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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
68/107

乱入者

お久しぶりです。

今年からはなるべく投稿のペースを上げるつもりです。

4人いた。王子と農民と念力使い、それに見知らぬ女。木星人の軍服を着ているが、3人が騒がないので敵ではないのだろう。

(脱走兵? …いや、グリーン星のウサギか!)

例のピンク色のウサギが、軍部の命令で木星人の拠点を突き止め追いかけてきたのだろうか。となると他にもグリーン星の兵士が来ているのだろうか。詰問してやりたいところだが、今はそんな時間などない。


「クリスティナローラ、無事だったか!」

「急いでここから脱出しましょう」

クリスティナローラは、歓喜の表情を浮かべるライオネルを一瞥すらせず格納庫の奥に向かった。


「夕莉、怪我ないか?!」

「あ…あ…ハールド…」

さっきまで放心状態で走り続けていた夕莉は、ハールドの顔を見るとほっとしたのかその場でワッと泣き出した。ハールドは彼女の肩を掴み体を支える。

「怪我はないんだな。なら泣くな。大丈夫だから落ち着け」

「でも…」

「いいから逃げるぞ」

足元のおぼつかない夕莉の手を強引に掴み、ハールドはクリスティナローラの後を追った。戸惑いつつも夕莉はその手を振り払おうとしない。そんな光景をライオネルがどこか羨ましげに眺める。



ライオネルがクリスティナローラに恋情があるのは見れば明らか。ハールドは夕莉のことになると冷静ではいられない、というのも最近知った。そしてガルフォンはといえば、赤の他人のために木星人の虐殺現場に踏み込んでいく身の程知らずの大間抜け。


こんな3人だからこそ、先に脱出せずにいつ敵が踏み込んでくるとも知れない格納庫で待ち続けるという選択肢を取ったのだろう。なんとも愚かだと思う。

(僕たちは置いてく気満々だったのにな)

エイザクは冷笑を漏らした。もしも待ち続けた彼らが襲撃されて死んだとして、自分が罪悪感を感じるかと言われれば。答えは否、だ。


彼らはあくまでも協力者であって仲間ではない。そもそもエイザクに仲間などいたことがない。これまでも、そしてきっとこれからも必要ない。

自分のことだけを考えて生きる。それができないのは他者に自分の生を左右させてしまう愚か者だ。



「エイザクさん?」

前方の声にハッとして顔を上げると、夕莉が遠くからこちらを見ていた。いつのまにか足が止まっていたらしい。

「どうしたのさ。早く歩いてよ、敵が来ちゃう」

(そうだ、今は急ごう)

考え事に熱中してやりかけのことが止まってしまうことなんて多々ある。そしてそれを指摘する大人もいっぱいいた。直す気なんてさらさらないけれど。



◇◇

一人か二人乗りの小型船ばかりでイライラしていたが、「これがいいんじゃない」と夕莉に勧められ即決しその大型の宇宙船に乗り込む。そして迷わず運転席に直行した。今の状況で唯一運転ができるのも、普段から運転が一番上手いのも他ならない自分である。そう、クリスティナローラは胸を張って断言できる。


「あ…ぐ…」

「しっかりするんだライオネル!」

「ラ、ライオネルさん…こ、ここに横になって!」

家一軒分くらいの大きさの宇宙船だったので床のスペースが非常に広い。大きめのソファが取り付けてあるのでライオネルはそこに寝かされているのだろう。

「ライヨルさん、ごめん! ライオネルをソファーにしっかりと固定するまで出発は待ってくれないか?! 急に揺れたら床に投げ出されるから!」



(…愚かな方)

ベルトを締め、船のエンジンを温め始めながらクリスティナローラは思った。

怪我が酷いならさっさと脱出していれば良かったのだ。そうすれば少しでも早くグリーン星に帰れるし、自分たちの手を煩わせることもなかったのに。チームの足手纏いになることは、非常な迷惑であり不名誉なことだ。もし自分が逆の立場なら迷わずライオネルを置いていくだろう。


ただ…怪我が辛いのに待ち続けるという行為にもまた、それ相応の覚悟が必要であることも認めよう。あの王子がそこまでして残り続けたのは、仲間である自分たちを見捨てて行くことができない性分だからだ。

(殿下如きに心配されるような実力ではありませんが。むしろご自分を心配あそばせ)

そう言ってもライオネルは「だが!」と食い下がるだろう。彼はしつこいのだ。いつかの怪我を手当ての際にそのことを思い知った。


ライオネルは自分の無事な姿を見たらいつもいつも安堵したように笑む。

格納庫前で落ち合えた時のライオネルの心底嬉しそうな笑顔を思い出し、クリスティナローラは頭を振った。



「終わった! クリスティナローラさん、出発お願い!」

振り向くとソファーのそばで夕莉が手を振っている。ガルフォンもすまなさそうな顔で頷いている。

「出発の前に皆さんベルトしてください! 怪我しますよ!」

見知らぬ女兵士が一人一人に注意して回っている。木星人の格好なので脱走兵だろう。

「ほらほら、ガルフォンさんも着席着席!」

「でもイチアール、ライオネルを支える役がないと」

「ライオネルさんならこんなぐるぐる巻きにすれば大丈夫ですってば!」

ガルフォンが渋々了承しソファーの裏側のシートに座る。女兵士が操縦室に繋がる扉を閉めながら「皆ベルトを締めましたよ」と言ったので、クリスティナローラは少し待ってから脇のセレクトバーを動かし「離陸準備」に合わせた。


機体が振動し始めた。格納庫の出口への前進。目の前の大きなパネルに次々に操作ボタンが浮かび上がってくる。さっと目を通し主要なものを頭に入れる。

宇宙空間に繋がる出口まで来るとパネルにそこの扉の画像が表示される。扉の下の点滅している矢印を押せば、信号が出て出口の扉が上に開くらしい。ボタンを押そうとして一瞬惑う。


(木星人は私たちが逃げようとしているのにどうして止めないのかしら)

安易に扉が開くのも追っ手がかからないのもあまりに都合が良すぎる。だがその困惑は本当に一瞬のものだった。木星人とて人間。手落ちくらいあるだろう。策略には向かない彼女の頭はすぐに、運転に集中するべく切り替えられた。


そしていざ扉を開こうとしたクリスティナローラの耳に、乗降口の方からありえない騒音が聞こえてきた。



□□

◇◇

18002が意識を取り戻した時、最初に感じたのが寒気と息苦しさだった。真っ赤な視界、さらに体をきつく締め付ける感触。軍服が剥ぎ取られ、猿轡と目隠しをされた上に縛られていることに気づく。一体どうしてこんなことになっているのか。

(ああくそ…あいつらか)

暗闇の中で自分を襲ってきた輩のことを思い出した。


あの時、敵が少なくとも3人いた。3人目の男が「北大陸に出発だ」と言っていたので、きっと自分のシップを奪って勝手に運転したのだろう。

(しかし…なにもんだったんだあいつらは)

姿を捉えることができたのは自分を襲ってきた一名のみ。暗かったがあの男の服装はグリーン星兵士のそれではなかった。それに…。


物音がしてそちらの方に顔を向ける。すると、縛られた体がグルンと回転し硬いものにぶつかった。そこでやっと自分が床の上に転がされていることを知る。ぶつかった箇所がひどく痛かった。硬くしかも尖っていたから金属か何かだろうか。

(何かの…部品か?)


ともかく、ここが木星人の基地の一角であることはなんとなく想像できた。敵が自分を殺さない理由は情報を吐かせるためだろうか。今のところ周りに人の気配はないが奴らは戻って来次第自分を尋問・拷問するかもしれない。

あるいはその前に誰か同僚が自分を発見するのだろう。そして拘束を解き、「偵察すらできないボンクラ」と皆の前で嘲笑う。さらにあの冷徹な司令官。今度はどんな厳罰を言い渡されるか…。


18002は急いで縛られた体を回転させ、視界を閉ざされたままさっきの尖った金属を探した。これ以上笑い物になりたくない、罰されるわけにもいかないと必死だった。

(縄を切って誰にも気づかれずにフェアーナ国に戻ればいい。そうすれば誰にもこの失態を知られねえ)

縄を切ろうともがくがただただ彼の躯体は空振りを繰り返した。骨盤を何度も地面に打ちつけ、非常に不愉快な痛みに悶える。



「クリスティナローラ、無事だったか!」

突然大声が響く。若い男の声だ。どこかで聞いた覚えがある。

しばらく間を置いてから今度は別の声がした。

「どうしたのさ。早く歩いてよ、敵が来ちゃう」

それっきり声は聞こえなかった。


(クリスティナローラ?)

それは明らかに女の名前だったが、木星人は女を兵士にすることはない。軍に慰安婦を同行させることはあるが、その女たちは兵士と同じく番号で管理され名前で呼ばれることはない。つまり今さっき名を呼ばれたであろう女は木星人ではないのだ。

(…異邦人か!)


基地に連行された異邦人が脱走しようとしている。ひょっとしたらここは格納庫なのかもしれない。奴らは船を奪って逃げるつもりなのでは?

(となるとさっき聞こえた声の一つは…)



18002は激しくもがき、やっと探り当てた金属にがむしゃらに縄を擦り付けた。

フェアーナ国に戻るつもりだったけれど、予定変更だ。



ーー

◇◇

座席に固定された体がゆさゆさと左右に揺れる。紐が肩に食い込み若干の痛みを感じる。

前進するのをやめ一瞬止まった機体。離陸が始まったのだ。


ライオネルは頭を起こし、シートに座るガルフォンに話しかけた。

「これ…で脱出できる…な」

「黙れ」

ガルフォンが返事をする前に口を開いたのはハールドだった。彼は床を見つめ無言でシートベルトを外す。


「ハールド貴様…」

「ちょ、ハールド何してるんだ!」

ガルフォンの静止を無視してハールドは座席を立った。

「え? え?」

夕莉も戸惑ったような表情を浮かべる。さっきまで夕莉の横に座っていたイチアールは…席にいない?


「夕莉はそこから動くな」

「え、ちょっと…まさか…」



夕莉のその先の言葉は聞こえなかった。彼女の言葉を遮るように響いた、何かを強引にこじ開けるノイズ。そして大音量のどら声。



「異邦人だあああ!」



「っ木星人か!!」

ライオネルは再び首を動かして数メートル先の床を見た。黒い作業服を着た男が乗降口から這い上がっていた。男の額に光るのはあの金の目だ。



ハールドより先に動いていたイチアールが軍用ナイフを抜いて男に飛びかかる。だが、腹を殴られて壁に叩きつけられた。

「「イチアール!!」」

「敵ですか?!」


ガルフォン、夕莉の叫び声と扉越しのクリスティナローラの声が重なった。咄嗟にライオネルは痛みも忘れ叫んだ。

「クリスティナローラは来るな!!」

「殿下!」

「此奴は我々で始末する! そなたの役目は運転だ! 木星人の仲間が来る前に脱出しなければならない! いつでも飛べるようにそこで待機しておけ!」



「その声…ずっと探してたぜぇ」

木星人は乗降口の前から離れ、ライオネルの括り付けられているソファーに近づいてくる。

「私を狙っていたと? まあ、天王星の王子ともなれば懸賞金が高いだろうからな」

「ああ? 知らねえよンなこと。てめえは…」


突如、ソファーの影に潜んでいたハールドが飛び出した。対応の遅れた木星人に足払いをかけ床に叩きつける。

その後ろでイチアールが這って床を進んでいるのが見えた。苦しそうな表情をしながらも乗降口にたどり着き、腹這いになって乗降口を塞いだ。


すかさず、ライオネルは操縦室に向かって叫ぶ。

「クリスティナローラ!」

「参ります!」



轟くエンジンの音。機体が地面を離れ、宇宙空間に飛び出していくのが分かった。

ソファーに背中をくっつけていても浮遊感は消えず体も不安定に揺れる。座席に座っていないハールドは、振動に耐えきれず二、三度バランスを崩してよろめいた。

そんな中、木星人は押さえつけようとするハールドの手をくぐり抜け壁に張り付いた。そして右手を前にかざす。握られているのは銀色に光る丸い物体だった。


「これが何だか分かるよなあ?!」

「ハールド待って! あれ爆弾だよ!」

構わず飛びかかろうとするハールドを夕莉の声が静止する。

「起爆させりゃこの船ごと木っ端微塵よ。さあ分かったら離れな!」

「…」

「私も使ったことがあるの! ハールド、そんな至近距離にいちゃいけない! 一旦離れて!」

夕莉の必死の説明を受け、ハールドは木星人を睨みつけながら二、三歩後ずさった。



木星人はハールドの前を通ってソファーに向かって歩いてきた。近づいてくるに連れ、その顔に青筋が浮かんでいるのが分かった。

「私を殺したいのか? 金のためではないというのならば私怨か? だが私はお前に恨まれる覚えなどない」

「俺の顔を忘れたとは言わせねえぞ」

「私はお前など知らない」


ライオネルには木星人の知り合いはいない。他星に侵攻し住民に被害を及ぼす輩などと関わりたくもない。自分に対してなぜか腹を立てているらしいこの男についても全く心当たりがなかった。


「その爆弾を使えばお前も共倒れだ。悪い事は言わない。大人しく降参するがいい」

「てめえに指図は受けねえ。命乞いをするのはてめえだ」

「卑劣な輩に命乞いなどしない」

「そう言っていられるのも今のうちだけだ。てめえのせいで俺は懲罰を喰らった。あの恨みを思い知らせてやる」


毒々しい金色の目がライオネルを睨んでいた。



◇◇

連絡を受けた司令官は第2格納庫内に入った。兵士たちが壁に取り付けられた梯子を降りてくる。彼らは壁から天井裏に移動して格納庫を監視していたのだ。こちらに気づいた部隊長が司令官の元に駆け寄ってきた。


「行ったか?」

「はい、滑走を始めております」


しかし、と部隊長は続けた。

「六人の他に予備隊兵士が一緒でした」

「予備隊兵士? ウサギか?」

「はい、木星人に扮していましたが第三の目にはウサギとして映りました」

「ふん…」


監房区奥に逃げ込んだ異邦人を追跡させた際に、監房の一つの扉が開いていたという報告を既に受けている。そこに収監していたのは確か若葉色の毛並みの予備隊兵士だったはずだ。倉庫のバルコニーで自分を狙撃したのもそいつなのではないかと司令官は予想していた。

「例の薬の袋の数も足りないとか。運搬中に奴が持ち去って化けるのに用いたと思われます」

「まあその点についてはいい。ところで追跡装置もアレ(・・)もつけたな?」

「はい。こちらをご覧に」


部隊長は司令官に一枚のパネルを差し出した。基地内を赤い点が進んでいくのが分かる。


「きちんと追跡できているようだな」

「はい」


異邦人たちは誰も木星の土地勘がないはずだ。異邦人たちはフェアーナ国に帰るために、グリーン星或いは出身星への行き方を調べようとするだろう。だが、アレ(・・)を設定する際にそのデータも削除させた。だから奴らは手当たり次第木星の支配の及んでいない星を探すしかない。フェアーナ国に帰るまでは時間がかかるだろう。

そしてその間にどんな会話が交わされるか…。



司令官は格納庫を出て通信室に向かった。中に入るとヘッドフォンをつけた兵士数名がコンピュータを睨んでいる。

追跡装置には盗聴器も付いていて異邦人たちの会話は丸聞こえなのだ。残りの国賓がどこにいるのか炙り出すため、一旦異邦人を逃して彼らだけの空間を作り喋りやすくなるようにした。異邦人が残りの国賓のことを喋り次第、彼らを船ごと確保。同時にグリーン星にも軍を送って残りの国賓を捕らえる。

(もし何も喋らなければフェアーナに帰り着く前に確保すればいい)


「…!」

突然兵士の一人が目を大きく見開き司令官を見た。かなり動揺しているようだ。司令官はすぐさまその兵士に駆け寄る。

「バレたか?」

「いえ…そ、それが…このノイズは…」


司令官はみなまで聞くことなく兵士の外したヘッドフォンをつけた。その耳に飛び込んできたのは聞き覚えのある大音量。


『異邦人だあああ!』


(18002、あいつか)

18002は異邦人相手に暴れ、挙げ句の果てにコイン型爆弾を起爆すると喚いている。しかも、基地を出て宇宙空間を飛んでいる船内で。そんななりふり構わぬ妨害行為だが、この時司令官に込み上げてきたのは怒りではなく焦りだった。

会話を遮らないよう、司令官は一言も発することなく動揺している兵士の目の前で紙切れにペンを走らせた。


“直ちに全格納庫閉鎖、次いで副司令に通信”


兵士は速やかにトランシーバーを持って通信室外に飛び出した。



◇◇

宇宙空間に抜けてすぐ、木星付近の星図がパネルに映し出される。赤く点滅している現在地は木星の衛星上の基地外部。

船を飛ばしたはいいが最初は焦った。クリスティナローラは太陽系にまでは船を飛ばしたことがない。それにグリーン星までの行き方をしらべようとしても何も出てこない。だが幸い「現在地」から小惑星ペルミネという星に至る航路データがインプットされているのを発見した。ペルミネという名前については聞き覚えがあった。降り立ったことはないがカルメヂと同じく太陽系外の星だ。これなら最短でグリーン星に帰れるだろう。


曲者がどうなったのか気がかりだが、ライオネルがああいう以上は自分は操縦席から離れられない。皆をグリーン星に連れていくのが自分の役目だ。

クリスティナローラは一息ついてからデータを開いた。

司令官の「焦り」とは…?

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