知らぬ間に
普通に置いて行かれたライパミーナドの話。
ローブを着た人物が格納庫に入ってきた瞬間、兵士たちが天井裏・壁から降りて行った。兵士の一人が何か報告すると、ローブの男は足早に格納庫から立ち去っていく。しばらくして兵士たちも皆格納庫を後にした。
ライパミーナドはホッと息を吐いた。そして周囲に誰もいないのを確かめトランシーバーのスイッチを入れようとする。
「!」
肩を叩かれた。驚いて顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
「お待たせしました。彼ら、先に行っちゃいましたね」
「まあ仕方ないさ。おつかれ、早かったね」
ライパミーナドは柱から出た。すぐ側の機体に乗り込み追跡装置を探す。自分たちもこの船ですぐに逃げなければ。
「僕は、異邦人たちが第2格納庫に辿り着くのを後ろから見守ってたんですよ。ハッキングの方は大丈夫でした?」
「うん、どうにか終わった。みんな無事に例の船に乗って行ったけど…」
フリージー星人はふうと息を吐いてライパミーナドに横に座り込んだ。そのまま武器の整備を始める。ライパミーナドは訝しく思い彼をまじまじと見た。
「後ろから見守ってたって、君は合流しなかったの? あの子は私達のことを知っているだろう? 他の異邦人を上手いこと言いくるめてくれるはずだが」
「合流したかったんですが、六人の他にも一人女がいましてね。僕はそいつに会うわけにいかなかったんですよ」
「女性?」
「あいつ、多分予備隊兵士ですよ。聴力良さげだし。というかずっとここにいたなら貴方からも見えたんじゃないですか?」
見張られてはいたが、一応ライパミーナドは柱の影から六人が格納庫で例の大型の船に乗り込んだのは確認していた。何故か7人目がいることも。だが、そいつの顔や姿形まではここからでは分からなかったのだ。ゆっくりと見ている暇もなかった。
「一人多いのは分かってたよ。でも、六人が木星人の捕虜を連れてるのかと思っていた」
「木星人で女の兵士は見てませんね。だから絶対グリーン星のウサギですってば」
「ああそう…。まあこちらとしては、異邦人がフリージー軍と合流してしまえばいいのさ」
正直、ライパミーナドはその点について懸念はない。予備隊訓練所に忍び込んだ際に彼はある情報を入手していた。なんと、星外に派遣された予備隊兵士がいまだに帰って来ていないという。
これで分かった。木星人の仕業だったのだ。多分フリージー星人のいうウサギとは、木星人に誘拐されて上手いこと脱走した予備隊兵士の一人だろう。
「そのウサギは誘拐されただけで、異邦人救出のためにここに来たわけじゃないさ」
「まあそうでしょうけど」
「あの子が上手くやってくれるよ。それにロボットも一緒に乗ってる」
今、ネズミ型ロボットは停止して録音モードに入っている。
懸念があるとすれば追跡装置だ。ライパミーナドはフリージー星人に、兵士が追跡装置を取り付けていったことを話した。
「あーすんなり逃したと思ったらやっぱり!」
「見張られているから私も動けなかった。追跡装置をつけたままペルミネに行ったらやばいね」
とは言え、彼ならあっさり逃げることができたことに違和感くらい持つだろう。船中を探し、ペルミネに着く前に追跡を止めるはずだ。
カチ、と音がして追跡装置が外れる。ライパミーナドはフリージー星人を手招きした。
「ま、我々の役割はこれで済んだ。あとは例の捕虜を連れて脱出だ」
「ウサギに連絡しますか? あいつもこちらに向かってるはずですが」
「うん。異邦人は無事に出立した、こちらの乗る船も準備できたと言っておいてくれ」
フリージー星人がスピッツに連絡を入れている間、ライパミーナドは柱の向かい側の隅にある工具入れに向かって歩いて行った。
□□
基地に向かう間、拘束した木星人の身柄をどうするかで3人は少々揉めた。
「こいつの指紋が必要なのは分かりました。でも、それから先は生かしておく意味がありますかね」
「生かしておいて後で後悔する、なんてことになったら嫌です」
フリージー星人とスピッツは木星人を殺すべきだと主張した。
「いや、意味はあるよ。色々聞き出せる」
「どうせ何も喋りませんよ」
フリージー星人はライパミーナドの意見を真っ向から否定した。
「それに、異邦人を救出している間こいつはどうするんですか。こんな凶暴な奴の管理なんてできませんよ」
「責任は私が持つよ。それにね、私はこいつの身体の研究をしたいんだ。何故木星人がグリーン星人より強いと言われるのかとても興味がある」
「いや、貴方の研究者魂はいいですから」
「いやでも…」
ここでスピッツの風向きが少々変わった。
「こいつは貴重かも。今まで木星人の捕虜を取った星はどこにもないんですよね」
木星人兵士は負けそうになると自爆して捕虜にならないようにする、という話を聞かされたとスピッツは語った。事実、彼女も木星人の捕虜を見たことはないとか。
「だから、生かしておくのはいいかもしれません」
「2対1だ。決まったな」
「はー、知りませんよ全く」
こんな感じで、木星人兵士は生かされることが決まった。
ーー
だが今、ライパミーナドは大いに後悔している。
木星人を縛って工具入れの影に隠しておいたのだが、今見たらそこには縄の残骸が散らばっていたからだ。
何が起こったのか瞬時に悟り、彼はポケットの録音機を見た。そしてそれをつけようとした時、格納庫の入り口からいくつもの足音が響いた。格納庫に木星人たちが踏み込んできたのだ。
兵士たちは格納庫の入り口出口の全ての扉を閉じてその前にずらりと並んだ。
◇◇
自室に戻った司令官はスクリーンを睨んでいた。しばらくしてスクリーンに副司令の顔が映る。
「お呼びでしょうか」
「18002に退去命令を出したか?」
副司令は突然の質問に困惑したようだった。
「18002? いえ、偵察の任務は解いていません」
「だが今奴は異邦人たちの船に乗り込んでいる」
「え…」
「つまり、無断で基地に戻ってきたということだ」
「何という妨害を…」
副司令の顔が怒りで赤くなった。
「確認する。お前は18002には次の攻撃目標の偵察を命じていたな?」
「はい」
「あいつは数週間は戻ってこないはずだった」
「任務を放り出す役立たずはすぐにでも処分を…」
「そういうことではない!」
司令官は拳を固め机を叩いた。その気迫に押され、副司令は口をつぐむ。
「どうしてあいつは帰ってきた?!」
「…何か向こうで異変でも起きてそれを知らせようとしたのでしょうか」
「だとしたらトランシーバーを使えばいいだけの話だ」
司令官は副司令の察しの悪さに苛立っていた。どうしてこの男はこうも頭が固いのか。
「奴は帰って来させられたのかもしれない」
「は…」
「何者かが18002のシップに乗って基地に忍び込んだ可能性があるのだ!」
副司令は一瞬目を見開き、それから考え込むように腕を組んだ。
「しかし、18002は生きています。侵入者が奴を生かしておく意味はあるでしょうか」
「18002が乗って行ったのは兵士専用の個人機だ。奴の生体指紋認証がなければ乗降口は開かない」
それに、と続ける。
「あいつを尋問して何か聞き出すつもりだったのかもしれない」
副司令は息を呑んだ。
「18002が侵入者の手を逃れ異邦人たちと対峙している、というのが現状なのであれば、今その侵入者は基地のどこに潜んでいるのでしょうか」
「…倉庫で私を狙撃したのはあの若葉色の予備隊兵士だと思っていた。だが、そうではない可能性が出てきたな。とりあえずは倉庫を中心に探せ」
あいにくと、狙撃者の姿が見えなかったのであれが侵入者かどうかは分からないのだが。
「格納庫は閉鎖させてあるから侵入者は逃げられない。各部隊長に基地内を探させよう。倉庫にはA隊の大尉、監房区奥にC隊大尉、医療棟にE隊中尉。お前は倉庫から帰ってきていい」
「え…は、はっ」
副司令は腑に落ちない顔をしている。その任務は自分にも与えられるものと思っていたのだろう。だがしかし、侵入者探しは勿論、もう一つやることがある。
「侵入者が出たということはグリーン星、もしくは他の星がここを突き止めたということになる! ここから比較的近距離にあるすべての星に偵察を出せ!」
「はっ!」
「どんな小さな星も見逃すな! ここに攻めてくる気配がある場合、無人のはずの星に基地がある場合などはすぐにお前が自ら軍を率いて殲滅するのだ!」
司令官は副司令が現場に強いことを重々承知でいた。この任務は副司令にしか任せられない。
「分かりました。では、異邦人はいかがいたしましょう」
「現状のままでいい」
「しかし18002が異邦人を殺してしまう恐れは…」
「あいつは怒りで我を忘れただけだ。いくら爆弾で脅しをかけようが、一人であの異邦人達に勝てるわけもあるまい」
実際、そこについてはあまり心配していない。司令官はリモコンを手に取った。
「ともかく、お前は軍の編成に当たれ。以上だ」
電源ボタンを押してスクリーンを切り、司令官は今後の予定を組み立て始めた。
B隊大尉は監房区奥でイチアールに撃たれたやつです。




