木星人の攻撃 再び
木星人の目的とは…。
逃げきれなかった。
逃げる間など、クリスティナローラたちには残っていなかったのだ。
地響きはあっという間に止んだ。代わりに聞こえるのは、せわしない足音。
ダダダダダ…。
その音はどんどん近づいてくる。
他の三人と走りながら、クリスティナローラは銃剣を固く握り締めた。
(敵は多い。しかも、かなり洗練されたものたちだわ…)
そして次の瞬間。
(来る!)
背後に殺気を感じ、とっさに振り向き一撃を浴びせた。そしてそのまま背後に飛ぶ。
(やっぱり…)
倒れたのは、見覚えのある黒い戦闘服の兵士。
「ひゃあああああああ」
ガルフォンの横にいる夕莉が悲鳴をあげた。
「いつのまに、こんな…」
闇に隠れて彼ら四人を追いついてきたのは、恐らく五十人近くいるであろう木星人兵士だった。そしてその一人一人の手に、刃が鈍く光る銃剣が握られていた。
そして、彼らの奥には何か大きくて長いものが…。
(いえ、今はそれを気にしている時ではないわ)
クリスティナローラは銃剣を構え直した。ライオネルやガルフォンも身構えたのが気配でわかった。
「…かかれ」
先頭に立つ男の口から合図が出るとともに、兵士たちは一斉に四人目掛けて飛びかかった。
◇◇
「おーおー、こりゃまたすげえな」
最高司令官の横であぐらをかいているシャンテルは、上から市街地での激戦を見下ろしていた。
黒軍服に囲まれている四人の異邦人は、次々に押し寄せる木製軍を一人また一人と確実にしとめているようだ。広場は沢山の黒い怪我人(あるいは死人)で埋まろうとしている。
「味方やられまくってるけどいいんかい?」
「そこは予想済みだ。あいつらが疲れた頃にお前を投入する」
司令官は平然と答えた。
「疲れた頃…ね」
夜風に吹かれて赤毛が頬をくすぐる。シャンテルは手の中のナイフに月の光を当てた。
「勝つのだぞ」
「まあ負けない自信はあるんだが…」
シャンテルは目を凝らして四人の動きを観察した。
「一番派手にやってくれてんのが、ワンピース着た女か。銃剣持ってんな…あいつが数十名を返り討ちにしたんだっけ?」
「そうだ」
数日前、副司令は自分の隊から死人が出たことを悔しがっていた。だから今彼は、執拗に彼女目掛けて攻撃を集中させているらしい。
「馬鹿だな、あのおっさんは。そんなことすればするほど、死人が増えるってのによ。んで、と」
彼女の援護射撃をしているのが、灰色の髪の青年。
「ふん、こそこそやってんじゃねえよ」
そこから少し離れたところで、大柄な体格の少年がハンマーを振り回している。銃剣の女ほどではないが、なかなか強い。
彼の左肘にある『第三の目』には、三人のグリーン星人とは違う細胞組織が見えていた。
そして、最後の一人…は見つからない。さっきまでは三人と一緒にいたのに、乱闘に紛れてどこかへ逃げ出したのだろうか。
「…どのみち遠くには行ってねえ。それに、逃げ回るだけのやつに大した戦闘力があるとは思えねえしな」
外で起こっている異変に気付いたのか、町の住宅の灯りが点々とついていく。
シャンテルは座席から立ち上がった。
「じゃあ、行ってくらあ」
司令官はフードの下から念を押した。
「お前の任務はあくまで四人の捕縛だ。それを忘れるな」
「あいよ」
次の瞬間、超巨大筒型戦車の頂上にあったシャンテルの身体は、闇の中に真っ逆さまに吸い込まれていった。
◇◇
もう何人を斬っただろうか。
銃剣には血がこびりついて切れ味が鈍くなり、休む間も無く動き回るクリスティナローラのワンピースは返り血を浴びて赤く染まっている。
(いつに…なったら…撤収するの!)
仲間が倒されても、次から次へと飛びかかって来る兵士たちを相手にしながら思う。
いい加減引き上げて欲しい、と。
先程まで援護に回ってくれていたライオネルだったが、今では銃弾の音がこちらに上がることはなかった。ガルフォンや夕莉に至っては、生死すら不明。
クリスティナローラもまだ疲れてはいないが、念入りに敵の息の根を止めている余裕がなくなった。一斬り一斬りで終わらなければ、いっぺんに沢山の兵士の相手はできない。
要するに、皆自分のことだけで精一杯なのだ。助け合うなどできっこない。
それでも、時折クリスティナローラの耳にはこんな声が入ってくる。
「クリスティナローラ、無事か!」
「しっかりせよ!」
この声を聞くたびに、心は奮い立った。同時に、声の主が生きていることが分かってホッとした。
(私は…戦う!)
思い切り銃剣を振るクリスティナローラに、彼女を取り囲む兵士たちの勢いが削がれた。
(いける!)
彼らを順に斬り殺そうと足を踏み出したその時、不意に背後から別の気配がした。
(敵か?!)
とっさに振り向き、一撃を浴びせる。手応えは…なかった。
「危ねえ、危ねえ」
足元から声がしたかと思うと、次は下からの攻撃。曲者の手に握られたナイフがギラリと光った。
(胸元に飛び込まれてはいけない!)
とっさに銃剣でなぎ払おうとするも、敵の動きは素早い。体を動かしつつ、角度を変えて攻めて来る。
次の瞬間、左手に鋭い痛みを感じた。
「ぐっ!」
反射的に銃剣を大きく振ると、曲者の体が後ろに飛んだ。
…やはり手応えは、なかった。
完全に避けられたらしい。
「おいお前ら」
曲者は、赤いちぢれ毛を軽くかきあげながら周りの兵士たちに呼びかけた。
「ここはもういいから、見当たらない残りの一人を探しな」
その言葉に、兵士たちはワラワラと散ってゆく。残されたのは、クリスティナローラと曲者のみ。
タレ目の曲者はまだ若かった。クリスティナローラとそんなに変わらない年だろう。
(でも兵士たちに命令した。…この男もしかして、兵士たちより上の立場?)
「さあ、続けるぜえ」
曲者の声でハッと我に返った。
二人の体が一気に跳び、武器のぶつかり合う音が響く…!
同時に、爆発音がした。
司令官の乗った超巨大筒型戦車の側面から出た光が、近くの建物を破壊したのだ。




