One day in North Land
トラブル続きの1日。
朝一番の事件。
船内にクリスティナローラさんの姿がなかった。
と言っても消息不明とかじゃない。彼女の個室にスケッチブックの切れ端が置いてあって、そこにはランニングや筋トレのメニューがずらりと並んでいたから。
「朝イチからトレーニングか。食料調達の役割分担をしなきゃいけないのにな…」
クリスティナローラさんの次に早起きしていたガルフォンさんがため息をつく。
ーー
みんなで1時間待ったけど結局彼女は戻ってこないので、仕方なく今いる人数で役割分担をすることになった。
「私は整備に専念させていただきますね」
「僕とハールド、それから夕莉で狩りに行こうと思うんだけど」
「では私とエイザクは何をするべきなのだ?」
「えっとね…」
ガルフォンさんは自室に向かい、赤い実をいっぱい抱えて戻ってきた。
「ミーネじゃん。え、撃ち落としたの?」
「まさか、夕莉じゃないしそんなことできないよ」
そう言うガルフォンさんをよく見ると、袖を捲り上げた腕や頬に擦り傷が沢山あった。
「え…ひょっとして登った?」
「意外と低いとこにもなってたからね。で、2人にはこれを切って天日干ししてドライフルーツにしといて欲しい」
たしかに、生なら傷みやすくてもドライフルーツなら何日かもつね。
「干すってどこにだ?」
「網があっただろ? 組み立てない方。あそこの上に置いて野外で太陽の光を当てといてくれ」
「すぐできるのか?」
「2、3日はかかると思うよ」
ライオネルさんはあからさまに落胆した顔をした。
「随分とかかるではないか」
「そこは仕方ないでしょ、嫌ならあなただけ生のまま腐ったのを食べたらどうですか?」
昨日から続くライオネルさんの不平不満にイラついたのか、ついにエイザクさんが横槍を入れた。無表情だけど、口調からかなりムカムカしているのが分かる。
「何だとエイザク…」
「落ち着けって!」
ガルフォンさんが慌てて2人の間に割って入る。
「今から喧嘩なんてされちゃ2人きりにできないぞ!」
「はあ、さっさと役割を振ってください」
エイザクさんはライオネルさんに取り合わずガルフォンさんに続きを促した。
「…ドライフルーツ作りの他にもう一個。2人にはそこの湖で調理器具を洗っておいて欲しい」
ほこりを被ったままの器具なんて使うのは嫌だものね。
「とりあえずそんな感じかな。終わったら夕方に僕が全部チェックするから見せてね。…でも、本当に2人でいける? ライオネルが僕と代わる?」
「いいや、構わん」
ライオネルさんは首を振った。その右手は左腕の肘の部分をひたすら掻いている。
「昨日山に入ってから腕も足も痒くてならん。あんなところに入るなどまっぴらごめんだ」
「やっぱり虫いたんだよな…まあ防虫剤とかはないから我慢してくれよな」
「不愉快極まりない。こうなったらそなたらには何としても肉をとってきてもらわねばならんぞ」
ライオネルさんは鼻息荒く焼き網を手に取った。
ーー
「…いない」
あたりの気配を探っていたハールドは首を振った。あたしとガルフォンさんはがっくりと肩を落とす。虫の羽音だけがウーンウーンと鳴り響いていた。
ここは山の中。木と木の隙間から時折鋭い熱射が差し込んでくる。虫の数もものすごく、お世辞にも快適とは言えない環境だ。
ちなみにみんな長袖。蒸し暑いけどもしも有毒な虫に噛まれたら怖いので、あたしたちはみんな袖をまくることなく耐えている。
平じゃない道を行ったり来たり。時々岩にぶつかったり草を踏んで滑ったりした。
そんなのが6時間続いているから、みんなのテンションはダダ下がり。朝と昼の分の缶詰を分けっこして食べたっきりだからもうお腹もペコペコ。
「ここもいない…どうなってんの? フェアーナではいくらでも見つかったよね?! 自然が豊かな北大陸ならもっとたくさん獲物がいるはずなのに…!」
「いや多分な…ここの獣は向こうとは段違いなんだ」
ハールドが言うには、この山の獣はフェアーナのそれより野生の勘が鋭いのだとか。あたし達が山に足を踏み入れた瞬間から、獣はその気配に気づいて気配を殺してしまった。あたし達の動きに合わせてうまいこと隠れている可能性が高いという。
「特に俺。獣は俺を危険な狩人と判断したんだろうな」
「うーん、しかし何もとれないのはまずいな」
ガルフォンさんが目を閉じて腕を組んだ。
「いないんだからしょうがねえだろ。あんた、ライオネルの我が儘に付き合ってやるつもりか? ほっとけよあんなの」
「いや…そういう問題じゃなくてね」
「飯が足りないから? なら今日我慢してまた明日来ればいいだろ」
「でもね…」
ガルフォンさんは渋い顔をして群がってくる虫を追い払った。
「今日の成果を元に、これからの一週間の献立を組み立てるつもりだったんだ。ほら、大体の目安があったほうがいいだろ?」
「マメだね…」
あたしは料理はするけど献立なんて考えたこともない。その日その日思いついたものを好きに作るスタイル。
まあここは無人島みたいなもんだし、ある程度計画はあった方がいいのかもしれないけどね。
「でも流石に、そろそろ切り上げた方が良さそうだよな…」
ガルフォンさんは空を見上げた。なんか日差しが弱くなってきた気がする。心なしか気温も少し下がった?
「昨日みたいに暗くなってから外を彷徨くのはもうやめたほうがいいと思うんだ」
「てかあんたら夜中に森歩いてよく無事だったよな」
「まあ昨日の廃墟までは散歩道が残ってたからね」
舗装された道があったから足場には困らなかったのだ。
「じゃあこれからはどうするの?」
「薪集めようか」
あたしたちは狩りを諦め、調理のための薪集めを開始した。
ーー
◇◇
枝なら地面にいくらでも落ちている。でもどれも細すぎてすぐに燃え尽きてしまいそうだ。
「ガルフォンさん、踏んだらパキパキ折れるやつしかないね」
「あいにくと斧はなかったんだよな…」
だから、太い木の枝があっても切り落とせないのだ。
夕莉は撃ち落とそうか?と言ってくれたが、弾の節約のためにもそれはなしの方向でいこうと決めた。
「クッカーは多分ワンバーナーに挟んで調理できるんだよな」
「うんうん」
「でもスキレット鍋は大きさ的に無理だ。例の組み立てる焼き網の上に乗っけて、下で焚き火しながら調理するしかないと思う」
あいにくガルフォンはキャンプを碌にしたことがない。クリスティナローラが色々知っているっぽかったから、教えてくれればよかったのにともちょっと思う。
(明日までにあの人の役割も考えないといけないな…)
帰ってもやることはきっと山積みだ。
「なんか…涼しくなってきたね」
夕莉に言われて、森の中に風が通っていることに気づく。気温もだいぶ下がってきた。そろそろ夕方だろうか。
「ホントだねじゃあもう帰…」
「あっ!」
突然夕莉が一点を指さした。
「いたいた、獲物がいたよ!」
彼女の指さす方向にじっと目を凝らす。森の中の数メートル先の高い木に何かが止まっているのが見えた。
「鳥だな。変わった色だな」
「そうそう、分かる? オレンジと水色って珍しい羽してるよね!」
「嘴に何か挟んでるな」
「ミミズじゃない?」
ハールドと夕莉は鳥の姿がはっきりと見えているようだが、ガルフォンにはそんな細部までは分からない。
「撃とうか? ねえ撃っていい?」
夕莉が早くも腰のベルトに手をやる。ガルフォンは頷いた。
夕莉が引き金を引き銃声が響き渡る。少しして、木にとまっていた鳥が真っ逆さまに墜落していくのが見えた。同時に周囲にはガサガサと草や葉っぱの擦れる音が響いた。
「近くにいた動物が逃げたな」
「うーん、気づかなかったなあ。こんな近くにいたなんて」
「ほら2人とも、獲物を拾うよ!」
夕莉は先に立って歩き出していた。彼女は藪の中に足を踏み入れている。ガルフォンも慌てて後を追った。
「確かこの木にとまってたな…」
夕莉は鳥の落下地点と思しき場所をキョロキョロと見回している。
「あれ、どこいったあれ?」
「こっちの茂みにも落ちてねえ」
「夕莉、そっちの枝に引っかかってない?」
ガルフォンも探してみたが鳥の死体はどこにも見当たらない。
「おいこれ」
不意にハールドが地面を指さした。その先にあるのは柔らかで少し湿った土…にくっきりとついた足跡。人間のものではなかった。これは犬とか猫に近い感じだろうか? 足跡の脇に血が点々と付いている。
「まだ新しいぜ」
「ああ、こいつが先に持ってっちゃったんだな」
ガルフォンは落胆している夕莉の肩をポンと叩いた。
「まあ、夕莉の腕前ならまたとれるさ。今度は気をつけよう」
「…うん」
そう言った夕莉の顔色はどこか悪い。7時間以上歩き続けて疲れたのだろうか。ならもう切り上げようか。
「サイズと歩幅的にそんな大型でもなさそうだな。でも肉食なのは間違いない。俺なら多分戦っても勝てるだろうけど夕莉は今後1人で森を歩くなよ?」
「うん…」
そんな感じでこの日の狩猟の成果は薪拾いで終わってしまった。せめて罠を作りたかったけれど、スコップもない状態では穴をろくに掘れない。これは明日以降も厳しいかもしれない。
帰り道、ガルフォンは小さくため息をついた。これからのことで不安がいっぱいだった。自分、と言うよりも皆のことを案じていた。
前を歩くハールドは特に落ち込んでもいない。いつも通りのマイペースを維持している。だが、自分の横の夕莉の方は明らかに疲れ切っていた。虫を追い払う気力もないのかまとわりつかれても黙って足を進めるのみだ。
(夕莉は多分肉が食べたかったんだろうな)
そしてそれは夕莉だけではない。ガルフォンも、そしてライオネルもだ。肉がないと分かったらライオネルはまたヘソを曲げるだろう。エイザクは…不満は言わなそうだが落胆するに違いない。クリスティナローラもきっとそうだ。体力維持に肉は不可欠だから。イチアールは…草食で文句は言わないかもしれない。
(努力が成果につながらないってしんどいな)
薪を担ぐ腕が重い。痛い。ひょっとしたらまた擦ったかもしれない。血も出るかもしれない。それでも、あいにく救急箱や消毒液がないから自然治癒を待つしかない。
ガルフォンは、自分が不平不満を言うべきではないと思っていた。痛みも堪え感じまいとすらしていた。だから「しんどい」は絶対他のメンバーの前では口にしない。自分がしっかりみんなの家政を取り仕切らなければならないから。
(頑張ろ…僕が頑張れば、きっとみんなで帰れる)
そう、フェアーナでまた仕事をするためにも、頑張って今の状況を乗り切らねばならないのだ。
決意を固めたガルフォン。その顔にどれだけの疲労が滲んでいるか本人は全く気づいていなかった。
ーー
山を出てすぐ、ガルフォンは目を見張った。
数十メートル先に小さく煙が見えたのだ。盆地の…野原から!
「は? あいつら何やってんだ」
「え、煙?」
困惑する2人を置いてガルフォンは即座に走り出した。
近づいていくと、エイザクとクリスティナローラがタオルケットで火を叩いて消そうとしていた。だがさっきから吹いている風のせいで火の勢いは強くなるばかり。ガルフォンは大声で叫ぶ。
「水は?! 水で消すんだ!」
「バケツ壊れてたでしょ! タオルケットに水染み込ませてます!!」
怒鳴り返してくるエイザク。2人の脇に、濡れたタオルを持ったライオネルが待機している。その顔はいつもの彼とは思えないほど意気消沈していた。
「煙吸ってないな?!」
「こんな屋外だから大丈夫ですよ! そんなことより煙が木星人に見つかったら大変でしょ!」
ガルフォンは湖に向かって走った。缶詰と一緒に弁当に持っていたペットボトルを握って。水が入っていたが今は空だ。
大急ぎで水を汲んで火にかける。何度も繰り返すと火は消えた。
燃えて焦げた草の中にピンク色の小さい塊が見えた。火の原因はライターだったらしい。
「誰も火傷してないな?!」
「ああ…」
火が消えたというのにまだ元気のないライオネル。元凶はきっと彼だろう。
「晩ごはんまだなのにどうして火をつけたんだよ。昼は果物って決めてたろ? 火使わないじゃないか」
「それは…」
ライオネルの話すところによると、エイザクと分担して調理器具を洗い、そしてドライフルーツを干していると意外に早く仕事がなくなったという。
エイザクはミーネの木に登って周囲を見渡し始め(その時に例のスケッチブックも持って行ったらしい)、ライオネルは特にやることもなくガルフォンらの帰りを待っていた。寝転んで空を見ているとふとエイザクが洗い忘れていたものに気づいた。
「それが…ライターだったのだ」
「なんでライターを洗うなんて思うんです。僕はそれを火がつくのか確かめるために持ってきただけなんですよ」
エイザクは呆れた顔をしていた。
「で、私は3つとも水につけたのだ」
「おお…」
「そのまま放置した」
「後で僕が昼を食べにきた時にそれを見つけました。びっくりしましたよ」
「エイザクは、すぐに水を抜いて乾かして火がつくか確かめろ、と言った。で、やむなく1時間ほど待った」
「ああ、それでライターが復活して火をつけたはいいけど、そのまま原っぱで燃え広がっちゃったんだね」
ガルフォンにはその光景が容易に想像できた。想定外の事態にライオネルがどれほど焦ったのかも。
「エイザクを呼んで2人で消火をしていた。そこにクリスティナローラも来て3人になった、で、おしまいにそなただ」
「僕が馬鹿でした。もうライオネルさんに火を任せるのなんてやめます」
エイザクはライオネルを一瞥し、そのまま地面にしゃがみ込んでスケッチブックをパラパラと見始めた。多分フェアーナでやってたみたいに、ここでも色々観察して書き留めているんだろう。
ガルフォンとしては、貴重な紙でそういうことをするのはやめてほしいところだ。彼の観察も研究も、今この地で生き抜くためになんの役にも立たない。実用的ではないのだ。
(まあエイザクも退屈なのかもしれないけどさ…)
だから、ガルフォンとしてもあまり厳しい言葉をかけられない。
「まあ、これからは火には気をつけてね」
「すまなかった…」
ライオネルが謝る。とてもしおらしい態度だ。普段が自信家なだけに、自分のせいで木星人に見つかったらどうしようと不安なのかもしれない。
「悪いことばっかりじゃないさ。ドライフルーツの方はちゃんとやってくれてたんだよね」
「そっそうだ! 向こうに置いてある!」
自分の成果を思い出して元気を取り戻したのか、ライオネルはパッと顔を明るくしてガルフォンを案内した。
焼けた場所から数十メートル先にあったのは、平べったくて大きい石とそこからずり落ちた焼き網だった。
「どうだ、素晴らしいだろう! この石で土台を…は?」
「え…ここで天日干ししてたんだよね…ミーネどこ?」
焼き網の上にも近くにも、ミーネのカケラすら見当たらなかった。石をどかしてもそこにも何もない。
嫌な予感がしてガルフォンは地面を調べた。するとやはり…そこにも足跡があった。森で見たのとは違うものだ。よく見ると焼き網にも蟻がついていた。
「あーやられたなこれ!」
「ま、まさか火事で騒いでる時に…」
「ミーネは見張っといてくれよな〜はは…」
ライオネルのために苦笑しているが実際には笑えない。
自分が早起きしてとってきた実。結構たくさんあったのに、それが全部害獣によって食べられてしまったのだ。正直、畑が食い荒らされた時よりひどく落胆していた。顔には出すまいと頑張っていたけれど。
ーー
結局、晩御飯は果物の缶詰2つ分と、携帯食料2つを湯で溶かしたオートミールのみだった。
みんなが空腹なのは分かっていたしガルフォンもそうだった。だが、獲物が取れず保存食も作れなかった。おまけに缶詰の数に限りがある以上、少しでも節約して食事を取る他ない。
少ない食事にみんな不満そうな顔はしたが誰も文句は言わなかった。疲れた顔で淡々とオートミールをすすり保存料の味がする果物を噛む。
スプーンもフォークもないので、みんな鉄串1本で食事を口に運ぶ。ちなみに取り皿もないので、皆使い終わって洗った缶にオートミールを入れて飲んでいた。
「…痛い!」
不意にライオネルが缶から口を離し叫んだ。手の甲の端から血が滲んでいる。缶の口で切ったらしい。
「しょ…消毒液…」
「ないんですよ」
イチアールが首を振った。
イチアールは日中ずっと船のエンジンの修理をしていてくれたのだが、彼女曰く「1週間では直りそうもない」とのことだった。それは非常に残念な知らせだったがわずかな喜びもあった。
「今、僕らが帰っても大丈夫な状態になってる?」
「ええ、目処つけて片付けをして終わってます」
寝る場所は今まで通りで大丈夫らしい。修理が済んでなくとも安全に寝られるような中断の仕方をしたという。
もう一ついいことがあった。朝から夕方までトレーニングをしていたクリスティナローラだが、ランニングの途中に腕くらい太い薪を何本か見つけていたのだ。だから薪は長時間燃え続け、食事中に日が暮れても7人の周りは明るかった。
「これから、クリスティナローラに薪を集めてもらうのはどうであろう。ガルフォン達は狩猟に集中できる」
「その方が効率的ですわね」
ライオネルの提案のおかげで、ガルフォンが彼女に注意するタイミングを逃してしまった。
「朝ね、クリスティナローラさんがいないからみんなびっくりしたんだよ」
「そんなもの、トレーニングに行ったに決まっているでしょう。私の日課です。体を鍛えて敵が攻めてくるのに備えねばなりませんわ」
夕莉の若干責めるような言葉にも、クリスティナローラは全く悪びれることはなかった。
ーー
食後、ガルフォンは急いで調理器具を洗った。それが済むと、イチアールが近寄ってくる。
「もう船に戻りましょうか」
「だね」
肉食獣や害獣がいると分かった以上、昨日のように暗い外に長時間いるのは危険だ。それに気温も下がっているし虫の羽音が昼間よりひどい。
イチアールは火を消して、皆に船に帰ろうと呼びかけ始めた。
ガルフォンは先に年少3人組を連れて戻り始めた。
「ねえエイザクさん何描いてたの?」
「あ、ちょっと!!」
歩きながらずいいと身を乗り出す夕莉。珍しく焦ったエイザクは、バッとスケッチブックを隠して走っていってしまった。
「いや、上手かったよ絵。なんであの人恥ずかしがってるのさ」
「さあな」
特に興味なさそうに答えるハールド。その口はモゴモゴ動いている。ガリっと何かを噛む音がした。
「ええ…もしかして砂食べてるのか?」
「違うって。虫だ。さっき見つけた」
どちらにせよあまり食べてはいけないものだ。
「毒持ってたらやばいからあんまり食べない方が良いと思うぞ」
「山でも一匹食ってるけど、特に俺の胃はおかしくなってないぜ」
ハールドの顔はケロリとしていた。
ーー
就寝の時間になった。
(いや、寝られない)
疲れているが、それ以上に空腹が堪えた。腹が減って眠れないのだ。
「うー」
何度も寝返りを打つ。その度に何も敷いていない背中が痛んだ。
「いや、みんなだって同じだ…同じように辛いんだ…」
「明日また早く起きてミーネ取りに行かないといけない、頑張って寝なきゃ…」
何度も何度も呪文のように自身に言い聞かせ、ガルフォンは薄っぺらく体を覆うには不十分なタオルケットを握りしめた。
◇◇
いや、寝られない。
何でだろ。色々不安を抱えているからかな。
腹痛も頭痛も時々やってくる。明らかに体調が昨日より悪化してる…。
心の不健康が身体にも影響してるっていうなら、もう明日には決着をつけたほうがいいのかな。
次回、第3章のクライマックス!




