暗闇の異邦人
久しぶりの投稿になります。
風邪をひいてしばらく休んでいました(ーー;)
その暗闇に声はなかった。代わりにあるのはただの音声のみ。
荒い息遣い。張りつめたような、苦しそうな深呼吸。そしてじっと息をひそめる殺気。
それらが不規則に現れ、途切れてはまた蘇る。その繰り返しだった。
そこがどこなのか誰も知らなかった。あるいは分からなかった。
とは言っても、もちろん目が見えないわけではないし、いくら照明が消されっぱなしと言っても次第に目は慣れるものだ。だから、今六人で一つの無機質な部屋にいることくらいは分かっていた。
その部屋に家具らしきものはまるでなかったが、部屋の中心には太い柱があって、そこがユニットバスになっていた。何時間か間隔を空けて、たった一つしかないドアが開き食事も運ばれてくる。もっとも、運んでくる黒戦闘服の背後からはいつも、銃口がこちらを覗いていたが。食事は基本、飲料水プラス粉物の携帯食品が一品だった。
ただ、その部屋には窓がなかった。今彼らが閉じ込められている部屋の外を見ることはできなかった。つまり、この大きな戦車がどこを飛んでいるのかが分からないのだ。
ここは、木星軍の超巨大筒型戦車の一室である。閉じ込められているのは六人の異邦人たちだ。
四日前彼らは木星人の襲撃にあって捕らえられ、それからずっとこの狭い部屋から出ていない。逃げ出そうとするそぶりは見せなかった。その理由は色々ある。
まず第一に、部屋のドアには頑丈な鍵がかかっていること。たとえそれを突破できたとしても、外にいる数人の見張りを倒すことはできないだろう。
部屋の壁を破壊して逃げるにしても、どのみち死を選ぶことになる。なにせ、この戦車は空を飛んでいるのだ。高度は不明だが、六人が感じるふわふわした感覚は、戦車が離陸した時からずっと続いている。戦車が地表から相当離れていることは想像に固くない。
いや、もしかするとこの戦車はすでに大気圏を抜けているのではないか? この乗り物も戦車というよりは実は宇宙船で、兵士らの本拠である木星に向かっているのではないか? だったら尚更外に出るのは危険だ。
さらにいうと、彼らには操縦室を乗っ取るという考えもなかった。まだ本格的な身体検査はされていないので、武器はあるにはあったが六人の中には怪我人がいる。狭い部屋の中には医療セットなどは用意されていない。四日前の傷を未だに負っている彼らを抱えて戦うなど不可能なことだった。
もっとも、本当にそこまで考える余裕が誰もにあったかどうかは、今の状況からすればかなり怪しいがとエイザクは思った。なにせ四日前に捕われた時から、会話らしい会話は少しも起こっていないのだ。
エイザクは狭い部屋の全貌をゆっくりと見渡した。
毛布がないので自らの衣服にくるまって傷を癒そうとする怪我人が二人。一人は身体のあちこちに傷を負って激しく息をついている。どの傷も痛いのだろうが、特に右肩が重症なのかそこを押さえて呻いている。もう一人は、脚に自分の上着を巻きつけている。包帯がないので、それで止血しているのだ。衛生上あまり良くないだろうが、彼は自分の怪我にまるで注意を払っていなかった。むしろ、隣で喘ぐ美少女が気になって仕方がないようだった。彼女が苦しむたびに、まるで自分のことのように「痛むのか?」「苦しいのか?」「辛いのか?」と声をかけるまでに。そんな二人には、大柄な少年がずっとつきっきりだった。
怪我をしていないのはこの少年を入れて四人だが、積極的に怪我人の看病をしているのは彼だけだった。時折怪我をしていない少女が手伝うこともあるが、そんなに長時間ではなかった。
彼女は二人の傷を見るたびに四日前の襲撃を思い出すらしく、手伝いが終わった後は、いつも一人青ざめた顔で深呼吸を繰り返していた。今も必死に眠ろうとしている。
これから自分たちはどうなるのか。そんな不安と恐怖を感じているのは彼女だけではないだろうが、それをこれほどまでに露骨に顔に出す者は他にいない。基本皆、戦闘慣れして多少のことでは不安にはならないからだ。
エイザクは冷たい目で彼女を見ていたが、六人目の少年の方は時折気になるように彼女を見つめていた。暗闇の中で気味が悪いほど底光りする瑠璃色の眼で。
会話らしい会話が成立しない理由として、それどころではないからというのがあるが、それ以上にこの少年の放つ独特の殺気が主な原因だった。
どうやって戦車の所まで来たのか、また来るまでにいったい何人の木星人兵士を殺したのか、誰も彼に尋ねようとはしなかった。彼の浴びた返り血や眼に宿る殺気が恐ろしかったためだ。恐れ、自然と彼を避けていた。襲撃前まで彼と仲良くしていた少女も例外ではなかった。
彼は孤立し(まあこれは今までもそうだったが)、俯いていた。
怪我人二人にそれを看病する少年の三人、ある意味の部外者である小柄な少女、殺気を放つ少年、一同に感情移入することなくただ観察するエイザク。六人の異邦人の間には重い雰囲気が漂っていた。
こんなに話を短くしたのは久しぶりですね〜。
追記
間違って完結済みを押してしまったようですが、まだ続きます。連載中に直しました。申し訳ありません。




