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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
45/107

廃墟の街で

いよいよ夕莉が本領(?)を発揮します!

「なんで? なんでそんなこと…」

「なんで? そんなの言うまでもない」

「ハールドさん」

エイザクさんがあたしたちの間に割って入った。

「今の夕莉さんは何も知らないんですよ。その話は一旦置いときましょう」

「…分かった」

ハールドは手を握ったままもう一度あたしに向き直った。

「夕莉、とにかく逃げろ。ただしフェアーナの兵隊どもとは絶対に会うな」

「でも…」

納得のいかないあたしに苛立ったのか、ハールドはあたしの腕を揺さぶり声を荒らげた。

「いいから俺の言うとおりにしろ! 今お前を助けたのは誰だと思ってる?! 死にたくなけりゃ、黙って俺の言うことを聞いておけ!」



いつになく真剣な表情のハールド。彼は今、あたしに何かを一生懸命訴えようとしているみたいだった。

「頼む、言うことを聞いてくれ」と言うように。

例の事件の本隊隊長の態度。あれに不安がないわけじゃない。それに、グリーン星軍よりハールドの方がかなり信頼できる。


「…分かった」

頷くと、ハールドはやったホッとしたような顔になり、掴んでいた手を離した。そうしている間にも、木星人たちを下敷きにしている瓦礫が取り払われてしまった。17たちがゆっくりと立ち上がる。

「早く行け。エイザク、あんたもだ」

「分かりました」

「こいつらを始末してすぐに行くから、それまでは二人で適当な所に隠れておけ」

それだけ言って、ハールドはあたしたちから顔を背けて木星人に向き直った。

「…行きますよ」

「うん」



その場から離れるエイザクさんとあたし。逃げていると、背中から声がふってきた。

「分かっていると思うが、敵が現れたら迷わず戦えよ! お前らの脚で逃げられるわけがないからな!」

戦え…か。

「特に夕莉! お前は銃持ってんだろ! 今度は間違いなく使えよ!」



銃。あたしは走りながらポケットに手をやった。チラリと覗くピンク色の麻酔銃。エイザクさんは意外そうな顔をした。

「武器、持ってるんですね」

「んん…」

これは麻酔銃だ。こんなもので、本格的な兵器を持っているプロの兵隊に勝てるかどうかはかなり怪しいんじゃないかな…。…いや、無理無理無理。勝てる気がしない。



そんなこと考えている間に、敵は現れた。

ナイフを構えて迫ってくる黒戦闘服。



「うわわわ!」

またさっきみたいな目に遭うのは嫌だ。その思いが引き金にかけた指に力を入れた。

バン!

「う…」

当たっ…た?

「…」

木星人の表情は見えない。だけど、ナイフを振りかぶったその体は、ゆっくりと地面に崩れ落ちていく。

当たっ…たんだ…。

「はあっはあっはあっ…」

木星人が目を閉じて動かなくなって初めて、あたしは息をつくことができた。



当たった…。どうにかだけど、このあたしが、この武器で、本物の武器を持つ木星人に勝てたんだ…。

それも、野犬とかを撃った時の要領で…。



「一応、銃は使えるんですね」

「ま…まあ」

どうにか頷いたその時、右に人の気配を感じた。

「!」

今度は迷わず引き金を引くと、こちらに走ってきていた木星人が倒れた。

またいけた…。


間をおかず、今度は複数の足音が聞こえた。

「エイザクさん! 注意して!」

言うなり、その方向に銃を向けた。木星人数名がこちらに走ってくる。

「異邦人だ!」

「二人いるぞ!」

黒戦闘服が一、二、三…六名。

「バラついてるし、少し遠いですよ!」

「いいいいいける! 多分いける!」

撃つしかない。

ババババババン!



「へえ、全弾命中」

「…エイザクさん」

あなたなんでそんなに落ち着いていられるの、と聞こうとしたあたしの耳に別の方向から武器のぶつかり合う音が聞こえてきた。

その音は少しずつこちらに近づいてきている。

「ガルフォンさん?!」

あたしたちが立っている瓦礫の下には、木製のハンマーを持ったガルフォンさんと、銃剣を振る数人の木星人兵士。

人数的にも状況的にも、ガルフォンさんのほうが劣勢だった。このままじゃ危ない。ど、どうしたらいいんだろう。

「エエエエイザクさん、どうすれば…」

「…今度は僕が」

エイザクさんはポケットから小型の銃を取り出した。

ダダーン!



麻酔銃とは、振動も威力も異なる実弾らしき銃。

倒れた木星人たちの頭からは大量の血が…。

「ひいいいいいい!」

「なんで腰を抜かすんです?」

そっちこそなんでそんなに落ち着いていられるの…? 今目の前にあるのは死体なのに…。

「エイザク! 夕莉!」

あたしたちに気づいたガルフォンさんが、瓦礫の山を登ってきた。服や体のところどころに血が滲んでいるけれど、特に大きい怪我はないみたいだった。

「二人とも、無事か!」

「はい」

「そうか…」

安堵した表情のガルフォンさん。「兵隊さんたちは?」と訊かれると思って気まずかったけど、幸いなことに何も言われなかった。



「あ、そういえばハールドは?!」

「向こうで木星人たちと戦っています」

ガルフォンさんは目を剥いた。

「あいつ一人で?!」

「ええ。お前らは行けって言われたんですよ」

「そうか…」

呟くガルフォンさんの顔は辛そうだ。

「助けに行ってやりたい。だけど、一人で大丈夫だと言うなら、今はあいつの実力を信じるしかないな」

「それはどういう…」

ことですか、と続けようとしてあたしは、瓦礫の山の下のコンクリートの壁に目を止めた。

何か…動いてる?



「ガ…ルフォン」

コンクリートの壁から顔を出したのは、ライオネルさんだった。

「ライオネル」

「エイザクと…夕莉…無事だったのだな」

ライオネルさんの口から言葉は途切れ途切れで、しかも苦しげで…おまけに彼は地面に手をついていつまでたっても立とうとしない。

「ライオネルさん…? どうしたの?」

瓦礫から飛び降りようとしたら、ライオネルさんと同じくらい苦しげな表情のガルフォンさんに止められた。

「…見ないほうがいい」

「え、どうして…」

「やられたんですか?」

エイザクさんが聞くと、ガルフォンさんは無言で頷いた。

やられた…って何を?



「…脚を木星人に刺されたんだ。だからあいつは今立てない」

刺され…た?

「そんな…」

信じられない。絶対に信じたくない。だけど、ガルフォンさんとライオネルさんの真剣な目が、今の話が真実であることを物語っていた。

「ああああ…」

「…」

ガルフォンさんはあたしの頭に手を当てた。

「…それでひとまず、どうにかここまであいつを連れて逃げてきたんだ」

「ここにきた時に木星人に追いつかれて、それでさっきピンチに陥ってたんですね」

「そうだ。君たちのお陰で助かっ…」



ドカーン!



突然ガルフォンさんの言葉を遮って、市街地の方で爆発音が響いた。続いて沢山の人の悲鳴とモクモク上がる煙。

「あれは…?」

「木星人たちの大型戦車が街を攻撃しているんだ」

そういえば、砂地に向かって走っていたときに何度か爆発音を聞いた。

「い、いつから…」

「夕莉が広場から抜けた直後かな」

「そういえば爆撃を聞いたからには、フェアーナ軍がひとりでに駆けつけてもおかしくないのに全然来ませんね」

「おそらく、砂地の方にも木星人が行ったんじゃないか?」

じゃあ、ガルフォンさんたちはあの爆撃にさらされながらずっと戦って…。

「!」

ここであたしは肝心なことに気づいた。



「そ、そういえばクリスティナローラさんは?!」

あの人も広場で戦ってたはず…!

「ライヨルさんは…」

ガルフォンさんは爆撃の続く市街地を指差した。

「多分まだ、あの中だ…」

「そんな!」

「くそ!」

瓦礫山の下でライオネルさんが、拳を握りしめた。

「私が…怪我さえしなければ」

「ライオネル!」

「違うと言うのか?! この…忌々しい怪我のせいで…」

ライオネルさんは握りしめた拳を、布を巻きつけた右膝に叩きつけようとした。

「やめろ!」

すかさず飛び降りたガルフォンさんがその手を掴んだ。

「離せ、ガルフォン!」

「ライオネル、君が落ち着け!」

「落ち着いていられるか?! こうしている間に、クリスティナローラが危ない目にあっているかもしれんのだぞ!」

「そんなに心配なら、僕が様子を見てきてやるから…」

「それはダメです」

すかさずエイザクさんが遮った。



「エイザク…」

「ガルフォンさんはここから動くべきではない。行くなら僕らのどちらかでなくては」

「なぜだい?」

「今の状態のライオネルさんを」

スッと彼の脚を指差す。

「いざとなった時僕や夕莉さんでは運べませんからね」

「…」

「もっとも、お荷物だからと見捨てるなら話は簡単ですけど?」

「分かったよ」

ガルフォンさんはゆっくりと頷いた。

「行ってくれ。ただし、行くのなら君たち二人でだ。何かあったら危ないからな」

「でっでもそれじゃあ、ガルフォンさんが一人に!」

「そこは大丈夫だよ、夕莉。じきにハールドも駆けつけてくれるだろ。ライオネルの怪我もひどいし、ひとまずここで待機しておく」

「賢明な判断ですね」

エイザクさんは瓦礫の山を下った。あたしも慌てて続く。



「気をつけるのだぞ!」

「危ない目にあわないようにな!」

「頑張る!」

精一杯の大声で叫び、あたしはエイザクさんと市街地の方へ駆け出した。

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