目覚め
新年初の投稿となります。
次回の投稿はおそらく14日以降です。
これからは今までよりペースがゆっくり目になるかもしれませんが、しっかり練るのでよろしくお願いします。
(んん…なにここ…)
終わりの見えない暗黒の世界。その中でただ一人ポツンと佇んでいる。自分の周りは暗いだけだが、左の奥と右の奥がぼんやり光っているのが見える。どちらかに進まなければ行けないのは分かっている。だがなぜか体が動かない。脚は何かで固められていて、胴には何か尖った者がたくさん当てられて、全身をガッチリと拘束されている。痛い。刃だろうか…いや、なにかワシャワシャいっている。
これは、茂みの小枝だ!
そこでスピッツは目覚めた。目を開けて仰天。
「えっ!?」
そこは茂みの中だった。顔を枝が引っ掻くのも構わず、無理に首を左右に動かすとそこにも枝葉が。スピッツは上半身が無数の枝葉に囲まれ、下半身が土の中に埋まっていた。
「んんんん」
抜け出そうともがくが、力が入らずまるでうまくいかない。三回頑張って諦めた。
「なんでこんなことに…」
思わず呟いた時、スピッツの手に何かチクチクしたものが触れた。それは徐々に肩の方へ上がっていく。恐る恐る見ると、それはなんと赤い毛虫だった。縦棒のような目がこちらを見つめていて…。
「ーッ!」
たまらず手をバタつかせ、足だけでなく耳で暴れ、目の前の枝葉を次々に折っていく。
「きっ気色悪い! 気色悪い!」
枝が手に刺さって痛いとかそういう感覚は一切感じず、気がつくと茂みから抜け出して全身で木々に囲まれた空間に飛び込んでいた。
「はあっはあっ」
地べたに座り込んで息を吐き、スピッツは何よりも気がかりな肩を見た。
「あ、よかった。毛虫もういないな…」
木々の隙間から見える空は青かった。もう昼間らしい。
「何時間寝てたんだろ私。絶対怒られるな…いてて…」
忘れていた痛みが戻ってくる。沢山の小枝に引っかかれ、刺され、スピッツの肌には切り傷が山のようにできていた。
「うう痛…あーくそ、私は一体なんであんな所に入っていたわけ…」
入っていた…いや入れられていたのではなかったか? では一体誰に?
「…あーーーー!」
あの時のことをスピッツは思い出した。
『聞いたぞ。あの本隊隊長野郎の言葉は全部な』
『協力してもらえないなら仕方ない』
『今から俺がすることを邪魔されたら困るからな』
時には高ぶり、時には冷ややかだった声。怒りを宿した瑠璃色の眼。
「ハールド…!」
多分彼によって茂みに押し込められたのだ。
「あンの異邦人…!」
スピッツの話もろくに聞かずに、地面に叩きつけるわ頭を殴るわ…。
「なんつー蛮人! あのろくでなしめ!」
見回しても彼の姿はない。スピッツは、腹立ち紛れに近くの木を蹴りつけ始めた。
「戦っても!」
ズゴッ
「勝てないから!」
ズゴッ
「これで!」
ズゴッ
「我慢してやる!」
ズゴズゴッ!
ーー
「いった…」
さらに痛めた脚をさすりながら、スピッツは一人スカートのポケットを探った。ピンク色の四角いケースを取り出し、パチンと蓋をあける。
「あーウサギ用の湿布は切れちゃったか…」
あるのは開封済の人間用の湿布のみ。数日前、怪我をした夕莉のために買ったものだ。
「あ、そういえば…」
夕莉。彼女は一体どうなったのだろうか…。
ーー
ポケットの薬で人間に化けて湿布を貼ったスピッツは、木々から出て辺りを見回し唖然とした。
「…!」
軍用テントを張っているはずの砂地。今はがらんと空いている。そして遠くの青い絨毯のような芝生や林のあった場所には…ただ焼け野原が広がっていた。
「あああ…」
走って街の方へと駆け出す。住宅が、マンションが、高いビルが…
倒壊状態。
人影皆無。
完全に街全体が廃墟だった。
「なっ何があった?! 何があってこんなことに?!」
パニックを起こしたスピッツ。レンガが沈んだり浮いたり状態の石畳を、人間の少女の脚で必死に走っていく。
「誰か! 誰か! 誰かいませんか?!」
大声をあげて叫ぶが、物音一つしない。
「そんな…」
ブルブルブルブル…。
不意に真上からで大きな音が聞こえた。見上げると、すぐ上に緑色のすり鉢型円盤。
(…よく似てるけど予備隊のじゃない。本隊のだな)
「おーい。大丈夫ですかー!」
円盤の窓から身を乗り出す二人の本隊兵士。
「えっあっはいー」
「ここにいると危ないですよー。早く乗ってくださいー。あっお怪我はないですか?」
「はあ、ないですが…」
(いや思いっきりしてるよな…)
湿布を貼らなくては動けないくらいの怪我を。
「分かりました。ホイストが今ないので、縄ばしごを下ろしますね」
スピッツが円盤に乗り込むと円盤はゆっくりと動き始めた。同時に、運転席にいない方の兵士が紫色の円柱形型無線機をつける。
「こちら本隊二班所属、最終巡視の任務につくものです。市街地にて一名を保護。…はい。…はい。了解しました」
兵士は無線を切り、スピッツを見た。
「あなたはこの市街の方ですか?」
「は? いえ違いますけど」
「ではよその市から来られたのですか? ご自宅までお送りさせていただきたいと思うのですが」
どうやらこの兵士は、スピッツのことを一般人だと勘違いしているらしい。まあ、どこから見ても10代の少女という姿では無理もないとは思うが。
「いやあの私は…」
「あの市街地は今、立ち入り禁止でしてね。市内の親戚の方を心配して訪ねて来られたのかもしれませんが、それでしたらどうかこちらの避難所までお越しください」
兵士は丁寧に地図まで出してくれる。だがスピッツの目はそこを見ていなかった。
「ええと…よく分かっていないんですが、一体何があったんです? 災害ですか?」
「いいえ違います。木星人の攻撃ですよ」
「えっ?!」
スピッツは仰天した。
(なななななな…まじで言ってる?!)
今までに何回も木星人の攻撃はあった。だがせいぜい街の一部が破壊されるぐらいで、市がまるごと焼け野原になるまでには至らなかった。
「木星人の仕業って…あんな深刻な状況が本当に…」
「木星人の破壊によるものです。今回新兵器まで投入してきたもので、被害が今までより大きく上回りました。攻撃時間は一時間ほどだったのですが」
無念そうな顔の兵士。スピッツは二の句がつげなかった。
「…」
あの市街地に滞在していた軍隊は、木星人相手に戦ったということになる。被害状況を見るに、おそらくグリーン星側の防戦。
(うわ…私はその間一人、茂みの中でおねんねしてたってことか)
そして、今は軍が後処理のために滞在してすらいない。この円盤も最終巡視用だと言っていたし…。
「あの…」
スピッツはおそるおそる口を開いた。一番したくない質問をする時がきたのだ。
「それって何日前ですか?」
「四日前ですね」
「ええええええー!」
ーー
結局スピッツは、予備隊訓練所の近くに家があると偽って円盤から降ろしてもらった。
(戦いの最中に一人だけ寝てたなんて申し訳なさすぎる! 何はともあれ一旦帰って隊長にお詫びして、あの攻撃について聞き出さないと!)
だが、彼女が訓練所に入ることはできなかった。
「一般の方の立ち入りは原則として禁止になっております」
「だからー! 私はここの兵士だよ!」
怪我をして人間用の湿布を貼っている以上、元の姿には戻れないスピッツ。あまり面識のない同僚に捕まって、門のところで足止めを食らった。
「今は訳あって人間に化けてるだけだって!」
「兵士ならば、支給されたカバンを持っているはずですが」
「あ…」
地球へ行ったときにも欠かさず携帯していたカバン。最後に見たのはハールドに殴られる前だった。どうやらそのまま市街地に置きっ放しのようだ。
「いやその今は…」
「では閉めさせていただきます」
にべもなく言ったその茶色の斑のある白ウサギは、あっさりと門を閉めようとした。スピッツは慌てて彼にしがみつく。
「本当だよ! 信じてよ! 私スピッツだよ! 所属班と軍籍だって言える!」
「スピッツ?」
兵士は怪訝そうな顔をして聞き返した。
「そ、そうだよスピッツだよ!」
「それってもしかしてこの兵士のことですか?」
ウサギは自分のカバンからタブレットを取り出し、スピッツの方に画面を向けた。
「今朝のニュースでも報道されたんですがね…」
そこには、四日前の木星人の攻撃による死亡者・行方不明者の写真と記事が載っていた。そのうちの一つに、スピッツの顔が。
[フェアーナ国軍予備隊兵士スピッツ。本人のものと思われるカバンが、市街地の郊外にある沼の底から発見。先日までは行方不明者だったが本日より死亡したとして…]
「なにこれ?! なにかの間違いじゃないの?!」
スピッツはタブレットを取り上げ、画面を覗き込んだ。それは紛れも無い自分の写真だった。
「ちょ…なんで」
呆然とするスピッツ。だが衝撃はまだ終わらなかった。
「……え?!」
彼女の目は、そのすぐ隣の記事に向けられた。
「い、異邦人四人が木星人に拐われた?!」
国賓としてやってきた四人の異邦人の顔写真が、行方不明者として載せられていたのである。
四日後に起きるって、スピッツはどれだけ疲れてたんでしょうか…。




