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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
57/107

それぞれの懸念

ひっさしぶりの投稿になります。

今回はちょっと長めにしました(≧∀≦)

「国賓は二人…だけだったのですか?」

副司令官は信じられないという顔で聞き返した。司令官は頷く。

「ああ。つまり後の四人は部外者ということだ」

「しかしそれなら四人もなぜ…」

「分からん。まあ推測ならいくらでも出てくるが、とりあえず後で調べるように」

「分かりました」

それ以上言葉が出てこず、二人は黙り込んだ。



「で、報酬は?」

思い沈黙を破ったのは、雇われ兵のあっけらかんとした声だった。

「報酬は、どうなるんでえ?」

そんな異邦人のことなんか何も興味がない。シャンテルの顔にはそう書いてあった。

(まったくこいつは)

司令官はフードの中で苦笑いした。

(さすがは、自分の懐に入る金のことにしか興味がない傭兵だ)

実際、シャンテルにとっては知らなくてもいい事実であるのは間違いないが。



「報酬のことなど今は関係ない!」

「あ? それ本気(マジ)で言ってんのか?」

「緊急事態だということぐらい察せ!」

「知るかよ。ていうか、俺にとっては報酬なしってのが緊急事態なんだけどよ」

「お前…」

「止めろ」

司令官は、言い争う副司令官とシャンテルの間に腕を差し入れた。


「騒ぐな副司令。一応報酬は払う」

「しかし司令官…」

こんな若造ごときの要求など…とでも言いたげな副司令官を無視し、司令官は赤毛の青年に向き直った。

「今言った通り、報酬は払おう。ただし、予定していた分の半分だ」

「残りはどうするんでえ?」

「…後日別の仕事を与える。それをこなせば払ってやる」

「別の、ねえ」

さらに仕事が増えると聞いてシャンテルは嫌そうな顔をしたが、司令官がそれ以上何も言わないのを見て諦めたようだった。

「しゃあねえな。間違いなく部屋に届けてくれよな」

くるりと背を向け、ひらひらと手を振って出て行ったのである。副司令官がふうとため息を吐いた。



◇◇

同時刻。グリーン星フェアーナ国のとある下町の廃工場の裏地にて。

建てられて100年はたつこの工場は、5年前にはすでに無人だった。昔は物理工学系の機械音が盛んだったものだが作業員が引き抜かれるとともに廃れ、今では近づく人すらいない。たまに野良犬が立ち寄るし、幽霊が出るという噂までできてしまっている。

誰も外を出歩かないようなこの時刻・この場所。そこに一台の古ぼけたモーター車が静かに止まった。

ガタンと音がして、モーター車のドアが開いた。

「ここがお住まいなんですか」

「しっ静かに」

「誰もいませんが」

「念のためだよ」

降りてきたのは二人、いや三人。歩く二人の男のうち若い方が、小さな少女を小脇に抱えている。少女は眠っているのか、一言も声を発しない。

「この子どうします?」

「成り行きで連れてきてしまったが仕方ない。明日になったら親御さんのところに返すよ。あとで寝室にでも入れておくか」



先頭を歩く初老の男は、迷わず工場の古ぼけた扉をこじ開けて中に押し入った。入り口から6メートルくらいのところに備え付けてあった上蓋を持ち上げる。そこには地下へと続く梯子が取り付けられた狭い通路があった。

「さあ、どうぞ我が家へ」

「はあ」

「君が先だ。気をつけてな」

青年は手元の少女を見、先の暗い梯子を見て逡巡したようだったが、初老の男が何をしているんだと言わんばかりに顎で梯子を指したので、片手ながらもどうにか降り始めた。

幸いなことに、通路は思ったほど長くはなかった。5メートルほど降りると、足が地面についた。

「しゃがんでみたまえ。扉があるだろう」

「ちょ、きついですよ。体勢的に無理ですって」

「何をいうか。まだ若いくせに」

どうにかしゃがみ、木製の小さな扉を右から左に開く。

眩しいほどの光が差し込んできた。



ーー

古風な電灯の下に見えるもの。書類の散乱したデスク、かろうじて上部が見えるコンピュータ、これまた書類に埋もれた床に置かれた小さな冷蔵庫。

以上。



「…すごいお部屋ですね」

「まあな」

書類の山から掘り起こした丸椅子に腰かけた青年は、初老の男がキッチンでコーヒーを淹れてくれるのを待ちながら部屋の中を見回していた。

「綺麗好きなイメージがあったんですけど」

「一人暮らしだと掃除をする気にもなれないんだ」

「というか、こんなところに住居を構えているのが驚きですよ。普通の一戸建てじゃダメなんですか?」

「そういうのもあるよ。ただし、本拠はここだ。誰も近寄らないしね」

ザ・秘密の隠れ家。

「確かに安全ですが、電気とか水道とかガスとかはどうするんですか?」

「そんなのは、よその家のパイプに接続してチョイチョイっと頂くよ。一人分だし水もガスもそんなに使わないしね」

思い切り犯罪行為だが、青年は驚かなかった。

(さすがはうちの将軍の友人だ…)

むしろこの人物の大胆さに感嘆してしまっていたのである。



「今更言われても変更はできないが、本当にコーヒーで良いよな?」

「あー眠れなくなったら困りますけどね…」

「寝られてたまるか。今からの行動の方針を説明しなきゃならんのに」

青年は苦笑した。キッチンからはコーヒーの香ばしい香りが漂ってくる。

「飲むだけで良いのか?」

「ええ…あ、何か甘いものがあれば欲しいです」

青年は今朝の朝食をとって以来、何も食べていなかった。

「ミーネって果物を使ったケーキがあるよ」

「ミーネ…グリーン星の特産物ですか?」

「君の星では取れないんだったな。美味いよ。きっと気にいる」

青年はこの星の生まれではなかった。彼はここグリーン星と対立関係にあるフリージー星の軍部の人間だった。彼は、上官である将軍から目の前の男を補佐する任務を受けて、ここグリーン星に侵入したのである。



「それにしても、真空レールの貨物庫に潜んでるのを見つかった時には、どうなるかと思いましたよ」

「君は幸運だ。発見したのが予備隊のウサギ兵士で、尋問されたのも彼らの訓練所なんだからな」

初老の男は、足元の書類を踏み分けながらこちらに歩いてきた。そしてデスクの上の書類を払いのけてトレーを置いた。湯気を立てたポットと、あまり綺麗でない上に欠けたコーヒーカップが二つ、しっとりした栗色の四角いケーキが乗った皿が置いてある。

「そうですね。あそこで貴方に会えたのは幸運でした。本当にありがとうございます」

「礼は不要だ。それより、あんなミスをもうしないようにしてほしいところだ。…ま、私としても、無事に救出できたのはよかった。さ、飲もう」

「飲もうって…酒じゃないんですから」

ちょっぴり説教を受けた青年は、笑いながらコーヒーが注がれたカップを手に取った。初老の男も椅子を引き寄せて青年の前に座った。二人同時にカップを顔の前に持ち上げる。

「さ、かんぱ…」

「何やってるんです! 」



パリン! 青年の手からカップが落ちて、書類から顔を出していた床に当たってくだけ落ちた。陶器の破片から溢れるコーヒーが近辺の書類を黒く染めていくが、初老の男も青年も床には見向きもしなかった。

彼らは寝室のドアを見ていた。正確には、開け放たれたそこの前に立つ小さな三つ編みの少女を。

数時間前から彼ら二人と行動を共にしてきた少女だった。寝ていたはずの彼女が今、ドアの前にて敵意を込めた目をして二人の大人を睨みつけているのである。



「何やってるんですって聞いてるんですよ!」

再度怒鳴りつけられて先に我に帰ったのは、カップを落とさなかった初老の男の方だった。

「何やってるって? 見てわからないのか、コーヒーを飲んでるんだよ」

落ち着き払った彼の言葉に、少女は過剰に反応した。

「そんなこと聞いてません! あんたたちは犯罪的な話をしてたんでしょ!」

「何を言うんだ」

「惚けたって無駄だ! ありていに白状しなさいっ!」


少女はひたすらまくし立ててくる。年は十代半ば位だろうが、どうもそれらしく見えなかった。なんにせよ自分がフリージー星人だと聞かれていたとしたらまずい。何としてもこの子供を宥めすかして、もう一度寝かせなくてはならない。

「何を聞いたか知らないけど、これは大人のおふざけ話だよ。本気にすることなんてないんだ」

幸い相手は子供だ。これで何とかならないかと青年は作り笑いを浮かべたが、少女の顔に笑みはなかった。

「真空レールに密航したって聞こえましたけど。いまからそんなごまかしが通用すると思ってるんですか?」

「ごまかしって…酷いな」

助けを求めて初老の男を見たが、彼は一言も発しなかった。ただ、少し首を傾げて少女を見つめているのみだ。




「それに貴方、フリージー星人なんですよね。うちとの星交は途絶えてるっていうのに」

青年は心の中で唸った。よく考えたら、あの訓練所でそれはすでに暴露されていたのだ。どこかに潜んでいた少女がそれを聞いていたとしても不思議ではない。

(困ったな)

このままでは任務に支障をきたすことになる。場合によっては最悪の手段を講じなくてはならないだろう。

「…君だって、訓練所に侵入したじゃないか。それでこんな遅くまで家を離れて夜遊びすることになったんだ。明日親御さんにそのことを言われたいのかい?」

どうにか弱みを見つけて言ってみる。この年頃の子はこういう脅しに弱いはず…だった。

「親御さんて…ああ、今はそう見えるのかな」

果たして少女は動じず、三つ編みを弄りながら答えた。

「言っときますけどね、これが私の素顔じゃないんですよ。薬が切れたら分かります」

「薬?」

「ちょっと…」

言われたことの意味がわからず、青年が首をかしげると今度は初老の男が少女に問いかけた。それは青年がまったく予想し得ないものだった。

「君…どこかで会ったことはないか?」



「「は?」」

青年は彼の顔を覗き込んだ。一瞬、相手の気を削ぐために言ったのかと思ったが、男の顔つきは真剣そのものだった。もっとも少女の方は困惑しているようだけれど。

「あなたなんか知りませんけど」

「こっちは真面目に聞いてるんだよ。よく思い出してみてくれ。君の声には確かに聞き覚えがある」

「何のことやら…」

「ミーナドさん、何言ってるんです?」

「確かに会ったんだ…どこかで」



その時、ポンと音がして、少女の体からラベンダー色の煙が上がった。煙は少女の体を包み込み、やがて足から順に煙が離れてだんだんと身体が見えてきた。

全身が現れたとき、青年は叫び声を上げた。そこに立っていたのが少女ではなく、直立不動のピンク色のウサギだったからだ。

「君は兵士…だったんだな」

実にとんでもない変身だ。せっかく逃れられたと思ったのに。



一方で、初老の男はウサギを見てなんども頷きながら手を叩いた。

「どうりで聞いた声な訳だ。私は君と一回会ったことがある」

「だから…」

知らないといいかけたウサギを制し、男は彼女の方に一歩踏み出した。

「数日前、君はフェアーナ空港から地球に行くところだった。迷っていた君に、私がアドバイスしたんだっけな」

「…え?」

覚えがあったのか、ウサギは記憶を辿り始めた。

「そのあと君に逃げられたんだよ。なぜ地球に行くのかって聞いただけなのにな」

「ちょ…じゃああなたは…」

さっきの元気は影に潜め、すっかり青ざめたウサギ。そんな彼女に、初老の男は大きな声で言い放った。



「覚えていてくれたかい。私はあの時の『不審者』だ」

ミーナドの言葉にピンとこない方は、第5部分をご参照のほど。


次話投稿は、3月10日以降になります。

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