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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
49/107

奴の名は

「えーっとっと、あともう一個はコード『3278ーPOU』ね」

ディアナは手元のシートを見た。物置に積まれた大量のケースのうちで、そこに書かれたコード番号と一致するものはこれで最後だ。真夜中の倉庫で彼女はホッと息をついた。



ここは、銀河連盟本部・レオーナ星の食料の貯蔵をしている西区域第三倉庫だ。そしてディアナはそこの管理者の下で働く作業員である。年は二十八で茶色の髪・目を持つ大柄な体格の美人。

彼女は今、飲み会で抜けた作業員である後輩の代わりに夜中の勤務についていた。



「全く…テオリックったら」

最後のケースをトレーラーに積みながら、今頃気持ちよくビールを飲んでいるであろう不肖の後輩の名前を呟く。



『すいません先輩! 明後日の俺の夜中の勤務引き受けてください!』

『リージェが明日、私たちの故郷の星に帰っちゃうんです。飲み会やれるの今日だけなんです!』

『代わりを頼めるのディアナ先輩しかいなくって!』

『すいません! 俺らで必ず埋め合わせしますから、こいつの仕事を引き受けてくださいい!!』



「…ま、いいか」

ディアナも元は星外人だった。先輩たちに頼りながら今まで働いてきたのだ。

懐中電灯の光で倉庫内を照らす。ここのケースは、グリーン星とかいう星への支援用にとある四星から送られてきたもので、だいぶ前から高く積まれている。その裏は背伸びしただけでは見えない。だから、滅多にやることはないが複数のケースを積んでその上に座り、斜め上から倉庫の隅々まで照らす。

頼まれた仕事はもう終わる。自分も早く帰って寝よう。…いやその前に夜食を食べよう。

今の気分としては、野菜の揚げ物が食べたい。だがそれは時刻的にアウトだ。とすれば何が…そうだ。そういえば確か、一昨日作った青豆のパンが冷蔵庫に残っていたはず。

「あとは牛乳をあっためて…ん?」



考え事にふけっていたディアナは、ふと懐中電灯を持つ手を止めた。今照らしていた場所に何か違和感を感じたのだ。オレンジ色の光をそこに当てたまま飛び降り、足を一歩踏み出す。

「布…」

近づくにつれ、それの全体像がはっきりしてきた。

「あれは…袋?」

四角いケースばかりの広い倉庫の隅に、大きな長細い袋が転がっていた。



◇◇

「ふん、まだこの街に駐留しているのか」

三日前までは緑でいっぱいだったが、今では丸焼けになってしまった某市の野原。木星人の攻撃を受けたこの場所で多くのフェアーナ国軍兵士が活動する中、一人茂みにしゃがみこみ手に灰色の通信機を握っている一人の男がいた。

年の頃六十歳。短めに切った灰色の髪・深いシワを刻んだ聡明そうな顔の持ち主で、大柄なその身は白い白衣に包まれている。

「さあてと…」

男は低い声で呟き、楽しげに口笛を吹いた。



この男は前にもこの茂みに来たことがあった。ただその時彼は一人ではなかったし、ここに来た目的も今とは異なるものだった。

彼の今の心境は次のようなものである。

(見張っていた異邦人たちが木星人に拐われたのは計算違いだったな。まあこの前の解析結果で、奴らの基地はだいたい特定できたからおあいこか)

そう。彼は例の、ロボット犬を連れた「博士」である。



「ん…」

少しして「博士」は、手元の通信機の星型のボタンを押した。途端に彼の周りに丸い形のシールドが貼られ、彼を外界から遮断する。

同時にトゥルルルートゥルルルー…カチャッと音がして、相手が電話に出た。



『ミーナドさん?』

「はい私ですよ、将軍」

『彼らを救出し、協力させられたので?!』

「いいえ。残念ながらまだです」

『とすると今日は?』

「今後のことについてお話を。…この前、奴らの基地の大体の場所はお話ししましたな?」

『ええ。しかしちゃんとした場所はまだ特定できていないのでは?』

「まあそうです。せいぜいわかってるのは基地がある地方名ですから。それでも今、襲撃が起こった街でまごまごしているフェアーナ国軍よりは進展していると言えるでしょう。しかし今異邦人が護送されている場所は、そことは異なるようで」

『ほほう』



「正直に申し上げますが、場所は分かりません。しかし私が放ったロボットによると、この前探知したルートとは違う道を進んでいるらしいのです」

『そうですか…そういえば、そのロボット君は?』

「異邦人の一人にくっついたままですよ。思ったよりバッテリーが持ちそうにないので、たくさんの機能は使わせずに盗聴・通信させるのが関の山です。それもくっついている異邦人が活動する範囲で。目立つ行動はできないからと言って、貴方の放った工作員と接触すらしていないのです。申し訳ない」

『いやそれはうちの工作員に責任があります。あいつめ、何のために入れ替わらせた(・・・・・・・)と…報告内容も、あれをしたこれをしたばかりでパッとしないし…』



「今それを言っても仕方がないでしょう。平和な時は何も進展しないし、いざ事が起これば報告書なんて書けませんよ。今だって、木星人に見張られているのでしょうし」

『しかし…』

「工作員さんには今からしっかりと働いてもらうことになりますよ。貴方が工作員として選んだくらいだ、まだ会ったことはないが賢いのでしょう?」

『はい。まあ、その場その場で自分のなすべきことをよく理解する者です。それに自分で言っていましたが、家族思いな上に大の愛星家です』

「結構。では今から、私の今後のプランをデータ化して転送したいと思いますがよろしいか?」

『はい』



ーー

「博士」改め「ミーナドさん」は通信機の裏に挿した小さな電子機器を引き抜いた。



「届きましたな?」

『プランのみならず予想しうるリスクまで…ありがとうございます。これでいけそうです』

「よかった。では私は明日、プラン実行前にここの予備隊訓練所に行って色々調べてきます」

『予備隊訓練所?』

「ええ。ニュースによれば、あそこの兵士が一()いなくなったとか。地理に詳しいものがいれば助かりますので、うまく味方にできないかどうかやってみます。少し前、おたくの犯罪者とゴタゴタを起こした異邦人がいるというのも報道されました。あと、別の異邦人に関する物騒な話を盗聴してしまったので」

『それはそれは…』

「明日は早起きです。では」

『ミーナドさん…』

「なにか?」

『上手くいくことを…願っております。フリージー星(ここ)からでは願うことしかできませんから』

「私も最終的には願う人間ですよ。なにもできませんが願います。あなたがたの…墜落した私を救ってくださったあなたがたのために、ね。」

『…』



ーー

「ああそうだ。貴方の放った工作員ですが、名前をお聞きしても?」

『フリージー星での本名ですか?』

「それも聞きたいですが、まずはグリーン星で使っている偽名をもう一度。これからのために確認をしておきたいのです」

『分かりました。奴の名は…』



◇◇

「なっ…」

袋の口を開けたディアナは、中を見てギョッとした。

「なんで…こんなところに子供が…」

袋の中には、十代後半くらいの子供が、昏睡状態で手足を縛られて横たわっていたのである。



その服に刺繍されていた名前は…。

やっと初老の男の名前が出せました!

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