異邦人六人 2
今回は、四人分の視点です。
「離せって」
ハールドはライオネルの手を振りほどこうとした。だがライオネルがそうはさせまいと余計に強く掴む。
「なにもかもきちんと説明すれば離してやる」
「なんであんたに話さなくちゃいけない?」
「さっさと言え」
「…聞きわけのないお坊っちゃんだな」
ハールドはライオネルの腕を振り払う。不意に、それまでは瑠璃色だったハールドの眼に赤い光が煌めいた。そしてその眼はライオネルをじっと見つめ…。
「ハールド、やめろ!」
ガルフォンが慌てて二人の間に割って入った。
「急にどうした、ガルフォン」
「ライオネル、とりあえず一旦その話は置いとけ」
「だが…」
「ハールドは話したくないって言ってるんだ」
「…分かった」
手を離す。ハールドはフンと呟いてから、また席に着いた。
「落ち着いて、ね」
夕莉が彼の背中をポンポンと叩いている。
「…ああ」
そう言うものの、ハールドはライオネルの方を見ようともしない。
(年上の私を『お坊っちゃん』などと言っておきながら…)
「この話はまた後日するぞ」
収まりのつかないライオネルはそれだけ言って、黙り込んだ。
そのまま昼食は終了。作業再開である。
ーー
夕方を過ぎ、作業も終盤という頃。
「クリスティナローラ、エイザク、ガルフォン」
ライオネルは三人の仲間の名前を呼んだ。
「どうしたんだ、ライオネル」
ひそひそ話のポーズをとるのではなく、四人で寄せ集まってシートを数えているフリをしながら小声でささやき合う。
「今日の夜なんだが、さっき昼食で言ったことを皆でしに行こう」
「さっき言ったことってなんですの?」
クリスティナローラは、ライオネルの言ったことをまるで聞いていなかったらしい。
「…この町のグリーン星人に、フリージー星のことを聞きに行くのだ」
「その話はお流れなんじゃないのか? 別にちゃんと決めたわけじゃないだろう」
「それでも…だ。気になる話ではないか。誰もが我々に隠したがるなんて。我らはあの宇宙船に連れて行かれながら、なんの事情も知ることができなかった。それでは収まりがつかん」
「そりゃまあそうけど…」
「クリスティナローラとエイザクはどうだ?」
「私には特に拒む理由などありませんわ」
「僕は一つ疑問が」
エイザクが手を挙げた。
「言ってみよ」
「行くのって夜なんですよね」
「そうだが」
「わざわざ護衛の人たちを起こすんですか?」
「何を言う。我々だけで行くに決まっているではないか」
あっさりと言い切ったライオネルに、ガルフォンが驚きの表情を見せた。
「それって危ないんじゃないか?!」
「木星人が出たらの話だろう、それは」
「いや、でも、そんな危険をわざわざ…。それに君、前言ってたじゃないか。勝手な行動はダメって」
確かに言った。あの、木星人との戦いの日。身の危険を顧みず(と言うか考えず)、人命救助をしていたガルフォンを止めるために。
「私は、四人が一緒にいなければならないと言ったのだ。四人で一緒に行けば問題あるまい」
「だけどもし、木星人が出たらみんな危ないぞ」
ガルフォンは慎重すぎる。つまらないと思い、ライオネルは顔を顰めた。
「ちょっと遊びに行くだけだ。木星人が出ない可能性もあるではないか」
◇◇
「仮に木星人が出ても、どうにか逃げられると思うのだが」
「私は大丈夫ですわ」
ドレス姿のクリスティナローラが言う。彼女はあの日、数名の木星人を返り討ちにしている。
「戦闘なら、僕も大丈夫です」
エイザクも腰のデリンジャーをピタピタ叩きながら言う。
「私も問題ない。ガルフォン、お前は?」
聞かれてガルフォンは素直に頷けなかった。
彼も自分の力には自信があるが、木星人が出てもみんなで無事に帰れるかは分からない。それだけが不安だった。
「まあ、いけるけど…」
ライオネルは満足げに笑った。
「了解した。じゃあ後はハールドと夕莉だな」
さらに出てきた名前に驚く。
「え?! なんで?!」
「なんでとは?」
「その二人にも、誘いをかけるのか?」
「勿論だ」
ライオネルは当然という顔をしている。
「あの二人も我々の仲間ではないか。まあハールドは口が悪いがそれはそれ、これはこれだ」
「助っ人と容疑者が仲間ですか?」
エイザクが意外そうな顔で問う。
「二人とも我々と一緒に仕事をしている仲間だ。事情は別に関係ない。…ガルフォン」
「なんだい?」
「お前もそんな風にあの二人を見てはいまいな?」
睨まれた。返答次第ではタダでは置かないというように。
「それは思ってないよ」
夕莉もハールドも手のかかる妹と弟のように思っている。
「ただ…」
ガルフォンが気になっているのは、夕莉の戦闘力。ハールドは念力使いだから問題はないだろうが、夕莉については不安だった。
昼間、ハールドと話したことが彼の心に唐突に蘇ったのである。
『あいつ…戦闘できるのか?』
(確かに、言われてみれば怪しいな…。それでもまあ大丈夫かな…いざとなったら守ればいいか)
◇◇
ライオネルから話を聞いた夕莉は喜んでその話を承諾した。
「楽しみだね、クリスティナローラさん!」
「そうですわね」
「ホントはスピッツも一緒がよかったんだけど、内緒だからしょうがないね」
人々が寝静まったはずの深夜。女性である二人専用のテントの中で、クリスティナローラと夕莉は秘密の活動に出かけるための身支度を整えていた。
夕莉が着ているのは水色のパーカー。クリスティナローラはグレーのファーコートを身につけている。
「あれ? 今夜はドレスじゃないんだね」
「たまにはこういうのもいいでしょう」
ファーコートの下に着ているのは装備をつけたワンピース。ドレスは流石に重いので脱いで行くことにした。
「似合うよ。というか、ずっとそのままがいいなあ。ドレスとかは綺麗だけど、なんか場違いって感じがするから」
うんうん頷きながら言う夕莉を見ながら、クリスティナローラは複雑な気持ちで微笑んだ。
あの服装が人からどう思われているかなど、知ったことではない。
(ドレスは私にとって、なくてはならないもの)
ドレスに身を包んでいる時が最も安心していられる。他の三名とは違う目的を抱いた彼女にとって、あれは自分を包む武器の一つに他ならなかった。
だから滅多にあのドレスは脱がない。風呂に入るときは裸にならなければならないが、その時は酷く心細さを覚えたものだった。
(もっとも、このワンピースも悪くはないけれど)
自分以外で唯一の女性である夕莉を近しい存在だと認識できたような気がする。
(というか、私の方から近づいたのかしら)
(あ、そうそう。あれを持って行かなくては)
例の地理の本を、夕莉に気づかれないようワンピースとファーコートの間にはさんだ。一応お目当てのページは暗記してあるが、念のためだ。肌身離さずを徹底する。
「行く?」
「ええ。見回りの兵士に気づかれないよう気をつけてくださいね」
◇◇
夕莉たちがテントから抜け出そうとしている頃。
スピッツは一人、隊長のテントへ向かっていた。昼間の夕莉からの伝言を隊長に伝えるためである。
『和食が食べたいから、一旦地球に帰ってもいいかって聞いてくれないかな?』
ここのご飯も美味しいんだけどねーと笑う夕莉を見ながら、スピッツは『ワショク』とはそれより美味しいものなのかと首を傾げていた。
(だけど、確かに故郷の料理が食べられなかったら私も辛いかも)
ついでにまだ帰ってきていないイチアールから何か連絡があったか聞こうと思いながら、スピッツは隊長のテントの中に入った。
なんだか物騒な予感が…。




