表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
42/107

断罪

久々の投稿になります!

ついでに、36・37話を割り込み投稿致しました。

読んでいただけると嬉しいです。

(*「企み 其の二」が「うさぎとねずみ」よりも前にあります。)

「あっ…」

「声を出すな」

静かな声とともに、悲鳴を上げようとした口はすぐさまもう片方の手で塞がれた。身をよじって逃れようとしても、曲者はスピッツの耳を固く掴んで離さない。

(な、何者…)

暗がりの相手の正体を見極めようとした時、耳元で低い声が囁かれた。

「道理でおかしいと思ったわけだ」

(え?)

「あんな戦闘力のないやつが、助っ人だなんてな」

「!!」

その言葉に驚いたスピッツは、思わず耳を掴んでいる腕から覗く曲者の顔を仰ぎ見た。

見えたのは、やや整った顔に浮かぶ静かな怒りを湛えた瑠璃色の眼。



(ハールドさん…)

真空レール襲撃の容疑を持つ異邦人。

目が合うと、怯んだのか耳を掴む力が弱まった。その一瞬の隙をついて耳と口から手をもぎ離して後ろに飛ぶ。そしてハールドを睨み据えた。

「なんなんですか!」

「それはこっちのセリフだ!」

気をとりなおしたハールドは再び間合いを詰めようとした。それを避けながらスピッツは問う。

「いきなりこんな暗がりに引っ張りこんで、どういうつもりかって聞いてるんですよ!」

冷静に尋ねられないのは、彼がフリージー星人の可能性があるからだ。

(それにこの人のさっきのセリフって…)


暗がりの口がパッカリと開いた。

「助っ人ならぬ人体実験台について、言いたいことがあってな」

「まさか、さっきの聞いてたんですか…」

本隊隊長から聞かされた、フェアーナ国最高機密。夕莉の処遇のことを。



「聞いたぞ。あの本隊隊長野郎の言葉は全部な」

「な、なんで立ち聞きなんか…失礼じゃないですかっ」

他に言葉も思い浮かばずそう怒鳴りつけると、闇の中からのびてきた手に今度は胸ぐらを掴まれた。

「失礼? それはあの会話の中身のほうだろ? それとあの本隊隊長野郎もな」

「う…」

言い返せない。それは、体がつり上げられて苦しいからではない。

「何も知らない女に、最強兵器の実験体なんて役目を用意しているなんてな…」

「う…」

「あんな友好的に接しておきながら…」

「うう」

「本当に最低だな」

次々と放たれる辛辣な言葉がスピッツの心にグサグサ突き刺さり、闇の中で閃く瑠璃色の眼は、スピッツの小さな体を容赦なく射抜く。

「本当に最低だな、お前らの国は」



不意に瑠璃色の眼がスッと細まった。

「お前は」

「え?」

「お前はどうなんだ? 人体実験については」

何を聞かれたのか、一瞬分からなかった。

「じんた…」

「夕莉を犠牲にして平気なのかって聞いてんだよ」

先程より幾分怒りを抑えた声。注がれる視線もさっきよりは痛くない。



「俺が聞きたいのはそれだ。答えろ」

首を締め付ける力が少し緩んだ。ハールドは本気でスピッツの返事を待っている。

「何を…言いたいんです」

「お前個人の意見はどうなんだ、あいつを逃がしてやりたいとは思わないのか?」

「にっ逃がす?!」

突然の言葉に、スピッツの喉からは信じられないほど高い声が飛び出した。

「だってそうだろう。あいつが殺されるのを防ぐにはそれしかない。お前が船を用意しろ」

「や…でも」

「あのお偉いさんどもを説得できるとでも思ってんじゃないだろうな」

それは不可能だ。この件はもうフェアーナ国上層部で内定している話なのだから。今更説得などしたところで相手にはされない。



夕莉が実験体の役目を免れるためには、逃亡するしかない。だが、スピッツは首を縦に振ることができなかった。

だんまりを続けるスピッツに苛立ったのか、ハールドは彼女の襟首をきつく掴み直した。

「どうした。なんで頷かないんだ」

「…」

「おい」

「…そんなこと、できるわけないですよ」

やっと出たのは、掠れて小さくなった声だった。

「できるわけないじゃないですか」

自分を睨みつけるハールドの眼を避けながら、スピッツは早口でその言葉を繰り返した。

「本気か」

「今、危機に瀕してるグリーン星を救うためです。仕方のないことです」

自分の意思で出しているはずの自分の声が、ひどく遠くから聞こえる。その奇妙な感覚を追い出すために、スピッツはひたすら上司と本隊隊長の顔を思い浮かべた。

「私は…グリーン星の兵士ですから」



「…それが答えなんだな」

暗闇の瑠璃色の眼が再び細められた。

「この、裏切り者」

「…」

「今の瞬間、お前もあいつらと同類になったんだ!」

その言葉とともに襟首を掴んでいた手が持ち上がったと思うと、スピッツの体は地面に投げ出されていた。痛みを感じる余裕もなく、ハールドの罵声が降り注ぐ。

「お前はあいつの親友だって聞いてた。だから俺に同調すると思っていたんだ!」

(そうだけど…)

「なのにお前の答えはそれかよ」

(そうだけど…)

「あいつが…夕莉が理不尽な目に合うのを傍観するのかよ!」

(したくてしてるんじゃない…)

「お前も、裏切り者だ」

その言葉に、ハッと顔を上げる。



「お前は夕莉の信頼を、友情を、全部裏切ったんだ!」

ハールドは本気だった。本気で怒り、スピッツのことを裏切り者だと言っている。

違う。

そう叫びたかった。

(私だって、私だって騙されてたんだ…)

上司に。本隊隊長に。

(私だって…!)



「協力してもらえないなら仕方ない」

感情の抜けた声で囁いたハールドは、再びスピッツの耳を掴んだ。

「今から俺がすることを邪魔されたら困るからな」

直後、後頭部に衝撃がきた。

「う…」



意識が抜けていくスピッツの目に最後に映ったものは、朱色ではなく瑠璃色の眼だった。



◇◇

スピッツを殴って気絶させた。

(どこかに隠しておくか…)

本当は縛っておきたいが、生憎とロープがない。

(それに、急いで夕莉のところに行く必要があるからな…)

ひとまずは、どこかに隠しておくことだ。ハールドは近くの茂みにスピッツの体をねじ込んだ。ここなら簡単には抜け出せないだろう。

(よし…!)

「これをしに、戻ったんですか?」

突然後ろからかかった声に、ハールドの身体が固まった。

(こいつは…)

「途中からですが、見せていただきました」

近くの木にもたれかかっているのはエイザク。暗がりで顔は見えない。



「…何の用だよ」

「あなたが戻ってこないから、見てこいとライオネルさんに言われましてね」

(あの野郎、余計なことを…)

ハールドは舌打ちし、暗がりから砂地に目を向けた。兵士数名が歩いている。まだ飛び出せない。

「しかし、ぶっそうな話でしたね」

エイザクはゆっくりとハールドに近づいてくる。

「まあでも、僕の関心はそこじゃないですが」

「…」



「…最近の、あなたのうさぎ狩りの時から思ってたんですけど、あなたは色々いわく付きの人ですね」

(何が言いたいんだ、こいつは)

ハールドの眼は砂地、耳はエイザクに向けられている。こんな時に話など聞きたくもないが、耳に入ってくるのだから仕方がない。

エイザクは淡々と続けた。

「植物の需要は食用か否かで判断。うさぎを素手で捕まえて調理。そこらへんの一般人のする…いえ、できることではない」

「なんだって?」

「迷彩服のフリージー星人を夕莉さんと倒したんでしたね。詳しいことは知りませんけど精神力も並々ではないんですね」

「…」

「あとあなた確か、念力使いでしたよね。…さっきのウサギにはなぜか使ってなかったけど」

「…」

「ハールドさん」

闇の中で藍色の目だけが鈍く光った。



「あなた一体何者なんです?」



遅かれ早かれいつかは聞かれると思っていた質問。だが、それにはまだ続きがあった。



「あなたは本当に、フリージー星人ではないんですか?」



「は?」

予想もしていなかった質問に戸惑う。

(俺がフリージー星人?)

冗談を言っているのかとエイザクを見返すが、彼の目は真剣そのものだった。

「答えてください」

全くの理解不能。



「なんでいきなりそんな話に…」

なる、と続けようとしたその時、町の方から爆発音が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ