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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
7/107

チョコレート

「地球へ行くって言ったのが間違いだったのかな。行き先はむやみに明かすもんじゃないなあ」

遠ざかって行くグリーン星を見つめながら、宇宙を進む真空レールの個室でスピッツは自問自答していた。今、この個室には他に誰もいない。

「いやいや、その前に私がしっかりしていれば良かったんじゃないかな」

何度考えても出てくる結論はそれである。

(ああ〜、情けない)

それでもまあ、あの男を巻けたのは良かった。後をつけられたりしたら色々と厄介だ。

「上手く活用できてよかったよ」

腕や耳と太さ・長さの変わらない脚を叩いて言う。スピッツら兵士ウサギは並の人間よりも足が速い。一旦走り出したら乗り物を使わない限り誰も追いつけないほどに。


「で、あの男は何だったんだろうなあ…」

不審者であることは疑いがない事実だ。問題は素性である。

(別に普通の容姿だったし、グリーン星人かな? いや、案外外星人だったりして)

思考はやがて、最悪の方向へ傾いて行く。

(まさか、木星人とか?!)

木星人の外見は、グリーン星人とそんなに変わらないという。

(テレビ情報だけど…。まさかね。だってどの便も木星には絶対止まらないから、乗り込んでくることもないはず…)

それでも現に、グリーン星にはどこからともなく現れ攻撃を仕掛けてくるではないか。

(分かりません、全然)

嫌な予感だけはする。とりあえず、帰ったら隊長に報告書を書こう。そう思った時だった。



コンコン。廊下からノックの音。続いてスピッツの返事も待たずにドアが開いた。

「俺自由席だからな。ここ一人分空いてるな。入っていいよな?」

グレーのジャケットによれよれのズボンという格好の大柄な男性が入ってきた。肌色の肌に目は二つ。まあまあ鋭い目つきで、顎が無精髭に覆われ、怪我でもしたのか額には包帯を巻いている。そして左手に大きめの風呂敷を抱えていた。

スピッツが何も言わないうちに、どっこらしょと向かいのソファーに腰を下ろし、親しげな目でスピッツを見る。いかにも人懐っこそうな感じ。悪い人ではなさそうだ。

「参ったよ。フェアーナから乗ったんだけどさあ、ここに来るまで全然部屋空いてなくって」

「そ、そうでしたか」

見た目と違って緩めの口調。スピッツの胸の中に安心感が生まれた。

「どこまで乗ってくんだい? ちなみに俺、終点まで」

「えーっと…」

ここは教訓の生かしどころである。

「次で降ります」

「じゃあ、エナンナ星行くんだな。旅行とか?」

「はい、気分転換です!」


言ったからには降りなければならないが、個室内の路線図によるとエナンナ星からでも地球に行ける。

(エナンナまであと五分かな。そっから降りて地球まではどのくらいなんだろ)

料金については追加で払うなんてことはない、と思う。通過するはずだった星で一旦降りるだけで、目的地は変わらないからだ。



「寂しくなるな。せっかくの旅の道連れができたってのによ」

男性はそう言いながら風呂敷の中に片手を突っ込み、ピンク色の四角く平たい包みを取り出した。

「よかったら、今からちょっと食わないか?」

包みにはチョコレートと書いてある。

「い、良いんですか」

「ああ、腹減るかもって思って買ったんだけどよ、ちょっと多すぎたみたいでな」

歯をむき出して笑う。スピッツはゴクリと唾を飲み込んだ。空港では、バタバタして何も買う余裕がなかった。しかも今、ちょうどお腹が空いてきたところだ。

「じゃ、じゃあいただきます!」

「おうよ」

が、男が包みを解こうと身を乗り出したその時、メロディーが流れた。男は胸ポケットに手を突っ込む。

「あ? 着信かよ。しょうがねえなあ…悪い、先食っといてくれ」

「あ、はい」

ドアを開け、男は廊下に出て行く。残されたスピッツはチョコレートを食べる前に、男の風呂敷包みに目をやった。隙間から覗くチョコレートやビスケット。たくさん買い込んだというのは本当らしい。

「じゃ、これ丸ごともらっても良いよね?」

多分怒られないだろう。にんまり笑ってチョコレートに手を伸ばす。ところがここで、またしても邪魔が入った。

「本日は、真空レールをご利用いただき、誠にありがとうございます。まもなく、エナンナ星エナンナ空港に到着いたします。危ないですのでベルが鳴るまでは、お席に座り出入り口付近に立たれることのないよう…」

「あ、もう着くのか」

肩掛けカバンの中を探り、チケットとお金、武器等が入っているかを確認する。

「食べてる時間とかなさそうだな」

チョコレートもカバンに突っ込んでおいた。

「エナンナ空港、エナンナ空港でございます」

ベルが鳴った。もう着いたらしい。スピッツは忘れ物はないかとソファー付近を見回した。

「太陽系経由、ポントワール星行き発車しま…」



どうやら、そんなに乗客がいなかったらしい。急がなくては降りそびれる。

(ホントは、ここで降りるつもりじゃなかったけどなあ…)

せっかくさっき頭の中で組み立てた乗り降りのスケジュールが無駄になってしまうのはもったいない。それに、どうせ星外に出たのだから、少しでも多くの星に寄って行きたい。そんな好奇心も確かにある。

ドアの方に目をやる。男はまだ話し中らしい。挨拶とお礼を言いたいが、電話を遮ることになるかもしれない。

(静かに横を通らしてもらお…)

プルルルルルー。

「ドアが閉まります」

「やばッ」

かすかに動き始めた真空レール。スピッツはとっさに窓を開け、エナンナ空港の床に身を投げ出した。

エナンナとかポントワールはストーリーとあまり関係ないので、覚えていただかなくても結構です。

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