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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
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暴かれた正体

相変わらずの夕莉&ガルフォン視点。

一晩経ったが、3つあったライターのうち1つは完全に使えなくなっていた。残りの2つも、点火に手間取るという有様だった。

ガルフォンは、これからの朝と昼の食事は缶詰と生ミーネで賄うことを決めた。火を使う機会を減らすためだ。

それに加え、ライターはガルフォン自身が保管するとも決めた。こういう器具については、自分で見ていなければ何が起きるか分からないと思ったから。



ーー

昨日とは違う山に入った。

天気は晴れのち曇り。午後は空が曇っていて気温も高くないため、森の探索はさほど辛くはなかった。

ただ、相変わらず獲物は見つからない。遠く離れない程度に散らばって獲物を探したが全く成果なし。夕莉は何度か鳥を撃ったらしいが、何と全て外して逃げられてしまったらしい。珍しいこともあるものだ。


いつのまにかハールドの姿だけ完全に消えていた。集合場所にも来ない。

「あいつどこにいったんだ? はぐれたのか?」

「ハールドが迷子になるとは思わないんだけどなあ」


夕莉と2人で探し回っていると、しばらくして茂みの奥からハールドがひょっこりと顔を出した。髪やケープに草と泥がたくさんこびりついている。

「どこいってたんだよ!」

「食料漁り」

平然と答えるハールド。両手いっぱいに何かを握りしめている。指の隙間から小さな頭と尻尾がいくつも見えた。逃れようとピクピク動いている。


「え…もしかしてトカゲなのか…?」

「もうこれでも食ってくしかねえだろ」



ーー

食料の節約のために、晩は狩猟の成果とミーネだけを食べることにした。


ハールドが取った獲物は紫色の鱗のトカゲが5匹。そして見た目がカエルによく似た緑色の生物1匹。体の特徴的にカエルと言いたいところだが、そいつには一つだけ明らかにカエルにはない特徴があった。

「この角で獲物を倒すのかな? いやでも草食動物なら敵を撃退するのに使うのかも…」

カエル?の頭の先端についている小さな角を触りながら、エイザクはスケッチブックに何か熱心に書き留めていた。


ハールドが獲物の内臓を取り除いて鉄串に刺す。焼き網に乗せて火に炙っているとあっという間に焼き上がった。トカゲもカエルも食べるのが憚られる見た目をしていたが、みんな昨日一日碌に食べていなかったので躊躇することなく焼けた肉に手を伸ばした。

…イチアールも普通に食べていた。


初めて食べた謎のトカゲはササミのような味だった。脂が乗っていて特に皮が上手い。それだけに、全長が中指くらいしかないこととことと骨ばかりで肉が少ないことが残念でならなかった。ガルフォン的に、これだけでは到底腹は満たされない。


ライオネルと夕莉の2人でカエル?を分けあって食べていた。トカゲより食べるところは多かったがライオネルは味がないと文句を言っていた。

「脂も乗っていないではないか。せめて塩胡椒で味を整えたい」

「ごめんライオネル、調味料はないんだ」



そして別の脅威も。

「あいつ動かなくなりました」

木星人は咀嚼もままならず、イチアールは仕方なく水だけ飲ませ続けているとか。


「危険なウイルスを持ってるかもしれません。人間の皆さんは絶対接触禁止で」

北大陸は無人で当然医療機関もない。つまり、風邪をひいても治療はできないのだ。



ーー

食後、ライオネルは鉄串を乱暴に地面に突き刺した。

「肉でもこれしかないのなら何も食べていないも同然だ」

「でもさ、そうは言っても獣が獲れないんだよ」

「なら魚はないのか魚は!」

ライオネルは自分の言葉に数秒固まった後、思いついたようにバッと後ろを振り向いた。

数メートル先に見えるのは静かな水面。湖の表面が時折同心円状に波打つ。


「いるのではないか?! 湖に!」

「ああそうか! そうかも!」

ガルフォンにとって、湖というのは洗濯と水分摂取に利用する場でしかなかった。ライフサイクルに欠かせない水。それが湖のもたらす恩恵の全てだと。

だが、湖では魚が釣れる可能性がある。ライオネルの欲望が思わぬ形でそのことに気づかせてくれた。



「さっそく釣るぞ!」

「ちょっと待った!」

ガルフォンは湖に走って行こうとするライオネルを静止した。新たな可能性が出てきたと言っても、彼の方は逸る気持ちに流されたわけではなかった。


「釣りの道具がないだろ」

「なら泳ぐ!」

「深さがどれくらいかここから見ただけじゃ分からないぞ。それに危ない魚がいたらどうするんだ?」

「魚などこれまでの戦場に比べれば大したことはあるまい」

忠告を軽視するライオネルに流石に頭が痛くなった。


「いや、人間より大きかったら歯が立たないだろ」

「人間を食べる魚も宇宙にはいるんですよ?」

「えっ…そっそうか…」

ハールドとエイザクの加勢でライオネルはやっと大人しくなった。



ーー

◇◇

晩御飯の時間がいつもより早めだったから外はまだ明るい。ライオネルさんたちが後片付けをしている間に、あたしとガルフォンさんとハールドは再び森に戻っていた。釣竿代わりの枝を探すためだ。

そういう枝は…地面にはない。あたしたちはずっと上を見ながら歩き続けている。時折ハールドに「転ぶぞ」と注意されながら。


「ガルフォンさん、あれどう?」

あたしが指さしたのは、地面から5メートルほど高いところにある枝だ。長さは少なくとも6メートルはありそうかな。因みに決め手は太さ。細巻き寿司くらいだから、魚が大物でも力負けして折れないだろうし何より握りやすいという利点もある。


「そうだね…あれなら…」

ガルフォンさんは頷き、早速幹に足を掛けて登っていった。碌な足場もない中、枝を掴む腕力だけを頼りに少しずつ目指す枝へと向かっていく。正直見ていてヒヤヒヤする。

「お、落ちないでね…」


ガルフォンさんは一言も発することなく5メートルの高さを登りきった。右手で太い枝を掴んで体重を支えつつ、左手で目的の枝を根元から折りにかかる。でも片手じゃうまく行かない。

「ぐ…」

ガルフォンさんの額に汗が浮かび、そして顎までつたっていく。でも拭うことなく枝の先端の方に左手を伸ばしそこをしっかりと握った。そして右手は太い枝から離れ目的の枝の根元に。そのまま、そろそろと右手も少しづつ先端の方に動かす。枝が緩やかな円弧の形に変形し始めた。え…これじゃ…。

「当たるぞ」

ハールドに引っ張られるままに数メートル後ろに下がった。そして…。


バキッ。

予想通りの音がしてガルフォンさんの身体が落下した。お尻でも背中からでもなく膝から落ちた。ガルフォンさんの膝の下敷きになった木の枝がパキパキと割れていく。

嫌な予感がして駆け寄ると、やっぱりガルフォンさんの膝に血が滲んでいた。

「よし、取れたぞ!」

「いや、怪我したじゃん!」

「え…ああ」

ガルフォンさんは棒を頭上に掲げたまま目線だけ落とした。


「痛そうだけど大丈夫なの?!」

「いや、このくらい平気だよ」

身体が丈夫なのは僕の長所だから、と言ってガルフォンさんはハハッと笑った。そして土を払って立ち上がった時、彼の目線は不意に固まった。



上ばかり見てたから気づかなかったけど、あたしたちはいつのまにか森の外れまで来ていたらしい。数メートル先には、木造の家々が立ち並ぶ平地が見えていた。

「あれ…一昨日ライオネルさんと行った廃墟の村?」

「ああ。この山からも行けたんだな…」

ガルフォンさんは棒を手放し、村の方にゆっくりと近づいていった。所有者を失った棒が地面を転がっていく。

「目的は果たせたし帰ろう」と言いそうなガルフォンさん。そんな彼が突然レールを外れた行動をとったことにあたしは少々戸惑ったけど仕方なくその後を追った。



ガルフォンさんは山の隅まで来ていた。横に並び、ふと足元を見て驚く。あたしたちがいるのは2メートルくらいの崖の上だ。崖下が平地で、所々に木造の家々が立ち並び土を掘り返した後なんかも見える。畑の跡かな。

完全に捨てられた村だけど、夕暮れに照らされるその景色はとてもとても和やかだった。まるで人が住んでいると錯覚しそうだった。


ガルフォンさんは、自由になった手で四角を作り目の前に持ってきて村を見ているようだ。なんというか…目の前の景色を写真に収めるみたいに。その顔は真っ赤だった。夕日のせいだけじゃない。もしかして興奮しているの?

同じ景色をじっくりじっくり飽きることなく眺め続けるので、あたしは何度も「まだ?」というようにガルフォンさんをチラチラ見る羽目になった。正直あたしは「綺麗だね」の一言で終わりなのでね。


ガルフォンさんの顔は今まで見たことないものだった。本当に上気している。何かに夢中になっている時の表情だ。フェアーナでも宇宙船でもこんな顔は見たことがない。

「綺麗な村だな…」

あたしたちの存在を忘れたかのように景色に夢中になっていた。



「おい、帰るぞ」

痺れを切らしたのかついにハールドが静寂を破った。ガルフォンさんがハッとして両手を下ろす。次に足元を見て「うわっ」と驚いた。崖って気づいてなかったのか。


「え…棒…」

「持ってる」

村に背を向けたガルフォンさんの目が、ハールドの手に握られた棒を捉えた。


「あ、ごめん。落としてたのか」

「俺が持って帰るからいい」

ハールドはスタスタと先に船の方に歩き出した。あたしとガルフォンさんもそれに続く。長い長い棒に当たらないように注意して十分に距離を取りながら。



ーー

◇◇

「枝はリビングに置こうか」

「そうですね」

枝にタコ糸を結びつけ、工具に入っていた針金を曲げて釣り針の代わりにした。

釣竿は完成したが今日はもう遅い。それになんだか昨日より冷えているので、釣りは明日にするとガルフォンは決めた。

リビングは広く、8メートル四方はあるので釣竿を楽々収納できた。


「明日が楽しみだな!」

ライオネルが金網を座席の上に置き笑いかけてきた。網の上にはカットされたミーネが乗っている。今日はなんとか無事だったのだ。だが形が大きすぎるものがあって(ライオネルのカットした分が)、ガルフォンは30分かけて自分でカットし直した。夜は一旦宇宙船に回収して、朝になったら再び外で天日干しすることにしていた。


その日は誰もが明日への期待に胸を膨らませながら眠りについた。



ーー

朝になった…はずなのだが、寒気を感じて身震いしてしまった。今まで朝にこんなに寒いと思ったことはなかった。嫌な予感がしてリビングに駆け込み窓に飛びつく。


目に入るのは白、白、白、白。窓から見える景色は一面の大雪原だった。



ーー

「釣りができない?!」

「湖が凍ってるんだよ…」

ライオネルの顔がみるみる不機嫌になっていく。無理もない。昨日の夜は、彼が一番釣りを楽しみにしていただろうから。



□□

雪に驚いたガルフォンは、ランニングをするために起きてきたクリスティナローラと2人で慌てて湖に向かった。つもりに積もった雪をかき分けすすむと、案の定湖は完全に凍りついて固まっていた。2人でどうにか氷を割ろうと試みたが、氷が分厚いのかヒビひとつできなかった。

そうこうしているうちに雪も深くなってきたので、ガルフォンとクリスティナローラはやむなく船に撤退した。防寒着は持っていないので長時間外にいるのは危険だったからだ。



ーー

「船を使えば良い! ぶつけて氷を割れないのか?!」

「駄目だ、雪が積もっているから進まない!」

積雪の中を車輪で進むのはまず無理だ。


皆が落胆する中、存在を主張している6メートルの釣竿。苦労して手に入れたのに今は何の役にも立たない。顔には出さないようにしていたが、ガルフォンが一番憔悴していた。今頃になって、小枝で擦れた膝が痛い。



朝食はとりあえず缶詰を食べた。だが量は2人で1つだ。この大雪では今後、食べ物を手に入れることが今まで以上に困難になってくる。節約しようと決めたのだ。


食べてすぐ、3時間だけを約束に外に出て二手に分かれた。雪はひどくなる一方。このままでは、宇宙船で籠城する可能性があるので薪や食料が大量に必要だ。ライオネルとクリスティナローラとエイザクが薪拾いに、ガルフォンと夕莉が食料集めにかかった。イチアールはこの3時間の間だけ船を修理することになった。

ちなみに、ハールドは朝食を口に流し込むとガルフォンの指示を待たずに1人で外に出て行ってしまった。



食料集めといっても、この天候では手に入るのはミーネくらいだった。ガルフォンは釣竿を使って、夕莉は射撃でミーネを落とした。不幸中の幸いに、ミーネは凍っていたので地面に落ちても潰れなかった。


「なんか…うまくいかないな」

今日の夕莉は不調だった。10発中2、3発の弾を外していた。冷えるせいか顔色も悪い。足もふらついている。


「先戻ってな」

「え…ガルフォンさんは?」

「氷の塊を探して帰るよ」

ミーネが解凍した後で腐らないよう、氷を使って保存しようと決めたのだ。ガルフォンは自分の個室を冷蔵庫にするつもりだった。薪もそこに入れたら貯蔵庫の完成だ。

今日からは自分もリビング入りすることになるだろう。



ーー

ガルフォンが船に戻ると、もう全員がリビングに集まっていた。ハールドも含めて。彼の足元にトカゲとカエルの死骸の山が積んであった。

「今度から一人でさっさといくなよ、危ないから」

「俺の体力はそんなもんじゃねえ。今日は死んでたのがたくさん見つかったから獲りやすかったぜ」

ハールドはケープを肩に掛け直しながら悪びれることなく答えた。


夕莉はソファーで寝ていた。まだ起きて4時間ほどしかたっていないのに、だ。彼女は本当に具合が悪かったようだ。



リビングの隅で、ミーネの網を乗せていた平たい石を置きその上で焚き火の準備を始めた。

「換気しなきゃ」

イチアールが操縦席に座り、船の分割を開始した。ガゴン、と音がして船が揺れたかと思うと、個室に繋がる扉のついた壁がゆっくりとリビングの床から切り離されていった。個室側が壁の隅を軸にして30度ほど回転してから止まった。壁、個室4つとトイレ、それに個室の前に伸びる一本の廊下が完全に移動した。


ガルフォンたちの側にはリビングと操縦室のみが残される形になった。

「寒いな!」

ライオネルが身震いした。当然だ。今、壁がひとつ消えて外気が一気に入り込んできた。リビングと外を区切っているのは三方の壁だけだ。

「室内で焚き火するんなら換気は絶対必要なんだよ!」

「だが、これでは外と変わらない!」

「床と3つ壁があるだけマシなんだ、分かってくれ!」

「ライオネルさん、流石に夜は元に戻しますから!」


その後も、吹雪が室内に入ってきて何度か火が消えるなどのハプニングが相次いだ。

ガルフォンは干すことのできない洗濯物を一枚一枚火で炙っていった。不運なことに、風で炎が勢い付いて衣服が何枚か焦げた。


結局、夕莉は一度も起きることなくソファーで眠り続けていた。



ーー

◇◇

目が覚めた。目を擦って開けると、リビングは真っ暗だった。でも窓の外はほのかに明るい。明け方なのかな…。

「うう…」

よく寝たはずなのにまだ体は怠かった。実は今朝から頭も痛い。それに、一昨日から射撃の腕にも影響が出てきている。鳥もミーネも上手いこと撃てなかった。

間違いなくあたしの容態は悪化し続けている。


「はあ」

手に力を込め、重い体をソファーから起こす。

周囲を見渡すと、ライオネルさん、イチアール、ハールド、そしてガルフォンさんが眠っていた。


あたしだって本当は寝たい。でも、今くらいしかタイミングがないんだよね…。



ーー

リビングから廊下に出た。並んだ4つの個室の一つの前に立つ。そこのドアをノックしたけど返事はなかった。

「入るよ」

一言だけ声をかけてからドアを開ける。中は暗かった。でも、そこにいた人は起きていた。


「何の用ですか?」

エイザクさんはこちらを見ることなくスケッチブックに鉛筆を走らせていた。



あたしはふうっと息を吐き出し、エイザクさんの前にしゃがんで目線を合わせた。

「単刀直入に言うね?」

滅多に出さない真剣な声に驚いたのか、エイザクさんはスケッチブックから目を離した。あたしは構わず続ける。


「エイザクさんって本当にエーディス星の人?」



そう言った瞬間、無表情な顔にほんの少し動揺が走るのが分かった。やっぱりそうだったんだね…。


「司令官っていたでしょ、基地で会った黒い人」

あのローブの男があたしたちを尋問した時、顔は見えなかったけどあいつはあきらかに動揺していた。

「確か国賓4人を見分けるって言ってたよね。でも、なんか終わった後で慌ててたしできなかったんだろうね」

尋問開始時の司令官は自信に溢れていた。なのに終わったらあの動揺っぷり。予期せぬ事実が発覚したからだとしか考えられない。


次のヒントは倉庫のバルコニー。

「まあその時は単なる思いつきだったんだよ。でもバルコニーでも『ニセモノに用がある』とか言ってたから、そこで国賓の中に偽物がいるって確信しちゃった」


その偽物の正体が分かったのは宇宙船の中。動揺する木星人の目線の先にはエイザクさんがいた。

「あの木星人が『なんで』とか『あいつと同じ』とか言ってたから。あれが体の作りのことなら、ひょっとしたらエイザクさんはエーディス星の人じゃないのかなって」



「あなたのその推理を支えているのは勘ですか。明確な根拠はどこにもないわけだ」

やっと口を開いたエイザクさんは嫌味っぽい口調でこう言った。

「かもね。でもあってるでしょ?」

「ええ」


スケッチブックを閉じ、ため息をついてあたしを見た。

「あーあ、勘で見破られるなんて思わなかったな」

手を後ろについて足を前に投げ出す。完全に吹っ切れた感じだった。



「お察しの通り、僕はエーディス星人じゃないですよ」

「ああやっぱり…」

「で、どうするんですか? 僕のことをみんなに言います?」

「言わないよ」

きっぱりと否定すると、エイザクさんは意外そうな顔をした。


「僕は国賓じゃないんですよ? 偽物ですけど?」

「でも、敵ではなさそうだし」

ずっと見てたけど、エイザクさんはあたしたちの妨害はしてない。北大陸に着いた時、何か機械のスイッチを切っているのも見えた。今から思えばあれが追跡装置だったのかもしれない。


「エイザクさんにとって、少なくとも木星人はあたしたちと共通の敵。違う?」

「まあね」

「今は木星人の手から逃れることが第一優先。だからあんまり事を大きくしたくないんだよね」

ライオネルさんをはじめとして、みんな木星人への不安と食料不足でピリピリしている。そんな時にエイザクさんの正体をバラしたら…。

だから今は言わない。



「だけどやっぱりモヤモヤするんだよね。エイザクさんが本当の国賓をどうしたのかも気になるしさ」

「で?」

「時々でいいからさ、あたしにだけエイザクさんが抱えている秘密を話して?」

裏切り行為をする前に全て暴露してほしい。それが正直な願いだ。


「環境が少しでもマシになればみんなの機嫌も元通りになるよ。その時に話せば、みんな受け入れてくれる」

エイザクさんは実行犯だが計画した人間は他にいるはず。そうすればこの人の罪は軽くなる可能性がある。もちろんあたしもエイザクさんの弁護をしてあげたい。

やましい事をなくしてエイザクさんとも本当の仲間になりたい。…これは初めて会ったスピッツにも思った事だ。


「甘い考えだな、まったく」

エイザクさんは鼻で笑った。

「あの人たちは星の代表者ですよ。僕を受け入れるとか許すとか簡単にできるわけない」

「状況が状況だからみんなも妥協するしかないんじゃない? あたしも納得してもらえるように説明する」

「あなたに話すことなんてないですよ」

「じゃあみんなを騙したままでいるつもり? とにかくウンと言うまで出ていかないから」


あたしはフラつく足を踏み締め、すっくと立ってエイザクさんを見下ろした。



◇◇

「ガルフォン、ガルフォン」

耳元で囁かれる声にびっくりして飛び起きる。暗闇の中、ライオネルの顔が至近距離にあった。


「なんだよ」

「夕莉がエイザクのところに行った」

そう言うライオネルの顔が若干にやけている。昼間の不機嫌はどこへやらと言った様子だ。

「しばらく待ったが帰ってこない。何か2人の仲に進展でもあるのかもしれん」

「はあ」

「夕莉め、ハールドだけでなくエイザクもとはやるではないか。どれ、聞いてみよう」


ライオネルが個室に繋がるドアに向かうので、ガルフォンも慌てて後を追った。

「おい、やめとけよ。聞かれたくなかったらどうするんだ」

「少しだけ、少しだけだ」

ライオネルはくすくす笑ってエイザクの個室前に向かった。ガルフォンは止めようとしたが、エイザクとは反対側の方向にある個室から呻き声が聞こえてきたので胸騒ぎがしてそちらに向かった。



ドアを開け、そしてそこで見たものに絶句した。

木星人が床に斃れていた。そしてその首筋に茶色い斑点が浮かんでいる。


脳裏に蘇る悪夢のような日々。


『苦しいよ』

『兄ちゃん…助けて…』

『ごめんね、本当にごめんね…』


込み上げてくる吐き気を必死で我慢した。



◇◇

「話してくれないかな」

エイザクさんの狙いがなんなのか明かされないことにはあたしも動きが取れない。


このままだんまりを続けるつもりかと思っていたら、エイザクさんは「あっ」と何かを思い出したようにあたしを見た。

「分かりました。話しましょう」

「本当に?!」

「よく考えてみたら、夕莉さんには僕らに味方する道理があるわけだ」

意味深な事を言うので今度はこっちが困惑した。道理? なんの話をしているの?


「道理って何?」

「あなたがグリーン星を裏切って僕らに協力する道理ですよ」

「裏切るって…え…」

話が大事になりそうな予感。大丈夫かな…。

話についていけなくなったあたしに、エイザクさんは予想もしていなかった事を話し始めた。



「僕はフリージー星人です」


衝撃的な事実。一気に中型宇宙船の事件を思い出した。


「え…あのジャック犯の…」

「はい。もちろんグリーン星とは敵対していますよ。邪魔が入ったけど、これで国賓を確保すれば僕らの計画も…」

その先は聞けなかった。



「なんだと!!」

ドアが乱暴に開かれ、そこに憤怒の表情のライオネルさんがいた。


「フリージー星人?! 国賓を確保?! どう言う事だ!」

「ライオネルさん…」

みんなを起こさないようにこっそりリビングを出たのに。なんで。


ライオネルさんは、呆然としているあたしの前を通って行ってエイザクさんの胸ぐらを掴んだ。

「国賓ではないのか?! なりすましか! なぜそのような事をした!!」

「ライオネルさん、待って!!」

我に返ってライオネルさんの腕を掴んだ。エイザクさんからもぎ離そうとしたけどびくともしない。


「なんですの!」

騒ぎを聞きつけ個室のドアが開いた。リビングのドアからもハールドが身を乗り出す。

怒りで震えているライオネルさんの腕を掴みながら、あたしは必死でエイザクさんに目配せする。弁解して、弁解してったら!



でも、エイザクさんはあたしの懇願を無視した。しかも平然と爆弾発言をする。


「そりゃ、あなたたち4カ星とグリーン星の協力体制を崩したいからですよ」


それは、あたしも予想していなかった解答だった。

これにて第3章の物語は完結です。

次回、登場人物解説と第4章の説明です。

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