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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜北大陸編〜
52/107

葬儀と尋問

14日以降と言ったのが、遅くなって申し訳ありません。

ストーリー整備のため、次話もゆっくりめになるかもしれません。

時々前の章に加筆したりしています^_^;

「こここここここここれほんと?!」

『国賓の異邦人が木星人により誘拐』。スピッツはその単語に恐怖した。

「僕としても信じたくありません。でもこれだけ探しても見つからないんだし、間違いないですよ」

その兵士ウサギは悔しそうに言った。

「ちょ、それってやばいんじゃ…」

「そうです。でも、必ずや我が軍が奪還してみせますのでご安心を」

そう言ってウサギはタブレットを取り上げ、門を閉めようとした。

「ちょっと待った!」

まだ聞きたいことは残っている。慌てて呼びかけるも、門はスピッツの目の前でピシャリと閉められてしまった。



「ああもう…おおーい」

自分の身長の何倍もある銀色の門。その向こうにいるであろう同僚に向かって叫んだが、返事はなかった。

「まったく冗談じゃないよ、おい! 化けるのが上手い同僚を中に入れなかったら、どんな目に合うか分かってるんだよねえ!」

我ながら幼稚な脅しだと思う。果たして帰ってきたのは沈黙のみ。

「ねえもういいからさあ、開けてよ早く! んで、隊長のとこに連れてってよ!」

これにも応答はない。

「…むかつくな」

こうなったらやむを得ない。スピッツは門の前にしゃがみこみ、ポケットの薬を取り出した。

「…自分でまっすぐ隊長の元へ行くしかないね」



ーー

彼女が使ったのは黄色の粉。これを飲んで体を小さくし、地面と門との間に潜り込んで訓練所内に入ったのだ。

「うひゃー、すごい…」

現在スピッツの身長は約5センチ。見慣れた訓練所内の廊下は永遠に続く長い道のようであり、いつも外を覗く窓は遥か上に位置していた。

「んで…どっちの方向に行けばいいんだろ」

ここまでは、さっきの茶斑ウサギの背中にこっそり乗ってここまでやってきた。さっきの件で彼にイラついていたのもあり、ざまあみろと思いながらいい気分で揺られていたら、突然落っこちてしまった。

「…隊長の部屋はどっちだっけ?」

訓練の際に動きが鈍くて、お叱りを受けるために何度もあの部屋に呼び出されていたはずだ。なのに今はルートがまるでわからない。

「廊下とかも、どこもかしこも同じに見えるよ。まいったなあ」

小さくなっただけで、こんなに感覚が狂うものなのだろうか。

「ここで元の大きさに戻るのがいいんだろうけど、でも今あのラベンダーの粉はないしなあ」

薬のほとんどは、沼の中から引き上げられたらしいカバンの中だ。元の大きさに戻るためには、とりあえず黄色い薬の効き目が切れるのを待つしかない。

「確か20分以上あったな。変装用の薬よりはだいぶ短いけどそれでもなあ…」

途方にくれたスピッツが、そばの壁にもたれたその時だった。



ガラッ。すぐ横にあった扉(今までその存在に気づかなかった)が、いきなり開いた。

「こんな短時間じゃダメよ…」

「しょうがないさ。今は隊長に呼ばれてるから、お祈りの続きは後でやろう」

(この声は!)

見上げた先には、お似合いコンビの白ウサギと黒ウサギ。予備隊の重役であり、スピッツにとって二番目に親密な仲間たちだ。

(ラーシル! メイサ!)

嬉しくて、思わず声をかけようとした。だが、スピッツは一瞬ためらった。どういうわけか、メイサが泣いていたのだ。



「ラーシル…私、ものすごく悲しい…」

「分かる。僕もだよ」

「木星人が異邦人の皆さんを誘拐したっていうのは、たしかに嫌なニュースよ。けど、大切な仲間を失ったことに比べれば…」

メイサは顔を覆い、その場で泣き崩れた。ラーシルも震える手でその背中を撫でている。

(…)

いつも陽気な二人からは考えられないような光景だった。

(大切な仲間を失った? なんのことを言ってるの?)


なぜか、さっき門で見たニュースのうちの一つを思い出し、スピッツはゴクリと唾を飲み込んだ。嫌な予感がする。

スピッツは恐る恐るその部屋を覗いた。

そこは、部屋というにはだいぶ広いホールだった。地球に行ったその日に集合した場所だ。

「!」

部屋の奥に大きなスクリーンが吊るされている。その表面にはスピッツの画像が映っていた。満面の笑みを浮かべてポーズをとっている他ならぬスピッツが。

「…」

ホールの中は無人だったが、床には滅多に出されることのない椅子が列ごとに並べられている。壁には白い布がたくさん取り付けられ、スクリーンの前の机には、薄ピンク色の花を生けた花瓶が乗せてあった。

これだけ見れば、ついさっきまでここで何があったか一目瞭然である。

同じ光景を何度か見てきた。同僚の葬儀には、スピッツら兵士は必ず出席しなければならないのだから。



「私ほんとに死んだことになってるんだ…」

部屋から目を離した時、メイサとラーシルはもういなかった。

(私は生きてるのにな…そのことを言いたかったのに)

あれだけ悲しんでくれるのは、嬉しいことではあるけれどもなんだかやりきれない。

(『底なしの沼』にカバンが落ちてたからってなあ…)

みんなでそろって自分の死を悲しんでくれるとは…。

「そっそうだ、隊長だって…!」

そしてもう任務から戻っているかもしれない一番の親友だって、スピッツが死んだことをどれだけ嘆いているかしれないのだ。

「…メイサとラーシルは隊長の部屋に行ったっけ。じゃあそこで三人まとめて安心してもらおう」

スピッツはそのまま、隊長の部屋に行く兵士が通りかかるのを待った。

まだ黄色の薬と人間の少女に化けた薬の効き目が切れないのが問題だが、あの三人なら声だけでスピッツだと判断してくれるに違いない。

その時、隊長と交わした最後の会話が頭の中で蘇った。あの裏切られた感を思い出し気まずくなったが、スピッツは頭を振ってその思い出を頭から追い出した。



◇◇

「はっきり言え。どういうつもりで真空レールに無断乗車したんだ」

もうこの質問を、何度繰り返したかしれやしない。

ゲンネーが何度机を叩いて問い詰めても、目の前の若者の返事はいつも同じだった。


「もう答えたよ。グリーン星を観光しにきたのさ。けど買った切符を落としてね、やむなく無銭乗車することになったんだ。そしたら運悪くあなた方に見つかってこのざまさ」

手錠で繋がれた手を持ち上げて若者は言う。年の頃二十代半ばの爽やかな顔立ちの男だ。やましいことは何一つないという気風を漂わせて、真っ直ぐにゲンネーを見つめている。

ゲンネーは忌々しげに男の顔から目を逸らし、彼の着ている服に目をやった。

薄汚れてはいるが、質の良さそうな濃い灰色の軍服。胸元のポケットには雲が刺繍してある。この色の、このマークの軍服を着用する星は一つしかない。



「まず、あんたはフリージー星人だろう。あの星の住人が銀河連盟内の公共の乗り物に乗れるわけがない」

「それは僕らの星が銀河連盟に加盟していないからだな」

若者は三脚の上で堂々と脚を組んだ。

「というか、あなた方の星が僕らを加盟させるのに反対しているからだろう。それでフリージー星では色々と不便なのさ。そこらへんはどうなのかな?」

「話をそらすな」

ゲンネーは相手の話に引っ張り込まれまいとした。こういう口達者は厄介なのだ。

尋問はなかなか進まない。自白した時の真偽を話し合うために呼んだラーシルとメイサも、出番がこないことにイライラし始めている。

(お前たちも俺も落ち着け、落ち着け)

涼やかな顔のフリージー星人を無視し、ゲンネーは二人の部下より少し遅れて部屋に入ってきた兵士から水の入ったコップを受け取った。こんな時は冷たいものを飲んで気分をスッキリさせるに限る。

コップを手に取った時、フリージー星人が汗をかいていることに気づき、ゲンネーは今の自分の立場が彼より有利であることを再確認することができた。

もっとも、奴は羨ましそうな素振りは一切見せなかったのだが。



ゴクゴクゴク。

やはり水を飲むと頭がスッキリしてくる。

「よし」

「再開しますか?」

「そうしようラーシル。メイサ、引き続き記録を取ってくれ」

「はいっ」

そうして尋問を再開しようとしたその時だった。



バリバリバリバリバリ!

天井からものすごい音が響き何かが落下してきたと思うと、驚くゲンネーたちの目の前に白い何かが着地した。

「なっ、何者?!」

うずくまっていた曲者は立ち上がった。白衣を着た、髪の短い初老の男だった。

「やれやれ、なんて脆い天井だ」

驚く四羽を尻目に、白衣の男は肩の埃を落としにかかった。

「ミ、ミーナドさん?!」

拘束されているフリージー星人が叫んだ。白衣の男は微笑んだ。

「将軍に言われてきたのかい? とんだヘマをしたものだね」



あまりに急なことで、ゲンネーはなにが起こったのか全くわからなかった。だが、驚くことはまだ終わらなかった。

「たいちょーう…あのおおおお…ああああ」

小さな声が聞こえてきた。それも、水を持ってきたウサギの足元から(・・・・)。いや、腰から。腹から。胸から。肩から。…

「あー。切れたの、黄色い薬だけかぁ」

ついに裏方のミーナドと、準主役級のメンバーが接触?!

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