立ち位置も少しずつ理解するようになる。



「貧民街のタルトクが来たぞ!」

ある日、両親の銅貨を盗んで市場に行くと道行く一人の男が大声で怒鳴った。すると女子供は逃げまどい、店という店から頑強な男たちがこん棒片手に現れた。

「タルトクの分際で市民の市場を利用できると思ってんのか!!」

「お前らはどぶ掃除や死体の片づけでもやってろ!!」

ハールドは捕まって殴られる前に逃げた。足の速さには自信があり、なんとか貧民街に逃げ込んで事なきを得た。



タルトク。それがハールドの身分だった。

ハールドの星には四段階の身分制度があり、ハールドら貧民街の住人はその身分制度のさらに下の賤民とされた。


触れることも、見ることさえも穢れとされる。ただたださげすまれ人間以下の扱いを受けた。

上の四身分が使用可能な公共の場に立ち寄ることすら許されなかった。街道も人目を忍んで通らねばならず、安住の地は橋の下や路地裏くらいだった。


タルトクはまともな商売につくこともできない。必然的に彼らは貧民街に追いやられ極貧の生活を送っていた。運のいい者は汚物処理人、洗濯人、死体処理人等の労働者になりそこそこ安定した日銭を手に入れることができた。しかしあぶれたものは盗みに走るしかなった。



ハールドのいた貧民街にも職を得られなかった者はいた。盗もうとするスリやコソ泥、汚物にまみれた手で銅貨を死守する労働者の攻防はそんじょそこらで繰り広げられた。路地は日常的に暴力にあふれ、血だまりや腐臭、死体が日々更新された。


一度、ハールドの親もコソ泥に有り金をごっそり取られたことがある。二人は垢まみれの手で髪の毛を搔きむしって喚き、たまたま居合わせたハールドをひどく殴りつけた。

後日また再犯らしいコソ泥がやってきた際、両親は待ち伏せをして二人でそいつを殺した。しかし、家の前を通りがかった死体処理人に強引に仕事を依頼させられ、コソ泥の袖の中の小銭をほとんどとられてしまったらしい。夜には、「あいつも殺しとけば」「いや強そうだった」「せっかくの儲けが」「まだ値切れたほう」と微睡み前のハールドの耳に入ってきた。



それ以来、ハールドは日中は家に帰らないようになった。両親の暴力を恐れただけでなく、質の悪い貧民街の住人に鉢合わせるリスクを減らすためである。住人という仲間意識などあろうはずがない、子供でも容赦する人間たちでは決してない。うっ憤を晴らすために殴られ、明日には骸となっているかもしれない。


外に出ている間に彼は食べ物を手に入れた。両親とは別行動で一人で、である。

一応、ハールドの両親は何かしらの職には就いているらしい。両親の生業を参考にしようかと思ったが、まだ幼い彼にはそれが何なのかよくわからなかったし、両親も彼にわざわざ教える気などないようだったのでハールドは自分で糧を見つけることにしたのだ。



街道に腰を下ろした市民。重そうな荷物を無防備に脇に置く。

ハールドは気配を殺し物陰から様子を窺う。隙を見て荷物を抱え何処とも知れぬ場所に走り去った。背後の怒鳴り声が聞こえなくなるところまで来てから、彼はやっと獲物の物色を始めるのだった。


パンや果物等はその場で食べた。布は重宝する。よく分からない紙切れはそこらへんに放り捨てた。硬貨はもって帰らず地面に埋めて、時々掘り起こしては貧民街の残飯屋で飯を買い一人で食べた。


当然だがいつもこのようにうまくいくとは限らず、獲物を同業者に奪われたり市民に反撃されたりもする。その日は空腹に痛む腹を抱え「明日こそ」と眠りにつくのだった。



盗むことが当たり前だった。それしか知らなかった。

生きていくのに必死でそれ以上のことを望みすらしなかった。食べること、無事に明日を迎えることに執着した。


自分が生きることでいっぱいいっぱいの日々。言い換えれば自分中心の生活。

盗めば達成感を覚え食べれば満たされた。思わぬ儲けがあった日には、自分は世界一幸運だと満足ししばしの愉悦に浸ることができた。



このころのハールドにどうして数年後の未来を想像できただろう。

あれほどの、あれほどの


「空っぽ」を知ることになろうとは。

ここで読者の皆様に連絡をさせていただきます。


最近、作者の体調不良・多忙が続いたことにより執筆状況が思わしくありません。

焦って書いて駄作になることだけは避けたいと思い、かなり悩みましたが次回より隔週投稿を中断させていただきます。11月~2月半ばまでは、月一投稿をお許しください。


最終話までのプロット自体は完成しており、あとは全力で走り抜けるだけです。必ず完成させるのでご安心ください。

2月半ばからはまた隔週で頑張ります!!

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