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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
67/107

つきまとう不穏

やっと続きを書けました…!

(にしても派手にやったなあ…)

じくじくと痛む指を押さえながら、エイザクは先ほどの逃走劇を思い出していた。金属が吹っ飛ぶ爆音。鋼鉄の扉に空いた大穴。無数の兵士たちの凄まじい叫び。これらが全て小さな爆弾一個でもたらされたものなのだ。

(うちの星でもあれくらいの兵器があればな)

携帯しやすいシンプルな作り。破壊力は抜群。一個サンプルにもらっていけばよかったと思う。だが今それよりも気になるのは。

「夕莉さん」

「なに」

「とっさの機転、見上げたものです」

隣にうずくまる同年齢の実行犯の青ざめた顔を直視することなく、エイザクはさらりと言ってのけた。

「お陰で助かりました」

「…」

返事はない。口をひき結んで答えようとしないのだ。

「で、夕莉さん」

「…」

「聞いてますか?」

「その話は後でもい」

「さっきのブツですが」

あからさまに嫌がっている彼女を遮ってエイザクは続けた。

「身体検査されてたのに、どこに隠してたんです?」

「…さあ、気がついたらあった」

「へえ?」

「…もういいでしょ」

「いや、それでもまだ」

「エイザクさん」

会話に水を差したのは、周囲に敵がいないか確認していたクリスティナローラだった。



(余計なことを…)



「もう少し休んだらここを出ましょう」

「出たら行く先は格納庫ですか?」

「ええ。適当なシップを選んでグリーン星に戻るのです」

「ですね」

次捕まったら本当に詰みだ。よって今は逃げるのが先決。六人揃うのを待っている暇などない。幸い、夕莉以外は皆宇宙船の操縦ができる。

(各自なんとかするだろうけど問題は…)



「シップで逃げても、この基地から遠隔操作されたら意味ないかもしれないですね」

「気づかれれば、でしょう? なんとか手近な星まで逃げてそこで乗り換えられれば…」

「一か八かの賭け、ですか」

「それしかないでしょう。それよりここで食料の調達もしておかないと」



クリスティナローラは取り返した銃を持ったまま、保存用食料と書かれた棚を一つ一つ見て回った。手を突っ込んでは奥の方を探っている。

「なんかあります?」

「…何か、はあります」

シップに積む分はもちろんだが、食べ物があるなら今口に入れたい。独房に入れられてから何も食べていないのだから。

ここで、エイザクはもう一度夕莉を見た。ずっと会話に全然参加しない彼女は、お腹が空いたとも言わない。ひたすら死んだ目をして黙りこくっている。

(一回爆破したくらいで堪えたのか。やっぱり一般庶民なんだな)

幸いクリスティナローラは席を外している。もう一度さっきの話題を振ってみようか。あれが単に火事場の馬鹿力かどうか、どうも気になって仕方がないものだから。

だがそのとき、クリスティナローラが戻ってきた。左手に黒紙に包まれた沢山の固形物を掴んでいる。右手には用心深く銃剣を持ったままだ。



「あったのは、こんなものばかりでした」

「非常食…なんでしょうね」

エイザクはそのうちの一本を抜き取り、しげしげと眺めた。黒一色の包装紙に包まれた端整な形の台形の食料。外側に原材料名は記載されていない。

「あとは水ですね」

数本のボトルもこちらに押しやってくる。透かして見たが濁っていない。飲めそうだ。

エイザクは黒い包装紙を剥がして中身を口に咥えた。

(どうやら雑穀を固めたものらしい)

あと、噛むのに力がいる。口触りが良くない。



こんなに口に力を入れたのは初めてだったが、やっとの事で最後まで食べ切った。

「味に期待してませんでしたけどここまでとは」

「仕方ありませんわね、ないよりましですから」

クリスティナローラは布切れを広げて保存食を包んでいく。いくつかは服のポケットに入れた。その際に、一瞬袖を確認したのをエイザクは見逃さなかった。

(さっきのガイドブックか?)

それもどさくさに紛れて取り戻したらしい。



「エイザクさんも、はい」

「どうも」

「夕莉さんもです」

差し出された一定量の保存食を、夕莉は受け取ろうとしなかった。

「夕莉さん?」

「ごめん・・・ちょっと待って」

うなだれたまま弱々しい声で呟く。膝を抱える手が震えていた。



「まさか、あんなことになるなんて…思いもしなかった…」

「さっきの爆発の件ですか?」

「…」

「至って合理的な判断、としか言いようがないです」

「でも…。確かにさ、扉を破壊したり木星人を殺したりすることは必要だけど」

私たちの中から死人が出たかもしれないのに。

最後の一言は、聞き取れるか聞き取れないかギリギリの音量だった。

ずっと思い悩んでいたのはそのことらしい。

(…人を殺したことすらないんだろう、うじうじしやがって)

独房から出た直後の怯えっぷりを思い出し、エイザクは頭を振った。何か言ってやる気はさらさらなかった。



一方、クリスティナローラは黙ったまま夕莉をじっと眺めていたが、そのまま食料を彼女の膝の上に置いた。


「いらないって…」

「これ以降、食料あさりはできないかもしれません」

「…」

「もし空腹を催されても、私は助けて差し上げません。エイザクさんも」

「…」

「動きたくないなら置いていきますが、あなたのために戻っては来ません」

「…」

「自分の持ち物は自分のもの」

「…」

「そして、自分の荷物は自分で持つものです」

自己責任。その言葉にはエイザクも大いに賛成だ。

夕莉は相変わらず黙ったままだが、目はクリスティナローラをしっかり見返している。そんな彼女にクリスティナローラはもう一度言った。

「これはあなたの取り分です」



「…」

夕莉は覚束ない手つきで、それでも差し出された食料を掴んだ。抱え込んでいた膝もゆっくりとだが崩し、いつでも立てる姿勢になる。

クリスティナローラは満足げに頷く。だがその表情もつかの間、すぐに素っ気ない口調で言い放った。

「もう少ししたらここを出ましょう」

「ですね」

「格納庫まで遠いですが、マップの通りに行けば迷うことはないかと」

「ほんと?」

「私はあなた方が着いて来てくださればそれで宜しいのです。取るに足らない戦力などは全く当てにしておりません。あなた方に望むことはただ一つ。足手まといになりませんよう」

そんなふうに、クリスティナローラは会話を一方的に終わらせてしまった。



エイザクは話題を変えることにした。

「一番近いのはどこの格納庫でしょう。第3…は遠いな、第5も」

「第2は?」

夕莉がずいいと身を乗り出してくる。そんなに早く脱出したいのか。

「第2ならここから近いよ」

「え…ああ本当ですね。この部屋を出て数十メートルくらいしたら着きますね」

「じゃあ急ぎましょう」

クリスティナローラはもう歩き出していた。続いて夕莉が、最後にエイザクが部屋を出る。



◇◇

「奴らの狙いは分かっている。船を奪って逃げる気だ」

「では、全格納庫を閉鎖しますか?」

「いやまて…」

司令官は悩んだ。単に異邦人たちを逃さないようにするのであればそれが一番有効的だ。しかしそれでは国賓は二人しか確保できない。

残りの二人を捕らえるのなら多少のリスクを犯してでも…。


「格納庫にいる兵士たちに伝令を」

「はっ」

「全ての船に追跡装置を取り付けろ。それともう一つ、設定してほしいものがある」



◇◇

ライパミーナドは絶賛格闘中だった。

容易ではないだろうと思ってはいたが、実際に船のハッキングは洒落にならないほど難しかった。ロック解除だけで20分もかかった。


「…で、ペルミネに到着」

プログラムを書き終えエンターキーを押す。…画面が初期の状態に戻った。

まただ。何度やってもプログラムが更新されない。

「これは…まずいぞ。一時を争うのに」


小惑星ペルミネはフリージー星の軍用基地で、グリーン星から見ても近い位置にある。ライパミーナドはそこに異邦人達を連れていくつもりだった。そしてそこに待機しているフリージー軍と会合してもらう。

そこまでしてやっとスタート位置につけるのだ。



「ああ…ひょっとしてプログラムを邪魔する障害でもあったか? まずそっちを解決しなければならないのか?」

もう一度最初から見直し。そしてやっとその障害を見つけてプログラムを終えた時、船の外から重金属の動く音が聞こえ彼はハッとした。これは格納庫の扉の開閉音だ。

「異邦人かな?」

スピッツとフリージー兵士が彼らを引き連れて戻ってきたのだろうか。一応2人ともプロの兵士だが、もっと時間がかかってもおかしくなかったのに。

(なかなかやるじゃないか、あの2人)


だが称賛のために開いた彼の口は、プライバシーフィルムを装着した窓から外部を見た途端に凍りついた。

黒い戦闘服の兵士が数名、いた。それぞれ大きな籠を両手にぶら下げている。その籠の中身は見えなかったが、彼らが何をしようとしているのかをライパミーナドは瞬時に悟った。



(うわ、追跡装置か。閉鎖よりはマシだが厄介だな)

格納庫閉鎖という手段を取らないのは、追い詰められたネズミの恐ろしさを身に染みて知っているからだろうか。報告にあった伯爵令嬢の並々ならぬ戦闘力を思い出しながら、ライパミーナドは兵士に見つからないようにそろそろとシップから降りた。

追跡装置を付けられるのは困るが、あの人数相手ではどうにもならない。一旦格納庫の隅に身を隠して、奴らが出て行ったら追跡装置を切ろう。



だが、そんな目論見は数分後に打ち砕かれた。

木星人兵士は1人ずつシップの内部に入っていった。そして出てきたはいいが格納庫の壁によじ登りそれきり降りてこようとしないのである。



◇◇

「はあっはあっ」

「格納庫はあと少しだぞ!」

ハールドはひっきりなしに喘ぐライオネルの体を引き摺りながら叫んだ。怪我をしている上にとっくに体力の限界を迎えていたであろうライオネルは自力で走ることができない。裏階段を登りきった時から、ハールドが彼の体を支えて走っている。


「ど…どれくら…い…だ?」

「そうだな500メート」

不意にハールドは口をつぐんだ。常人より遥かに高い聴力を誇る彼の耳を澄ます。

「どうし…た…きゅ…うに」

「黙れ」

前方から足音が聞こえる。一人のようだ。


ハールドはライオネルの体を地面に下ろしナイフを構えた。仄暗い蛍光灯に照らされた空間に目を凝らす。

「て…きか?」

「…」

こちらに向かってくる相手の姿を認め、ハールドはナイフをしまった。


「ガルフォン」

「ああ、ハールド! ライオネルも! 無事でよかったよほんとに!」

安堵の笑みを浮かべたガルフォンは、二人の元に駆け寄り駆け寄り地面に倒れているライオネルを抱き起した。

「怪我がまだ完治していないんだな? 苦しかっただろう?」

「そ…その方こそ…たった一人で」

「僕のことなんかよりライオネルのことが心配だよ。それに僕は実は一人じゃなかったんだ」

ガルフォンはライオネルをおぶってそれから天井を見上げた。

「仲間だよ。出てきて大丈夫」


数秒して、ガルフォンの真上から三メートルほど後方の天井の蓋が空いた。ハールドは即座にナイフを構えたが、ガルフォンがそれを制する。

「大丈夫、彼女は味方だから」

「そのとおりです」

蓋から飛び出してきたのは木星人兵士の服を着た少女だった。


「いや敵じゃないかよ」

「この服は死体から剥ぎ取ったんです」

「ガルフォン、なんなんだよこの女は」

「彼女は兵士だよ、グリーン星の」

「そうそう、今は化けてるだけです」

少女はハールドのナイフに臆することなく彼の方に一歩進んだ。


「イチアールって言います、よろしく」

イチアール。そんな名前のウサギが野営地に来たか? 警戒を解かないハールドを見やったイチアールは続けてこう言った。

「スピッツの同期です」

スピッツ。思い出したくない名前を聞いてしまった。非常に不愉快な気分になり、ハールドはイチアールに背を向けた。


「ごめんねイチアール、ハールドはちょっと」

「警戒心が強いんですよね。まあでも、薬が切れたら分かってもらえるでしょ」

「私も…信じる…ぞ、イチアー…ル」

ライオネルが弱々しく手を差し出す。イチアールはにっこり笑って握り返した。

「こんな…かっこ…うで…すま…ん。ラ…イオネル・アレス…ファリ…タ…ンだ」

「イチアールです」

「ガルフォ…ンを救って…くれ…たこと…感謝…する」

「大したことはしてませんよ」

「あ、二人とも弾大丈夫? 奪った分があるから一旦補充する?」

「俺はいい」

「も…らおう…」

「私もちょっと補充します。今なら周辺から足音が聞こえませんし」


ガルフォンが一旦ライオネルを下ろし二人は地面に座った。ガルフォンのそばにイチアールが立ち、ハールドは3人から離れたところで周囲を警戒する。



「僕らはライオネル達を探してたんだ。二人はどこに行くつもりだったの?」

「第2…格納…庫だ。だっそ…う兵…らしき者に…そこ…へ行く…よう勧め…られ…た」

「そうなんだ…。あ、僕らね最初は倉庫に行ったんだ。クリスティナローラさん達が心配だったから」

ハールドは目を見開く。そうだ、夕莉はどうなっただろう。


「クリス…ティナ…ローラ…」

「あっでも大丈夫。三人は一度は捕まったけど逃げたらしい。倉庫から一番近い第2格納庫に行ったと思う」

「エイ…ザクも…夕莉も…無事か…」

「そう思いたい。とにかくライオネルが怪我してる以上、闇雲に探すより格納庫を目指して合流したほうが良さそうだね」

貴族の女やエイザクなんてどうでもいい。あいつらは最悪自分でなんとかするだろう。だが夕莉は…。ハールドは居ても立っても居られない気持ちになった。

「おい、さっさと移動するぞ」

「そうですね。早いうちに移動しておきたいです」

イチアールに促され、ガルフォンが再びライオネルを背負う。ハールドもさっさと歩き始めた時だった。


背後から微かな気配を感じた。振り返り蛍光灯がきちんと機能していない暗闇に目を光らせる。

「…」

「ハールドどうした?」

「あ…微かに衣擦れのような音がしますね」

イチアールが耳を澄ませる。

「兵士なのかい?」

「ええ。でも多分一人です。仲間を呼ぶことも連絡を取ることもしないので私たちに気づいていない可能性が高いです。わざわざこちらから向かうこともないでしょう。銃声とかで大勢の兵士を呼び寄せてしまうことは避けたいです」

もちろん耳で警戒はしますのでご心配なく、と続けイチアールは再び天井の穴に消えた。


気になるが、それよりも優先するべきことがある。ハールドは再び早足で歩き出した。

格納庫で待っても夕莉が来なかったらその時は自分が探しに行かなくては、と決意を固めて。



◇◇

拍子抜けした。


向こうからやってくるどの木星人も、スピッツの横をすり抜けて、そう平然とすり抜けてゆくのだから。

(奴ら、木星人と異邦人を見分けられるのかと思ってたけど)

格納庫を出たときに遭遇した木星人のことを思い浮かべる。最初に自分たちを同胞だと思っていたらしいあの兵士は確かに「異邦人だ」と叫んだ。


しかし、現在倉庫に向かっているスピッツを止めるものは誰もいない。

(どうもよく分からないな、まあでもラッキーだからいいか)

余計な戦闘に時間を割くわけにはいかない。一刻も早く倉庫にいる三人を助けにいかなくては。



□□

倉庫には先にフリージー星人が向かったが、数分前の彼からの通信によると「倉庫にいた三人を第2格納庫に向かわせることに成功したと思う(・・)」という。

(いや、思う(・・)って何)

倉庫にいたのは夕莉、クリスティナローラ、エイザク。三人は木星人に追われながら逃げていったのだとか。


そんないい加減な報告なんて求めてない。しかも司令官が直々に出向いたのなら状況としてはかなりまずい。せめて無人の場所まで逃げおおせたかくらいまで見届けてよとスピッツは食ってかかった。

だが、フリージー星人は司令官の狙撃に失敗したので、すぐにその場を離れなければならなくなったらしい。

そこで、ライオネル達が裏階段を登りきったのを見届けたスピッツが倉庫に向かい、フリージー星人がガルフォンのいるであろう監房奥へ向かうことにした。



ーー

いざ倉庫についてみるとそこにはほとんど兵士がいなかった。大量のロッカーの周りを数人の兵士が徘徊しているのみだ。

そしてやはり、スピッツが動き回っても誰も気にかけない。

(…なら、しゃべっても大丈夫かな)

スピッツはロッカーの中身を整理している兵士に近づいた。念のために右手には軍用ナイフを握っている。

「ちょっと」

兵士がこちらを見た。


(大丈夫…だよね)

緊張のあまり脇を冷たい汗が流れる。が、兵士は特に顔色を変えずに「どうした」と聞いてきた。

「副司令官の命令で手伝いに来た」

「手伝い? 今はほとんどすることないぜ。発煙筒は撤去済みだしな」

「あ…そう。まあでも異邦人がまだ潜んでいるかもしれないからその見回りも兼ねて」

「あいつらなら全員出てったよ。多分今頃は格納庫についてるはずだ」


(ああよかった)

スピッツは心の中で安堵の表情を浮かべる。クリスティナローラも、エイザクも、そして夕莉も皆無事に逃げることができたのだ。

しかし一方で不安もあった。この兵士が異邦人の逃走に対して平然としているということは、やはり司令官が何か策を持っているのかもしれない。


「だから見回りは不要だ。お前に頼めることは…そうだな、これを倉庫の隅に置いておいてくれ。後で研究班が取りに来るから」

こんなところに用はない、とばかりに駆け出そうとしていたスピッツを兵士の一言が引き止める。

兵士が指しているのは、ロッカーから出した大量の紙袋を積んだ収納ボックスだった。

「これで半分だ。もう半分は俺がやっとく」

「あ…分かった」

「分かっていると思うが間違っても口に入れるなよ」

それだけ言って兵士は再びロッカーの作業に集中し出した。スピッツはしぶしぶボックスを抱えて隅に向かう。



(口に入れるなってことは食べ物かな?)

言われた場所に置いた後、なんとなく中身が気になり一つだけ紙袋を開けてみる。そして。


「え…」

中身を見たスピッツの表情は固まった。


「どうしてこれがここに…」

動揺が抑えられない。震えながら残りの未開封の紙袋の数を数える。20は下らない。

「え、これがみんなそうなの…?」



その事実(・・・・)を突きつけられその場で動けないスピッツを現実に引き戻したのは懐に忍ばせた通信機だった。

慌てて近くの階段を登り人気のない物陰に身を寄せる。紙袋を一つ持ったままだ。


「どうしたの」

『俺だ。監房奥に逃げていた残りの一人は無事だった』

「ガルフォンさんだね」

『医療棟に逃げていた二人と合流していたのを見かけた。つけていたら、さっき六人全員が第2格納庫前で無事落ち合えたぞ』

「よかった」

『だがミーナドさんからの通信がしばらくないのが気になる。お前も急いで来い、何かトラブルがあったのかもしれないからな』

「了解」

『それと』


スイッチを切ろうとした手が止まる。

『六人のほかに女がいた』

「女?」

『木星人兵士の服を着ていたが、見た感じ木星に女の兵士はいないから変装だろう』

ドクン、と心臓が音を立てた。



『時々周囲に耳を澄ませているから聴力が高いのだと思う。お前の同僚じゃないかと思うんだが、なんでそんな奴が木星人の基地なんかにいるんだろうな』

スピッツは返事をしなかった。機械的に紙袋の中に目を落とす。


予備隊兵士の携帯道具である、変身用の薬の包みがそこにはあった。

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