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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
8/107

異邦人四人 2

「ああそうだ。まだ右の二人が名乗っていないじゃないか。君たちも名乗りたまえ」

いつのまにか、その場はライオネルに取り仕切られていた。進行役の大臣が口を挟む暇もないまま話は進んで行く。

命じられるまま、クリスティナローラの横に座っている眼鏡をかけた黒髪の大人しげな少年が立ち上がった。ライオネルやクリスティナローラよりは年下のようだ。

「エーディス星から来たエイザク・ブルネウです。左のお二人のように特に大した家柄ではありません。ですから僕も特にお気遣いは無用です」

何とも無機質な硬い声。何の感情も浮かべていない藍色の目。ライオネルやクリスティナローラとは違う意味でとっつきにくいと感じる。



ここまでの三人は、グリーン星人たちにとって色んな意味で一緒に協力、というのは出来そうもない人物だった。子供のくせに生意気な、というのもあるし何となくだが近寄りがたいのだ。

とすると、大臣たちの期待は無意識のうちに最後の人物に集まるというわけで…。大臣たちはすがるような目で一番右端に座っている少年を見つめた。



果たして彼は、その期待に見事に応えてくれた。

ライオネルに促されてもすぐには立たず、確認するように大臣たちを見つめ、「お願いします」と言われてから立った。そして人好きのする笑みを浮かべてお辞儀をした。

「初めまして、グリーン星の皆様。本日はこのような歓迎会を開いてくださって、本当にありがたい限りです。僕は冥王星から来ました。名前はガルフォン・ロインドです。自分の力量には自信がありますが、色々と教えていただければ嬉しいです」

若干老け顔の顔に琥珀色の穏やかな髪と目を持つがっしりした体型の少年は、それまで緊張で張り詰めていた空間を緩めるかのようににっこりと笑った。



「あれが、人を安心させる笑みってやつだろうな」

「助かった、な」

ウサギのゲンネーには、大臣たちのかすかに安堵するような小声がしっかりと届いていた。



ーー

その後、歓迎会はつつがなく進み、大臣の一人が四人のこれからの予定を述べてからお開きを迎えた。

「今日はお四方を主役にした晩餐会が開かれる。お前も出席するんだぞ、ゲンネー」

今まさに貴賓館を出て予備隊訓練所に戻ろうとしていたゲンネーを呼び止めたのは、フェアーナ国本隊の酒癖が悪いことで有名な将軍だった。

「いや私は」

「仕事か? そんなもの、お前んとこの優秀な副隊長に任しとけ」

「しかし…」

「ほら行くぞ。今日は酔いつぶれるまで寝させんから覚悟しとけよ」



「今日は」じゃなくて「今日も」では?

またラーシルに迎えに来てもらうことになるかもしれない。

(すまんな)

ゲンネーは、プンスカ怒るラーシルを思い出して心の中で手を合わせた。



◇◇

「…」

「いやはや、噂には聞いていたが本当なんだな」

「…」

「グリーン星にはウサギの軍人がいるとはねえ」

貴賓館の二階の部屋から下を見下ろすクリスティナローラの横に不意に現れたライオネルは、彼女と一緒に階下のやり取りを聞きながらクツクツと笑った。



貴賓館の二階には、四人の宿泊のために整えられた部屋がある。一部屋五メートル四方といっと大きさ。据えられた家具は、カーペットやベッド、丸テーブルとタンスと本棚、その他細々したもの。

庶民にしてみればありがたい宿泊所なのかもしれないが、貴族のクリスティナローラやライオネルには狭すぎると言っても過言ではない。



「殿下」

色々な意味での不愉快さを込めた口調でクリスティナローラはライオネルに向かって口を開いた。

「ここでは身分は関係ないのだろう?」

「あえてそう呼ばせていただきます。距離をはっきりさせておきたいですし」

「都合がいいな。まあ良い、聞いてやろう」

「ここは私にあてがわれた部屋です。いつまでおいでになっているのですか」

「いつまでって、今来たばかりじゃないか」

「男性と二人きりというのはどうも落ち着きません」

「こちらは用があって来たんだがな」

「とおっしゃいますと?」

「夕食の時間らしい。お迎えに参りましたよ」

「お一人で行くこともできませんの?」

「貴女がそうではないかと思っただけですよ」

優雅にお辞儀をして手を差し出すライオネルを一瞥し、クリスティナローラはドレスのポケットに手を入れ、ルビーの指輪をはめた。

「ではエスコートをお願いいたしますわ」

そう言ってライオネルの手を握り返し…



「痛いっ」

手のひらに鋭い痛みを感じてライオネルはとっさに二、三歩後ずさりした。

「何をした!」

「王家の方が、暗殺用の小道具もご存知ないのですか」

彼女は冷ややかな顔で右手にはめた指輪を見せつけた。そこには大きなルビー。そしてそのど真ん中に光っているものは。

「…針か」

「指を曲げると針が出る仕組みです」

「毒など塗っていないだろうな」

「次は塗るかもしれません。このドレスも帽子も一種の隠れ蓑です。私と関わるとどうなっても知りませんわよ」

明らかな脅し文句だが、ライオネルはひるまなかった。

「…中々良い度胸だな。この私に喧嘩を売るとは」

「そんなつもりではありません。ほんの警告ですわ」

「ふん…まあ、覚えておくが良い」

痛む手を押さえながらも、口元には笑みを浮かべてライオネルは部屋から出て行った。

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