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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
40/107

異邦人六人 3

待ち合わせの場所である巨木の下には程なくして全員が集まった。暗がりでライオネルさんが点呼を始める。

「ガルフォン、ハールド、いるな?」

「ああ」

「エイザク」

「います」

「夕莉とクリスティナローラもいる…と。ほほお、今夜はえらく綺麗だな」

クリスティナローラさんのファーコート姿を見て、楽しそうに言うライオネルさん。

「さ、行きましょう」

蕩けるような視線を(流石にちょっと大げさかな?)華麗にスルーしたクリスティナローラさんはそのままスタスタと町の方に歩き出した。



夜の町は静かだった。木星人の出現を恐れているためか、人通りはあまりない。明かりがついている家も少ない。

「なんか、寂しいね」

「というより不気味だな」

隣を歩くハールドの口調が冷静な顔で答えてくれる。

人気のない夜の町。昼間は賑やかだったそこをたった六人だけで、それも異邦人だけで歩いている。不気味だとか怖いとかは思うけど、何より不思議な高揚感が湧いてくる。

「お、あそこの店が空いてるぞ。入るか」

ライオネルさんが指差したのは、小さなカフェっぽい店。古びた木材のドアの横に、橙色のランプが吊るしてある。そしてドアに書いてある文字は…

「テロンの居酒屋?!」

「カフェじゃなかったか。まあ入ろう」

驚く私を尻目に、ライオネルさんは普通にドアを開けて中に入っていった。いいのかな〜子供が夜にこんなところに来て。



「へいらっしゃい」

明るい店内。カウンターには人の良さそうな白髪のお爺さん。他に人がいないから、この人が店長さんかな?

お爺さんは、私たちを見るや否や嬉しそうに目を細めた。

「おやおや。お子ちゃまばかりですかいね。何を差し上げましょうか?」

「そうだな。まずメニューを見せてくれ」

六人でカウンターの端から順に椅子に座っていく。あたしはちょっと緊張しながら。

そのカウンターは低めで、椅子はどれも丸太を加工したものだった。

「すごいな、これ全部店長が作ったんですか?」

丸太椅子を撫でながら、ガルフォンさんが聞く。

「ええそうですよ」

それはすごい。

感心していると、お爺さんはメニューと一緒に湯気の立つお茶入りのコップを出してくれた。

「お決まりでしたら言ってくださいな」

「ありがとう。そうだな…」



メニューを持ったライオネルさんは、少し考えてから隣のクリスティナローラさんに尋ねた。

「今夜はカクテルで行こうと思うのだが、どうだ?」

「…お好きなようになさいませ」

「いや、やはり酔うとまずいからノンアルコールでいこうかな。ノンアルコールのカシスソーダにしよう」

「ライオネルさん、お酒飲めるんですね…」

「何を言う夕莉。私は一応、大人だぞ。…というわけで、それを頼む」

「はいよ」

「私も同じものにいたしますわ」

普通に頼む貴族二人組。

「こいつら、居酒屋とか来たことあんのか?」

「分かんないけど、慣れてる感じはするよね」

メニューのアルコールの欄を無視するハールドとあたし。



「お前たちは決めたか?」

「僕は結構です」

「僕は…そうだな、フェアーナチーズの盛り合わせがいいな」

「ガルフォン、飲み物は良いのか?」

「それはお茶があるからいいかな」

「分かった。夕莉とハールドはどうだ?」

「…俺は豚の串焼き」

えええー! 晩御飯が終わったのに、まだ食べるの?!

「夕莉は?」

聞かれても、何を頼んでいいか全然わからない。だって居酒屋とか初めてなんだもの。ていうか、話を聞きに来たんじゃなかったっけ?



「お嬢ちゃん、うちはなんでも美味しいですよ」

「だと。遠慮するな、好きなものを頼むが良い」

「お財布はライオネルに任せて大丈夫だよ」

「夕莉、これとかどうだ」

ハールドが指差したのは、『果物の盛り合わせ』。写真には、食べたこともない果物(?)がわんさか盛られたお皿が。

「うううーん。食べてみたいけど、量がなあ」

「私に少しくださってもよろしいですわよ」

優雅な手つきでお茶を飲むクリスティナローラさん。

「俺にくれてもいいけどな」

「僕でもいいよ。あるいはエイザクでもね」

「巻き込まないでくださいよ」

「せっかくだからもらったらいいじゃないか」

「…ハイハイ」

「私ももらうぞ」

応援団(・・・)もいることだし、あたしは『果物の盛り合わせ』を頼むことにした。



ーー

いざ注文したものがみんな出された時、六本の手は一斉に『果物の盛り合わせ』に伸びた。

「ほほう、この赤い実が甘いな」

「ミーネっていうんでございますよ。グリーン星でしか採れない果物です」

「大変美味しゅうございますわ」

「ああ、みんなそれ食べすぎ! あたしが注文したのに!」

「こちらの青いのはどうです? かなり酸っぱいけど」

「それはエイザクさんに全部あげるよう! ああん、ミーネがぁ」

「怒るな夕莉、こっちの黄色のも美味いぜ。足りないなら俺の豚もやる」

「チーズもどうぞ」

「この緑の実はカクテルと合うな。クリスティナローラもやってみよ」

「あたしもしたい!」

「未成年に酒は飲ませられん!」

「ずるい! どうせクリスティナローラさんも大人じゃないのに!」

「カルメヂ星では十五歳で大人ですの」

「冥王星では十」

「フンだ。あー! もうミーネがない!」

「俺じゃないって。髪長が食べすぎたんだ」

「なんだその言い草は。誰の金だと思っている」

「エイザク、さっきからずっと青いのばかり食べてるね。チーズはいらないか?」

「チーズとこの実って合うんですか?」

「合いますよ、坊っちゃん」

「…本当だ。以外といけるではないか」

つくづく思う。それぞれが『果物の盛り合わせ』を頼めばいいんじゃないかって。

でも、みんなで一つのお皿のものを食べるのも、パーティーみたいで楽しかった。


それと、クリスティナローラさんが砕けた様子で良かった。



ーー

食べて飲んで騒いだ後、あたしたちは店長さんからフリージー星の話を聞き出した。ほんのすこしだけだったけど。

「フリージー星っていうのは、グリーン星の隣の星でございますよ。沢山の衛星に囲まれた光り輝く星だそうで」

「グリーン星とは仲が悪いのか?」

「そういうことは分からんですねぇ。ただ、うちにフリージー星からのお客は来たことがないですよ」

店長さんも、あまりフリージー星のことは知らないみたいだった。



◇◇

暖かかった居酒屋を出ると、再び体に冷気が入り込んでくる。

「特に収穫はなかったな。さて、次はどこに行くか…」

「あんまり遅くならないようにしような。次行ったらもう帰ろう」

話し合っているライオネルとガルフォンを一瞥した後、ハールドは野営地がある砂地の方向に目を向けた。

(どうしても気になるな…一旦戻らせてもらうか)

「おい夕莉」

「どしたの?」

「落し物しちまった。取りに戻るから先行っとけって、ライオネルとかに言っといてくれ」

「大丈夫? みんなで探したほうがよくない?」

忘れ物が何かも聞かずに、あっさりとハールドの嘘を信じる夕莉。

(無邪気なやつ…)

苦笑しそうになりながらも、ハールドはきっぱりと断った。

「いらん。すぐ戻るから問題ない」

「そ、そう…じゃ、気をつけてね」

「おう」

ハールドはケープを翻し、砂地に向かった。

「ハールド、どうしたんだ?」

後ろからガルフォンの声が聞こえたが、無視して走り続けた。



◇◇

ハールドがいきなりどこかに走りだしてから十五分がたった。あとを追いかけたエイザク共々、戻ってきていない。

「遅いな」

心配な表情のライオネル。一旦砂地の方へ行ってみてはとガルフォンが言おうとしたその時、遠くから微かな地響きが聞こえた。…ズシン…ズシン…ズシン…。

(これは…)

「…来ますわ」

クリスティナローラが町の外れの遠くの森を見つめて呟いた。

「来るって何が?」

彼女は、不安そうな顔の夕莉を無視してファーコートから銃剣を取り出した。ライオネルも拳銃を、ガルフォンも顔を強張らせながらハンマーを右手に持つ。



地響きはどんどんこちらに近づいている。ライオネルが緊張した顔で指示を出す。

「…一旦砂地に戻るぞ、走れ」

「了解ですわ」

「分かった」

「な、何? 何が起こるの?」

走りつつも、夕莉だけがただ一人パニックになっていた。

ガルフォンの武器については、今回の話で初めて設定しました。

ハンマーといっても、金属製ではなく木製のつもりです。

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