初めての戦闘
久しぶりの、夕莉オンリーの視点です!
いざ戦闘になったら、私にできることなんてないんじゃないか。
こうなる前から、心の片隅でしょっちゅうこんな声がしていた。
その声は正しかった。
木星人たちが姿を現した時、あたしは怖くてただ震えることしかできなかった。
その後の戦闘でも同様。ライオネルさんやクリスティナローラさんが戦っているのに、あたしの手はポケットの銃を握ることができなかった。
次々と上がる血しぶき。地面に転がる黒軍服の兵士たち。昼間は賑わっていた街が、徐々にどす黒く染まっていく。
脚がガクガクと震え、まともに立っていられなかった。
これが本格的な戦闘…。
あたしを守るようにして戦ってくれていたガルフォンさんは、あたしがいつまでも動けないでいるのを見て言ってくれた。
『兵隊さんたちを起こして来てくれ』
その言葉に逆らう気などなかった。もうその場にいたくないから、あたしは広場から抜け出して、砂地を目指し走り出した。
そして今、あたしは廃墟を駆け抜けている。
夜の空気は冷たい。いつまでたっても終わらない廃虚の風景は不気味すぎる。
だけどそれも、さっきの広場に比べたらずっとましだ。
あんな惨劇が起こるなんて知らなかった。聞いていなかった。テレビとか漫画とかでしか見たことがないのに。
あたしは…来るべきじゃなかった。
次の瞬間、足に固いものが当たったかと思うと、あたしの体は思い切り地面に叩きつけられた。
「痛…」
どうやら蹴つまずいて転んだらしい。脚に手をやると、少し擦りむいていた。
「なんでこんなついてない目に…」
痛む膝を押さえてあたしはひとりごちた。
神様は、あたしの運命を呪っているのか…?
後ろで、なにかが破壊されたような爆発音がした。続けてたくさんの人の悲鳴も。
弾かれたように跳び起き、走り出す。
怖い、怖い、振り返りたくない。
振り返ったら、地獄を見るような気がしたからだ。
ここが人のいない静かな廃墟だらけなことに、今更ながらホッとした。
ーー
ゼエゼエ、はあはあ。
今のあたしの手足にはだいぶ疲労がたまっている。木星人たちが追いかけてこないかものすごく不安だ。
「砂地…まだなの」
ザッザッザッザッザ…。
不意に近くから沢山の人の話し声が聞こえてきた。ひょっとして、フェアーナ国の兵隊さんたち?!
「なんだ、こいつは違う」
「グリーン星人だな」
恐る恐る声のする廃墟に近づいてみると、数人の黒戦闘服が何かを取り囲んでいた。
あの戦闘服は木星人だ!!!
「こ、殺さんでくれ頼む…」
「だとよ」
「捕まえとくのもめんどくさい、殺っちまえ」
黒戦闘服の一人がナイフを抜いた。
殺す気だ、やばい!
あたしはとっさに近くのコンクリートの塊を拾って全身を使いつつ、ナイフを持つ黒戦闘服めがけて投げつけた。
ガンッ。
コンクリートは、黒戦闘服の後頭部に当たった。
「うう…」
「誰だ?!」
当たって喜んでいる暇はなかった。すぐにヘルメットの先が、あたしの方へ向く。一方、捕まっていた人は一瞬こちらを振り返ったかと思うと、すぐにその隙をついて逃げてしまった。
「おい、あれ…」
「グリーン星人じゃねえ」
「異邦人だ、間違いない!」
今度はあたしがやばい!
ガシッ。逃げようとした寸前に硬くて大きな手に肩を掴まれた。
「ひっ」
「確保!」
その言葉とともに、あたしの体は乱暴に持ち上げられた。そのまま体を二本の腕で拘束される。
正面には、黒ヘルメットを被った目つきの鋭い兵隊の顔。今あたしがコンクリートを投げつけたやつだ。その首筋では何かがギョロギョロうごめいている。
これ…眼球?!
あたしを捕まえている木星人は化け物?!
「ーッ嫌だー! 離して! 離してよ!」
抗議の声を上げて悶えても、硬い腕はビクともしない。
「お願い、異邦人なんかじゃないったら!」
泣きたい気持ちで叫んだのに、周りからは哄笑が上がった。
「間違いない、こいつは異邦人だ! やったな17!」
「すぐに司令官の元へ連れて行こうぜ! 国賓なら大手柄だ!」
周りで笑う木星人の兵士たち。よく見ると彼らの額や首にも、一つずつ金色の目があった。それが全部あたしを見ている…。
「ーッ!」
手は使えないから脚を打って必死で抵抗し、歩くのを妨害した。こいつらは殺戮者だ。連行された先で殺されるかもしれない。こんなところで死ぬなんて絶対嫌だ!
「離して! 離し…」
ガンと殴られたような衝撃が頭にきた。
「暴れるな、ガキが。お前が異邦人だってことは分かってんだよ」
耳元で囁かれた荒っぽい声。首筋の金色の眼球もあたしをじっと睨んでいた。
「ああああああ…」
だめだ、落ち着け。落ち着け、あたし。
一旦抵抗の手を止め、頭を落ち着けようとする。ひょっとしたら木星人は私が異邦人だって見分けられるのかもしれない。なら嘘をついても無駄ってこと。
あたしは木星人の腰にもチラリと目をやる。今の状況を覆す打開策は…。
あたしは明後日の方向を向き、あたかも人を見つけたような素振りをした。目を大きく見開きほどほどの大声を出す。
「こっ国賓の皆さあん! こっち来ちゃやばい、逃げてえ!」
「は?!」
「国賓?!」
木星人が明後日の方を向くと同時に、あたしを拘束していた腕の力が一瞬緩む。その隙を見逃さず、あたしは木星人の腕から抜け出した。
「動くな」
「こっこの…クソガキ!」
今あたしが向けているのは正真正銘の実弾入り拳銃だ。さっき木星人の腰から銃を引き抜いておいた。
「殺されなくなかったら母船に帰れ」
だけど、木星人達は怯まなかった。
「それ弾は6発しか残ってねえぞ!」
「素人のてめえが、俺たち5人とも倒せるのか?!」
「撃ってみろよああん?!」
ああ…ここまで来てこうなるのか…。
自信がないわけじゃない。
ただ、撃てない。
これは麻酔銃じゃない。実弾入りの銃だ。
これで撃てば血が出る。
怖い。
あたしは人殺しにはなりたくない。
青ざめた顔をしているだろう。あたしは銃を向けたまま動けずフリーズしてしまった。
「ガキの分際で舐めやがって…」
怒り狂った顔であたしを見る17と、薄笑いを浮かべる黒戦闘服たち。
「ちっと痛い目を見せてやるか」
「いいぜ。殺すなと言われただけで、重軽傷は問われねえからな」
嗜虐の光を宿した彼らの目。宇宙船での迷彩服男にそっくりだった。
「そんな…」
手が小刻みに震える。
壁に嫌という程叩きつけられたことを思い出す。
またあんな痛い目にあわされるなんて嫌だ…!
「覚悟しやがれ!」
振り上げられた大きな拳。
だけど、それがあたしに当たることはなかった。
ドガッ!
隣の廃墟のコンクリートの壁が宙に浮いたかと思うと、そっくり木星人たちに体当たりし、彼らはその勢いで横に吹っ飛んだ。
「え…」
「夕莉! 大丈夫か?!」
聞き覚えのある声。声の主はすぐに駆け寄ってきて、あたしの腕を掴んで目線を合わせてくれた。
「ハール…ド」
「おい、大丈夫か?」
ガチガチガチガチガチガチガチガチ。
「夕莉?」
「うううう…」
「そろそろ泣くのやめたほうがいいですよ」
ハールドの後ろから出てきたもう一人の少年。
「エイザク…さん?」
「あいつらはすぐに起き上がってきます」
エイザクさんは、あたしを無視してハールドに言った。その指差す先では、コンクリートの壁が少しずつ動いている。
「あ…」
「分かった。俺が相手になるから、あんたらは逃げろ」
ハールドが言うのを聞いて、ふとガルフォンさんの言葉を思い出す。
『兵隊さんたちを起こしてきてくれ』
…兵隊さんの所に行けばもう安全だ。
「分かった、すぐにスピッツたちに来てもらうね」
一刻も早くここから逃れたくて、あたしは砂地の方へ駆け出そうとした。だけどいきなりその手を強く掴まれて止められる。
「ハールド?! なんで?!」
「砂地に行く気か?! それはダメだ!」
いつになく必死の形相のハールド。掴まれた手は堅くて解けない。
「だだだって、あそこが一番安全じゃん! それに助けを…」
「お前馬鹿か!」
…怒鳴られた。
…なんで?
「あのフェアーナ国の兵士どものそばにいるのが一番危ないんだってなぜ分からない?! いい加減に目ェ覚ませ、この阿呆!!」




