異邦人六人 3
待ち合わせの場所である巨木の下には程なくして全員が集まった。暗がりでライオネルさんが点呼を始める。
「ガルフォン、ハールド、いるな?」
「ああ」
「エイザク」
「います」
「夕莉とクリスティナローラもいる…と。ほほお、今夜はえらく綺麗だな」
クリスティナローラさんのファーコート姿を見て、楽しそうに言うライオネルさん。
「さ、行きましょう」
蕩けるような視線を(流石にちょっと大げさかな?)華麗にスルーしたクリスティナローラさんはそのままスタスタと町の方に歩き出した。
夜の町は静かだった。木星人の出現を恐れているためか、人通りはあまりない。明かりがついている家も少ない。
「なんか、寂しいね」
「というより不気味だな」
隣を歩くハールドの口調が冷静な顔で答えてくれる。
人気のない夜の町。昼間は賑やかだったそこをたった六人だけで、それも異邦人だけで歩いている。不気味だとか怖いとかは思うけど、何より不思議な高揚感が湧いてくる。
「お、あそこの店が空いてるぞ。入るか」
ライオネルさんが指差したのは、小さなカフェっぽい店。古びた木材のドアの横に、橙色のランプが吊るしてある。そしてドアに書いてある文字は…
「テロンの居酒屋?!」
「カフェじゃなかったか。まあ入ろう」
驚く私を尻目に、ライオネルさんは普通にドアを開けて中に入っていった。いいのかな〜子供が夜にこんなところに来て。
「へいらっしゃい」
明るい店内。カウンターには人の良さそうな白髪のお爺さん。他に人がいないから、この人が店長さんかな?
お爺さんは、私たちを見るや否や嬉しそうに目を細めた。
「おやおや。お子ちゃまばかりですかいね。何を差し上げましょうか?」
「そうだな。まずメニューを見せてくれ」
六人でカウンターの端から順に椅子に座っていく。あたしはちょっと緊張しながら。
そのカウンターは低めで、椅子はどれも丸太を加工したものだった。
「すごいな、これ全部店長が作ったんですか?」
丸太椅子を撫でながら、ガルフォンさんが聞く。
「ええそうですよ」
それはすごい。
感心していると、お爺さんはメニューと一緒に湯気の立つお茶入りのコップを出してくれた。
「お決まりでしたら言ってくださいな」
「ありがとう。そうだな…」
メニューを持ったライオネルさんは、少し考えてから隣のクリスティナローラさんに尋ねた。
「今夜はカクテルで行こうと思うのだが、どうだ?」
「…お好きなようになさいませ」
「いや、やはり酔うとまずいからノンアルコールでいこうかな。ノンアルコールのカシスソーダにしよう」
「ライオネルさん、お酒飲めるんですね…」
「何を言う夕莉。私は一応、大人だぞ。…というわけで、それを頼む」
「はいよ」
「私も同じものにいたしますわ」
普通に頼む貴族二人組。
「こいつら、居酒屋とか来たことあんのか?」
「分かんないけど、慣れてる感じはするよね」
メニューのアルコールの欄を無視するハールドとあたし。
「お前たちは決めたか?」
「僕は結構です」
「僕は…そうだな、フェアーナチーズの盛り合わせがいいな」
「ガルフォン、飲み物は良いのか?」
「それはお茶があるからいいかな」
「分かった。夕莉とハールドはどうだ?」
「…俺は豚の串焼き」
えええー! 晩御飯が終わったのに、まだ食べるの?!
「夕莉は?」
聞かれても、何を頼んでいいか全然わからない。だって居酒屋とか初めてなんだもの。ていうか、話を聞きに来たんじゃなかったっけ?
「お嬢ちゃん、うちはなんでも美味しいですよ」
「だと。遠慮するな、好きなものを頼むが良い」
「お財布はライオネルに任せて大丈夫だよ」
「夕莉、これとかどうだ」
ハールドが指差したのは、『果物の盛り合わせ』。写真には、食べたこともない果物(?)がわんさか盛られたお皿が。
「うううーん。食べてみたいけど、量がなあ」
「私に少しくださってもよろしいですわよ」
優雅な手つきでお茶を飲むクリスティナローラさん。
「俺にくれてもいいけどな」
「僕でもいいよ。あるいはエイザクでもね」
「巻き込まないでくださいよ」
「せっかくだからもらったらいいじゃないか」
「…ハイハイ」
「私ももらうぞ」
応援団もいることだし、あたしは『果物の盛り合わせ』を頼むことにした。
ーー
いざ注文したものがみんな出された時、六本の手は一斉に『果物の盛り合わせ』に伸びた。
「ほほう、この赤い実が甘いな」
「ミーネっていうんでございますよ。グリーン星でしか採れない果物です」
「大変美味しゅうございますわ」
「ああ、みんなそれ食べすぎ! あたしが注文したのに!」
「こちらの青いのはどうです? かなり酸っぱいけど」
「それはエイザクさんに全部あげるよう! ああん、ミーネがぁ」
「怒るな夕莉、こっちの黄色のも美味いぜ。足りないなら俺の豚もやる」
「チーズもどうぞ」
「この緑の実はカクテルと合うな。クリスティナローラもやってみよ」
「あたしもしたい!」
「未成年に酒は飲ませられん!」
「ずるい! どうせクリスティナローラさんも大人じゃないのに!」
「カルメヂ星では十五歳で大人ですの」
「冥王星では十」
「フンだ。あー! もうミーネがない!」
「俺じゃないって。髪長が食べすぎたんだ」
「なんだその言い草は。誰の金だと思っている」
「エイザク、さっきからずっと青いのばかり食べてるね。チーズはいらないか?」
「チーズとこの実って合うんですか?」
「合いますよ、坊っちゃん」
「…本当だ。以外といけるではないか」
つくづく思う。それぞれが『果物の盛り合わせ』を頼めばいいんじゃないかって。
でも、みんなで一つのお皿のものを食べるのも、パーティーみたいで楽しかった。
それと、クリスティナローラさんが砕けた様子で良かった。
ーー
食べて飲んで騒いだ後、あたしたちは店長さんからフリージー星の話を聞き出した。ほんのすこしだけだったけど。
「フリージー星っていうのは、グリーン星の隣の星でございますよ。沢山の衛星に囲まれた光り輝く星だそうで」
「グリーン星とは仲が悪いのか?」
「そういうことは分からんですねぇ。ただ、うちにフリージー星からのお客は来たことがないですよ」
店長さんも、あまりフリージー星のことは知らないみたいだった。
◇◇
暖かかった居酒屋を出ると、再び体に冷気が入り込んでくる。
「特に収穫はなかったな。さて、次はどこに行くか…」
「あんまり遅くならないようにしような。次行ったらもう帰ろう」
話し合っているライオネルとガルフォンを一瞥した後、ハールドは野営地がある砂地の方向に目を向けた。
(どうしても気になるな…一旦戻らせてもらうか)
「おい夕莉」
「どしたの?」
「落し物しちまった。取りに戻るから先行っとけって、ライオネルとかに言っといてくれ」
「大丈夫? みんなで探したほうがよくない?」
忘れ物が何かも聞かずに、あっさりとハールドの嘘を信じる夕莉。
(無邪気なやつ…)
苦笑しそうになりながらも、ハールドはきっぱりと断った。
「いらん。すぐ戻るから問題ない」
「そ、そう…じゃ、気をつけてね」
「おう」
ハールドはケープを翻し、砂地に向かった。
「ハールド、どうしたんだ?」
後ろからガルフォンの声が聞こえたが、無視して走り続けた。
◇◇
ハールドがいきなりどこかに走りだしてから十五分がたった。あとを追いかけたエイザク共々、戻ってきていない。
「遅いな」
心配な表情のライオネル。一旦砂地の方へ行ってみてはとガルフォンが言おうとしたその時、遠くから微かな地響きが聞こえた。…ズシン…ズシン…ズシン…。
(これは…)
「…来ますわ」
クリスティナローラが町の外れの遠くの森を見つめて呟いた。
「来るって何が?」
彼女は、不安そうな顔の夕莉を無視してファーコートから銃剣を取り出した。ライオネルも拳銃を、ガルフォンも顔を強張らせながらハンマーを右手に持つ。
地響きはどんどんこちらに近づいている。ライオネルが緊張した顔で指示を出す。
「…一旦砂地に戻るぞ、走れ」
「了解ですわ」
「分かった」
「な、何? 何が起こるの?」
走りつつも、夕莉だけがただ一人パニックになっていた。
ガルフォンの武器については、今回の話で初めて設定しました。
ハンマーといっても、金属製ではなく木製のつもりです。




