表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
60/107

脱走 1

「17が、意識不明の重体だと?」

「はっ。私も解せないのですが」

悔しそうに言う副司令官。ここは彼の部屋である。

「全身に刃物の傷跡がありまして、肉が致命傷寸前まで裂かれているようなのです」

司令官は17のそのような有様を想像してみた。

「では自力で帰還できなかっただろうな」

「倒れていたところを、仲間が救出したそうです。なんならその兵士をお呼びしますが…」

「いやいい。それより17は助かりそうか?」

「現時点ではなんとも…」

どうやら、意識不明の重体というのは過言ではないらしい。



目つきは若干悪いが長身で体つきの立派な17は、それと合わせて身体能力が非常に高かった。射撃は百発百中で、白兵戦でも彼に勝てる兵士はいなかった。殺したグリーン星人兵士は誰が見ても毎度最多。

(実家は…裕福な商家だったな。だから肉付きがいいのだな。それにしてもあの17を意識不明に追い込める猛者がいるとはな…)

もしかするとシャンテルならできるかもしれないが、グリーン星側にそれほど強い人間がいるだろうか。

机に肩肘をつき、司令官はじっと考え込んだ。

「副司令」

「はっ」

「あの日、17は砂地のグリーン星側に回したのか」

「最初はそうでした。しかし、砂地に行く前に異邦人どもを発見したのでその確保を任せる隊に入れました。異邦人どもを捕獲し終えた後、同じ異邦人方面から引き上げてきた兵士によって発見されたのです」

「…」

「17の周りにも我が兵士が数十名転がっていたそうですが、どれもすでに絶命していて17だけが虫の息という状態だったとのこと」

司令官は一瞬だけ見た市街地での異邦人たちの戦いぶりを思い出した。

「一人で数十名か。しかも致死率90パーセント以上と。フェアーナ国兵士ではなく、異邦人の仕業だな」

「なお軍医によると兵士達は皆、同じ武器で殺されたのだろうとのことです。そういえば異邦人の中でも飛び抜けて強い女がいるのですが、あやつなら一人でも死屍累々かと…」

「異邦人…」



司令官は尋問で会った六人を思い浮かべた。自分の前で千差万別の態度を見せた六人の異邦人達の顔を。

(やったのは誰だ。代表格の灰髪の若造か? すましかえった上流階級風の女か? 私を見て真っ先に声を出した大柄な小僧か? どいつも体力はありそうだったが…)

残りの年少らしき三人についても考えを巡らす。

男で言えばやけに落ち着いた眼鏡の少年か、瑠璃色の眼をした生意気なやつか。体格は年上の三人に及ばなくとも、可能性は十分にあり得る。それにあの小柄な小娘だって、尋問の時に見せたあの幼稚な狼狽ぶりが演技でないとは言い切れないのだ…。

六人の中の誰だかは知らないが、その死屍累々の化け物には特に注意が必要だ。何をするか分かったものではないから、場合によっては最悪の手段も使うことになる。

(とはいえ他の五人にも油断していいわけではない。…そうだ。別々の監房に入れ直すか)

フードを被った司令官の頭がゆっくりと持ち上がったその時だった。

「副司令官!」



透明だった正面のスクリーンに、突然黒ヘルメットの将校の顔が映った。ヘルメットの右側には三本の白いラインが走っている。

「B隊付属大尉か。近日再開する、フェアーナ国攻撃訓練をしているのではなかったのか」

「急遽中止いたしました。緊急事態です」

「緊急事態?」

「何があった」

「司令官」

将校は司令官の姿を認めるや否や、副司令官から彼に視線を移した。

「脱走です」

「脱走?」

「見回りの者が、三階の監房の一つの扉が開いていたのを発見。中では看守が失神しておりました」

司令官は胸騒ぎを覚えながらさらに尋ねた。

「どこの監房だ」

「Dー26です」

隣で副司令官が息を呑む音がした。司令官は息を吐き、繰り返す。

「監房Dー26」

間違いない。脱走者はあの六人の異邦人だ。司令官は天井を仰ぎ見た。

(収監されてすぐに脱走するとは、なんと素早いことか…)



「やつらは監房奥へと逃げ込んだ模様です。たった、今数名の兵士に追わせ…」

「お前の部隊を総動員して監房区の入り口を封鎖しろ。すぐに私が直々に向かい、監房奥の探索に入る」

「はっ」

司令官はスクリーンを切り、副司令官の部屋を出て行こうとした。ドアに手をかけた状態で、敬礼している部下の方に振り向く。

「聞いた通りだ副司令。私が奴らを捕らえるから、お前は看守から事情徴収をするのだ。処分のほどは任せる」

「はっ」

そして自分の手で、死屍累々の化け物の正体を明らかにしてやるのだ。司令官はフードの下でこわばる口角を上げた。



◇◇

ズバァーーム!!!



陰気な監房区で恐ろしいほどの銃声が響き、数メートル先で黒ヘルメットの兵士がばたりと倒れた。その周りには既に七名の看守の死体が転がっている。

「よし、ひとまずはこいつで最後だな」

ライオネルは足を撃たれた兵士のもとまでどうにか歩き、その頭に拳銃を押し当てた。

「見たくなければ目を閉じているがいい」

言われて、目に加えて耳も塞いだのは夕莉だけだった。後の五人は様々な顔でライオネルの手元を凝視している。

ライオネルは引き金を引き、合計八つの兵士の死体を仲間の元まで引きずってきた。

「見つかるのは時間の問題だろうが、まだ少し時間がある。好きなものを取れ」

看守は一人一人がそれなりの装備をしている。腰には拳銃、脚にはナイフというように。



「俺はナイフだな」

まずハールドが、遠慮会釈なく死体の脚に括ってあったナイフを3本掴んだ。ライオネルも腰の銃をもぎ取る。

「鈍器はないのか」

ガルフォンが死体を指差して言う。ライオネルは肩をすくめた。

「そんな原始的な武器などあってたまるか。銃で我慢せよ」

「銃なあ。僕的にはあんまり得意じゃないんだが…」

ガルフォンは渋って銃を取ろうとしない。

たしかにライオネルは、彼が銃を人に向けたところは見たことがない。だがそこにこだわっているべきではなかった。

「いいから取れ」

「分かったよ」

ガルフォンは銃を手にしてからも、どこか自信なさげだった。



「私は」

と今度は、クリスティナローラが死体に近づいた。

「これしかありませんわ」

手にしたのは、血まみれの死体の一つの肩からぶら下がった銃剣だった。

「僕は拳銃。…あなたもでしょ?」

「ううん…」

エイザクが差し出したのは夕莉だった。彼女は受け取ろうとしない。かなり気分が悪そうだった。

「夕莉、どうした?」

「なんか…追い剥ぎみたいだなって…」

帰ってきた場違いな返事に、誰もが呆れた顔をした。質問したライオネルが一堂を代表して口を開く。



「良いか、今我々は脱走中なんだぞ。これからも逃げ続けなければならない。そのためには武器がいる。これは必然的なことなのだ」

「でも…」

「さっさと取れよ」

苛立ったようにハールドが言う。

「ここはもうじき戦場になる。死にたくなけりゃあ、武器の一つぐらい持ってろ」

「でもハールド…」

「あなた一人殺るか殺られるか、選ぶのは自由ですが」

エイザクが冷めた口調で続けた。

「急いでいただけますか? こんなことに時間を取られたくないので」




食事を持ってきた看守二名を殴ってその拳銃を奪い、遭遇した別の看守相手に既に数発の弾を撃っている。そろそろ監房区外の兵士が銃声を聞きつけ、何事かと集まってくるだろう。

「お急ぎなさい」

最後の命令はクリスティナローラのものだった。それ以上抵抗しても無駄だと悟ったのだろう。夕莉はうつむき、それから唇を噛み締めて手をエイザクの方に差し出した。

「それで良い」

ライオネルは幾分ホッとしながら、次に死体の一つに手をかけた。

「隠すところをお探しなら、ここにはございませんわ」

クリスティナローラが銃剣の刃に目をやりながら言う。

「それより、敵に投げつけるなどして有効活用した方がよろしいかと」

「…投げる役は僕がやるよ」

ガルフォンが申し出た。

「それはありがたい」



「でもまずはこの監房区から出ないとな」

ガルフォンが通路を端から端まで見渡した。

「それだ。看守ども相手に銃弾を避けながら走っていたから、我々のいた監房からだいぶ離れてしまったのではないか?」

そう、何も考えずに走ってきた。つまり今ライオネルたちは迷子なのだ。ハールドが窓のない金属製の壁を見ながら言う。

「このままじゃ外に出られないぜ。下手したら、ここは監房区の奥側だということもありうるしな」

「そうすれば自然に追い詰められて終わりであるな」

「間違いない。とにかくこんなとこの道順なんて、いちいち覚えていないからな」

「僕は覚えてますよ」

皆の視線が一気にエイザクに集まる。

「本当かエイザク」

「自分たちがどこをどう走ってきたか、でしょ?」

楽勝です、とエイザクは呟いた。

「今まで僕らは右折、右折、左折、真っ直ぐ、左折、で来ました」



「すごいじゃないかエイザク!」

「うむ、さすがは我らが仲間だ」

無愛想なエイザクだが、こんな時は進んでチームに貢献してくれるのだ。ライオネルは心から彼を見直した。

「それに」

とエイザクは地面に転がった死体を指差した。

「こいつらの服を剥ぎ取れば、看守に化けて堂々と出て行けます。そうすれば、戦わずに逃げられるかもしれませんよ。少々血ついてますが、我慢してくださいね?」

二言目三言目は、夕莉に言っていることは明らかだ。四人は揃って彼女に目を向けた。

「ますます追い剥ぎみたい…」

夕莉は喜んではいなかったが、幾分ホッとしたようだった。

「よし、では着ようではないか」

だが、六人が死体に手をかけた時だった。



「待て!」

ハールドが叫び、続いてクリスティナローラが死体から飛び退いた。二人とも暗い通路の一点を見つめて武器を構えている。

「ちょっと遅かったみたいだな…」

「来ますわ」

言われてライオネルも耳を澄ます。何も聞こえないが、この二人の勘を信じた方が無難だと思われた。

「え、来るって兵隊が?!」

「いいから下がれ!」

慌てた様子の夕莉を怒鳴りつけ、ライオネルは五人に向き直った。

「既に戦ったから相手については分かっているな! バラバラになってはいかん! 敵を倒しながらもエイザクの道順の指示に従うのだ!」



◇◇

数名の黒ヘルメットの姿が見えるや否や、ハールドは前方に向かって一気に駆け出した。

「ハールド、何をしている!」

ライオネルの声も無視し、ハールドは発砲される弾丸を念力と野生の勘でかわしながら敵に急接近した。

(敵は…十数人ってとこか)

地を蹴り、一人目の真ん前におり立つ。そして間髪入れず、相手が引き金に指をかけたままの銃身を大きく上に捻った。

ボギッ。

骨が折れる鈍い音を物ともせずにその手首を蹴り、ハールドは次の相手の脇腹にナイフを突き立てた。ナイフを縦横無尽に振り回し、接近戦で相手を圧倒する。

「ぐっ」

「ギャア!」

血飛沫が上がるのが目の端に映った。続いて銃剣の刃がキラリと光るのも。

ズバァーーム!!

ダダーン!!

銃声が上がり、目の前の兵士たちの戦闘服が次々赤黒く染まっていく。どれも当たったのは急所ではないようだが、確実に倒しているのだから上出来だろう。

血の匂いが濃くなってゆくがハールドは気にせず、ひたすらナイフを振り続けた。

「化け物が!」

手首を折られながらもナイフを抜いてハールドに襲いかかって来る小柄な兵士がいた。面倒だとばかりに、空いている方の手で空中に手刀を入れる。敵は念力で吹っ飛び、天井に頭をぶつけた。



気がつくと目の前の敵はもういない。となりの伯爵令嬢もどうにか敵の喉首を切り裂いて決着したようだ。ハールドは足元に倒れる兵士達に目をやった。面倒だが後始末は必須だろう。

「私もやりましょうか?」

「俺一人でいい」

クリスティナローラが離れると、ハールドは一人一人の喉にナイフを食い込ませて始末していった。



◇◇

戦いは終わった。ガルフォンがふうとため息をついた時、隣で夕莉が倒れかけた。慌てて手を伸ばして支えてやる。

「大丈夫かい?」

夕莉は顔面蒼白だったが、どうにか頷いた。怪我はなさそうだった。

(多分一発も撃てなかったんだろうな)

まあそれでも勝ててよかったと、ガルフォンはライオネルの方に目を向けた。

が、ライオネルの目はこちらに向いてはいなかった。

彼の目は、兵士の始末をしているハールドに向けられていた。



それまで手でナイフを差し込んでいたハールドだが、最後の兵士にはなかなか手を下さなかった。

よく見ると、兵士の方が何か喋っているらしい。ハールドはそれを朱色の眼で聞いている。その顔にはふつふつと暗い怒りが湧いているようだった。

と突然、ハールドは乱暴に兵士の頭を掴んで首にナイフを突き立てた。そしてそのまま振り向くことなく死体を放棄してこちらに戻ってきた。

「ハールド、バラバラになるなと言ったろうに…」

ライオネルが叱りかけてやめた。ガルフォンは木星人の戦車の中でのことを思い出した。

あの時と同様に戦いが終わってもなお、ハールドは全身から殺気を放っていたのだ。

何があったと聞く余裕も、戦闘が終わったばかりの今はやはりなかった。



「…行きますか」

エイザクが一人兵士の死体を跨いで歩き出した。皆もそれに続く。

エイザクのことだ、たしかに出口に連れて行ってくれるのだろう。だがガルフォンは不安になった。

今度は軍隊のものらしき足音がかすかに聞こえてきたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ