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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
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囚われた者たち

「あなたが私を探してたって? 一体どういうことなんです?」

「私が予備隊訓練所に行ったのも、行方不明のウサギ兵士の手がかりを得るためだったんだ。死んだという情報を手に入れた時は、どうしようかと途方にくれたんだが…」

ミーナドはほうっと息を吐き、笑いながら片頬を叩いた。

「まさか探していた行方不明のウサギも、テープレコーダーの声のウサギも同じだったとはね。これはますます都合がいいなあ」


「はあ?」

「スピッツ君」

ミーナドは笑うのをやめ、真っ直ぐに彼女を見つめてきた。

「彼女はどうなったんだと思う?」

「彼女?」

「ユウリ君だよ」

「どうって…」

スピッツはハールドとのやりとりを思い出した。

「あの虫の好かない異邦人が逃したんじゃないんですか?」

ぶっきらぼうな口調で答えながら、どこかそうなることを望んでいるのにスピッツは気づいていた。



「あいつも容疑者だったし二人で星外にでも行ったんじゃ…」

「生憎だがそうじゃない。二人とも木星人にさらわれたのさ」

「は?!」

スピッツの体に衝撃が走った。木星人に誘拐された? 夕莉が?!

「ちょ、嘘はやめてくださいよ! 新聞には誘拐された可能性があるのはのは国賓四人って…」

「嘘じゃない。証拠はここにある」

ミーナドはカセットテープを高く掲げた。

「誘拐されるときのも録音してたんですか?」

「まあね」

「じゃっじゃあそれ!」

スピッツはカセットテープに飛びつこうとしたが、ミーナドはそれをあっさりとかわした。



「危ない危ない。まさか予備隊に届ける気か?」

「だってそうすれば、誘拐された先の手がかりを得られますよ!」

「得てどうなる。運良く助け出せても、それからが問題じゃないか? 当然ガードがきつくなる。国賓四人は良くてもユウリにとっては暗い運命が待っているんだぞ」

「でっでも…」

「監禁するとか言ってたじゃないか、君の上司は。最強兵器の完成は間近なのかもしれないよ」

スピッツは言葉に窮して横を向いた。スピッツの心はぐらついていた。自分はグリーン星の兵士だから実験体を引き渡すくらいの残酷な行為は仕方ない。だが自分にあれほど良くしてくれた夕莉が、実験材料にされるところなど見たくはないのだ。

おそらくそれは他の五人も同じだろう。一緒に活動して短期間とはいえ、夕莉がいなくなったら大いに悲しむに違いない。



「…でも、皆さんが木星人に捕まったままでもまずいでしょう?」

「それは勿論だよ。だから助けに行くんだ、私たちでね」

「え?!」

スピッツは驚いて目を見張った。この白衣の老人が、木星人の住処まで乗り込むと?!

「当たり前だが、グリーン星兵士の手は借りないやり方でな」

「そんなことできるんですか?」

戦闘のせの字も齧ったことのなさそうなこの老人が?!

とても信じられず、呆然とするスピッツを尻目にフリージー星人がミーナド氏の白衣を軽く引っ張った。

「ミーナドさん…これ以上は」

「そうだな、あとは君の決断次第だ」



ミーナドはスピッツに向き直った。その目には、ふざけた雰囲気は微塵もなかった。ただ真剣な色が浮かんでいた。

「私は地理や軍の一般知識に詳しく、人間にはない特性を持った予備隊兵士を欲していたんだ。奴らの住処に乗り込むためにな」

「そこでお前が参加するかどうかだ。…僕としては不本意なんだがな」

「さあ、決めてくれたまえ。今すぐに。断わるならそれでも構わない。こちらも強引だったんだし、君を始末しようとは思わないよ。だが、その場合は最悪の不幸が待っていることは分かるな?」

スピッツはゴクリと息を飲んだ。そんな彼女に追い打ちをかけるようにミーナド氏は続ける。

「君は行方不明…というか死んだことになっている。政府に隠れて何をしようが自由なんだよ」



寝たふりをして追い詰めたはずが逆に追い詰められ、スピッツはその場で返事せざるを得なかった。



◇◇

ガチャン。金属製の扉が荒々しく閉められ、外からガチャガチャと鍵をかける音がした。そしてどんどん遠ざかっていく靴音。



「…で、皆特に不具合はないか?」

暗がりの中で目が慣れてきたライオネルは、いの一番にこう問いかけた。戦車に乗せられていた時は、大人数の木星人兵士と宇宙を漂流していたようで喋ることすらできなかった。だが今は自分たち異邦人だけがこの空間を支配している。そう思うと落ち着けた。

「ない」

「僕もありません」

「あたしも…」

「僕も。というか、心配しなくちゃいけないのは君だろライオネル。まだ脚は治ってないはずだ」

ガルフォンに言われ、ライオネルは自分の右膝を見た。戦闘中に木星人に刺されたものだ。最初はひどく痛かったが、幸い傷がそこまで深くはなかったので傷口を縛れば動けないことはない。

「…私なら大したことはない」

「そっか、だけど無理するなよ」

「そんなことより、問題はクリスティナローラだ」

ライオネルは、一人だけ返事をしなかった彼女の肩を指差した。



「宇宙船の中でもだいぶ苦しんでいたな。今でも痛いのだろう」

「…」

「あの司令官によって、さらなるダメージが与えられなかったか?」

「特になかった…と思います」

答えた彼女の声は少しばかり疲れ気味だったので、ライオネルは不安になった。

「なかったと思う…か。もう少し曖昧でない言い方はできないのか?!」

「殿下が何も感じなかったのなら、同じことをされた私にも特に異常はないかと思いますわ」

「だがしかし…」

「殿下」



クリスティナローラは、美しいブルーの瞳でライオネルをキッと睨みつけてきた。

「仮にダメージを受けていたとして、いまの殿下に何ができるのですか?」

その口から飛び出したのは、いつも通りの強気な声。その声調の変化にライオネルは戸惑った。

「クリステ…」

「それにこんな傷、なんとでもなりますわ」

彼女は右肩の古い包帯をもう一度強く結び直した。こちらに向いた顔は苦痛に歪むどころか、強さの滲み出た美しさを放っていた。

「私の我慢強さはご存知のはずです」

「…」

「お判りでしょう。ご心配は無用です、殿下」

いつかのような、毅然とした態度で言われてしまった。

ライオネルは返す言葉がなく、ガルフォン・エイザク・ハールドの男衆も呆気に取られた様子で彼女を見つめている。



「…すごいな」

俯いている夕莉の口からポロリと言葉が出た。

「すごくしっかりしてるよ、クリスティナローラさんは」

「戦闘による怪我ぐらい日常茶飯事ですから」

「ていうか、こんな状況でも平気って思えるのがすごい」

そう言った夕莉の声には張りがなかった。お前は荒事に慣れてなさそうだったしな、とハールドが呟いた。

「あたしはすぐ腰抜かしちゃうもんな。一人だけみんなの足引っ張っちゃったし…」

「夕莉…」

彼女と同じ最年少組のハールドとエイザクが落ち着いている中で、自分だけが不安定なことを彼女はどれだけプレッシャーに思ったことだろう。銃を向けられて震えていた彼女を思い出し、最年長のライオネルは心を痛めた。



「まだ、怖いのかい?」

ガルフォンに聞かれて夕莉は頷いた。やれやれと肩をすくめたエイザク。

「あの司令官が特にね…そんでも」

ここで初めて夕莉は顔を上げた。

「今は…少し平気」

そんなわけがない。その顔は蒼白で、以前のように明るくは決してなかった。しかし、震え声で彼女は付け加える。

「怖いことが起こりすぎて…なんか慣れちゃった…のかな」

ハールドとエイザクがぽかんと口を開けた。


「なんだよそれ」

とハールド。

「そう思いたいだけじゃないんですか」

とエイザク。

「だって本当にそう思ってるんだよ!」

先ほどまでの落ち込み具合はどこへやら、夕莉は顔を真っ赤にして同い年の二人に食ってかかった。



「落ち着いたのなら良かった! 安心したぞ!」

「僕もそう思うよ」

笑顔のガルフォンとうなずき合い、クリスティナローラと視線を交わしてからライオネルは顔を引き締め声を潜めた。

「それで…これからどうするかだが…」



◇◇

「ここは嫌な場所ですね」

エイザクがぼそりと呟く。ハールドはまわりを見回した。


六人が入れられた監房は窓一つなく暗いがそれなりに広かった。ドアは金属製で、四方はゴツゴツした岩壁であるから、実はかなり旧式の構造なのかもしれない。

「嫌かと言われれば、そうでもないけどな」

あの戦車の中よりはなんだか野生感があって落ち着く。

「どっちにしろ牢屋なんだから長居は御免だ」

「無論である」

ライオネルがドアに目を走らせた。



「木星人が私たちを自主的に解放することはありえん。よって逃げることは確定だ。このままここにいて良いことは一つもない」

ライオネルの発言に夕莉が激しく頷いた。

「もちろんだよ。早く逃げなきゃ殺されるかもしれないもの!」

「だが扉には鍵がかかっている。管理しているのは兵隊どもであろうな」

「鍵か…」

ガルフォンがドアの隅から隅まで手でこすり始めた。ドアは酸化してかなり汚れているので、彼の手もだんだん黒く染まっていく。

「何やってんだよ」

「いや、鍵穴ないかなって思ってさ。…どうやらこっち側にはないみたいだな。キーピックは無理だ」

「そんなもの期待してどうする。他の手があるだろ…どいてくれ」



ハールドは立ち上がり、金属製の扉に近づいた。そのまま全身をぶつける。

「…つっ」

身体が痛んだだけで扉はビクともしなかった。かなり堅固なものらしい。

「そんなやり方で脱出できるほど甘くないことぐらい分かりきってますよ」

冷めた口調のエイザク。ハールドは無視した。まあそうだろうなとどこかで理解してはいた。


「ハールド」

「大丈夫か?」

心配顔の夕莉とガルフォンに目線を送り、ハールドはライオネルの方に向き直った。

「頑丈だろ? 俺たち全員でもこのドアを破るのは無理だと思う」

「ふむ、随分と自信たっぷりに言い切るな」

「怪我してるあんたらと、一般の十代のガキの力なんてたかが知れてるからな」

これ以上議論は無用とハールドはプイと横を向いた。またライオネルと面倒臭い言い合いをしたくはなかった。



「じゃあ」

と、空気が張り詰める前にガルフォンが口を開いた。

「こっちからはドアは開けられないんだな」

「他に出口もなさそうですし…」

エイザクが周りを見回し、それを受けてあっと夕莉が声を上げた。

「脱獄者はいなかったのかな」

「なに?」

「もしかしたら過去に成功者がいるかも。で、どこかに説明がわりの暗号があれば…」

「…脱獄ものの読みすぎだ」

「いや私本なんて読まないよ。テレビで見たんだってば」

「はいはい」


ハールドにしてみれば、彼女の期待はあまりにも儚すぎる。エイザクもハールドに加勢した。

「仮に成功例があったとしても、そういうケースには木星人はとことん対処すると思いますよ。脱獄囚の部屋を調査せずにそのままにしておくなんてまあないでしょうね」

「ううん、そっかあ…」

「じゃあ残る方法は…」

ライオネルが再び扉を見た。



「向こうからドアを開けさせる、しかないな」

「ですわね」

クリスティナローラも頷く。

「食事を運んできたときなんかはドアを開けるかもしれませんわ」

「そんでどうするの?」

「まあ後は、一発ボカンと殴って気絶させて逃走すれば良いんじゃないかな。ライオネルは僕がおぶってくし」

ガルフォンが、夕莉の頭を叩いたり走ったりする真似をしてみせた。

「う、上手くいくのそれ?」

「勿論失敗はできん」

ライオネルは腕を組んだ。ガルフォンも頷く。

「一発勝負ってわけだな」

「そうだ。だからその役は私がやろう」

彼の口から信じられないような言葉が出た。



◇◇

この発言ののち、少々間があった。

「あんたが?」

「本気ですか?」

ハールドとエイザクが同時に声を発した。ハールドはさらに胡散臭げな顔で聞いた。

「責任重大だぜ、分かってんのか?」

「勿論だ」

「足怪我してて力入るのか?」

「ああ。万が一失敗したら責任は全て私が取る」

ライオネルは胸を張って答えた。これは彼のまぎれもない本心だった。

(最年長であり、最高位の私がすべき仕事だ)

高いリスクが付いているので他の五人には荷が重すぎる。

「私にさせてくれ」

ライオネルは真剣な顔で頼んだ。



「良いよ、任せる」

彼の思いが伝わったのか、ガルフォンが最初に賛成した。

「じゃあ、あたしも」

「僕も賛成です」

夕莉とエイザクも同意した。

「クリスティナローラは?」

「お任せしますわ」

「お前は?」

ライオネルは最後にハールドを見た。

「お前は賛成か?」

「やりたいんならやれよ」

ハールドはライオネルの顔を見ずに答えた。こいつはいつもそうだと、ライオネルは怒鳴りたいのを堪えて畳み掛ける。

「良いのだな?」

「好きにしろよ。ただし、俺はあんたの言葉は信用してない」

瑠璃色の目がこちらを向いた。鋭い視線がライオネルを射抜く。



「責任は全て私が取る、だって? 他の誰も巻き添えにせずに?」

「そうだ」

「ふざけんな」

ハールドは目を向けたまま吐き捨てた。

「そんな言葉、信用できねえよ」

あとは運次第…?

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