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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人追憶
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変貌

三階建ての建物から出てみたら背後でガチャリと音がした。仕方ないから塔に繋がるレンガ敷きの道を歩く。左右には花壇。おしゃれなホテルみたい。


塔の外側には四本の柱が通っている。でも塔の外壁そのものは透き通っていてとても綺麗だった。中が見える。大人数用の丸テーブルと椅子。何か青いものが動いている。

近寄ってみると丸くて青い機械がテーブルの下で動き回っている。ロボットかな? 掃除しているのかな?

あたしが塔の中に入っていくのと入れ違いに掃除用ロボット?は外に出て三階建ての建物に向かっていった。


テーブルの上には大型の花瓶とそれに生けられた花だけ。特に目新しいものはない。椅子の背には見たこともない記号が彫ってあった。椅子ごとに全部種類が違うっていう凝りっぷり。当たり前だけど読めないし意味が分からない。



ツツ―。背後から聞こえた音に振り向く。赤くて四角いロボットがテーブルに向かって滑ってきた。銀色のお盆を掲げている。それに乗っていたものは・・・。

「ん?」

缶詰・・・かな? 肉のイラストが見える。あと小麦のイラストが描かれたグレーのパッケージが一つ。文字も書いてあるけど読めない。


ロボットは一つの椅子の前まで来ると、お盆をテーブルの上に置いた。

「肉、果物、パン・・・うーん」

嬉しいけど今欲しいものじゃない。パンに至っては多分備蓄用の固いやつだし。おかゆとか出てこないかな。


しばらく椅子に腰掛けて待ったけど他に何か運ばれてくることもなかった。残念。

缶詰に手をつける気はないので放置。立ち上がろうとした時、花瓶の横にイラストらしきものを見つけた。照明がついてないからわかりにくいけど、さっき見たような四角い絵がテーブルに彫ってあった。ただし人ではなくナイフとフォークだったけど。


イラストの下にはやっぱり文字が彫ってあった。しかし今度は6行。全部違う文字だった。

にらめっこしてみたけどやっぱり意味が分からない。


諦めて顔を離すと、部屋の隅に階段があるのを発見した。二階には何があるのかな。



◇◇

大地は変動していた。地割れ、積み重なる倒木。鬱蒼とした森は見る影もなかった。

ハールドと男の戦いは、岩や木々などの障害物により完全に膠着していた。


倒木の裏に身を隠しつつあたりを見回す。男の姿はどこにもない。

気配はすぐ近くに感じるのだが、如何せん見つけられないので安易に飛び出せない。


ゴボッ。背後でまた一つ樹木が倒れる音が聞こえた。一歩でも後ろにいたら下敷きになっていただろう。

これ以上倒木が増えれば、道という道が塞がれて身動きができなくなる。そうなる前に、けりをつけて夕莉を迎えに行かなくてはならない。



「・・・」

耳を澄ます。数メートル先の倒木の裏で微かな衣擦れの音。


気配を殺し、なるべく音をたてないように接近する。倒木の1メートル以内に入った瞬間、石礫が飛んできてハールドのこめかみを打った。

「ーッ」

血がにじみ出るのにも構わず、ハールドは踏み出し男の手を掴んだ。抵抗する身体を力任せに引きずり出し地面に叩きつける。


「うおうっ」

男は水に纏わりつかれ立ち上がれない。ハールドがナイフを男に突き立てようとしたその時。



ゴゴゴゴゴゴゴ。大地がうなりを上げ、ハールドと男の間にひときわ大きな亀裂が走った。

ハールドがさっと飛びのいた次の瞬間には、地面に広く深い裂け目が出来上がっていた。男のいる対岸まで飛び移るのは不可能だろう。


「おおう!」

だが男の側の大地は地盤が脆いのか崩壊しつつある。未だに動きが取れないでいるようだ。

ならばとハールドは周囲の岩石や倒木に念を送った。


「なんだあ?!」

無数の岩石や倒木が、男の真上に影を作った。瞬く間に雨あられと男の上に降りかかる。



男のうめき声が聞こえなくなってもハールドは念を止めなかった。

自身の呼吸が乱れてきたころにやっと、彼は障害物の山に背を向け走りだした。


「夕莉!」

森の中をしらみつぶしに探すが、地面に横たわる彼女の姿はなかった。生き埋めになったのではと、ところかまわず念力で木々を持ち上げるがそれでも見つからない。

ならば、自分で立って歩いているのだろうか。だが雪は解けているので足跡で追うことはできない。あの調子だと今にも夕莉は倒れているかもしれないのに!


「くそっ!!」

守ると決意した彼女を危険にさらした自分に腹が立つ。なんとしても見つけ出さなくてはとハールドは森の中を全速力で駆け抜けた。

肺が破れんばかりにただひたすらに走り続けた。



ーー

数10分のち、数十メートル下にそびえたつ複数の建築物が目の前にあった。こんなものに用はないと立ち去ろうとした時、ハールドは足元にあるものに気が付いた。

ぐっしょりと濡れた布。これは、彼女の下に敷いたケープだ。ということは夕莉はきっとここから滑り落ちたのだ。

(あいつはきっとこの建物のどれかにいる!!)


そう思ったがすぐだった。地上までの高さに迷うことなくハールドは飛び降りた。

腱を痛めるといけないので尻から着地する。レンガ敷きの道だったため衝撃はすさまじく脳まで振動した。構わず起き上がり叫ぶ。

「夕莉!」


返事はない。

周囲の建物を一つ一つ殴ってまわったがやはり何の反応もない。

「一体どこに・・・?!」


何気なく目をやった先に彼は見た。透明な塔の上部に転がる小さな体。

「夕莉!!」

叫ぶと同時に走り出した。開けっ放しの扉を通り抜け、テーブルの脇を走り、階段を駆け上がって彼女の姿を認めた。


「夕莉!」

安堵と憂慮が胸に広がっていくのを感じる。確かにそこに在りながらも、身じろぎ一つせず転がり続ける夕莉。ハールドはたまらなくなって彼女に駆け寄った。

「夕莉、夕莉!」


返事はなかった。意識が飛んでいるようだ。

顔を叩いても、耳元で叫んでも夕莉は微動だにせず目を閉じたままでいる。ハールドは焦燥に駆られ、硬い床の上に横たわる彼女の体を抱きしめて呼びかけ続けた。


「おい、返事をしろ!」

「起きろよ、夕莉!」

「頼むから゛あ゛っ?」


突如として襲い掛かる強烈なのどの痛み。声が出ない。こんなこと今までなかったのに。

(乱れんな、こんなの何でもない)

ひたすらに深呼吸し呼吸を整えた。



「・・・ハールド?」

「夕莉!」

突然、彼女が意識を取り戻した。明るい瞳がこちらを見ている。

「来てくれた・・・んだ」

笑いかけているがそのほほえみは一目でわかるほど弱弱しかった。

(一刻も早く安全なところに連れて行かないと)


咳が出そうになった。ハールドは痛むのどを無視し夕莉を背におぶう。

「・・・い゛行くぞ」

「うん」

夕莉は脱力しハールドのなすがままに身を委ねている。今なら彼女の反対もなく星外に連れ出せるだろう。


だが階段を降りようとした時、信じられないことが起こった。



ヴーーーーーーー。リンリンリンリン。

塔の内部に不気味なベルの音が鳴り響く。あたりを見回したときにはもう遅かった。


外壁の外に沿う柱が塔の円周上に伸びている。あれよあれよというまに塔を完全に包み込む壁が出現した。

慌てて階段に走ったが、一階と二階を繋ぐ階段の開口部は完全に閉ざされ床と一体化していた。

「ーッ!!」


夕莉を下ろし力任せに蹴りつけたが床はびくともしない。壁も同様だった。堅固な塔はハールドの腕力ではびくともしない。


ならばもう念力しかない。重量のあるものを求めて周りを見渡すと、一階と同じくらいの大きな丸テーブルが目に入った。

再び気を失った夕莉を自分の後ろに動かし、ハールドは念をテーブルに送った。壁にぶつけるべく動かすが数秒たってもわずかにしか動いていない。


(・・・また制限かよ)

いつもならここで諦めるところだが今はそんな選択肢はない。流れ続ける汗と暗くなり始めた眼前を無視してハールドは乱暴に右手を振った。


三回繰り返すとついにテーブルが床から跳ねた。眩暈をこらえて見守ったが、テーブルは壁を破ることなく跳ね返った。それを再び壁の方に飛ばす。もう一度。もう一度。


・・・そしてついに、ハールドの喉の奥で何かが決壊した。



◇◇

「君は卑怯だな」

不意に背後から聞こえた声。

エイザクは振り返って部屋の入り口を見た。腕組みをした大柄な少年が自分を見下ろしている。エイザクは再び目線を元に戻しガルフォンに背を向けた。


「寝起きでいきなりなんですか」

「僕らは今動けない。だから、フリージー軍はさっさと来て僕らを回収して協力関係を結ばせてしまえばいい。だけどそれをしないんだ」

「・・・」

「僕らが『協力する』って言うのを待ってるんだろ。そうすれば僕らがフリージー星と自発的に手を組んだことになるもんな」

(おや?)

エイザクは少年を振り返った。


「もしかしてライヨルさんと会話してるの聞いてました?」

「ちょっとだけな。すぐ眠っちゃったけど」

全く気付かなかった。油断も隙も無い。


「ライヨルさんは食料調達に行ったみたいだな。すぐ帰ってくるだろうけどその間は僕が君を見張っていないとな」

「逃がす気はないんですね?」

そんなつもりは毛頭ないが、冗談めかして聞いてみた。目は合わせず手も止めない。



だが今の発言が火をつけてしまったようだ。

「当たり前だろ! 君は本物のエイザク・ブルネウに危害を加えたスパイなんだ! ただで済むと思うなよ?!」

ガルフォンは大股で移動してエイザクの前に立った。

「君には銀河連盟の制裁が待っているだろう。そして、僕らがフリージー星に協力することは断じてない!!」



「そんなこと言ってられる場合ですかね?」

エイザクは部屋の隅に顎をしゃくった。ガルフォンはいぶかしげに寝転がっている人影に近づいていく。


あれは自分にとっては興味の対象。だが、果たして彼はどんな反応をするのだろう。



ーー

◇◇

眼を開ける。暗闇の中。床が目の前にあった。気絶していたらしい。

慌てて体を起こしたとき、口の中に違和感を感じた。ヌルヌルする。ハールドにはなじみ深い、よく知っている味。これは・・・血だ。

(制限・・・超えたらこうなるのか)


床にも血が垂れている。口の周りもべたべたしている。盛大に吐血したらしい。内臓も少々痛むが深呼吸しているとその痛みにも慣れてきた。

(落ち着いたら、脱出できないか試してみよう)

肘で口元を拭き、眠っている夕莉の肩に手をかけた。


だが。



「ゆう・・・っ?!」

斃れている夕莉の首筋を見てハールドは絶句した。



◇◇

二人の目下には横たわる木星人。だがそれはもはや、見る影もないほどに姿かたちが変わり果てていた。

土気色の皮膚、全身に広がる茶色の斑点。恐らく疫病だろうとエイザクは読んでいた。


「なんっなんで?!」

「分かりました?」

このまま北大陸にいれば全員疫病で死ぬかもしれないよ?という方向で攻めるつもりだったが、それを口にする前にガルフォンは死体に乗りかからんばかりに屈みこんだ。


「朝はまだ生きてたのに! 斑点だって首筋にしか・・・」

今までにないほどの取り乱しように、エイザクのほうが面食らった。


「早すぎる・・・ここが病院じゃないからか?」

「・・・」

まるでこの病気について知っているような口ぶりだとエイザクは思った。


もしやガルフォンも患ったことがあるのだろうか。

(だとしたら別に不治の病ではないのか? 死ぬのがまれな病なのか?)



となると脅迫はうまくいきそうもない。どうしたものかと頭をひねった時、ふとここ数日のつまらない、しかしどこか奇妙な一件を思い出した。夕莉のことだ。

木星人のように寝たきりというわけではなかったが彼女もずっと体調が悪かった。


放心状態のガルフォンに問いかける。

「そういえば夕莉さんって地球人でしたよね」

「ああ・・・」

「・・・ふうん、なるほど」

木星人と冥王星のガルフォン、地球人の夕莉。エイザクの中でひとつの仮説が出来上がっていた。



だがもしその仮説が正しいとすれば・・・とエイザクは尋問部屋に目を向けた。ドアは開きっぱなしで、中の様子は丸見え。


のんきに手足を広げて眠る天王星の第六王子。



自分の中で疑問が一つ残ってしまうことになるのだが。



◇◇

茶色の斑点。


手で首筋をこする。消えない。

眠る夕莉の顔は苦悶に歪み、口からは苦しそうに息を吐き続けている。



「なんで・・・夕莉っ!!」

大声で呼びかけ頬を叩く。

夕莉は起きなかった。ずっと、ひゅーひゅーと枯れんばかりの呼吸を繰り返している。



()()が何なのかは分からない。だが、この茶色い斑点が危険なモノだとハールドは本能で察知した。

そして、夕莉の生命に危機が迫っていることも。


「くそっ」

壁に体当たりする。だが、肩の骨が痛むだけだった。

念力をテーブルに送る。しかし、もはやピクリとも動かない。


夕莉はこんなに苦しんでいるのに、自分には彼女を救うすべはないのだ。



鍛錬を積んだのに。

代償を払って力を手に入れたのに。


足りない。足りてない。


こんなにも自分を無力だと感じたことはなかった。



「そんなっ・・・あ゛っ」

再び口の中の血が噴き出した。腕の中の夕莉に血しぶきが襲い掛かる。


まるで彼女の運命を象徴するかのように、白い肌にいくつもの小さな血だまりを作った。

新展開?!…かと思いきや次回から過去編に入ります。

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