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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
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三人の逃走

見事、隊長の部屋に侵入したスピッツの運命は…?

気がつくと、第三の人物がいた。三つ編みの髪にパッチリとした目、桃色の頰をしたTシャツ姿の少女が。

「…」

「えーっとあの〜…分かりますよね…」

少女が何か言おうとしていたが、ゲンネーには届いていなかった。

天井から降ってきた白衣の男。突然姿を現した三つ編みの少女。

突然の連続した出来事に、ゲンネーはただぼうっとしていた。



「う、動くな!」

突如彼の意識を呼び覚ましたのは、ラーシルの大声とピストルの引き金に指をかける音。

「え…」

銃口を前にした少女は青ざめた。ラーシルは構わず銃を向け続ける。

「君は戻っていい! コップを直してこい!」

「あ、うん…」

水を持ってきたウサギが慌てて去っていく。

「たっ隊長! 何やってるんですか?! 不法侵入者ですよ!」

メイサが彼の服を引っ張り、注意を向けさせる。

「あ、ああ。そうだったな」

ゲンネーは立ち上がり咳払いをした。今日は色々と変だ。尋問の時も落ち着けなかったし、普段ならこんな現場においてボーっとするわけがないのに。

(今朝のニュースを見たからか…?)

確かに、とても平常心ではいられない内容ではあった。嘘だろうと思ったし、信じたくもなかった。

何より、数日前に機密情報を打ち明けたのが最後の会話だというのが耐えられなかった。真相を明かされてさぞ悲しく思ったことだろう。あんな思いを抱えたまま死なせたくなかった。

(兵士としての器量はイマイチだったが、和むやつだったのに…)

だが仕事中にそのことを引きずっていてはならない。現にラーシルとメイサはちゃんと仕事をこなしているではないか。

(冥福を祈るのは後だな)



念のためにメイサにフリージー星人を押さえつけさせ、ゲンネーは二人の侵入者に歩み寄った。

少女は青い顔のまま手を上げてガタガタ震えているが、白衣の男は平然とポケットに手を突っ込んで笑みを浮かべている。二人の様子を見比べたゲンネーは、侵入動機について大体あたりをつけ始めた。

(子供の方は『ちょっと入ってみたかった』か? 万引きを始めた子供みたいな軽い気持ちで侵入したのかな。男の方は盗みか? いやそれはちょっと違うか…)

男は科学者っぽい外見をしている。「天井裏に住む生物の生態を調べたくて…」とでも言うのか?



「銃を下ろして欲しいね」

「いきなり銃を向けたことはお詫びします。しかし、場所が場所ですのでね」

ゲンネーはほとんど白衣の男の方を見ながら言った。理由は何であれ良識をわきまえない大人に、訓練所最高責任者・予備隊隊長の格を見せつけなければならない。

「お二人とも、一般の方ですね。まずお伺いしますが、ここが予備隊訓練所だということをお分かりですか? 見たところ、見学証をお持ちでないようですが」

見学証というのは、門のところにいる兵士が特別に入場を許可された一般客の胸につけてやるバッジのことである。

それがない二人は間違いなく不法侵入者だ。



「いいいいいやでも…」

少女の方が何か言いたげにゲンネーを見た。

「なにか?」

「いえなんでも…」

声で分からないんなら、こりゃ多分無理だな。その小さなつぶやきがゲンネーの耳に届いた。

ゲンネーはため息をついた。

(これだから子供は面倒くさいんだ。自分が悪いくせにすぐ拗ねる)

しかも声とは何の話だ。声? この少女の? 確かに彼女の声はどこかで聞いたことのあるような気はするが…。



「不法侵入ね。それはそれで結構だが、これからどうすればいいか教えてもらえるかな」

不意にふてぶてしいサビのある声に思考を遮られた。ゲンネーは気を取直し、白衣の男の方を向く。男は翳りひとつない清々しい表情を浮かべていた。

「事情徴収だけで済むのかな?」

そんなわけがないだろう。

「…まずは、事情徴収です。それからこの訓練所に異常がないか確認。最後に本隊に連絡を取ってあなた方の処置を決めます。場合によってはその後も取り調べは続くかと」

少女が困った顔をしたが、最も面倒なのはゲンネーだ。これから取り調べる人数が三倍になってしまうわけだから。

(まったく、仕事を増やしてくれて…)



「ふうん。それは困ったな」

一方、男は全然困った顔をせずに言った。

「要するに、異常が発見されたら身柄拘束の可能性もあるんだろう?」

「それはそうですが…」

少女もラーシルたちも男の言葉に気を取られている。そんな中彼は困惑したゲンネーを見、にんまりと笑って付け加えた。

「異常…たとえば情報漏れとか、ね」

一同の間に不穏な空気が漂い始めた。ゲンネーはなんとなく身構えた。だがその時にはもう遅かったのだ。



その言葉とともにポケットに入っていた男の右手が出たかと思うと次の瞬間、ゲンネーは首から凄まじい量の電流を浴びた。

「ア゛ーーーーーー!」

我慢できずに床に倒れる。そしてしたたかに顔をぶつけた。

「ウウウウウ…」

何という痛みだ。未だにヒリヒリ感が消えない。

「え?!」

「「たっ隊長?!」」

「動くな!」

男は今度は、うろたえるラーシルとメイサの前に何か長いものを突き出した。彼の顔からは完全に笑みが消えている。

「君たちも隊長のようになりたいか?」

その手に握られているのは銀色に光る棒だった。おそらく伸び縮み可能な電気棒だろう。ラーシルとメイサが後ずさりするのを見て、男はふてぶてしい表情を浮かべた。

「嫌なんだろ? じゃあさっさと私たちを出すんだな」

ゲンネーは慌てた。こいつは思ったよりもたちが悪い。それに手強い。だが、そんな脅しに乗ってはならない。



「お…お前たちの方が素早く動ける…構わず取り押さえ…」

「それは困るな」

男は棒を油断なく構えたまま、残る左のポケットから何か黒い物を取り出した。黒光りしているそれの真ん中では赤い数字が点滅している。

01:36、01:35、01:34…。

赤い数字はチカチカ光りながら、カウントダウンをしている。ゲンネーの顔から血の気が引いた。

「ばっ爆弾だな?! メイサ、ラーシル! 二人とも離れろ!!」

「それでいい。しばらく近寄るなよ」

男は片手でそれを自分の後ろの壁に取り付けた。これで立場は完全に逆転してしまった。続いて男は棒をしまい、固まっている三つ編みの少女と、拘束されたフリージー星人を右腕と左腕に抱え込んで窓際に移動する。

(何をするつもりだ?)

ゲンネーと同様、少女は若干困惑気味だったが、フリージー星人の方は嬉しそうに彼に従った。

「ミーナドさん!」

「話は後だ。それでは、ね」

「ちょ、おじさん何するんですか?!」



間髪入れずに三人の体は、一瞬にして窓の向こうに消えて行った。直後ヴィイイインと轟音が響く。外に停めてある予備隊の乗り物に乗って逃走したらしい。

(な…!)

白衣の男はフリージー星人をも逃してしまったのだ。

「なんてことだ…」

「追わないと…ああ、その前にこれか!」

すぐさまラーシルが時限爆弾のスイッチを切りにかかり、メイサは窓の外を覗きながら隊長室の放送機器に向かって叫び始めた。

「全戦闘員に告げるわ! 不法侵入者二名が取り調べ中のフリージー星人を連れて逃走! 三人の人相を言うからよく聞いてちょうだい!」



ーー

二時間後。三人を追跡した部隊は結局手ぶらで帰ってきた。

ゲンネーは痛む首をさすった。時限爆弾は止められたが、その後一部の情報漏れと盗難が発覚した。それに、不法侵入者よりもフリージー星人を逃したことが無念でならない。

「くそ…あいつら絶対捕まえてやるぞ」

悪態をつきながらイスに腰掛ける。

そして一連の流れを、本隊に提出する用の報告書の準備を始めた。忌々しいことに、これもあの三人のせいで増えた仕事だ。



書きながら、そういえば…とゲンネーは思った。

「たいちょう…」

窓に三人の姿が消える寸前に聞こえた小さな呟き。それはたしかにどこかで聞いたことがある声のような気がしたのだ。

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