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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
41/107

二つの心

第34部分「発覚と新たな疑問」を改定しました。

(ストーリーにはなんの支障もないです)

ハールドのお目当はスピッツというウサギ兵士だった。



◻︎◻︎

待ち合わせの場所に行く途中、ハールドは予備隊隊長ゲンネーのテントに向かうウサギ兵士を見かけた。それがスピッツだということに気がつくのに、十秒もかからなかった。

(昼間、夕莉と二人で飯を配ってたな)

それだけではない。四六時中二人はずっと一緒にいた。だから忘れようがない。

そのスピッツがこんな夜中になぜ予備隊隊長の元へ?

(まさか昼間俺のことを見張ってて、何か報告しに行くつもりか?)



それを確かめるために引き返してきたというわけである。



ーー

(もう遅いかもしれないが…)

見回りの兵士を警戒しつつ、ハールドは予備隊隊長のテントに忍び足で近づいた。そしてそっとうずくまり、テントの布に耳を当てた。

「帰りたい、だと?!」

予備隊隊長ではなく、別の男の怒鳴り声が聞こえた。

(こいつは…)

忘れもしない。宇宙船でハールドを拘束しようとした本隊隊長の声である。

「そんな欲求は、当然却下だ!!」

続いて、スピッツの困ったような声が。

「故郷の料理をを食べたら、すぐに帰ってくるって言ってましたよ」

(故郷の料理?)

なんの話かよく分からないが、ハールドのことを言っているわけではないらしい。ホッとしつつも、彼はテントから離れる気になれなかった。

彼に無関係だとしても、相当物騒な内容のようだ。聞いておいて損はないと思った。

(気配からして、中にいるのは三人か? とするとあとの一人は予備隊隊長に違いないな)



「なんと言おうが、あの異邦人はここから出すことはできん。故郷の料理などと、胡散臭い…」

異邦人。誰のことを言っているのか。テントから少し耳を離して考え込む。

(ガルフォン? ライオネル? クリスティナローラ? エイザク? それとも、まさか…)

スピッツがその人物のために取りなそうとする異邦人。それは…。

「隊長、私もさっきスピッツから話は聞きましたが、夕莉さんは本音を言っていると思います」

(夕莉…!)

ハールドはカッと目を見開き、テントに耳をぶつける勢いで当てた。

(異邦人って、夕莉のことか! あいつの故郷云々がどうしたって?!)

「ですからしばしの帰星を許して差し上げては…」

予備隊隊長がスピッツに加勢しているらしい。だが、本隊隊長の返答は冷たかった。

「その理由は嘘に決まっとる。あの地球人はこの星から逃げるつもりだ」

信じられないような言葉が出てきた。

(逃げる?! なんでそんな話になる?!)



「隊長、それは流石に…」

「ないか? ゲンネー、そのようなことがどうしてわかる?」

「それは…」

「せっかく誘拐した他星人だ。逃すわけにはいかんと言っただろう」

(誘拐って…あいつは助っ人として連れて来たんじゃないのかよ)

誘拐。それは思いもよらない言葉だった。それはまだ続く。

「あの地球人はあくまで誘拐した一個の個体だ。忘れてはいまいな」



そして、この話には思いもよらない展開が待っていた。ハールドはそれを聞いてしまった。

まず分かったのは、必要なのが個体であって彼女ではないということ。



『え、だってあたしは助っ人だから…』

若干はにかむように、けれども得意げに教えてくれた夕莉の言葉を思い出す。

時にはハールドの苦手な兵士達やライオネルらとの間も取り持ってくれ、黒い目をキラキラさせて笑っていた彼女の言葉を。

(あいつを騙してたのか…)

暗い夜の闇に包まれるハールドの胸に、沸々と熱い怒りが沸き起こった。



◇◇

「しかし、これはまずいな。どこからあの地球人に秘密が漏れたのやら…」

本隊隊長はボソボソ呟いて腕を組んでからスピッツを見た。フェアーナ国本隊隊長の射抜くような視線がスピッツに向けられる。直視できないほど強い視線が。

(目をそらしちゃだめだ。私はフェアーナの兵士だから)

腹にグッと力を込めて見返す。本隊隊長はフッと息をついてからスピッツの上司である隊長を見、それから口を開いた。

「成り行き上やむを得ないことだ。今からお前にフェアーナ国上層部の機密情報を授ける」

(上層部の機密情報?!)

驚いた。と同時に全身に震えが走った。さっきの彼の発言で感じた衝撃がどこかへ吹っ飛んでいってしまった。単に緊張か、それとも若干の喜びのためか。

(三流兵士が機密なんて…)

「よってこれから話すことは他言無用である」

「は、ハイ」



そして明かされた秘密。夕莉の誘拐のわけ。それを聞いてスピッツの体温は一気に氷点下まで下がった。

(夕莉…ちゃんが人体実験の道具…)

さっきとは違う温度で身体中が震えているのを感じる。確かに聞こえた。人体実験。人体実験。人体実験。人体実験。

「だからあの地球人は逃すわけにはいかないと言ったのだ」

はあとため息をついて言う本隊隊長。その横で複雑な顔をする上司。その顔にはスピッツに対する憐れみのようなものが込められていた。

(隊長は知ってたんだ…)

「い、いつから…」

苦しそうな顔の上司に向かって声を絞り出すと、代わりに本隊隊長が答えた。

「ゲンネーには、あの地球人を確保した時に説明させてもらった。あの地球人には監視が必要だということを強調するためにな」

「そう、なのですか…」

隊長は知っていて、今まで夕莉を欺いてきたのか。あの笑顔で、言葉で、気遣いで。

「もっとも、最強兵器の完成はまだ先だ。それまではあの地球人の監視をより強固にする必要がある」

本隊隊長の言葉は完全に聞き逃していた。スピッツはショックな気持ちをそのまま出した顔を上司に向け続ける。

(夕莉ちゃんだけじゃない。私も…)


「お前にもその監視の役が回ってくるものと思え」

突然告げられた言葉にハッと我に帰る。



「まさか嫌だとは言わんな。これは祖星のためであるぞ」

淡々と低い声をスピッツに浴びせる本隊隊長。たった二言だけの言葉。それはとてもとても重かった。

「かん…しですか?」

「そうだ。これまで以上に強固にな。もう外出も禁止だ。そうだ、いっそのこと独房にでも入れておくか」

外出禁止。独房。

では…夕莉はどうなる?

青空の下で料理して、兵士や国賓の四人とおしゃべりして、スピッツとふざけて笑って、満面の笑みをさらけ出していた彼女は。

(夕莉ちゃんを束縛するなんて…)


『スピッツと一緒にいると、楽しいな。ずっと一緒にいたいくらいだよ』


夕莉の幸せそうな笑顔を思い出し、胃がキリキリと痛んだ。

(夕莉ちゃんとの思い出を、嘘になんてしたくない)

顔を上げずに、声を絞り出す。

「そんなこと、できま…」

「忘れたか。全てはグリーン星のためだ」

必死の拒否の言葉は無情なる声にあっさりと遮られた。そしてそのまま耳を掴まれ、顔を上げさせられる。

「お前は、この星がどうなってもいいというのか」

「そんなことは…」

「第一あの地球人だって、元々はお前が誘拐するよう命じられてその通りにしたのであろうが?」

(そうだけど…)

「誘拐を命じられた時点で、あの者に明るい未来など待っているわけがないと思うのが普通だ」

(だけど…)

「それにお前はグリーン星の兵士だ。私の命令に従うのが第一」

(もうやめて…)



救いを求めて上司の目を見る。だが、すぐに苦しげな顔でそらされた。

(そんな、隊長…)

「命令が聞けないなら、まずはお前から処罰する」



そして、無情な言葉の責め苦は続き、とうとうスピッツは本隊隊長の言葉に首を倒してしまった。

「よく決意した。それでこそ我が国の兵士」

普段なら光栄すぎる褒め言葉が、良く聞こえるはずのウサギの耳には入ってこない。

広くて白い、明るいテントの中で、スピッツの心だけはポッカリと黒い穴が空いていた。



ーー

「『このことは他言無用』か…」

隊長のテントから出たスピッツは自分のテントに戻った。

(夕莉ちゃんよぅ)



なんともいえない気持ちで空を見上げたその時、突然暗がりから伸びた手が、スピッツの耳をグイと掴んでテントの陰に引きずり込んだ。

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