対面
もう少し早く投稿するつもりが、どこまで書くか悩んでだいぶ遅れました。
お待たせして申し訳ないですm(_ _)m
「出ろ」
無機質な声とともに部屋のドアが乱暴に開かれたのは、六人が目覚めたばかりの時だった。
「…着いたのか」
大柄な少年が呟いた。久しぶりに部屋に光が差し込んでくる。淀んでいない新鮮な空気も。だが、それをゆっくり楽しんでいる暇はなかった。
皆が寝起きで慌てるのにも構わず、木星人兵士たちは軍靴でドカドカと部屋の中に踏み込んでくる。傷のある肩を剥き出しにして空気に当てていた美少女が後ろを向き、小柄な少女が小さく悲鳴をあげた。
先頭の兵士が異邦人たちに顎をしゃくる。
「立て」
「少し待て。まだ身繕いが済んでいない」
髪の長い美青年が美少女と木星人との間に割って入って命じたが、木星人たちはそんなものを聞く気はないようだった。
「立て。立てないなら立たせるぞ」
それに合わせて兵士たちが、威嚇するように一歩ずつ前に出る。青年は諦めたように言った。
「皆、立つように」
兵士の体格、人数、そしてこちらに向けられている銃口を見る限り、その言葉に逆らうという選択肢はなかった。
やむなく立った異邦人一人一人の横に、銃を持った木星人兵士が二人一組でついた。青年は立てないので大柄な少年が背負おうとしたが、一人の兵士が強引に二人を引き剥がした。
「何をするんだ」
少年が抗議したが、兵士は無言で入り口を指差した。見ると、担架が立てかけてある。あれで移動しろ、ということらしい。
「…サービスの良いことだ」
青年は少年の肩をポンと叩き、美少女に一瞬目を向けてから素直に担架の方へ這っていった。
また、兵士たちは一人一人の体に探査機を当て、手持ちの武器を取り出していった。小柄な少女が後ずさろうとしたが左右からがっしり捕まれできなかった。もっとも、彼女は武器など持ってはいなかったのだが。
銃や銃剣が木星人たちの袋に投げ込まれていく。瑠璃色の眼の少年が着ている、血痕つきのケープの内側も探査の対象からもれなかった。
しかしながら、これだけの警戒態勢をとっていたのにもかかわらず、そのケープの内側から兵士の一人の体に小さな物体が移動したのには、誰も気がつかなかった。無意識のうちにそれを突っ込んでいた少年自身も、である。
ともあれ、身体検査は終わった。そうして両脇に木星人の監視がついたままで、順に戦車から出されたのである。
ーー
戦車から降りたところは野外ではなく屋内だった。それも巨大な工場あるいは基地のような。例によって黒戦闘服・黒ヘルメットを装着した兵士たちが、二列で行進したり忙しく行き来したりしている。ひどく高い天井には大きな蛍光灯が取り付けられている。窓は一つもなく、あちらこちらに見える黒い両開き扉が重い雰囲気を醸し出していた。
「ここが木星か」
六人の先頭の担架の上の美青年が自分の右の兵士に尋ねたが、返事は返ってこなかった。代わりに反応したのは、一番後ろにいた異邦人である。
「も、木星なの…ここが?!」
甲高い声で叫んだ少女は脚をすくませた。よほどの衝撃で一歩も動けないらしい。彼女の右隣の兵士が苛立ったように彼女の肩を押したが彼女は動かなかった。
「んな…ここが…」
嫌だ嫌だいうように少女は何度も首を振った。前を歩く瑠璃色の眼の少年がなだめるように呟く。
「夕莉」
「嫌だ…そんな…」
「夕莉、落ち着け」
少年は強めの声で制したが、少女はかえって取り乱すばかりだった。前方の五人を見ながら大声で叫ぶ。
「今の状況わかってるんでしょ?! なんでそんなに平気でいられるの?! なんで…あ!」
不意に少女の体がバランスを失い、次の瞬間には床に音を立てて倒れこむ。彼女の左隣の兵士が銃で彼女の肩を殴ったのだ。
「痛…」
「夕莉!」
駆け寄ろうとした少年を別の兵士が押さえ込んだ。一方で、殴った兵士は起き上がれない彼女の前に立ち銃口を向けた。
「や…やめて…」
「面倒なガキだ。いっそのことここで殺してやろうか」
銃が突き出され、少女の顎を持ち上げた。そして喉のところに銃口が当てられる。大柄な少年が顔色を変えたが、美少女がそれを目で制した。
「…やめて…」
少女の目は恐怖のあまり大きく見開かれていた。
「やめて…」
震える声で懇願しても喉から銃が離れない。少女はもちろん、それを見ているその場にいる異邦人たちにとって、この恐ろしい時間は永遠に続くように思われた。
もっとも、実際にはそうではなかったのだが。
「立て、次はないぞ」
三十秒ほどして兵士がやっと銃を引っ込めた。少女は危なっかしい足取りでなんとか立ち上がる。
「夕莉…」
やっと離された瑠璃色の眼の少年が声をかけたが、彼女は話せる状態ではなかった。
「…行くか116」
「くだらんことに手間をかけたな。急がないと司令官がお怒りだ」
「司令官? それがトップなのか?」
青年が兵士たちの会話に割り込んだ。もちろん返事はない。
「…歩け、異邦人ども」
再び一同は歩き出した。少し経ってから美少女が後ろをちらりと振り返った。その美しいブルーの目はさっきの少女に向けられている。彼女はちゃんとついてきていた。その目には相変わらず怯えの色が浮かんでいたが、口はキュッと結ばれていたためもう悲鳴は出なかった。
美少女はほっと息をついて前を向いた。
◇◇
一同が連れていかれたのはわりと狭めの部屋だった。部屋は暗く、天井に取り付けられた唯一の電灯が真下の四角い机と椅子を照らしている。その椅子には誰も座っていないし、部屋には他に何もない。かなり殺風景な空間だとエイザクは思った。
六人は、部屋に入ってきた順に机の前に横列で並ばされた。いよいよ司令官とやらと対面するらしい。
彼は戦車に運び込まれた時、一瞬奇妙な格好の男とすれ違ったのを覚えていた。確か全身黒ずくめで顔の見えない奴だった。その時エイザクを抱えていた兵士二人が慌ててエイザクを下ろし、全身を強張らせて敬礼しようとしたのを薄目で見ていたのだ。
(あれが司令官だったのかもしれない)
もっとも、ただの上官ということもありうる。いずれにせよ、これから来る「司令官」がこの椅子に座ることになるのだろうとエイザクは予想していた。
横を見ると、他の五人も彼と同じように机を見つめていた。そして時折入ってきたドアにも目を向ける。誰がここに座るのかが気になっているらしい。まあ他に見るものがないという理由もあるだろうが。
「待たせたな、客人」
程なくして低い声がしたかと思うと、入り口から一人の男が入ってきた。六人を連行してきた兵士たちが一斉に敬礼の態勢をとる。男をチラと見たエイザクは息を飲んだ。
(やはりか…)
入ってきた男は全身が黒ずくめだった。兵士たちと同じような黒戦闘服の上からフードつきの黒いマントを羽織っている。顔はフードにすっぽりと隠れて見えない。それがなんとも不気味だ。隣の大柄な少年ー冥王星出身のガルフォン・ロインドーが「わ…」と呟くのが聞こえた。
男は真っ直ぐに机に向かい、腰掛けてからじっくりとエイザクたちを見渡した。
「あなた方が異邦人、か」
フードをつけているくせに、まるで値踏みするようにじっと見つめてくる。これでもちゃんと見えているのだろうか。
「私が司令官だ。異邦人殿、突然お招きして申し訳ない。さぞかし驚かれただろう」
「まったくだ。もう少し手順を考えられないものか」
中背中肉の司令官に第一声を発したのは、天王星の王子ライオネル・アレスファリタンだった。担架に乗せられているが、どうにか上半身を起こして強気の声を出している。
「血まみれの招待状を贈るようなものだ。第一、『客人』だというのならそれ相応の招きかたがあるだろう。あまりにも無礼で礼儀を知らないことではある」
「こいつ…言わせておけば」
担架を担いでいる兵士が片手を振り上げたが、司令官がそれを抑えた。
「その点については誠に申し訳ないと思っている。しかし普通のやり方ではあなた方にはきていただけないと思ったのだ。そこでやむなく強硬手段をとったまでのこと」
「あ…では」
美少女ーカルメヂ星の伯爵令嬢、クリスティナローラ・ライヨルーが控えめな声を発した。
「この度の襲撃はもしかして私たちがお目当てですの?」
少し思い切った発言だったが、司令官の口からは低い笑い声が漏れた。
「狙われた身としては複雑な心境であろうな。まあ街の破壊も目的の一つだったが、あなた方を確保することが何より優先された。あなた方とてお分かりだろう、自分たちが何者なのか。そしてどれほど価値があるのか」
男は立ち上がり、貫禄のある足取りでゆっくりと六人に近寄ってきた。何をするつもりだろう。
「グリーン星が銀河連盟に要求した支援要求のための異邦人達。その情報はこちらにも入ってきている。我々にとっては厄介な存在である…」
「それで攫ったのか。ふふ、我々は木星人にとっての脅威だったわけだ」
「そうだ。情報を受けてから出身星などは調べさせておいた。だが、顔までは分からなかった」
「なんと。よく間違えなかったな?」
すごい、という顔。こんな状況でも純粋な反応を示すライオネル。大物なのか馬鹿なのか。
ただ彼もエイザクにも共通しているであろう問いがあった。
どうやって自分たちが異邦人だと分かったのか。
「勘ならなかなか大したものだ」
「勘ではない。そんなものがなくとも、異邦人を見分けるすべはある」
そして男は冷酷な声で言い放った。
「国賓として招かれた異邦人は四人。つまりここには不要な者が二人いる! 今から其奴らを特定してやる…」
ついに司令官と対面!
次回は尋問か…?




